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第七話:ああ、神よ。どうか我らをお助け下さい……

 その後の街へ向かう道中は順調といえば順調だった。


 実はあの後、三十分もしないうちに赤錆びた斧やら剣やらを担いだ物騒な奴ら……。異世界だし、野盗とか盗賊団ってやつか?

 まあそういう集団が道を塞いでいたのだが、俺に何故か付いてくる巨狼と巨大猿の群れを見ると、逆に悲鳴を上げながらあっという間に逃げ去ってしまった。


 あまりにあっさり何処かに行ってしまったので、これくらいしか語ることがない。

 詳しく説明しようとしても『テクテク』『ワオーン』『ギャー』のわずか三行程で終わってしまう。

 正直な所、狼たちと出会った時と比べると驚く暇すらない一幕だった。


 どうやらうちの猛獣の群れは異世界人基準でも結構、良い線いっているようだ。

 それまでは『こんな猛獣の群れを連れて歩く訳にはいかない』なんて思っていたのだが、俺は考えを改めることにした。

 流石に全部連れて歩くのはダメだろうけど、白狼と白猿だけは付いてきてもらおう。

 エサ代凄そうだけど、安全には変えられないしな。



 ――ああそう、エサ代といえば。


 実はその盗賊団に捕まっていたらしき二十人ほどの商隊っぽい人たちがいた。

 最初は縛られた彼らも恐慌状態にあったが、俺と双子が無駄に大きい獣たちを掻き分けて前に出て、


 「大丈夫ですか? 怪我とかしてません? 今縄を解きますね」

 「あ、その狼とか猿は俺の言うことは聞くみたいなんで安心していいですよ。さっきのヤバそうな人らも森の方に散り散りになって逃げていきましたしね」


 なんて言ったら信じられないものを見たような顔をされた後、ひどく安心されたものだ。


 彼らからは救世主でも見るような目をされて正直困ってしまった。

 アルバイトなのか知らないが、感極まって泣き出してしまったらしき高校生くらいの銀髪の女の子もいたな。

 日本じゃ見ない感じの子だったので何となく記憶に残っている。


 しかし正直な所、俺は別に助けようと思って助けたわけじゃないので、何だかこっ恥ずかしい気持ちになった。

 俺は何もしてないしな。狼や猿たちに命令すらしていない。


 それでも彼らは大層感謝してくれたらしく、髭を生やした立派なおっさんが『街に着いたらお礼をする』と約束してくれた。

 俺からすれば棚からぼたもちみたいな感覚だが、これでお金の心配はしばらくしないで済むかもしれない。


 うーん、心配事が一つ消えてホッとしたな。

 よし、さっさとピュリアの街に向かうとするか。

 こんなことばっかりしてたら、いい加減日が暮れてしまう。


◇◇◇


 【その少し前】


 「ああ、神よ。どうか我らをお助け下さい……」


 王国でも一位二位を争う大商会であるグリムガル商会。

 その第四商隊を率いる私、『サーシャ・グリムガル』は絶望していました。


 とても簡単なお仕事の筈でした。


 『エルム街道』は、たかだか十六歳の小娘が任せられる程度には危険度が低い、安全な交易ルートのはずだったのです。

 晩秋になると街道の左右に広がる『爽風の大草原』や『エルム大森林』の奥地から、『魔狼(ガルム)』や『巨大猿(ハヌマン)』といった、複数名で対処すべき凶悪な三級モンスターが極まれに姿を現しますが今は春真っ只中です。

 またこの街道には危険な盗賊団の存在なども報告されていません。



 ――そのはずだったのに。


 私たちは大規模な盗賊団にろくな抵抗もできず捕まってしまったのです。


 もうそれは、本当に一瞬の出来事でした。

 先頭の馬車が何かに足を取られて動かなくなってしまい、私たちがそれをどうにかしようとしていた時。

 商隊を囲むように突如として現れた十、二十、三十、いえ五十を超える武器を持った男たち。


 ひゅん、という矢が飛ぶ音がしました。

 すると馬車を動かそうとしていた護衛の傭兵の皆さんが次々と倒れていきました。

 鼻に感じる血の匂い、傭兵さんたちのうめき声。


 真っ先に戦う力を持つ傭兵の方が倒れてしまったことで、私たち商隊の者は為す術もなく拘束されてしまいました。

 そうして一纏めに縛り上げられ震え上がる私たちのもとに、隻腕の男と隻眼の男が近づいてきます。


 「これが天下のグリムガルの商隊か? つまんねーな。弱すぎて本当に誰も殺らずに終わったぞ」


 「まだ我慢しろよ。目的のやつを間違って殺しちまったら報酬がパーになるからな」


 早く人を殺したくて仕方ないとでも言うかのような逸った声に、身も凍るような冷徹で人間味の感じられない声。


 私はその二人の傷だらけの凶相を見て絶望します。

 二級指名手配犯の中でも有名な、隻腕の男『レフ』と隻眼の男『バロック』がそこにいました。

 辺境の村をいくつも焼き払い略奪の限りを尽くした、王国騎士団が血眼で探している男たちです。

 どうしてこんな、大きな街がニつもあるところにいるのですか……!



 ――しかし。

 レフとバロックが縛られた私たちに向かって何かを見定めるようにじろりと一瞥した時。

 

 突然、それは起きました。

 私たちがやってきた方角にいる盗賊たちがなにかにひどく怯えています。

 もしかして助けが来たのかと私たちは期待を込めてそちらの方角に視線を向けます。


 ですが。



 ――グルゥアアア!!!



 それは、助けなどでは決してなく更なる絶望の到来だと本能で理解してしまいました。


 魂の底から震え上がるような、果てしない恐怖を呼び起こす咆哮。

 私たちは、盗賊たちは、恐怖ゆえにその存在を凝視してしまいました。


 そこにいたのは。

 ただでさえ訓練された騎士や傭兵が数名で相対すべき三級指定のモンスター『魔狼(ガルム)』。

 その超越種にして支配種、『魂』を保管し玩ぶ(もてあそぶ)忌まわしき獣、準一級指定の『冥府の白狼』でした。

 この広い王国でも二十に満たない二級傭兵団が入念な準備の元、総出で掛かって討伐を行うような存在。

 特級、一級、準一級。上から三番目の、一つの街を容易く滅ぼす災厄の化身がそこにいました。


 私たちがその存在に自失していた次の瞬間。

 更なる、信じられない光景が目に飛び込んできました。


 なんと『冥府の白狼』と並び立つように、同じく準一級指定の『狂乱の白猿』が姿を現したのです。

 ありえない、ありえない、ありえない。

 魔狼と巨大猿は絶対に相容れない敵対種族のはず。それが何故……!


 レフとバロックすら忘我の表情をしています。

 そして、絶叫を上げて一目散に逃げていきました。

 首領の二人が真っ先に逃げ出したために、もはや盗賊たちは集団の体をなしていませんでした。


 「行かないで! お願いします、縄を解いて下さい!!」


 縛られた私たちは、滑稽なことに自分たちを捕らえた盗賊たちにそう懇願してしまいます。

 そうやって私たちが震えていたのは果たして数分、数十分、あるいは数時間だったのでしょうか。


 そのうちに私は不思議なことに気づきました。

 なぜか二頭とその眷属たちは私たちを遠巻きにして動こうとしないのです。


 震える身体を必死に押さえ込みながら、獣たちを見つめます。

 

 ――すると。


 突然獣たちの群れが割れると、奥から一人、いえ三人の人影が現れました。

 その中の一人、黒髪で見慣れない衣装を身に纏った青年が前に進み出ました。


 恐ろしい。怖ろしい。畏ろしい。

 レフとバロックを前にした時よりも強烈な恐怖が私の身を突き抜けます。

 冥府の獣を従えるこの黒髪の青年は、きっと人の形をした死神なのでしょう。


 その死神が口を開きます。拘束された私たちは為す術もなくそれを聞くしかありません。



 「大丈夫ですか? 怪我とかしてません? 今縄を解きますね」



 ……。

 ……。

 ……。


 私は、自分の目から涙が溢れ出しているのに気づきました。


 ああ。

 ああ、ああ。

 なんと、安心する声なのだろう。


 私は今はじめて、慈愛という言葉の意味を知った気がしました。

 死神なんてとんでもない。きっとこの方は私たちを憐れんだ神が遣わしてくれた『神使』なのでしょう。


 私はもう、縄を解いてもらった後も言葉を発することが出来ませんでした。

 副隊長のレオおじさまはそんな私を優しく見つめて、不甲斐ない私の代わりに私たちの『救世主』さまとお話をしてくれました。

 

 ああ、神よ。感謝致します。

 ああ、黒髪の『勇者』さま。私たちは貴方に深く深く感謝致します。


 私はこの恩に報いるためならば、どんなことでもするでしょう。

 いえ、どんなことでもさせて頂きたい。

 私、サーシャ・グリムガルは、そう強く強く決心しました。



*****



 商隊の人たちは色々疲れているようだったので、狼たちに頼んで運んでもらうことにした。

 ちょっとビビっていたが、俺が「大丈夫だ」と言うと安心したように皆、身を任せていた。

 またサルたちは落とし穴にはまり込んだっぽい馬車も軽々と持ち上げて、また動かせるようにしてくれた。


 結構こいつら使えるな。

 街には親分二匹だけ連れて行くつもりだが、少し勿体無くなってきた。

 商隊の人に相談したらなんとかならないかな。


 うーん、しかし。

 俺は街中に連れて行くつもりの一際大きい白狼と白猿をどうするべきか、頭を悩ませる。


 「お前らさ、ちょっとでかすぎるな。街に連れて行こうとは思ったが、こんなにデカかったら流石に街の門でノーって言われそうだ」


 日本でもチワワですら一緒に入っちゃダメな店が多いというのに、ここまで大きかったら流石にアウトだろう。

 それにあの盗賊たちの反応を見た感じ、結構危ない獣っぽいし。

 日本で言うとなんだろう。トラとかワニ連れ歩いているみたいな感じになるんだろうか。


 白狼と白猿は俺の言葉を聞いてか、顔を見合わせている。

 どうしたんだろう。


 「ワオーン」


 「ウキィー」


 すると。

 双子が現れた時以来の、驚きのファンタジー現象が発生した。


 二匹の体が真っ白な光に包まれたかと思うと、そのサイズがみるみる縮んでいくのだ。

 そして最終的に柴犬とチンパンジーくらいのサイズになった。


 「お、おおおお! すげええええ! やるじゃんお前ら! これならきっと大丈夫だろ!」


 俺が褒め称えると、二匹はもじもじしながら俺に纏わりついてきた。

 あ、もしかしてギフト発動したのか。

 まあこのサイズなら可愛らしいものだ。


 それを見ていたフィーが頬を膨らませて俺に近寄って、無言で抱っこをせがんでくる。

 アーニィも『俺を取られた』みたいな顔をしていたが、なぜか段々顔が赤くなってきている。えっ、どうしたの……。



 まあ兎にも角にも、俺達がそんな感じで仲良く戯れているうちにやっと『花の街ピュリア』の門が見えてきた。

 はあ、なんか街に行くだけなのにイベント盛り沢山だったな。

 今日はもう疲れたし、礼金受け取ってさっさとホテルでも探すとするか。


 俺はそう考えると、心なし足早に門に向かって近づいた。


 ――この先にツッコミ不可避の光景が待ち受けるとも知らずに。




なんかやばい娘でてきましたが……。

街に……ギリギリ着いたぞ!!

え? 見えただけ? 見えたらもう、着いたも同じです!

大丈夫、もう何も起きない多分!


*補足

特級 :大陸しずみそう

一級 :国家が保てなくなる

準一級:大きな街でも滅ぼせる

二級 :辺境の村がいくつも消える

準二級:騎士団が出動を始める

三級 :訓練した人が数名掛かり

準三級:訓練した人なら一人でも余裕

四級 :成人男性なら鍬でもいける


でもギャグ作品なのであんまり厳密には決めてません。

超越種になると、特別な魔法が解禁されるのでランクが+2~+3されます。

普通のオークは準三級だけど、キングオークとか結構強い。


分布でいうと、左右が内側にへこんだピラミッドみたいな形をしています。

地域によっては上のランクが結構いたりしますが、

世界全体でみたら(0.0~、1、2、3、4、10、20、60%)みたいな感じ。


でもあんまり大事じゃないので気にしなくていいです。


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