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第六話:僕は跪き、にーさんの足を舐めようとした

 ”僕”はニシにーさんに頼まれて、ファラねーさんと一緒に狼さん達と猿さん達の面倒を見ていた。


 この動物さん達のにーさんに対する尊敬の感情はどうやら本物みたいで、僕たちの言うこともすごく大人しく従ってくれた。

 身体は僕達よりもすっごく大きくて偉そうなのに、なんだか不思議な感じだ。

 これもきっとにーさんの不思議な力があってのことなんだろう。


 ――でも。もし仮ににーさんの『声』の力がなかったとしても。


 僕とねーさんが力を合わせれば負けなかったと思うけどね。

 僕たち『双子精霊』は『共鳴魔法』っていう特殊な魔法が使えるから、結構ツヨイのだ。

 えっへん。


 そんな事を考えつつも、動物さん達がケンカをして怪我をした箇所なんかを確かめていく。

 といっても火の精霊である僕にはあまりやることはなく、もっぱら水の精霊であるねーさんが癒やしの魔法を使っている。


 暇だった僕は、ねーさんにちょっとにーさんの様子を見てくると告げて、にーさんの元に向かった。


 にーさんは少し離れた場所に腰掛けて、険しい表情で空中を睨んでいた。

 うーん、どうしたんだろう。

 もしかして、「しすてむめっせーじ」っていう人(?)とお話しているんだろうか。


 その「しすてむめっせーじ」っていうのも結構、不思議なお話だ。

 僕たち幻想の存在が「不思議だ―」なんてことを言うのもどうかと思うけど、僕とねーさんは新しく魔法を覚えたりする時にそんな「しすてむめっせーじ」なんて聞こえたことがない。

 ニンゲン特有の何かだったりするんだろうか。


 ちょっと考え込みながらも、にーさんの側に近付く。


 「ねえねえ、ニシにーさん。その『れべるあっぷぼーなす』っていうのは選び終わったの?」


 にーさんは僕が声を掛けて初めて、僕のことに気づいたらしく少し驚いた顔をした。


 「あ、ああ。アグ……。いやアーニィか。まあ一応選び終わったんだがな」


 僕は一瞬びくっとしたけど平静を装って話を続ける。

 ふふ、僕はにーさんに名前を呼ばれることに虜になりつつあるねーさんとは違うのだよ!


 「じゃあ、どうしてにーさんはそんな難しい顔してるの?」


 「それがまあ、予想通りというかなんというか。相変わらずひどいボーナスだったんだよ」


 「へえ? にーさんの『声』、なんだかよく分からないけど凄いもんね。どんなことが出来るようになったの?」


 「正直出来るようになりたくなかったな。レベル2のボーナスの方はスキル名『跪け、足を舐めろ』ってやつで――」



 <僕は跪き、にーさんの足を舐めようとした。>



 「ちょ、これ言うだけでもダメなのかよ!! ストップだ、アーニィ!!」


 「ふえ……?」


 にーさんのひどく慌てた声で僕は我に返る。

 一体、今僕はなにをしようと……?


 ……。

 ……。

 ……。


 ――ハッ!


 僕は今、望まない命令で強制的に足を舐めさせられそうに……。


 え、ええええ!?

 僕は自分の顔がどんどん真っ赤になっていくのを感じる。


 ムリヤリ意に沿わないことをさせられてイヤだって気持ち。

 そんなことをしようとした僕の姿を見られるのが恥ずかしいって気持ち。

 そんな気持ちが入り混じって、頭が混乱してしまう。


 「に、にーさん!! 今のなに!?」


 「いや、本当にすまん。まさか、感情関係なしで『単語そのもの』をキーに発動するものだったとは。思ったよりもダメだなこれも……」


 そう言ってにーさんは、顔を真っ赤にする僕に申し訳なさそうに説明してくれた。


 レベル2の到達ボーナスっていうのには、『感情増幅率アップ・超大』とさっきのスキルがあったみたいだ。

 にーさんは前者は恒常的に効果があってろくでもないことになりそうだからと、そっちを取るのは止めたらしい。

 後者は意図的に発動させるタイプみたいだったから、そっちのほうがマシかなと判断したそうだ。


 にーさんはさらに続ける。


 「多分ボーナスはレベルアップ前に取った行動が関係するんだろうな。俺がさっき狼と猿共に『伏せ』と――」



 <僕は跪き、にーさんの足を舐めようとした。>



 「ええ!? これもダメなのかよ! ストップだ、アーニィ!」


 ――ハッ!


 ぼ、僕はまたにーさんの足を舐めようとしちゃったのかっ!


 う、ううう……。

 なんだろう、この気持ち。


 「す、すまん……」


 「う、ううん。わざとじゃないって分かってるから大丈夫……」


 僕はだいじょうぶ。

 あんまり大丈夫じゃないかもしれないけど、きっとまだ大丈夫だ。


 なんだかいろんな感情がぐちゃぐちゃになってる感じがする。

 悔しいのか怒っているのか、はたまた恥ずかしいのか、もう全然わからない。


 でもそれでも、顔が真っ赤になっているのだけはわかった。

 制御を誤って火の玉になってしまいそうなくらい、全身の熱量が高まっている。


 「ま、まあつまりそう言う感じでだな。俺がこう、なんだ。『寝っ転がって』みたいな単語を――」



 <僕は跪き、にーさんの足を舐めようとした。>



 にーさんはそんな僕を慌てて止める。


 「えっこれも駄目なの。判定広すぎだろ……。アーニィ、ほんとごめん」


 「ううん……」


 僕は思わず俯いてしまう。

 なんだろう、この気持ち。


 ――なんだかさっきから絶対に僕はおかしい。


 イヤな筈なのに、何度も何度も僕の意思を無視して。

 繰り返し繰り返し、強制的に跪かされて。

 あまつさえ、足を舐めさせられそうになって。


 絶対にイヤなことをさせられているのに。


 ――どうして僕はこんなフワフワした気持ちになってしまうんだろう……。


 僕は顔を上げる。


 「お、おい……。アーニィ? 大丈夫か? ど、どうした。そんな潤んだ目で俺を見て……」


 なんだか熱に侵されているみたいだ。

 火の精霊である僕が、熱を支配するはずの僕が、逆にそれに支配されてしまうなんて。


 にーさんのギフトのせいでこんな気持ちになっているのだろうか。

 いや、それは違うはずだ。

 精霊である僕は、行動はともかく感情や思考までは縛られていないと断言できる。


 ――そうだ。この感情の正体がわからないなら確かめてみたら良いんだ。


 僕は、良いことを思いついた。

 『自分から』跪いてにーさんの足を舐めてみよう。

 そうしたらきっとこの感情のことも分かるだろう。


 「ちょっ! アーニィさん!?!?」



◇◇◇



 僕はにーさんよりも一足先にねーさんのところに戻った。


 「あ、戻ってきたんだ。お兄さんはどうだった? ――ってどうしたの、アグニ? なんか顔赤いよ?」


 「う、うん。ねーさんか……。ねーさんってさ、にーさんに何かして欲しいこととかあったりする?」


 「え? うーん、そうだなあ。えへへ、『ファラは可愛いな』って耳元で囁いてほしいかも。すっごいふわふわした感じになれそう……って何言わせるのっ!」


 「そうなんだ。うーん、僕はやっぱりおかしいのかなあ……」


 僕はねーさんの答えに生返事を返しながら、小さくこう呟いた。


 「にーさんに『ひどい命令』して欲しいなんて思っちゃうなんて」



*****



 「怖すぎるだろ、このギフト」


 まさかアーニィにあんなことをやらせてしまうとは……。

 不可抗力ではあった。

 しかしそれでもあんな純粋な子を跪かせて足を舐めさせようとするとか、我ながらひどすぎる。


 最後のアレもまさか望んでやろうとした訳ではあるまい。

 きっと俺が必要以上に罪悪感にかられないよう、気を使っておどけてみたとかそんな感じなのだろう。

 うーん、本当に悪いことをした。


 こりゃ、アーニィにもしっかりと埋め合わせをしないといけないなあ。



 ――それにしても、このろくでもないギフト。


 「まさかボーナスが『感情増幅率アップ・超大』と『NGワード追加』の二択だったとはなあ……」


 スキルがろくでもない効果なのはまあ予想の範疇だった。

 それは良いのだが、『感情の大小は関係なく』『特定ワードに反応して』発動するものだとは思わなかった。


 それにスキルが反応する単語がアバウトすぎて、何がNGワードかよく分からないのも本当に困る。

 こりゃレベル3で取った『者ども、沈黙せよ』も相当気を付けないと勝手に発動しまくりそうだ。


 「これは本当に何か対策を考えないといけないかもな」

 

 俺はそう嘆息しながら、先に帰したアーニィの後を追った。




街に着くといったな。あれは嘘だ。


いえ、最初は着くつもりで書いてたんです。

ただボーナスをあっさり流した初稿があまりにもつまらなくて、そうだアーニィ視点にしようと思ったらこんなことに……。

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