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第五話:伏せッ!


 ワタシはこのビューティフルな大草原を住処とする魔狼の女帝、ホワイトウルフ!

 チャーミングポイントは白くて長い二本の尻尾!

 毛並みには自信があるわ!


 今日は河を挟んだ森に住むにっくき強敵(トモ)、ホワイトモンキーと雌雄を決する日!

 ホワイトモンキーは森に住む巨大猿の女王で、ワタシと色かぶりをしている本当に信じられないケダモノなの!

 もう、今日という今日は絶対に許さないんだから!


 ワタシ達が決戦の地に定めた場所。

 それはちょうどワタシ達の縄張りの中間地点にあるニンゲンの通る道の少し広くなった場所。

 たまにニンゲン達が群れを作って休憩している場所にしたわ。

 

 ワタシは配下八匹を引き連れて決戦の地に赴き、ホワイトモンキーの雌狐めを待っていると、約束の、日が最も高く昇る時間から少しばかり遅れてから現れたわ!

 このワタシを待たせるなんて信じられない!

 なんという挑発行為なの!


 「ワオーーン!!」


 「ウキーーッ!!」


 そうしてお互い雌雄を決する前の口上を述べ終わった後、ワタシ達は血みどろの戦いを始めたわ。

 向こうの戦力はホワイトモンキーにその配下十二体。

 数では不利だけれども、狭っ苦しい森でセコセコと暮らしているサル達にワタシの配下が劣るわけないわよね!


 そうやってしばらく戦っていると、ワタシ達の戦いのど真ん中にニンゲン三体が入り込んでいたの。

 ワタシとホワイトモンキーはムカッときたわ。


 当然よね!

 ワタシたちの戦いに水を差すなんて万死に値するわ!


 「ワオーーン!!」


 「ウキーーッ!!」


 ワタシたちは一旦戦いを止めて、そのニンゲン達に襲いかかったわ!



 するとその時、あの『声』が聞こえてきたの……。

 あの素っ気なくも不思議な威圧感があり、それでいて何もかもをも包み込むような『魅惑の声』が!



 「伏せッ(・・・)!」



 「キューン……」


 「ウキィー……」


 その『声』を聞いた瞬間、ワタシは、ワタシ達は本能的に地に伏せ新たなご主人様に服従したの……。

 

 愚かなワタシ達はその時、初めて気付いたの。

 真の絶対強者からすれば、ワタシ達の争いなんて本当にちっぽけで下らないものでしかないと。


 ワタシとホワイトモンキーは目を見合わせて決意したわ。


 こんなつまらない諍いなんて忘れて、ワタシ達は新たなご主人様に着いていくと!!!

 ワタシとホワイトモンキーは真の仲間(トモ)として、このご主人様を盛り立てていくと!!!


◇◇◇


 『ピコーン。おめでとうございます。『ホワイトウルフ』1体、『魔狼』8体、『ホワイトモンキー』1体、『巨大猿』12体を魅了したことにより<神威宿る魅惑の声>が1から2にレベルアップしました。レベルアップボーナスを選んで下さい――』



*****


 レベルアップのシステムメッセージが流れる少し前。


 俺がフィーと戯れたり、アグニ改めアーニィを肩車したりしながら道を歩いていた時のことだ。

 いつの間にか、俺達はえらく殺気立って争っている狼と猿の争いに巻き込まれていた。


 異世界クオリティーというやつか、その狼と猿の大きさも尋常ではない。

 どの個体もでかかったが、とりわけ巨大だったのが真っ白な狼と真っ白な猿だった。

 白狼の方は体長五メートル、白猿の方は身長三メートルくらいはあったんじゃなかろうか。


 なんだかちょっとした怪獣大決戦にでも巻き込まれたみたいな気分に俺はなってしまった。

 日本にいた時に工事現場の近くを歩いていたら上から突然鉄骨が降ってきた事があったが、もしかしたらあの時よりも恐ろしかったかもしれない。


 俺がそんな唐突な死の恐怖に思考がストップして立ち尽くしていると、何を考えたのか知らないが群れ同士で争うのを止めて俺達に襲い掛かってきた。

 もう、本当に勘弁して欲しかった。


 フィーとアーニィが大慌てで何かしようとしているのは視界に入っていたが、テンパった俺は何を血迷ったか、


 「伏せッ(・・・)!」


 と叫んでいた。


 もちろんギフトを使おうとしたのではない。

 というか存在をすっかり忘れていたよ。 


 しかしそれで結果的には良かったのかもしれない。

 なにせその言葉で、本当に狼と猿の群れ全てが『伏せ』ていたのだから。


 俺が一瞬何が起こったのかよく分からず目をパチクリとしていると、例のシステムメッセージがギフトのレベルが上がったことを告げてきた。


 そこでようやく俺は目の前で何が起きたのかを悟った。


◇◇◇


 「いや、今はじめてあの女神さまに感謝する気持ちになったよ」


 俺に向かってつぶらな瞳を向けてくる二十体くらいの獣たちを見て俺はそう言った。


 「う、うん。ぼくらもニシにーさんの『声』って凄いんだなって思った」


 「壮観だね……。お兄さんへの尊敬の感情がビンビン伝わってくるよ……」


 「尊敬されてるのか? 伏せさせられて? それはなんというか、変な奴らだな」


 俺達がそんな言葉を交わしていると、脳内でまたシステムメッセージさんが何か言い始めた。


 『ギフト<神威宿る魅惑の声>レベル2到達ボーナスを選択して下さい。繰り返します。ギフト<神威宿る魅惑の声>レベル2到達ボーナスを選択して下さい。繰り返します。ギフト――』


 「うるせーーー!!!」


 「「「!!??」」」


 俺がそう叫んだ瞬間、世界は静寂に包まれた。

 フィーもアーニィもびっくりした様子で涙目になり、獣達は呼吸さえ殺して窒息しそうになっている。

 先程まで草原から聞こえていた、虫の鳴く声までが聞こえなくなり、遠方に飛んでいた鳥がふらっと高度を落としていくのが見える。


 「あ、ごめん……。そんなつもりじゃなかった。――おいお前らも呼吸していいぞ、すまんな」


 「び、びっくりした……」


 「に、にーさん。急にどうしたの?」


 「ああいや、例のシステムメッセージが凄いうるさくて……」


 『ピコーン。おめでとうございます。『クモバッタ』156体、『超トンボ』78体、……、『双子精霊』を黙らせたことにより<神威宿る魅惑の声>が2から3にレベルアップしました。レベルアップボーナスを選んで下さい――』


 「……」


 ……やっぱり女神さまへの感謝は取り消すわ。


 レベル上げたくね―って言ってるだろ!!!!

 これさ、どんどん増幅率が上がるせいで結果的に上がりやすさは変わってないとか、そんなオチじゃないよな……。


 どうせ二レベル分のレベルアップボーナスとやらもろくでもないんだろ。

 段々分かってきたよ。



次こそは街に着きます。レベルアップボーナス選択するところから。

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