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第四話:滅相もない

 衝撃の事実にノックアウトされかけたが、なんとか持ち直した俺は双子に改めて通訳を頼み街に向かうことにした。


 なんでも精霊は文字や声に宿る意志を感じ取ることが出来るらしく、その力を使って通訳をしてくれるそうだ。

 しかも俺と魔法的にリンクしたら、いちいち双子を介さずとも意志が伝わるようになるというのだから驚きだ。

 便利な力だな。


 そんなことを教えてもらいながら『花の街ピュリア』方面に向かって俺達は歩いていた。

 ちなみに反対側は『工房都市ヘルム』方面らしいが、ファラが花の街に行きたがったためこちらに向かっている。


 日は高く上っているがまだ春なのかポカポカとした陽気が心地よい。


 「それにしてもいい天気だな。割りと過ごしやすそうな気候で助かる」


 俺がそう言うと、俺の袖を掴みながら歩いているファラがニコニコとしながら失礼なことを言ってくる。


 「ニシお兄さん貧弱そうだもんねー」


 「うるさいわ」


 別に否定はしないけど。


 テクテクと歩きながら、暇だったのでぐるっと周囲を見回してみる。

 左手には腰くらいまでの高さの草が生い茂る草原があり、右手には小さな河を挟んで遠目に森が見えている。


 草原から街道には時々、バッタとクモが混じったみたいな虫やトンボに蝶の羽が付いたみたいなやつが迷い込んでいた。

 そんな虫たちをアグニが興味津々で追いかけ回している。


 俺がその様子を視線で追っていると、それに気付いたか満面の笑顔で手を振ってきた。

 それに答えながら思考を巡らしてみる。


 うーん、生態系は異世界と言っても地球とほとんど変わらないのかな。

 虫の形は若干おかしいが、想像の範囲を超えるものではないし。

 もしかしたら、あの女神さまも一応気を使って世界を選んでくれたのかもしれないな。



 ――こんな使い勝手の悪い能力を渡してきたことは絶対に許さないが。



 実は今でこそこうやって呑気に歩いているが、あのあとも微妙に大変だった。

 なにせ「名前を読ぶだけで」この双子精霊、ビクンビクンするのである。


 よく分からんが精霊にとって”名”とは特別な意味を持つらしい。

 そのせいでデフォルトの「なんだか心地が良い声」でも一杯一杯になってしまうようなのだ。


 本当に面倒くさい能力である。

 そのせいで呼び名をつける羽目になった俺は、ファラのことは『フィー』、アグニのことは『アーニィ』と呼ぶことにした。


 ――しかしこうやって考えていると。


 やはりギフトについて一つ確かめないといけないことがあるな。

 ギフト発動の条件である「一定以上の感情」を今のうちに見極めておいたほうが良いかもしれない。


 少しファラに手伝ってもらうか。


 「ファラ(・・・)、ちょっと――ー」


 「ふわぁ……っ!」 


 ……あっ、しまった。



◇◇◇



 何もなかったよ勿論。


 なぜか、心なし赤い顔で頬を膨らませているファラ改めフィー。

 彼女の頭を撫でながら改めて協力を依頼する。


 「――というわけでだな。頼むよ、フィー」


 「むー。良いけどねっ。何すればいいの?」


 「ちょっとさ、感情を込めて色々言ってみるからヤバかったら教えてくれない?」 


 俺がそう言うとジト目で俺のことを見つめてくる。


 「ねーねー、お兄さんってさ。もしかして私のこといじって遊んでたりする?」


 ふむ。

 俺は早速能力を試してみることにする。

 今のうちに把握しておかないマズイからな。仕方ないんだ。

 断じていじってなどいない、と強く思う。


 「滅相もない(・・・・・)


 「そ、そっか。そうだよね。ごめんね疑っちゃって」


 しゅんと反省した顔をして謝ってくるフィー。

 うーん、素直で可愛いな。


 「ああ、そうだぞ。『可愛い可愛い』フィーをいじるなんてするわけないだろ」


 「えっ」


 みるみる顔を赤くするフィー。

 袖を握る力がきゅっと強くなり、瞬きがすごく早くなっている。

 視線をあっちにやったりこっちにやったりと、すごく忙しそうだ。


 なるほどこんな感じか。

 俺がうんうんと頷いていると、ハッとフィーが何かに気づいた顔をする。

 どうしたんだろう。


 「あ~~~っ! 今絶対、私のことからかったでしょっ!!」


 「滅相もない」


 「……」


 「滅相もない」


 今度は感情値が足りなかったか、騙されてはくれなかった。



*****



 お兄さんはイジワルだ、と”私”は思った。


 むぅ~、お兄さんは絶対、私がアワアワしているのを見て楽しんでると思う。

 それに、ひどいよっ!

 か、かわいいなんて言うから、すごくびっくりしてドキドキしたのにっ!

 乙女のじゅんじょーをもてあそぶなんてゆるせないっ!


 そう思った私は、『私は怒っているんだぞ!』ってことを伝えるために、さっきからお兄さんの背中をずっとポカポカと叩いている。


 ……へへっ、本当はそんなに怒ってもないんだけどねっ。


 精霊界ではこうやって弟以外とお話するなんてしたことがなかったから、それだけで今の私は満ち足りている。

 弟といるのも楽しいけど、それでも弟は私の”半身”みたいなものだしね。

 べつばらなのだっ!


 後ろからお兄さんの少し癖のある黒髪が揺れるのをじっと見つめる。


 ニシお兄さん。

 私と弟のアグニがこっちの世界に来て初めて出会ったニンゲン。

 精霊の私たちでもはじめて聞く、不可思議な声の力をもつお兄さん。

 

 でもそんな『感情を揺さぶる』強い強い力も、私たちみたいな『魂を視る』精霊の行動をほんとうの意味で縛る事はできない。

 だって、私たちにとって感情は魂を表現するための方法の一つでしかないから。


 私たちはお兄さんの魂の気配に惹かれて、着いていくことにした。

 お兄さんには「すごく不運そうだから」なんて言ったけど、実は他にも理由があったりするの。


 お兄さんの魂の色は『大地』の色。

 アグニは、うん……の色なんて言ったけどあれはただの照れ隠しだ。

 私たち、自然の魔力が結集して生まれるものにとって、『大地』とは母も同然ですごく大きな意味を持つ。


 そんな魅力的な魂を持ったお兄さんに着いていかないなんて選択肢があるだろうか。

 いや、ないっ!


 ――あの、身体の奥がかーっと熱くなってふわふわとした感じになるアレは勘弁してほしいけどね……。

 たまにでいい……、いや時々……、いや日に一回くらいしてもらえたら……、ハッ!

 私は今、すごくイケナイことを考えてしまった気がする!


 そんなことを考えて私が一人で顔を真っ赤にしていると、前を歩くお兄さんが話しかけてきた。

 感情の波が小さいお兄さんは、大抵は『声』の力でなんだかほっとする声に聞こえてしまう。


 ……私はわかってるから、ご機嫌取ろうとしてもムダなんだからねっ!

 すこしイジメ返してやろうと思う。別にイケナイことを考えちゃった照れ隠しとかじゃないのだ。


 「雲が出てきたな。雨とか降ってきたりするんだろうか」


 「……降らないよ」


 「そうか。流石、水の精霊……なんだよな?」


 「うん」


 「……」


 「……」


 うう……。ううう……。

 やっぱりそろそろ怒ったフリはやめておけばよかったかな……。

 もっとお話したいのに、これはすごくつらい。


 私がまるで淀んだ水の中に沈んだみたいな気分になっていると、突然お兄さんが立ち止まった。

 そしてくるりと振り返るとしゃがみ込み、私の頭をポンポンと優しく撫でてきた。

 お兄さんと私の視線の高さがおなじになる。


 「わわわっ」


 私は思わず目をパチクリとさせて驚いてしまう。


 「すまんな、フィー。俺が悪かった。花の街に着いたらなにか埋め合わせをするよ」

 

 フィー。お兄さんから貰った私の愛称。

 お兄さんはいつもの無表情に近い顔だけど、わずかに唇の端がピクピクしている。

 ……むむっ、これは私が引っ込みがつかなくなっていたのに気付かれていたのかもしれない。


 「そ、そうだよっ! 私、本当に怒ったんだからね! 本当だから! ニシお兄さんはちゃんと反省して下さい!」


 「そうか。すまんすまん。しっかり反省するよ」


 こ、これくらいで勘弁してやるんだからね!


 私はお兄さんとまた会話が出来たことが嬉しくてたまらず、笑みが溢れるのを押さえきれない。

 そんな私が見せたスキに、お兄さんがニヤッと笑ってこそっと何か意味深なことを言ってきた。


 「しかしフィー。――俺は偽の感情を強く持てるほど器用でもないんだぞ?」


 「???」


 お兄さんはそう言って、またくるりと振り返り道を歩き始めた。


 ……えっと。どういう意味なんだろう。


 さっきの出来事を思い返す。

 お兄さんの声の力が強く働いていたのは最初の『滅相もない』と『可愛い可愛いフィー』ってところだよね。

 それがわざとじゃなくって本当の気持ちで……。

 うん??? 頭がぐるぐるになっちゃうよ~~~。どういうことなの、お兄さん!



幼女をイジる二十歳の大学生の図。てかなんで俺は毎回、幼女が悶える話を書いているんだろう。

衝動に流されてないで、次はもう少し展開進めますね。

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