第二十一話:――うるせえ。廃人にしてやろうか
大変ッ、大変ッ、お久し振りでございますッ。
もうおめーの話のことなんかとっくに忘れたわボケェ!(作者自身10回くらい読み直さないと書けなかった)って方がほとんどだと思いますが、続きかけたのでこっそり投稿しときます。めっちゃ久しぶりに書いたんで文章ゴミクズになってたらスミマセヌ。
フィーのすごーい魔法で『ショートッ!カッットッ!』して到着した、フロラ=コンコード大霊廟、本殿前。
そこにはどうやらサーシャさんとリーリエさん、それにライアスさんも来ていたらしい。
サーシャさんとライアスさんは初日以来だから一昨日ぶりになるだろうか。
一瞬なぜかすごい久しぶりな気がしたが、いろいろありすぎてちょっと疲れているのかもしれない。
というかサーシャさんライアスさんは分かるが、リーリエさんもこの二人と知り合いだったんだな。世間は意外と狭いらしい。
「あーどうも。中々珍しいところで会いますね」
俺もそう挨拶しながら、彼らの方に近寄った。
近寄ってみて気付いたのだが、今日の女の子二人は私服らしい。
サーシャさんは白のブラウスに、レースのあしらわれた薄手のピンクのカーディガン。
さらには麦わら帽子なんかも被っていて、一面の花畑が広がるこの霊廟の空気と非常にマッチングしている。
なんというか清純なお姉さんがちょっと童心に帰ってみました、みたいな可愛らしさだ。
……そしてあいかわらず胸もでかい。実に眼福だ。
リーリエさんは、雪月花の制服を見慣れているせいだろうか、かなり印象が変わっている。
彼女の元来のシャイな性格を反映してか、特に意匠はない白のシャツに細長シルエットの袖丈が長いコートを身に着けている。
履いているズボンもまた、足首まである長い落ち着いた色合いのズボンだ。
なんというか、彼女の細くてすらっとした手足が強調されて余計に人の目を集めそうなのは俺の気のせいだろうか。少なくとも俺の目は集めている。
……しかしうーん、俺も進歩したもんだな。まさか頭の上に咲いている例のブツをナチュラルにスルー出来るようになるとは。
と、ここまで彼女らの全身をしげしげと見つめて一つ思ったことがある。
この二人、衣装の加工の具合やら生地の高級感やらが、周囲を歩いているほかの人達と比べるとどう見ても頭一つ抜けている。
グリムガル商会幹部のサーシャさんは分かるが、リーリエさんももしかしたら良いところのお嬢さんなのかもしれないな……。
なんて俺が考えていると、
「あ、あのタカ様? そんなにじっと見つめられると、流石にその、すこし、恥ずかしいです」
「あうぅ。(ま、マニュアルを思い出すのよ、リーリエ。……どのマニュアル? 母様、姉様、こういう時はどうしたらいいんですか!)」
「ねーねーにーさん、今度は視線でせくはら(?)っていうの始めたの? ねーさんはどう思う?」
「せ、せ、せくはらあ!? お兄さんはそんなことする人じゃ……っ! あれ、ほんとにしないのかな……、でもあれとかこれとか……、あれれ??」
……あっ、やっちまった。やばいぞカオスだ。
サーシャさんは麦わら帽子の前をつまんで、真っ赤になった顔を必死に隠そうとしてるし(全然隠せてない)、リーリエさんに至っては小声で何事かぶつぶつ言ってショート寸前だ……。
あとアーニィ、あからさまにフィーを煽るのはやめろ!!
おめー、絶対味占めてるだろ!!
フィーからの信頼度が地味に落ちているのもツライものがある。
「あー、二人の私服……」
……いや、少しまて。
俺だっていい加減学習しているのだ。
ここで素直に『二人の私服が新鮮ですごい似合ってるなと思ってました』なんて言ってしまったら、きっとそれだけでギフトは発動してしまう。なぜなら俺は確かにそう感じているからだ。
そしたらどうなってしまうのか。
まず間違いなく、さらなる混沌の幕開けだ。
それだけは何としても避けなければならない。
そう考えた俺は、
「……にほら、学術的興味、そう学術的興味があったんですよ。実は服のデザインやってる身内がいましてね。俺自身は詳しくないんですが、それでもいいお土産になるかと思い、ついつい見てしまいました。いやー本当に服選びのセンスがありますね。うんうん。感心しちゃうなあ」
俺ってもしかして天才じゃないか?
彼女らの容姿から絶妙に話題をそらして、服選びのセンスを褒める。
いやあ、とっさの言い訳にしてはなかなかのものだろこれ。
俺は断じて、サーシャさんの胸とかリーリエさんの足を見ていたわけじゃない。
実は純粋なる学術的興味だったんだよ。エロい目なんかでは全然見てないから。
だからセクハラじゃないし。訴えられても絶対勝てる。
俺が一人満足感に浸っていると、
「……すごい早口でしたね」
と一言、ライアスさんが尊敬と呆れの入り混じった目で俺に言った。
せやろ? 尊敬してくれてええねんで?
*****
【同刻 雪月花、中庭のテーブル席にて】
『俺はぐいとミーナを抱き寄せた。「んぅ」と彼女は小さく吐息をこぼす。そのむずがるような吐息は、俺に彼女がまだ幼かった頃を思い起こさせた。くくく、と小さく笑みを漏らす。あの頃はあんなに小さく弱々しかった彼女が、今はこうして俺と肌と肌を重ね合わせている。それがなんとも言えず背徳的で、ますます俺の男を熱くさせた。……』
「うおおお、ミーナあああ! 俺はもうゲンカイっすよー!! ビンビンっすよー!!」
なにやらテーブルに広げた紙束に夢中で筆を叩きつけながら絶叫する、実に危ない男がいた。
そんな男にお盆を手に取った一人の女が近づいた。
この宿の女主人、キュラスそのひとである。
――バシコーン!
「ヘルマさん、さっきからうるさいです! 卑猥な発言はうち以外の相応しい店でやってください! 何回目ですかこれ! いい加減追い出しますよ!」
「うおう、女将さん。そうは言ってもっすねー。あまりにもミーナがかわいすぎて、こう、魂の奥からこみ上げてしまうというか。だから見逃して……」
「へ ル マ さ ん ?」
「……すいませんっす。自重するっすよ……」
「まったくもう。最初からそう言ってください。はい、紅茶のおかわりですよ」
そう言って、いつの間に取り出したのかぶっ叩いたお盆とはまた別のお盆に乗ったティーポットをテーブルの上においた。
ヘルマは紅茶を自分で注ぎながら、彼女に礼を言う。
「いつもありがとうっす。いやあここの紅茶は美味しくって創作が捗ります」
「……そう言ってもらえるのはうれしいですが、うちだって馴染みのヘルマさんじゃなかったらとっくに追い出してますからね? まったく、一年前から時々ご利用頂けるのはありがたいですが、その困った癖はいい加減なくしてください」
はあ、と深い溜め息をついてキュラス夫人は立ち去ろうとする。
そんな彼女に思い出したように、ヘルマは言う。
「あーそのことなんすけど」
キュラス夫人は振り返って首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「俺、明日この宿を出るっす。ちょっと連絡が来て戻らないといけなくなったんで」
「あら、そうですか。それなら仕方ないですね。先に頂いている分から残りの日数分返却させていただきますので、あとでカウンターにお越しください。今度はいつ来るんですか?」
「あー実は俺、しばらく遠い所に行くんでしばらくこの街には来れないんすよね。また機会があったらそのときってことで」
「そうですか、それは少し寂しいですね。……今日のお夕飯は期待してください。せっかくなのでサービスさせていただきますよ」
「おっ、それは楽しみっすね。いやあ、こんな素晴らしい宿に泊まれて俺は幸せだなあ。まちがいなくピュリア一、いやここが観光業のトップをひた走る街だと考えたら、王国一っすね!」
「そんなにおだててもこれ以上何かしたりはしませんよ。まったくヘルマさんは最後まで……」
そう言って呆れたように肩をすくめたキュラス夫人は、今度こそ建物の中に入っていく。
そして中庭には静寂が戻り、ただヘルマが筆を走らせ紙をめくる音だけがしばらく続く。
――しかし、その静寂も長く続くことはなく。
雪月花の中庭に光が差しているにも関わらず、深い闇がせり上がる。
ヘルマは自らが座るテーブル席の前方に出現したそれに、ひどく嫌そうな視線を向ける。
その闇の中から、目に深い恐怖を宿した男と、肘から先を何かにねじ切られたような痛々しい傷跡を持つ男が姿を表した。
しかし彼らは、口を震わせるだけで一向に言葉を発しようとはしない。
ヘルマは、はあと深い深いため息をついて問いかける。
「何の用っすか。できれば手短に願えれば嬉しいっすが」
「……撤退の許可を」
「……」
ヘルマは瞳孔を僅かに赤く染めて、二人の男を注視する。
「……俺は、俺達はこれ以上この街にいることに耐えられん!」
「撤退の、撤退の許可をくれッ! お前なら、“組織”から直接出向してきているお前なら、許可を出せるッ! そうだよな!?」
急に、堰を切ったかのように話し出す男たちに、ヘルマは呆れたように口を開く。
「俺にそんな権限はないっすよ。俺の仕事はあくまでただの『試験官』。現場のことには一切ノータッチっす。あんたらが貸し出されてる『受験者』に許可をもらうことっすね」
そうつまらなそうに言葉を投げたヘルマは視線を落とし、再び紙片に向き合い始める。
「待て、待ってくれ。当然言ったさ、だが無視されたッ!」
「アイツは何もわかっちゃいないんだ。あんたならわかるだろう? 今この街が、どれほどヤバイ場所になっているのか!?」
「そうだ、あんたから、あんたからアイツに取りなしてくれ。頼む、これは貸しにしていい。あとでなら、何だってあんたの言うことを聞いてやる!」
「――うるせえ。廃人にしてやろうか」
顔を上げたヘルマの瞳が縦に収縮する。
まるで世界から切り離されたかのように、中庭が薄暗くなる。
いや、もしかすれば本当に今この場は異界と化しているのか。
昏く悍ましい魔力が空間に満ち、ヘルマの頭上に巨大な瞳が出現する。
今は閉じられたその瞳が開けば、いったい何が起こるのか。
男たちは初めて、目の前の猫人が只者ではないことを思い知らされる。
――しかし。
「た、頼む……。いや、頼み、ます。どうか、取りなし、を……」
「無理、だ。本当に、無理、なんだ……」
その男たちの反応に、ヘルマは初めて感心したように手をたたく。
集約しつつあった魔力が一瞬で霧散し、中庭は直前の姿を取り戻した。
「へえ、あんたたち、思ったより優秀な『危機感知能力』をもってるんすね。さっきの俺よりも、さらにこの街に残ることのほうが危ないと判断したっすか。いやあ、ちょっとびっくりしたっすよ。ま、その判断を『彼』にちょっかいを出す前に出来ればなおのこと良かったと思うっすけどね」
そう言ってヘルマは立ち上がり、へたり込んだ男たちに人懐っこい笑みを向けた。
「よーし、わかったっす。俺に撤退を申し出た君たちの分隊だけは、もう帰っていいっすよ。君たちの度胸に免じて、俺が『受験者』さんになんとか取りなしてやるっす。あ、そうそう。別に貸しにするつもりもないんで、安心していいっすよ」
一転して意見を翻したヘルマにしばらく男たちは戸惑うが、すぐに立ち上がり無言でお辞儀をすると、暗闇の中に姿を消した。
再び陽の光が差し込んでもとの明るい様相を取り戻した中庭で、ヘルマはぐっと手を伸ばして背伸びをした。
「まったく、俺も面倒な副業についちゃったもんっすねえ。でもま、あいつのためだし仕方ない。さて。お仕事増えちゃったことだし、さっさとこなしてくるっすかね~。あ、そうだ。どうせ明日この街からいなくなるんだし、今書いてるやつ書き上げて、今晩タカさんに感想をもらうとするっすか」
そう独り言をつぶやいたヘルマは、不意に振り返ると何者かに語りかける。
「というわけなんで、人のこと覗き見してる“アナタ”。ここから先は“アナタ”には内緒なんで、ちょっと失礼しちゃうっす。いや、個人的には別に見られてもいいんすけどね。ただそういう“組織”の決まりがあるもんでして」
そう言って彼は、“ワタシ”の目から消失した。
えー、つまんないです……。
見られてもいいなら、見せてくれてもいいじゃないですかー。
けちー。ロリコーン。エロ小説作家ー。
*****
「おーすごいな。これは今までこの街で見てきた中じゃ一番かもしれん」
『天才的発想』で危機を切り抜けた俺は、ようやく本殿の中に足を踏み入れていた。
外観こそごく普通のザ・聖堂って感じだったが、中は隕石でグチャッとやられる前には見たことない光景が広がっていた。
……今更ながらに腹たってきたな。
あんなグロ映像みせてきたあの女神さまにはやはり直接文句言うべきだったかもしれない。
か弱き人間にもそのくらいの権利はあるはずだ! ……ないかな?
俺も踏みつけたアリに文句言われても困るし、ないかもしれない。まあいいか……。
とりあえずそれは置いといて、中の光景である。
一言でいうと、めちゃくちゃカラフルである。
小学生くらいの時に正方形の形に整列した俺たち生徒が頭上に掲げた色布で巨大な文字や模様をつくる、みたいなことをやった記憶があるが、あれを小さな花がやっている感じ。
床には直接小さな花がまるで絨毯のように。
壁や天井にはツタ植物から咲いた花がまるで壁画やステンドグラスのように。
多様な紋様があちこちで形成されていて、思わず目で追ってしまう。
個人的に、こういう古い教会みたいなのは中は薄暗い印象があったのだが、ここは花々がほのかに燐光を発しているおかげか、暖色系の光に満ち満ちており、『神聖さ』よりもどちらかというとまるで『実家のような温かみ』がある。
うちの双子は俺よりも強くそんな感情を抱いたのか、微妙に機嫌が悪かったフィー(なんでだろうなー)もあっという間に笑顔になり、アーニィと一緒に俺たちを置いて走り去ってしまった。
遠くの方にいたお子様たちの集団に一瞬で馴染んで、いまは鬼ごっこ(?)をしている。
ってアーニィそれは反則じゃないか……?
鬼に捕まりそうになった瞬間に燃え上がったかと思ったら、十メートルくらい離れた場所にワープしやがったぞ……。そんなこともできるんだね……。
祭官っぽい人たちも目をむいてびっくりしてる。すみませんね、うちの子が……。
俺が割りと楽しそうにしているのを見て取ったか、右側からリーリエさんが嬉しそうにこの場所、『フロラ=コンコード大霊廟』の解説をしてくれる。
「えへへ。偶然ですけどこの場所の案内を、タカさまにできて良かったです。私たち花人の発祥の地ですから。ほら、あっち。真っ正面の天井に、想念花で描かれているのがフロラさまのお姿なんですよ」
ほほうと思いながら、彼女が指差す先に視線を向ける。
「…………キレイナヒトダナー」
まあ次にいこうか。
乳首と局部のみ小さな花で隠した、異常にエロい女(ただしやはり頭にユリの花が咲いている。しかも二本。触覚かよ)は俺の視界には入らなかった。
敢えてコメントするなら、きっとこの街の男の子の◯通はあの女に違いない。
何だよあのポーズ。しかも想念花の働きなのかしらんが微妙に動いてるし。
俺が楽しそうなリーリエさんにバレないようにゲンナリしていると、今度は左側から、麦わら帽子を胸に抱きかかえたサーシャさんが話しかけてくる。
「あの、私もこの場所に関しては調べましたので少し詳しいんですっ。例えば、あちらに描かれている人間族の男性。彼の名前は『スタニスラス・ピュリア』といって、神霊であるフロラ様とともに、当時大陸中を恐怖に陥れた大魔獣『千眼ノ盲獣』を討伐した大英雄なんですよ」
フンドシしか身につけてないおっさんとかじゃありませんように、と思いながら恐る恐るサーシャさんが指差す先を見ると、今度は普通にイケメンだった。
キラッと光る歯までが再現されていて微妙にウザい。
しかしさっきの痴女と比べれば断然マシである。
「へえ、なんかかっこいい武器を持ってますね。あれってなんです?」
一見するとちょっとごつい槍だが、他の絵を見ると何やら変形機能があるのが分かる。
ガシャンと中央部に亀裂が入って左右に開き光のビームをぶっ放していたり、巨大な光の翼が生じて使い手ごと猛烈な勢いでかっ飛んでいたりと、ちょっと世界観間違えている感がある。
しかし俺がそう尋ねたにも関わらず、いつまで経っても返事が返ってこないのでサーシャさんの方を見てみると、髪に隠れて見えないが恐らく耳をいじりながら、なにやら夢見がちな様子でぼんやりとしていた。
「……はあ。それにしてもこの二人、異種族同士で結ばれたのでしたか……。異種族同士の恋愛かあ……。いいなあ……、私も……。恋人……、せめて愛人……、いっそ性奴でも……」
「……」
ダメだ。聞こえてないなこれ。
てかそれにしても、性奴って。
異種族……、いったい誰に惚れてるのかしらんがそれはやめといたほうがいいんじゃなかろうか……。
いくら俺でも、知人の女がそんなこといい出したら流石に止めるぞ。
「はっ! えっと……。武器ですか? あの武器は――」
一応聞こえてはいたんだな……。
サーシャさんが何やら呟いていたことも聞こえなかったことにして、傾聴しようとすると、
「あの武器は『天翔機軸槍』といって、工房都市ヘルムの祖『フォートレイド・ヘルム』が作った魔導兵器なんですっ。正確には幾つかのアーティファクトを当時の技術で組み合わせたものようですが、あまりにも効率的かつ独自性の強い魔法陣が基幹部に使われているらしくて、今でも『どうしてこれが動くのか分からない』って聞いたことがあります!」
サーシャさんの言葉を奪うようになぜかリーリエさんが詳細に教えてくれる。
――そのとき、リーリエさんとサーシャさんの間で交わる視線。
リーリエさんは、彼女にしては珍しい挑戦的な目で。
サーシャさんは、普段の大人びた言動からギャップのあるふくれっ面だ。
その間にいた俺は、日本でのちょっと危ない日常で鍛え上げられた『危機感知センサー』が鳴り響くのを感じていた。
……ふむ。これは一体何なのだろう。
何故か俺は、見も知らぬおっさんがはるか遠くで高笑いしているような気がしたのだった。




