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第十八話:黒髪のお兄さんのもすっごい大きくて


 「こ、こほん。改めていらっしゃいませ、お客さま」


 咳払いをしてから、丁寧語で仕切り直す店主さん。まだ少し顔が赤い。

 どうやらさっきのは一瞬素が出てしまったらしいな。


 「あ、どうもです。先程は失礼を」


 俺もそう謝罪を入れながら、改めて店内をぐるりと見渡してみる。

 

 暖色系の光に照らされた店内はどことなくアンティークショップを思わせる雰囲気だ。

 先程の小物店よりはやや手狭な店内に所狭しと棚が並んでいる。


 『魔法の杖』を売っている店だと聞いていたが、どうやらそれ以外にも色々と扱っているらしい。

 左側の棚の上に整然と並べられた箱の中には、何かの尻尾や乾かした葉っぱ、サソリっぽい生き物がホルマリン漬けみたいにされている瓶など、ぱっと見では何に使うのかよく分からない物体が入れられていた。

 それらに付けられた値札から察するに、どうやら結構値打ちがある代物らしい。


 右側の棚を見ると、こちらはどうやら『魔法使い』向けの商品を売っているコーナーのようだった。

 聞いていた通りの『魔法の杖』を始めとして、参考書……。いや魔導書というべきか、そういった書籍に、真っ青な液体が入った小瓶、丸薬が詰まった箱などが並べられている。

 

 うーん、中々に『それっぽい』店じゃないか。


 俺が店内をじっくりと見ている間に、どうやら店主さんも俺達を観察していたらしい。

 改めて店主さんと向き合うと、彼女は俺達をじっと見つめてかなり驚いたような顔をしていた。

 なんだろう。


 双子が変なことでもしているのかと思ってちらっと一瞬、後ろを振り返ってみたが、嬉しそうに髪飾りや帽子をいじっているだけで取り立てて何かしているわけでもない。強いて言えばかわいいだけだ。

 再び視線を店主さんに向け直す。


 というか店主さんと決めつけてたけど、この人も俺とあんまり歳変わらなそうだな。

 リーリエさんよりも少し低いくらいの身長に、リーリエさんよりも若干大人びた『キリッとした』印象の顔。

 もしかして店員さんなんだろうか。うーん。


 「どうしました? 店主さん、でいいんですよね?」


 俺がそう尋ねると、


 「あ、は、はい。私がオーナーです」


 妙に慌てた様子で彼女は答えてきた。

 私はオーナーです、って。どこぞのRPGの村人とか村長のセリフみたいだな……。

 俺がジトッとした視線を向けていることに気付いたか、店主さんはアワアワと手を振りながら口早に喋りだした。


 「も、申し訳ありません。少し魔力に酔ってしまいました。精霊様がたはもちろん、黒髪のお兄さんのもすっごい大きくて、思わずフワフワとした気持ちに…………。あっ! 今のナシ! 今のは聞かなかったことにしてくれたまえっ! っ、いたっ!?」


 勝手に自爆して慌てた店主さんが、カウンターの後ろの何かに足を引っ掛けてひっくり返った。

 そしてカウンター裏に積まれていた商品の山がひっくり返った店主さんに押されて崩壊する。

 どんがらがっしゃーんとすごい音が店内に響き渡った。

 彼女の姿はカウンターに隠れて見えないが、最後に瓶が落ちて何かに当たりコーンといい音がした。



 …………えっ。


 なにこれ。何が起きたの。

 この人、素でコントじみたことやってやがるぞ……。


 これって俺が悪いのだろうか。

 つうかさっきの俺の『キリッとした印象の人だ』って感想を返せよ。

 とんだ『ドジっ子』じゃないかっ!


 俺は恐る恐るカウンターの裏側に回り、様子を窺ってみる。

 さっきまで夢見心地だった双子も目を丸くして俺の後をついてくる。


 まるで地震でも起きたかのような大惨事だ。

 うつ伏せに倒れ込んだ頭と、右手だけが商品の山の下から覗いている。

 幸い液漏れなどはないようだ。

 

 「お、おーい、生きてますか―? 大丈夫ですかー?」


 おーい、おーいと何かの儀式のごとく、三人で店主さんに呼びかける。

 

 「あうう……。な、なんでこんなことに……。ご、ごめんなさい。上のを退かしてくれませんか」


 よかった、生きてた。


 「はい、少し待ってて下さいね」


 俺ってこの店に何しに来たんだっけな……。

 そんなことを思いながら俺達は、商品を脇にどけてドジっ子店主さんを引っ張り出す作業に勤しむのだった。


◇◇◇


 「こ、こほん。ようこそ、『ヘルベラ魔法店』へいらっしゃいました」


 「今更取り繕っても遅いですよ、ドジっ子ヘルベラさん」


 「ド、ドジっ子いうなあ!」


 あまりに中がとっちらかっているので、ドアに『閉店中』の札をかけたヘルベラさん。

 彼女は涙目で椅子に座りながら、タンコブやら打ち傷をフィーに癒してもらっていた。

 何かボソボソと『うう、こんなんじゃ、あの子のシャイっぷりをからかっていられない……。ど、どうしてこんな目に』とか呟いてる。ちょっと面白い。素はエラそうな口調なのにこれなのか。


 調子に乗った俺はヘルベラさんを煽り立てる。


 「それで何にびっくりしたんですか。俺のがなんでしたっけ? ほら、もう一回言ってくださいよ。早く早く。気になって気になって(・・・・・・・・・・)仕方ないなあ」


 「は、はい。お、お兄さんのが……、って言わないから!! こ、この男、ゲスい。ゲスすぎるぞ……。というか何で私は今言いかけてしまったんだ……」


 「あっ! またタカお兄さん、女の人といちゃついて……。ダメなんだよ!!」


 「あっ、すいません」


 「あはは。なんだかグダグダだね、いつものことだけど」


 「えっ。俺っていつもはもっと真面目に話進めてないか? なんでそんな印象になっちゃってるの?」


 「うーん、日頃の行い?」


 「いやいやいや、それはおかしい。こんなこと偶にしかしてないって。そりゃ昨日今日は少し多かったかもだが――」


 「――お兄さんはちょっと反省するべきですっ!」


 「あっ、すいません」


 「君たち、すごく賑やかだね……。いつの間にか私のこと忘れてないかね」


 俺は微妙に釈然としない気持ちになったが、すぐ頬を膨らませて涙目になるフィーには勝てないな……。

 うーん、おかしいな。何でだろ。取り敢えずギフトのせいにしとくか……。


 そんな感じでしばらく俺達はごちゃごちゃとやっていたが、ようやく落ち着いて本題に入ることにした。


 「それで、何を買いにきたんだい? えっとタカさん?」


 すっかり店員の顔を脱ぎ捨てて、俺にそう尋ねるヘルベラさんに苦笑する。


 「あー買いに来たというか。魔法の適正なんかを調べてもらえると聞いて来た感じですかね」


 「え? 精霊様と行動している上、そんなに濃密な魔力を発しているのに自分の適性を知らないのかい? 私はてっきり魔法使いだと思っていたよ」


 「へえ、俺って魔力あるんですか」


 「そこからなのかね……っ!」


 ヘルベラさんはなんだか呆れた顔をしていたが、『よし分かった。器具を持ってこよう』と言って奥に引っ込み、しばらくして天球儀のようなものを抱えて持ってきた。

 7つの金属リングが球状にお互い重ならないように配置されていて、それぞれのリングには何やら図柄やら文字やらが刻まれている。

 中心部には握りこぶしくらいの大きさの真っ白な真球が嵌め込まれていた。


 「本当はこれの検査もお金を取っているんだが、今回は治療のお礼ということでナシにしよう。……口止めじゃないから、口止めじゃないから!」


 「いや聞いてないです……」


 俺がヘルベラさんが示すがままに、天球儀の土台に設置されている小型の水晶球のようなものを握りしめると、天球儀が輝きながらクルクルと回り始めた。

 しばらくするとピタッととまり、真ん中の球は濃い茶色に幾つもの虹色のラインが描かれた、感想に困る色合いになった。


 「で、これはつまりどういうことなんです?」

 

 「う、うーん? 少し待ってくれ。読み間違えだろうか。何だか妙なことになっているな……」


 ヘルベラさんは首を傾げながら、リングの文字を手元の紙に書き記し唸っている。

 しばらくして、なんとも微妙な表情で俺を見上げてきた。


 「すごく残念だな、タカさんは」


 急に失礼なことを言ってくるヘルベラさん。


 「あ、ああいや、すまない。君は魔法に疎いようだからすこし説明すると、魔法の力というものは己が見の内に秘める魔力の『質』と『量』、それに魔力を感じ取る資質である『感応力』に依存するんだ」


 「ふむ。絵の具と筆みたいなものですか」


 「簡単に言ってしまえばそうだね。そして君の魔力の『質』と『量』ははっきり言って人間とは思えないほどなんだ。土の最上位、自然の恵みを象徴する『大地』属性、それに『神聖』属性が恐らく後天的に混合していて、質の上では無敵に近いといえる。魔力の質自体は長年、修練を積めば誰でも強化できるものなんだが、君のはそれで追いつける域にないな。生半可な魔法抵抗力じゃ、君が行使する魔法には逆らえないだろう」


 「へえ、良い感じじゃないですか」


 神聖属性とやらは何なんだろうな。

 女神さまがギフトを植え付ける時にイジったんだろうか。

 でもここからどんなオチがつくんだろう……。

 

 「うん、それに量の方も異常だ。本来、魔力を貯める『魔力の器』というものは種族ごとに大きさが決まっていて、私たちフロラ様の眷属のような特別な加護がない限り変動しないものなんだが、君の場合は突然変異なのかそれがやたらと大きい。その気になれば禁術級の儀式魔法すら一人で使えるくらいはある。…………けれども」


 来たぞ……。

 俺はなんとなくオチを予想して嫌な顔をしつつも、それでも一応、続きを尋ねてみる。

 

 「けれども……?」


 「言い辛いが仕方ないな……。君は『感応力』がさっぱりない。どれだけ上質な魔力を持っていようとも、それを認識して操作する術がないなら初級魔法ひとつ使えない。なんというかそう、『宝の持ち腐れ』という言葉が君ほど似合う人もいないだろうな……」


 やはりそうきたか……。


 言われてみれば、俺はフィーやアーニィには見えたらしい商会支店の防衛魔法なんかもまるで見えなかった。アーニィが朝、探知魔法を使った時も発光現象こそ見えていたが、そもそも『光』とは原子内の電子が励起して基底状態に戻る時に生まれる電磁波のことだ。つまりは物理現象でしかないのだ。恐らくあれもいわば『魔法』の結果として生まれている現象の一つで、結局のところ俺はその『過程』を認識できていないのだろう。


 大体、よく考えたら現代人になんだかよく分からない謎の素粒子を素で認識して操れと言われても無理があるよね。これだからファンタジー世界の住人は。俺にも使えるような機材を使って魔法使えよ。人間ってのは不便ってものを実感しないと進歩しないんだぞ。全くもう女神さまも女神さまだよ。魔法が使いたいとはさらっといったんだからそのくらい気を使ってくれてもいいのに。


 なんて俺は長々と内心で愚痴っていたが、そんな俺の鬱々とした気配を察してかヘルベラさんが慌てた口調で補足を入れてくる。


 「ああ、いやひとつだけあるにはあります……よ? 禁術の一つに『魂に特定の魔術回路を刻み込む』外法があるのだけれど、それは必ず魂を損耗してしまって――」


 「いやそんな危なそうなことしてまで魔法使う気はないんで……」


 なんだよ、魂を損耗って。

 それ治せるものなのか。普通に怖い。


 そんな俺を見て、あははと乾いた笑いを浮かべたヘルベラさんだったが、彼女は天球儀を持って一旦奥に引っ込んだ。

 その間に、フィーとアーニィが二人してポンポンと俺の背を叩きながら慰めてくれる。


 「だ、大丈夫! お兄さんは魔法なんて使えなくても私たちがいるから! 何か見たいものがあったら多分、大概の魔法は似た感じに再現できるから!」


 「そ、そうそう! それににーさんの声の力だってちょっと特殊だけど魔法といえば魔法だし、魔法使いっていってもいいんじゃないかな!」


 「違うんだ……。違うんだよ二人とも。俺はもっとこう派手でわかりやすくて『制御しやすい』、そんなお手頃なオモチャが欲しかったんだよ……。使い勝手の悪いギフトには飽き飽きしているんだ……」


 「ははは……。お兄さんって素直なのはいいんだけど、時々素直すぎるよね……」


 仕方ないじゃないか。

 せっかく朝から期待して、この店に入ってテンション上がって、突き付けられた現実がそれだったんだから。

 



 ――なあ、力こそ全てな世界で生きてそうなハクヤなら分かってもらえるだろ……?


 そう思って、顔を上げて店内を見渡すが何故か見当たらない。

 ん……? そういえばここに入ってからハクヤの姿を見た覚えがないぞ。

 俺は双子の顔を見て尋ねてみる。


 「あれ? ハクヤはどこ行ったんだ?」


 「え?」


 「ホントだ。いない。ハクヤもお散歩に行ったのかな」


 「まじで? あいつら本当に自由だな」


 双子も俺と同じく気付いていなかったようだ。

 あいつら、俺よりも欲求に素直じゃん……。


 ヘルベラさんを待ちながら俺はそんなことを思っていた。



*****



 【ヘルベラ魔法店に到着する少し前】


 「ワオーン、わふわふ、ワオーーン!」


 首輪をもらったワタシは今までの狼生でサイコーに喜びに満ち溢れていた。


 ああ、なんと素晴らしいのだろう。

 心から認めた、絶対上位者から授かった報酬。

 ワタシをご主人様が自分のものだと認めた証がいまここにあるのよ!


 この素晴らしい出来事は、これまでの生涯でただ一時期を除き『奪う者』であり続けたワタシに、ひどく遠い過去を思い起こさせた。


◇◆


 ワタシが生まれたのは果たしていくつ季節が巡り巡る前のことだったか。

 『大草原』の中心部にある湖の畔で、ワタシは幾匹かの兄姉達と共にこの世に生を受けた。

 親兄姉は至って平凡な、取るに足らない普通の魔狼(ガルム)だったわね。



 ――本当につまらない家族だったと、ワタシは今でも思っている。



 確かに魔狼種は大草原の中でも最上位の捕食者といえるでしょう。

 攻撃的な魔法こそ行使できないものの、最高速度と持久力に優れ、そして極めて柔軟な方向転換を可能とする脚力は草原に生きるあらゆる生物を追い詰め、その息の根を止める。

 見通しが良く地形を利用することが出来ない大草原においては魔狼種はまさに敵なしだ。


 きっとワタシの家族はそんな下らない勘違いをしていたのでしょうね。


 愚か、愚かとしか言い様がないわね。

 この世で真に驕り高ぶることが許されるのは、相対した時に『あらゆる存在が逃げることすら忘れ、ただ命を差し出す』程の絶対強者のみ。

 そこまでの力を持たないただの魔狼如きが抱いていい慢心では決して無かった。


 そんなことだから『草原外』からやってきた飛竜(ワイバーン)数頭に『獲物』として狙われて、瀕死の重傷を負わされる羽目になるのよ。




 ――そして、なにより救いがたかったのはそんなつまらない家族達に庇われた、『ワタシ自身』だったと言えるでしょう。



 

 それは両者の捕食者としての『プライド』を掛けた戦いだった。

 ワタシ達は魔の力を御してただの獣を遥かに上回る力を手にした存在。

 それ故に、時として『プライド』は生存本能を超えて自らの身体を駆動させる。


 飛竜達の爪と家族達の牙。

 激しくそれらが交わされ両者が血みどろになる戦場において。

 狂鳴と咆哮が大草原に響き渡る最中に、ワタシが何をしていたかというと。


 『何も』していなかった。

 そう、臆病に震えるだけで目の前の闘争が終わるのをただひたすらに待ち望んでいたの。

 そしてワタシの家族もまた、魔狼らしからぬ『大人しい』末妹に被害が行かぬよう時として自らの身体を盾としてまでワタシを庇い続けた。


 故にその結果は必然だった。

 使えぬ足手まといを抱えたワタシの家族は飛竜達をなんとか撤退させることに成功するも、みなことごとく瀕死の重傷を負っていた。

 黄昏時の草原に血まみれで横たわる彼らは、それでもひどく満足げな気配を醸し出していた。


 ああ、下らない。どうしてワタシの家族は逃げなかったのか。

 空を飛ぶ飛竜達はこと狩りに関しては地上を駆けるしかない魔狼種の上を行く。

 しかしそれでも速度があり小回りの利く彼らなら、『恐怖に身が竦んだ』惰弱な末妹さえ見捨てれば、つまらないプライド()さえ捨て去れば、容易く逃げ切ることは出来たはずだったろうに。


 泣き声を上げ必死に家族の傷を舐め続ける当時のワタシを、激痛をこらえただ見守る親兄姉たち。

 空も大地も赤く染まった世界の中で、一頭、また一頭と致命傷を負った彼らが息絶えていく光景はワタシにこの上なく『死』を実感させた。

 



 ――きっとそれが『鍵』だったのでしょうね。




 両親を除き兄姉のことごとくが死に絶えた時。

 地を這う獣に手痛い怪我を負わされ怒りに燃える飛竜たちが加勢を引き連れ再び襲来した。


 「……」


 上空を円を描いて飛び回る十を超える飛竜たち。

 赫怒に満ちた叫び声を上げる『矮小な生物たち』を前にしてワタシ(・・・)はゆっくりと立ち上がった。

 そんなワタシを見て、八つ裂きにする相手がまだ残っていたことに喜びの叫びを上げながら一頭の飛竜が空から急降下し爪を突き立てようとする。


 ――その瞬間、ワタシはまだ微かに息のあった両親の『魂』を喰らった。


 新たに、僅かな光を放つ『二本目の尾』が生まれる。

 喰らった二つの魂がそれに吸い込まれていく。


 そして、ワタシはその二つの『魂』を『原初の可能性』に回帰させる。

 結果として生まれたのは無属性の魔力だった。

 この世の如何なる存在も減衰不可能な、何物にも染まっていない純粋なる力。


 ――ワタシはただそれを上空で炸裂させた。


 白き爆発が起こる。

 暗闇に染まりかけた草原を眩い光が照らし出し、生じた衝撃波が全てを薙ぎ払う。

 それは下位とはいえ竜種である飛竜たちにすら一瞬の抵抗も許さない、超越の業だった。


 贅沢で傲慢で冒涜的な所業だ。

 今まで大切に育ててくれた両親への敬意など微塵も感じられない、悍ましき力の使い方。

 

 ワタシの元に新たに殺戮した飛竜共の魂が収集される。

 二本目の尾が強く光り輝き、闇夜の草原に不気味な白き獣の姿を浮かび上がらせる。


 それからワタシの、ただひたすらに『奪う』だけの、新たなる第二の生が始まった。


◇◆


 それがここ数日は一体どうしたことか。


 ワタシのご主人様となった方は、ワタシに多くのものを与えてくれたわ。

 何もかもをも包み込むような安心は言うまでもなく、ワタシに『声をかける度に』極上の魔力を与えてくれるの。

 魂を回帰させた時に生じるものに近い厳かな魔力と、命を精錬し強化する大地の魔力。

 その二つが合わさった不可思議なる魔力を。


 それだけでも十分過ぎるくらいなのに、先程はワタシを配下と認めて手ずから贈り物を下さった。

 このワタシに何かを『上から』与えられる存在がいる。

 ワタシにとってそれがどれほど懐かしく喜ばしいことであったか、きっと何者にもわかるまい。



 ――そんな風にワタシが歓喜に浸りながら、ご主人様の後に続いて歩いていると。



 ひどく不快な『匂い』を嗅ぎ取った。

 ニンゲン共や半精霊共が蔓延る通りの先に、設置式の攻撃魔法を『二十ほど』認識する。

 品数豊富に取り揃えられたそれらは明らかにワタシのご主人様を標的としたものだった。

 

 「グルル……(愚かな。それで隠しているつもりかしら)」


 ちらりと浮かれた様子の純粋精霊の双子を見やる。

 気づいてはいるようだが、恐らくはこの二体にとっては脅威ですらないからでしょうね。

 対処どころか『何か変わった展示品』くらいにしか認識していない様子だった。


 「ワフン……(はあ、面倒くさい。ワタシが始末するしかないみたいね……)」


 恐らくはこの双子の加護により、魔法に強い耐性を持つご主人様も傷一つ負わないことだろう。

 しかしそれでも、ご主人様の気を煩わせるモノを残しておく訳にはいかないわね。



 ――ワタシは軽く前足に『力』を纏わせるとトンと地面を叩く。


 放たれた力は、地面を、壁を、屋根をまるで『生き物のように』這い進み、瞬く間に全ての敵性魔法を侵食し破壊していく。

 そして『帰ってきた』力を確認して、ついでにこれらを設置した術者の魔力の匂いを記憶した。


 「グルル……(それにしても白猿は何をやっているのかしら。こんなのがあるということは、未だにご主人様に楯突くゴミクズの巣を潰し終わってないということよね)」


 はあ、仕方ないわね。

 ニンゲンはあまり美味しそうな『魂』を持っていないから趣味ではないのだけれど……。

 でもせっかく匂いも覚えたことだし、ワタシも掃除に回ることにしましょうか。


 それにご主人様は『平和主義』らしいから、白猿が癇癪を起こして暴れだしたりしても面倒くさい。

 アレも一応はご主人様の意向を分かっているとは思うけれど……。

 白猿の忍耐力を信じ……、られるわけがないわね。


 ええ、やはりさっさとケリを付けてしまいましょう。


 ワタシはそう考えると、そっとご主人様の側を離れて目星を付けた最初の獲物を狩りに向かうのだった。



あっれ、何でヘルベラさんこんなキャラになってんだ。もっと真面目な感じのはずだったのに……。


*ブクマ100超えてました。ありがとうございます! 少し胃が痛くなったけどア○リエやったら治りました! 錬金術師モノそのうち書いてみたい……。いやとにかく、ありがとうございます!

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