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第十五話:私は決意した。

*また長くなってしまいました。段々文字数も諦めの境地に……。


 私、『ボネット』の大親友、リーリエのお父様が治める『ピュリアの街』は観光業で栄える街として王国内でも有名な街だ。


 ピュリア子爵家は家格こそそれほど高くはないものの、神霊とも謳われる『花の大精霊フロラ様』の直系の家柄で王国内でも特殊な立ち位置にあり、噛み砕いて言うとある種の『ブランド力』がある。

 またそれだけでなく、現当主のピュリア子爵様は卓越したバランス感覚と政治手腕を持つことでも有名で、近年この街が目覚ましい発展を遂げたのは領主さまのお力が大きい。



 例えば。


 私たちフロラ様の眷属は半精霊でもあるから、『自然の恵みを保存し昇華する技術』に関してはお手の物だ。

 それに目を付けた領主様は、私たちならば新たな『食文化』を創りだし、それを街の魅力にすることができるのではないかと考えたらしい。

 もちろんそれを実際に行うには、私たちが自給できる食材だけでは物足りない。

 故に領主様は、王国最大手の大商会、第四の公爵家とも語られる『グリムガル商会』と強力なコネクションを築き、この街に王国各地の様々な『食材』を持ち込んだ。

 


 例えば。


 領主様は私たち自身の『特殊な性質』にも着目した。

 それらを強調することで、新たな『観光名所』、新たな『イベント』を作って人間の方々の興味を引いたのだ。

 ここだけの話、その中には私たち自身ですら『ちょっとおかしくないかな……?』なんて思うものもあるのだけれど、実際に観光客の数は増加傾向にあるのだからきっと領主様は正しいのだろう。



 例えば。


 隣にある街、『工房都市ヘルム』と領主様は親密な関係を築いた。

 工房都市ヘルムは上位の傭兵団がしばしば補給に訪れることで知られており、装備の点検などで暇をしている傭兵の方が沢山いるらしい。

 領主様はそんな彼らを雇用することで、街道沿いの魔物を一掃しエルム街道の安全を確保する大事業を行ったみたい。

 そのおかげで今では、街道から外れさえしなければ特に危険な魔獣なども出てこなくなり、観光目的の人もわざわざ高額の護衛料を払う必要がなくなり気軽に来れるようになった、なんて話も聞く。



 そう、こんな風にリーリエのお父様は本当にすごい御方なのだ。

 ピュリア子爵様はこの街の人々の尊敬を一身に集める、偉大な人物なのだ。





 ――それなのにリーリエときたら。


 うちの両親が領主様ご夫妻と親しい間柄なのもあって、私は幼い頃からリーリエを知っている。

 私は一人っ子で、それに私の両親もリーリエの両親も昔からものすごく仕事で忙しく私たちに構っている時間があまりなかったため、年が近い私たちは二人で過ごすことが多かったのだ。


 そんな私から言わせてもらうと、この子は本当に昔から引っ込み思案で私が引っ張ってあげないとなんにもできない子だった。

 リーリエは領主様ご夫妻や、彼女のお兄様、お姉さまと同じ血を引いているとは思えないくらいダメダメな子だった。


 うん、昔はどうしてこの子はこんなにトロいのかとよくイライラしたものだ。

 しかしそれでも。まるで手のかかる妹のように彼女と接しているうちに。





 ――いつしか私はそんなリーリエのことが『大好き』になっていった。





 もちろん、その『大好き』というのは『大切な友人に向ける好意』だよ?


 私とリーリエの共通の知人には『ボネットは何か一つ間違ったら絶対に突き進んでいたね、間違いない』なんて言われたこともあるけれど、私がリーリエに抱く感情はそんなものとっくに通り越している(・・・・・・・)

 うん。もう、私とリーリエは家族といっても過言ではないねっ!


 そう、その知人に言ったらもちろんドン引きされてしまいました。実に心外だなあ。


 どうして私がそう豪語するまでに至ったかというと。

 実は自分でもその理由は良く分からない。


 両親にあまり構ってもらえず愛に飢えていた幼いころの私が、自分の後をちょこちょこと付いて回るリーリエにこう、『ひよこ』的な愛らしさを感じたからかもしれない。

 あるいは、リーリエを領主の娘と知らない悪ガキが彼女を泣かせて、私がそれを追い払ったりした時に縋り付いて来たリーリエに『泣いて縋り付いてくるリーリエって、すごい、良い……』みたいなアホみたいなことを考えたからかもしれない。


 もちろん、リーリエは弱いだけじゃないことを今の私は知っている。

 彼女は自分の欠点を直視して、それに真正面から向かっていく強さを持っている。

 貴族の娘たる責務を果たせるようになろうと、いつも何かしらに挫けつつも決して諦めず、苦手なことに取り組む姿を私は毎日ここで見ているのだから。


 弱いリーリエ、強いリーリエ。

 いろんなリーリエを知っているからこそ、私がリーリエに抱く『好意』は決して性愛のそれにはならない。

 『家族としての情愛』、それこそが私が彼女に抱く感情をぴったり表す言葉だろう。


 ゆえに私は誰にでもあけっぴろげにリーリエに対する好意を宣言する。

 リーリエは私がそう宣言するたびに、恥ずかし気な、困りはてた様な顔をするけれどそんなことは関係ないのだ。

 そんな顔が可愛いから……。もとい、『家族』なんて迷惑かけてなんぼのものだと私が思っているから。


 もちろんそれだけだと、私が自己中心的なひどい女で終わってしまう。

 だから、私が迷惑かける分はリーリエも私に『真っ先に』迷惑をかけてほしい。

 私はいつもそう願っている。



 ――だからこそ。


 私は眼前の光景を見て無性にイライラしてしまう。


 「それでタカ様の声に宿る力、とはどういったものなんでしょうか? あの差支えがなければ教えていただけないでしょうか……。私、本当に自分の性格に困っていてっ! あ、無理ならいいんですけどその、できれば教えてほしいなあとか、えっと」


 「い、いや。別に隠すようなことでもないしそんな畏まらなくてもいいですよ。まあ、端的に言ってしまうと『心が休まる声』に聞こえるらしいんですよね。正直、自分の声を聴いても特にそんな気持ちにはならないんでどういう効果かは俺には良く分からないんですが」


 「心が休まる声……。確かにそうかもしれません。……えへへ。こんな私でも普通に話せる人がいるなんて。なんだか私、うれしいです!」


 「そりゃどうも……です? いや、自分では使い勝手の悪い面倒な能力だと思ってたので感謝されるのは新鮮ですね」


 ほとんど初対面に近い『このお客様』と気兼ねなく話せる自分に興奮してか、いつになく口数が多いリーリエ。

 彼女は今まで私と話す時くらいにしか見せなかった『自然な笑み』を浮かべながら、ご飯もそこそこに、夢中になって相談事をしていた。

 そんな様子を見ていると、彼女の悩みに助力できるような力を持つ『このお客様』に『嫉妬』に近い感情が沸き起こってくる。


 ――あーあ、私がその担当になりたかったのになあ。


 私はそんなやるせない感情を抱えながら、内心で口をとがらせつつ黙々とご飯を食べる。

 会話に参加する気力が湧かないなあ。

 私がそんな風にやさぐれている間にも二人の会話はどんどん弾んでいた。



 「で、なんでしたっけ。リーリエさん達はフロラ様って方の力を継いでるんでしたっけ?」


 「はい、そうなんです! フロラ様の御力はですね、この『精霊花』に顕れているんです。えっと、まずこの花のおかげで私たちはすごく魔力に関して敏感です。魔力の感知器官、受容体としての機能があるんですね。それに、他にもありまして――」



 ――それにさっきから『私も』少しおかしい気がする。


 どうして私はこんなに『この男の人』に反発心を覚えているのだろう。

 自分で言うのもなんだけれど、私はあまり誰かに悪感情を抱くタイプではない。

 『この男の人』の声を聴くたびに、なんだか自分の中で『いろんな感情がぐちゃぐちゃになって』いる気がする。



 「――いちおう実体はありますけれども、この花はいわば私たちの『魔力の器』そのものともいえるものなんです。たぶん人間のタカ様には珍しいだろうなと思うのですが、私たちの『精霊花』の面白いところは、本当に花を育てるような感覚で世話をするとどんどん『精霊花』の質が良くなっていくところでしょうか。それはつまり通常は鍛えるのが難しい『魔力の器』を簡単に鍛えられる、ということなんですよ!」


 「な、なるほど。なんていうかおかしなイベントや観光名所にもちゃんとした理由があったんですね。正直、おちょくられているのかと思ってましたよ」


 「あ、ひどいですよ! 偏見は良くないと私は(とお)様から学びました!」


 「いや、すみません。そうだな、ここは知らない土地なんだから俺ももう少し真摯に向き合った方がいいか。それにしてもこういう((異世界っぽい))話は今まであんまり聞かなかったし、何というか面白い(・・・)ですね。ありがとうございます、リーリエさん」


 「っ!? 私こそ、ありがとうございますっ!」


 表情はあまり変わらないがふむふむと実に楽しそうに相槌を挟む『この男』に、リーリエはまるで童女のような笑みを浮かべていた。


 ――それがまた、無性に癪に障ってしまう。


 なんで『この男』は出会って間もない癖にリーリエの笑顔を引き出せるの?

 昔の私が、簡単なようで難しいそれを成し遂げるのにどれだけ時間がかかったと思っているの?

 『声の力』だかなんだかしらないけど、すごくずるいよ。


 それに、先ほどまでは本当に冗談で牽制していただけだったけど。

 『この男』の言動を見るにリーリエが何か勘違いしただけだったのかなと思ってたけど。

 これは、冗談抜きで『リーリエの一番』を取られてしまうかもしれない。




 ――そうだ、私が彼女を守らないと。




 私の思考はまるで『熱に浮かされたように』どんどん加速していく。


 ……確か、『この男』は長期滞在するらしいね。

 この様子を見るに、このままだとリーリエはどんどん『この男』との接触が増えていくはずだ。

 それは幼い頃の私へのリーリエの依存っぷりを思い出せば、手に取るようにわかる。


 ――さて、私はどうするべきなんだろうか。

 



 その時。


 黙り込んでいた私にふと視線を向けた『この男』は、一度上を向いて何事かを思考した後に話を変える。

 もしかしたら知らず知らずのうちに睨みつけていたのがバレたのかもしれないね……。

 

 「そ、そういえば随分話がそれてしまいましたけど」


 『この男』の視線を追って私を見たリーリエは、私をほったらかしにしていたことに気づきはっとした顔をして、目で謝ってきた。

 私は宿の従業員として培った外面を総動員してなんとかそれに笑みを返す。

 それでもリーリエは私の様子にどこか訝し気に首を傾げたが、居住まいを正し『この男』に返答をした。


 「は、はい。何でしょうか」


 「リーリエさんにボネットさん。朝のことなんですが。まー今までの話で分かるでしょうが、俺はこう、自分でいうのもなんですがすごい『世間知らず』なんですよね。そのせいで多分リーリエさんには誤解を与えてしまったと思うんです」


 本当に申し訳ない、と『このニンゲン』は言った。


 その後、私に向かって『ボネットさんもそういうことですので、俺のことは警戒しなくても大丈夫ですよ』と続けた。

 理由はもちろん『このニンゲン』には分からないだろうが、それでも『このニンゲン』はちらっと見ただけで私の異常に気付き本心から私を気遣っている。

 それがなぜか分かってしまう。


 そしてその『初めて私に向かって直接かけてきた言葉』を聞いていると。

 ひどく不快なことに、私の苛立ちを『押しとどめようと』勝手に心の一部が安らいでいるのを感じる。

 苛立ちが安らぎを生み、安らぎが苛立ちを生む。



 ――なんだこの意味の分からない感情は。



 私はまた、自制心を最大限に発揮しながら『はい』と言葉少なに返事を返した。

 長く話すとボロが出てしまいそうだったから。感情の処理に追いつかなくなりそうだったから。


 そんな私を見てまだ説明が足りないか、と『このニンゲン』は感じたらしくさらにこう言葉を続ける。


 「それに先ほどちらっと言いましたけど。多分リーリエさんが戸惑ってしまったのには、俺の『声』の力のもう一つの効果も関係あると思うんですよね。なんていうか『俺の感情を他人に強烈に伝えてしまう力』みたいなものがありまして。実を言うと殆ど制御できていなくて、少しでもそう思って言葉を発したらすぐに発動してしまうんです」


 「そ、そうなんですか――」


 何かを言いかけて、リーリエはふと何かに思い至ったようで急に顔が赤くなる。

 とっさに顔を俯けながら、おずおずと恥ずかしそうにリーリエは尋ねた。


 ……私はその言葉を絶対に言わせてはならなかったのに。

 自分のことで頭が一杯になっていた私は止めることができなかった。


 「あ、あの。ということは私の蜜を美味しいと、毎日食べたいと言ってくれたのは、その、本当なんですか?」


 一瞬、間が空く。

 『このニンゲン』は恐る恐る言葉を選びながら、


 「は、はい。そうです……ね? でも本当に変な意味はないんで気にしないで下さい。ちょっとこう、思ったことが口に出ただけで他意は全くないんで」


 リーリエは燃えるように赤くなった顔を上げると、『えへへ』とはにかみ笑いを浮かべた。


 私は確かに見た。

 『このニンゲン』がリーリエのその表情を見て、一瞬ではあるが、明らかにドキッとした顔をしたのを。


 リーリエはしっかりと声を出して返事を返す。


 「ありがとうございますっ!」


 「……。あ、あのぅ……? リーリエさん? 本当に分かってるんですか? もしもーし?」


 「分かってます、大丈夫ですよっ。他意はないんですよね!」


 「え、ええ……? また言葉選び間違えたか……? でもなんて言えばよかったんだ……?」


 『私の敵』は小さくそう呟くと頭を抱えてしまう。

 リーリエはそんな『私の敵』を見て、依然顔を真っ赤にしながらも本当に楽しそうに笑っていた。


 



 ――私は決意した。


 絶対に『私たちの敵』を排除すると。

 絶対にリーリエの傍には近づかせないと。


 リーリエは、絶対に渡さない。

 リーリエは、私のリーリエなのだから。



◇◇◇



 私は悪夢のようなひと時が終わると、方策を練るために一度頭を冷やそうと街を歩いていた。


 リーリエは昨晩は領主邸に戻っていたが今日はもう遅いので宿に泊まると言っていた。

 そんなことを私に言っているときでさえ、リーリエは表情こそもとに戻していたがいつもよりも明らかに明るく気持ちが上向いているようだった。


 私は知らず知らずのうちに宿から遠く離れた外壁の近くまで来ていた。

 そばには誰もいなかったので、近くの木箱に腰かけて独り言を呟く。


 「あの男の名前……、確かニシノ・タカ……。もう、いいにくい! 名前までイライラさせてくるよ……。本当に何なの、あのニンゲン。どうやって宿から追い出そう。もう一か月分の代金は受け取っちゃってるんだっけ。なにか……、何かないかな。追い出す口実……」


 そうやって必死に頭を回転させるも、それらしい理由は思いつかない。

 リーリエを、両親を納得させる理由が必要なのだ。

 誰もが仕方ないと思うようなものでなければ、到底うちの両親は説得できないだろう。


 頭の中を先ほどのリーリエのはにかんだ笑顔がぐるぐると回る。

 私でさえあんな笑顔はほとんど見たことがなかった。

 リーリエにたやすくあんな顔をさせたアイツに嫉妬心だけでなく憎しみに近い感情までもが沸き起こってくる。


 私の頭はちっとも冷えてはいなかった。

 考えないといけないことがあるのに。

 正体不明の黒い感情に囚われた私はちっともそれに集中できていなかった。





 ぶつぶつと独り言を呟きながら、どれほどの時が経っただろうか。

 私が今いる場所は、いつの間にか夜の闇の中でも外壁の深い深い影に沈んでいた。


 そうしてふと気づくと、目の前に見知らぬ人間の中年男性が立っていた。


 「大丈夫ですか、お嬢さん。こんなところに夜中で一人でいては危ないですよ」


 その男性は、私に心配そうに声をかけてきた。


 「あっ……。すいません、ありがとうございます。もう家に――」


 立ち上がった私はそう言いかけたが、その男は私の言葉を途中で手で制してきた。


 訝しく思った私は、初めてその男の顔をじっくりとみた。

 平凡な顔つきだ。どこにでもいるようなおじさん。


 「察するに、なにか悩み事があるのでしょう? 私でよければ話を聞きますよ」


 何を言っているのだこの人は。

 なんで私がそんなことを話さないといけない。


 「はい、悩み事、あります」


 私はそう言って断る(・・)と、木箱に腰かけた(・・・・)

 まったくいまいましい。今日は苛立つことばかりだ。


 「そうですか。でしたらお話を伺いましょう」


 「はい」


 本当にいまいましい。

 私は再び独り言(・・・)を呟きながらそれらしい言い訳を考え始めた。



 ――なぜか今度は頭がうまく働き、私は『自分でも思いもよらぬ』名案を閃いた。




*****



 部屋に戻った俺たちは各部屋に備え付けてある原理不明の湯船につかった後、今日一日歩き回った疲れを思い思いに癒していた。


 アーニィとマシロはベッドの上でごろごろしていて、フィーは俺の膝の上でご満悦な様子だ。

 俺はというと、やたらとふわふわしたハクヤの尻尾を背もたれにしてぼーっと外の光景を眺めている。

 柴犬サイズの尻尾にもたれられないだろって? 何となく呟いたら尻尾だけ巨大化してくれたよ。ほんとこいつら便利な身体してるわ。


 「うーん、昨日も思ったがこうして外眺めてると結構明るいよな。この部屋の中も触ったら電気……。いや、電気じゃないよなこれ。魔力……、の光ってやつなのか?」

 

 俺は部屋の中に何個かあるランプが放つやわらかい白色光に視線を向ける。

 膝の上に乗っかっているフィーも俺の視線を追って、しばらくじっと見つめるとのんびりと返事を返してきた。


 「そうだねー。なんだか『さわっとした』金属に『もにょもにょした』線が彫り込まれてて、触ると魔力を吸い上げて起動するみたい。すごい燃費いいねこれ。こう、『ぐるぐるっ』としてるからしばらく『ぬんっ』て感じになって『ぴかぴかー』ってしてるんだと思う」


 「ごめん、何言ってるか全然わかんない。まずさわっとした金属ってなんだよ」 

 

 「わかりにくかった? うーん、『さわっと』してるっていうか、こう『もこふわっ』て感じ? わかる?」


 「いや……」


 フィーに聞くのはもうやめよう。

 俺にはまだ早すぎたようだ。

 ぐりぐりとフィーの頭を撫でると、目を細くしながら気持ちよさそうにしていた。






 それにしても、異世界に来てもう二度目の夜か。


 俺は普段、外に出たら『ろくなことが起きない』から、必要な時以外は割と室内でのんびりしていることが多かったのでこの二日はかなり健康的な一日を過ごしたといえる。


 俺のそこそこ優秀な危機感知センサーが反応したのも、せいぜい昨日のハクヤ・マシロ襲撃事件と刃物を振り回すNINJA、今日の朝のフィー達のしがみつき位だったし、異世界は日本ほど危なくはないのかもしれない。

 特にあんな人ごみの中に入ったのに、まったくスリに会わなかったのは初めてだ。

 これなら財布は5つくらいで十分かもしれないな。



 そんなことを考えながらも、俺はこの世界でこれから何をしていこうかと取り留めもない思考をめぐらす。


 多分お金の心配があったら仕事でも探していたのかもしれないが、今の俺は既に十分な定期収入の当てがあり、さらには商会からの礼金だってまだ一年や二年遊んで暮らせそうなくらいには残っている。

 こう、例えていうなら宝くじが当たってそれで土地でも買って悠々自適に暮らしている感じ……。



 ――あれ……?



 何だろうこの気持ち。

 このままだと自分がものすごいダメ人間になっていきそうな悪寒を感じるんだけど。

 やっぱりこう、何かまともな仕事したほうがいいんじゃないか……?


 今までで出会った同年代くらいの人たちを思い出す。

 あの飄々としている感じのヘルマでさえ、ここには完全な遊びで来たのではなく何か仕事があるんだったか。

 サーシャさんもあんな歳で商会の責任ある立場を担っていると聞いた。

 リーリエさんだって、本当は内気らしいのに接客業をやっているのだ。

 ボネットさんも……。そうだ。あの人、何だか良く分からんが少しおかしかったな。明日辺りフォローできたらしとかないと。


 まあ、そういった人たちに引き換え俺は完全に旅行気分で過ごしていた。

 礼金の件だってあれは別に俺が助けようと思って助けた訳でもなく、猿と狼のライセンス契約だって俺から持ち掛けた訳ではない。

 

 うーん、まずいな……。

 もう少し計画的に動いた方がいいかもしれないぞ。

 とりあえず一か月は完全に旅行気分でいるのではなく、『この世界をしっかり把握すること』と『俺に出来そうな仕事がないか探すこと』位はやっておくべきか。



 俺は静かな街の夜景を眺めながら、そしていつの間にか寝入ってしまったフィーを撫でながら、少し考えを改めることにした。




活動報告にもちらっと書きましたが、ちょっと初稿がやりすぎな感があったので一回書き直していました。

……別にエフ○ーオーで初代様を100レベにしてたら更新遅れてしまった、とかそんなことはナイデスヨ?


補足:蜜が美味しいってのは『花人』間では言われたら嬉しい言葉の一つ。

   蜜=精霊花の魔力=魔力の器=魂、を褒められているみたいな感覚らしいですね。

   だんだん作者も何言ってるか分からなくなってきましたが、そういう感じです。


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