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第十四話:私、頑張るから。絶対に、負けない……っ!


 その日、私、ピュリア領主の末女にして現在『雪月花』の従業員である『リーリエ・フロラ・ピュリア』は非常に落ち着かない一日を過ごしていた。


 その理由を説明するには、まず私の性格の話をしなければならないだろう。

 そう、私は自分で言うのもなんだけど本当は人と話をするのが『少しばかり苦手』な性格をしているのだ。


 …………ごめんなさい。

 ちょっと、見栄を張ってしまいました。

 本当は『すごく苦手』と言うべきですね。ごめんなさい。


 こほん。

 今でこそ、伝手を頼ってこの宿で『訓練』させて貰っているお陰で、私の性格は多少は治ってはきている。

 しかし以前の私は初対面の人となんて絶対に話せないほど、内気なダメダメ娘だった。


 「……ぇ、……リエ」


 一つ例を挙げるならば。

 私も末女ではあるが、ピュリア子爵の娘だ。偉大なる祖霊、花の大精霊であるフロラ様の末裔だ。

 (あに)様や(あね)様と比べれば義務も責任もずっと軽いが、それでも私は王国貴族が主催する舞踏会や晩餐会に出向かなければならない。

 

 私はそういった会がものすごく、こうムリだった。

 何をそんなにイヤがるのかと、世の女性は私に言うだろう。 

 そこは女の子ならば誰もが憧れるような綺羅びやかな舞台なのだから。


 上流階級の素敵な殿方がこれまた美しい衣装を纏った令嬢をエスコートしお互いに交流を深める場所。

 市井では手に入らないような贅を凝らした料理を頂きながら、貴族社会独特の礼儀作法でもってお互いに挨拶を交わす様はまるで一種の舞台劇のように見応えのある光景だ。


 もちろん参加者達には様々な思惑がある。

 自らの家を利するための駆け引きも数多行われているだろう。

 それでもその場は、人々の憧れの舞台として絢爛な光を放っている。

 それはもちろん、私も客観的な事実としては理解している。

 

 「リー……ってば……」


 ……しかし、もう言わなくてもわかると思うけど。

 そう、その全てが私には荷が重すぎた。

 初対面の人と満足に話せない私がそんな高度な社交なんて、出来るわけがないよ……。


 一応、言い訳はできる。

 私たちフロラ様の眷属は人間族と比べると、頭一つ分は背が小さい。

 そのせいで私にとっては周りの人間族はどこか威圧感があった。

 それに怯える気持ちがなかったとはいえない。


 また、きっと私が花人で人間族の方々には珍しいからだと思う。

 幼い頃から社交界に出向く度に、私は多くの他家のご子息様に囲まれた。

 それは喜ぶべきことだ。彼らと交流を深めればその分きっとピュリアの人々の役に立つのだから。

 しかし当時の私にとって『見知らぬ大きな人間たちに囲まれる』という体験は恐怖心しか生まなかった。


 そういったことが積もり積もって、私は次第に『見知らぬ人と話せない』なんていう困った性格になってしまったのだろう。


 ――うん、我ながら本当に情けないな……。


 私がそう、内心で溜息をついていると。


 「リーリエ!! なにボーっとしてるの! お客さんだよ!」


 「ひゃ、ひゃい!! ごめんなさいっ!!」


 私は耳元で上がった大声に飛び上がりながら、変な声を上げてしまった。

 つい、謝ってしまったのは私の癖だ。

 すこし涙目になりながら、大慌てで周囲を見渡す。


 横には先程の声の主がいた。

 私と同い年で、この宿を経営するキュラスさんの娘のボネットちゃんだ。

 ちょうど通りがかったらしい彼女は、腰に手を当てながら私の方に身を乗り出し呆れた表情をしていた。


 とりあえず私は、彼女に向かって『えへへ』とごまかし笑いをしてみた。

 そんな私を見てボネットちゃんは更に呆れた表情になると、青い『精霊花』を揺らしながらのしのしと私に近付きぐいっと身体の向きを正面に向けさせる。

 

 「こっちじゃないよ! ほらちゃんと前を向きなさい! お、きゃ、く、さ、ん!!」


 強制的に向かされた正面。

 そこには私たちのやり取りを面白そうに見ている、猫獣人の男性がいた。

 えっと確か……、この人はヘルマさんだ。


 ………………。


 そ、そう。私は雪月花の従業員。従業員なんだ。しっかりしないと……!

 私は必死にそう自己暗示をすると、ヘルマさんに話しかける。

 マニュアル、マニュアルを思い出すのっ、リーリエ!


 「こ、こほん。大変失礼しました、ヘルマ様。お帰りなさいませ。お部屋の鍵ですね、す、少しお待ち下さい」


 「はは。いや、なんか悪いっすね。そっちのねーさんも俺は別に気にしてないんでこっちのねーさんをあんまり怒らないでやって下さい」


 ヘルマさんは挙動不審な私を見て苦笑しながら私を庇ってくれた。


 うう、すごく自分が情けない……。

 (はは)様、今日もリーリエはダメダメです。

 私は自分のもろいもろい仮面が砕け散りそうになるのを気合でこらえながら、なんとか勤めを果たす。


 「本当に申し訳ありません……。あの、お部屋の鍵です。どうぞ」


 「私からも謝罪申し上げます。後でこの娘にはしっかりと言い聞かせておきますから」


 ヘルマさんは私から鍵を受け取ると少し真面目な顔をする。

 そして、不思議な物言いで私を慰めて(?)くれた。


 「まあ誰でもボーっとすることはありますよ。それに……、あの人の『あれ』は流石に反則だ。あそこまで剥き出しの正の感情に、人はそう耐えられるもんじゃない。あの人の言葉は嘘じゃないのもなおさら質が悪いかもっすねえ。特におねーさんはあの人を真正面から相手にしたんだ。そうなっちゃうのも十分頷けることっす」


 そんなことを私に言った後――、






◆◆◆


 彼の猫の瞳が縦長に収縮する。

 私とボネットちゃんは、どういうわけかそんなヘルマさんの瞳から目が離せない。

 そんな私達を完全に無視して、ヘルマさんは首を傾げながら静かに独りごちる。


 「……ああいや、--られないのは-だけじゃないか。あれは『--を持つ--』ならどんな--であれ、問答無用で--する。そんなまるで『-様』みたいな-だ。俺はそう思うかなあ。うーん、本当にどんな『---き』なんだろう。まさか--モノなんだろうか。いや、それはないと思うんだけどなあ」


 そうやって謎の迫力を見せていたヘルマさんに私とボネットちゃんは少し気圧されていたはずだが『それは気のせいだろう』。

 また、私たちはヘルマさんの言葉がうまく聞き取れなかった気がしたけれど『それも気のせいに違いない』。


 ヘルマさんはカラッと雰囲気を切り替えると、何故か意識に空白が生まれていた私たち(それももちろん『気のせいだ』)に向かって笑いかけて――、


◆◆◆






 ヘルマさんは『じゃあこれでー』なんて言いながら二階の客室に去っていった。


 ……。

 ……。

 ……。


 ――はっ! まさか、お客様に二回も慰められちゃうなんて!


 ヘルマさんを見送った後、私はその事実に耐えきれなくなリ受付カウンターに崩折れた。

 ぐでーっとしている私を見て、ボネットちゃんは『仕方ないなあ』と困った笑みを浮かべながらポンポンと私の背を叩いてくれる。


 「やっぱり朝のお客さんに告白されちゃった件のせい? 私は見逃しちゃったけど。今日はもう上がっちゃう?」


 さっきは『しっかり言い聞かせておきます』なんて言っていたけどボネットちゃんはやっぱり私に甘い。

 私は『ううん』とそれを否定すると、ムクリと起き上がる。

 そうして決意の宣誓をする。


 「私、頑張るから。絶対に、負けない……っ! 私は、自らの、弱気を、御してみせるっ!」


 「……リーリエ、何だかすごく片言になってるよ」


 私が改めて気合を入れて、そんな私にボネットちゃんが呆れながらツッコミを入れた時。

 ガタリ、と宿の扉が開く音がした。きっとお客様が入って来たのだろう。


 今こそ、名誉挽回の時だ! 頑張れ、私っ!

 私はぐっと拳を握ると、正面玄関に向き合った。





 ――しかしそこにいたのは。


 私が落ち着かない一日を過ごす原因となった人だった……!


 私たち、フロラ様の眷属は容姿よりも先に、その人が放つ魔力の質で個人を識別する。

 私の『精霊花』は確かに、彼の信じられないほど濃密な大地の魔力を覚えていた。

 フロラ様の直系の家系で更には先祖返りを起こして『ユリの花』まで持つ私は、決して魔力を見誤らない。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 つい先程の『絶対に負けない』という決意はどこへやら。

 私は一瞬でパニックになり顔を真っ赤に染めて、ガチガチになってしまった。


 だって、仕方ないじゃないっ!

 この人は私に『毎日、君の蜜が飲みたい』なんて甘い言葉で熱烈に告白してきたのだから。

 ピュリアの街の女の子が憧れるベストスリーには入る口説き文句なんだよ、それっ!


 そんな私を黒髪黒目でこの辺りでは見ないすこし変わった顔をしているタカ様がじっと見つめている。

 何故だか、そんな彼が物凄く格好良く見える。私は一体どうしてしまったのだろう。


 そして彼の口がゆっくりと開いた。私の心臓の鼓動がどんどん高まる。

 彼の一言一句を聞き逃すまいと、身体が勝手に反応し耳に魔力が集まっていく。


 そして、いよいよ彼が言葉を発した。






 「あー、すみません。ちょっと場所を変えませんか?」






 「あ、はい。そうですね……。あはは、私たち何をやってるんでしょうね」


 彼の不思議と『心が休まる声』は一瞬で私を落ち着かせると、それと同時に私に理性も取り戻させた。

 本当に私は何をやっていたんだろうか。ちょっとさっきまでの私はおかしかったかもしれない。


 しかし、私は今の自分の返答に違和感を感じていた。

 『貴族の娘』でも『雪月花の従業員』でもなく本当に素の私が、初対面に近いタカ様に対してごく『自然』に話せていることに。

 思い返せば、朝も私は例の告白事件までは実に滑らかに彼と話すことができていた。

 これは一体、どういうことなのだろう? 実はどこかで会っていたりするとか? うーん、それはないか……。



*****



 俺は、『リーリエ』さんというらしい受付のお姉さんと、雪月花の食堂で一緒に晩御飯を食べながら朝の誤解を解くことにした。


 ちょっと『大人の話』をするので双子には少し離れた席で夕飯を食べるように言った。

 俺がそう言うとフィーは頬を膨らませたが、アーニィに引っ張られて適当な席に着いていた。

 そしてあっという間に他の宿泊客のお姉さん達に取り囲まれていた。


 愛想よくするように言ったからか、今度はあまり人見知りな様子は見せず二人もあっという間に馴染んでいた。

 いや、街に来た時も割りとその辺の人と話してたし、これが双子のデフォルトなのかもしれないな。

 ヘルマがちょっと苦手なだけだったのかね?


 ハクヤとマシロは相変わらず俺の傍でグテっとしているが、まあこいつらは別にいいだろう。

 

 問題は、リーリエさんの隣に座っている頭に青い花を咲かせた女性だった。

 なぜか俺から彼女を守るように抱きしめながら威嚇している……。

 正直、すごい話しにくいです……。


 リーリエさんもそんな彼女に困ったような笑みを向けているが、どうやらお手上げらしい。

 こっそりリーリエさんはアイコンタクトで俺に彼女の同席を求めてきた。

 仕方なく俺はそれに頷く――。


 ――あれ?


 さっきまでリーリエさん、えらいテンパってるように見えたがなんだか普通な感じになってるな。

 よく分からんが、これならスムーズに話が進みそうだな。

 やっぱり古の賢者の言葉に従った俺は正しかったか。


 料理を従業員さんに注文すると、俺は早速本題を切り出した。


 「さて、それでは朝の件について――」


 俺がそう話そうとすると、バンと机を叩いてから青花の女性が割り込んできた。


 「リーリエが欲しいなら、まず私、『ボネット』を納得させなさい!」


 俺を視線で射抜こうとでもしているかのような強い眼差しだ。


 ああ、貴女、ボネットさんって言うんですね。

 やっぱりスムーズに話がいきそうにないなこれ……。

 最近の俺ってなんか意見翻すスピード早い気がするな。

 てかボネットさんとリーリエさんって、こうしてみているとまるで親鳥と雛鳥みたいだな。


 俺がそうやって現実逃避の思考をしていると、リーリエさんがおずおずと更に余計なことを言ってきた。

 

 「あ、あの私たちって今日の朝が初対面……ですよね? なんだか初めて話す相手とは思えないほど、その、タカ様とは気軽に話せるもので。あ、本当は私すっごく内気なんです」


 リーリエさんがその天然発言をかました瞬間、ボネットさんが『ああ”ん?』とえらく物騒な声で俺を威圧してくる。

 俺は二人に色々ツッコミを入れたくて仕方がなかったが、ぐっと我慢して返答する。


 「はい。初対面のはずですよ。俺の故郷には花人……でいいのかな。貴女方みたいな種族はいませんでしたし」


 ていうか、こんな頭に花を生やした人がうろついてたら大ニュースになってるわ。

 しかし待てよ。リーリエさんの言っていることには心当たりはあるな。

 多分、ギフトのせいじゃないかそれ。

 例の『なんだか心地よく聞こえる』声とやらでリーリエさんの内気防壁を突破しているのかもしれない。

 

 「あーでも、その気軽に話せるってのには心当たりがありますね。多分、俺の声に宿ってるらしい力に関係があるんだと思います」


 『心当たりがありますね』ってあたりで俺を睨んできたボネットさんにドキドキしながらなんとか最後まで言い終える。

 この人、殺し屋とかじゃないだろうな。

 まじこえーんだけど。


 俺がそう言うと、リーリエさんはぐいっと身を乗り出してきた。

 なんだか目をキラキラさせて俺を見つめてくる。よく分からないがえらく期待されているのを感じる。


 「力……ですか? 私たちフロラ様の眷属は『花の御霊憑き』なんて呼ばれているのですが、タカ様もそういった特殊な生まれだったりするのでしょうか?」


 なに? 御霊憑きってなんのことだ。あとフロラ様って誰だ。

 いきなり謎単語が出てきたな。

 多分これでもニュアンスは翻訳されてるんだろうがさっぱりわからない。


 「すいません、なんですか? その『御霊憑き』って。あとその、フロラ様というのはどなたなんでしょう?」


 俺がそう聞くと、二人はなんで知らないんだろうと不思議そうな感じだったので慌てて補足を入れる。

 やっちゃったなこれ。多分常識レベルの知識なんだろう。


 「ちょっとこの辺りの生まれじゃないもので。教えて頂けると嬉しいです」


 俺がそう言うと、リーリエさんは首を傾げながらも解説を始めてくれた。


 「えっとですね、『御霊憑き』とはご先祖様や大昔の英霊の力を行使できる人の事を指すんです。例えば私たちは先程も言ったとおり『花の御霊憑き』なんて呼ばれていますが、それは私たちの中に祖霊『花の大精霊フロラ様』の御力が今も残っているからなんです」

 

 「ほう、ご先祖様や英霊の力……ですか」


 「はい、英霊の力というのはかなり珍しいんですけどね。よほど波長が合う方のみに発言するらしいです」


 ……うん?

 

 そういえば英霊って単語、昨日あの女神さまの口から聞いた気がするな。

 確か『普通の才能なら適当な英霊の知識を被せればいいだけだから楽なのに』みたいなことを言っていた気がするが……。


 え、ちょっと待てよ。

 リーリエさんの説明とあの女神さまが漏らした言葉を合わせたら。

 なんだかこの世界の裏事情が透けて見えてきたような……。





 ――もしかして『御霊憑き』って、才能の使いまわしをするシステムなんじゃないの……?





 効率的っちゃ効率的だけど、なんというか夢がない話だな。

 それでいいんですか、女神さま。

 

 俺はいまいち釈然としない気持ちになってしまったが、ちょうどご飯が運ばれてきたので続きは食後に聞くことにした。


なんだかまたえらく長くなっちゃいそうなので一旦切りますね。

そして、◆◆◆の間を読み飛ばしても話が通じるようにするのに微妙に苦労した……。


*ブクマ50達成してました! 感謝感謝ですね。


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