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第十三話: す、好きなだけ犯せばいいです!

*切りどころがなくて少し長いです。

 「ほとんど初対面で自作のエロ小説読ませてくるやつとか流石に初めて会ったわ」


 「いやー照れちゃうなあ。タカさんの初めてを奪っちゃったか―」


 「おいやめろ。そのセリフをエロ小説書いてる男に言われるとゾワッとくるだろ」


 俺は良くも悪くもヘルマとはすっかり打ち解けていた。

 そんな下らない会話をヘルマと交わしながらも、かなり量が多目の日替わり定食をもぐもぐと食べる。


 ここの日替わり定食には『七花粥』以外にも味噌汁っぽいの、肉じゃないのに肉っぽい食感がする団子、妙に黄身のサイズが大きい温泉卵、焼き魚(足が生えててキモい)などなど色々ついていた。

 食の豊かさやバラエティの豊富さを見るに、流通面はかなりしっかりしている国のようだ。


 まあね、現代っ子が江戸時代の飢饉真っ盛りの時代とかに飛んでたらすぐ死んじゃうだろうしね。

 前にも思ったが、女神さまも俺が生きていけそうな環境くらいは考えてくれたっぽいな。


 なんて思って、ヘルマに『量あって良いな、この店』と言ってみると彼は少し考え込んでからこう言った。


 「うーん、もしかしたら明日くらいにはここも量を減らしてるかもしれないっすよ」


 「え? なんで?」


 「なんか今、街の出入りが制限っていうかほぼ閉鎖されてるっぽいんすよね。実は俺、ここに来る前にちょっと門の近くにまで行ってたんすけど、『エルム街道に大規模な盗賊団を確認したため、ピュリア領主と王国騎士団の名の下、門の通行を制限する』なんて札が立ってるのを見たっす」


 「あー、そういえばそんな話もあったな。そりゃ確かに閉鎖されて当然か」


 「タカさん、盗賊団のことは知ってたんすか。ほんと、盗賊団も俺達みたいな旅行者のことも考えて空気読んでほしいっすよね―。せっかく来たのに食の楽しみを奪われちゃ、旅の面白みも半減ってなもんすよ」


 「全くその通りだな。そういや、ヘルマも旅行に来た口だったのか。……もしかしてお前ってプロの作家なの? 結構儲かってるのか?」


 俺がそう言うと、ヘルマは野菜スティックをポリポリとかじりながら顔をしかめる。


 「……一応、本業は作家のつもりなんすけどね。あんまり売れないから仕方なく副業やってて、そっちの稼ぎが大半……かな。実はこの街も副業の方で用事があって来たんすけど、俺がやる仕事ってあんまりないから殆ど旅行みたいなものっすね」


 「ふーん。なんというかまあ……ヘルマも大変なんだな。仕方ないからそのうち感想くらいやるよ。素人意見でいいならな」


 作家……というか官能小説で生計立てるのは流石に無理だったか。

 やたらと哀愁が漂っていたので思わず俺がそう言うと、ヘルマは少し目を丸くする。


 「……いやータカさんは優しいなあ。あんまり理解してもらえるものでもないし、それ本気で言ってた訳じゃなかったんだけど。思わず俺も、朝の宿のねーちゃんみたいに骨抜きにされるところだった」


 わざとらしく気持ち悪い上目遣いで俺を見上げてくるヘルマ。


 「やめろよ……。あのお姉さんの涙目は確かに可愛かったが、男にそれやられてもキモいだけだ」


 「あ、そうっすか? 振られちゃったか―」


 「だからそれをやめろと」


 やたらと嬉しげに言葉でじゃれついてくるヘルマに、言わなきゃ良かったかなと俺は思わず辟易とする。


 俺達がそんな話をしている間も、チラッチラッと俺を横目に見るだけで会話には入ってこようとしないフィーとアーニィ。

 ちょっと悪いことしたかな。まさかここまで人見知りだったとは。

 サーシャさんや街の人とは割りと会話できてたように見えたから大丈夫なのかと思っていた。


 そんな二人の様子を気にしたかヘルマが立ち上がる。


 「さて、俺はそろそろここ出るっす。タカさんにそっちの精霊さまもまたー。……あ、そうだ。お礼に一つ忠告しとこうかな。タカさんのんびりしてるし」


 「のんびりとは失礼な。まあいいや、なんだ?」


 「んー、外に盗賊団なんて話をしたっすけど、今は中の方も少しばかり物騒らしいんすよね。誘拐されちゃったりしたら大変だし、そっちの可愛らしい精霊の二人から『タカさんも』離れないほうが良いっすよ」


 「へえ、そうなのか。ありがとう、気をつける」


 この世界のことはまだあんまり分かってはいないが、二人のような存在はまだ見かけていない。

 もしかしたら精霊ってのは結構レアで、邪なことを企む連中からすると美味しい餌に見えるのかも知れんな。


 「じゃ、また宿で」


 「おう、またな」


 俺がそう言うとヘルマはニカッと人好きのする笑みを浮かべて去っていった。

 関西人みたいに人混みの中をスルスルと通り抜けていくヘルマを見送りながら、俺は双子に尋ねてみる。


 「それにしてもどうしたんだ? 二人とも。いつになく人見知りな感じだったじゃないか」


 俺がそう言うと、双子はお互い顔を見合わせて首を傾げる。

 自分たちでもなぜ避けていたのかわかっていないのかもしれないな。


 「え、えへへ。ごめんね? すこし苦手な雰囲気だったっていうか……」


 「良い人そうだなとは思ったんだけどね。なんかこう、話しづらかったんだよね」


 「ふむ。まあそういうこともあるか。でも宿は一緒なんだし、無理にとは言わんがもう少し愛想よくしような」


 『はあい』とちょっと気まずそうに返事をする二人。

 せっかく観光してるのに重い空気にしたくなかった俺は話を変えることにした。

 

 「それはそうと、これから買い物に行こうかと思ってたけどやっぱりやめるわ。さっきヘルマが言ってたけど、明日から食べ物がちょっと危うくなるかもしれないらしいしな。ちょっと街歩いて腹減らしたら、甘味処にいこうか」


 俺がそう言うと、


 「え、やったあ! 私ね、さっきのお姉さんのお話聞いた時から食べてみたいのいっぱいあったんだっ!」


 「ぼ、ぼくは甘味なんて子どもっぽいのいらな――」


 「あっ、じゃあアグニの分は私がもらうから」


 「うそ! うそだから!」


 双子は騒ぎながらも嬉しそうな笑みを浮かべた。


 ふふふ、ちょろいな。

 お子様はやっぱ甘味で釣れば一発らしい。


 俺達が席を立つと、ハクヤものっそりと腰をあげマシロはなぜか俺の背中にへばり付いてきた。

 おい、てめー自分で歩けよ。腹膨れて歩きたくないのか。


◇◇◇


 そうやってカロリーの高い一日を送った後、俺達は宿に戻った。

 まあたまには良いだろう。昨日たくさん歩いたし。(俺基準)


 そうして宿に帰った頃には俺はすっかり『朝の出来事』を忘れていた。

 そう、お姉さんになんて言い訳するかという大問題を全く考えていなかったのだ。


 俺の顔を見た瞬間に、ぴーんと固まり頬を真っ赤に染めたお姉さんにどう対処すべきか頭を悩ませるのだった。

 さ、三十六計逃げるに如かず……、は流石にもうダメっすよね。



*****



 私、『サーシャ・グリムガル』は『ふわあっ』と椅子の上で大きく伸びをしました。

 大きくて柔らかい、クマ柄のクッションが私を優しく受け止めてくれます。


 そうやって一息ついた私が執務室を見渡すと、いつの間に運び込まれたのか軽食に飲み物が机の上に置かれていました。

 いえ、『絶対記憶能力』を持つ私が『いつの間に』なんて疑問に思う必要はありませんでしたね。

 記憶を辿れば、支店の者がしばらく前に運び込んでくれた『映像』を思い起こすことが出来ました。

 後でお礼を言わないといけませんね。


 軽食を頂きながら窓の外の光景を見やります。

 既にもうお日様が高く上ってしまっていて、ガヤガヤとした喧騒が聞こえてきます。

 すこし根を詰めすぎたかもしれません。


 軽食を食べ終えると、私は徹夜した成果をじっと観察しました。


 私の目の前に立てかけられているのは、幾枚もの『絵画』。

 これらは全て、先程まで私が描いていたものです。

 昨日、私たちの商隊が遭遇した『レフ』と『バロック』の盗賊団を、微に入り細に入り詳細に描いた絵。


 『顔』や『装備』は勿論のこと、剣のサビ具合、靴についた泥といった細かい所まで徹底的に描き起こしました。

 私の耳が捉えた『音声』も可能な限り判別して書き込んでいます。

 

 我らは『グリムガル商会』。

 王国有数の商会にして、国の流通を担うもの。

 ここまでの情報があれば、我が商会の鑑定員は必ずや流通の元を辿り、彼らの装備がどこから流れたものであるのかを判別してくれるでしょう。


 またここまでの情報があれば、ライアス様や領主さまが有する手配情報と比較検討し、彼らがどこから集められたのかもある程度予想がつくはずです。


 勿論、盗賊団の雇い主もバカではないでしょうし多少の偽装(フェイク)は施している筈。

 しかし、それでも。


 「……ふふふ、どこまで『貴方』は隠しきることが出来ますか?」


 私は見知らぬ敵対者に向けて、はしたなくも愉しげな笑みを浮かべてしまいました。

 ふふ、いけませんね。






 さて、と私は立ち上がり、絵画の検証をするよう命じると、侵入者の尋問に向かったおじさまの所に行くことにしました。

 執務室の扉を開け、そこにいた警備の者に付き添われながら『地下牢』……。

 いえ、商会にそんなものがあるわけないですね。『地下室』に向かいます。


 ――すると。


 地下室の重々しい扉の前にたどり着いた時。

 可愛らしい女の子の涙声が聞こえてきました。


 「な、何をされようとあなた達には屈しないからっ! こんな卑猥な衣装を着せて! す、好きなだけ犯せばいいです! ボクは何をされても絶対に何も言わないからあっ!!」


 「……」


 一体、この中で何が行われているのでしょう。

 おじさまは拷問や、そのせ、性的尋問を良しとするタイプではないはずですが。

 巧みに言葉で誘導して、被尋問者は知らぬ間に情報を吐いてしまっている。

 そういう、我が叔父ながらイヤらしい手法が得意だったはずです。


 トントン、とノックをしてから私は意を決して中に踏み入ります。

 どうしよう、本当に身内が『性的尋問』をしていたらこれから私はどうしたらいいのでしょうか……。


 私が昨日とは別種の恐怖に囚われながら恐る恐る中の光景を確認します。


 そこには困り果てた顔のおじさまと、他数名の商会員、お抱えの魔法使いさまがいました。


 部屋の中央に問題の侵入者の『少女』が鎖で繋がれていました。

 私よりひとつふたつ歳下でしょうか。

 健康的な肉付きの、褐色の肌に黒髪を持つ涙目の女の子です。


 よほど危険度が高いと判断されたのでしょう。

 彼女の足元には魔法発動を阻害する高位の魔法陣が敷かれています。

 また彼女が身につけていたと思しきものは全て取り上げられ、素肌の上に魔法文字が刻まれた独特な拘束衣を着せられています。


 ――確かにこれは『卑猥な衣装』かもしれませんね。


 男が着せられるのならともかく、女の子が身につけるとなると。

 同じ女の子として少し同情してしまいます。

 他の拘束衣はなかったのでしょうか……。

 もしかして本当にその……そういった尋問をしようと?


 私は少し頭を揉んでから、一応確認します。


 「その……、卑猥な尋問をしようとした訳ではないですよね?」


 「あ、当たり前だ! この服もこれしかなかったのだ、分かってくれ。この娘、治癒を施して気がついてから、ずっとこの調子で話にならんのだ」


 おじさまは私の疑惑の視線に耐えきれず、いつになく必死に訴えてきました。

 良かった……。私は心底ホッとしました。


 「分かりました。勿論信じていましたよ。時々おじさまはエッチになるので心配してしまった、とかそんなことはありませんから。あとは私が代わりますね。他に何人か女性の商会員を外で待機させて下さい」


 「本当に分かっているのか……? はあ、了解した」


 殿方がみな退出したのを見送ると、私は侵入者の女の子に話しかけます。


 「あの……、ごめんね?」


 なんで私は自分をさらいに来た相手に謝っているのでしょう……。

 釈然としませんがとりあえず落ち着かせるためにそう言ってみます。


 「……ボク、すごく怖かった、怖かったよう……」


 ……もしかしたら時間稼ぎのために騒いでいたのかとも思いましたが。

 そう言ってポロポロと涙を零す女の子を見ているとそうでもなかったようですね……。


 どうしよう、なんで尋問なのにカウンセリングからしないといけないのでしょう。

 世の中って不思議です。

 私は拘束されて身動きが取れない彼女の涙を、代わりに指で拭います。

 そして思い切って正面からギュッと抱きしめてみました。


 「よしよし、もう大丈夫だよ」


 「ふわぁ……。えへへ、ありがとう。お姉さんは良い人だね」


 ふわぁって。ありがとうって。良い人って。

 私、あなたのターゲットですよ。


 この子、こんな調子でよく『影の者』なんてやってますね……。

 いえ、技量の方は拘束の度合いからみて申し分ないのでしょうが、その、困ってしまいます。


 ――その時、私はふと思いついてしまいました。


 もしかしてこの子、『技量はあるけど』『アホっぽいから』潜入メンバーにされたのではないかと。

 尋問しても無意味な気が物凄くしてきました。

 なんだか仮眠取りたくなってきたな……。


 それでも私は務めを果たすことにしました。

 無垢な少女をだまくらかすようで気が進みませんでしたが、それでも聞き出した結果、幾つかのことはわかりました。


 ひとつ、彼女の名前は『シャル』ということ。

 ひとつ、彼女らはかなり前からこの街に潜んでいたこと。

 ひとつ、彼女が拠点としていた場所。


 一度、彼女の心をつかんでしまえばあとはもうびっくりするくらい簡単でした。

 そう、簡単すぎたのです。



 ――その事実は、その理由は、私に深い深い『怒り』を抱かせました。



 どうやら幾つかの重要な情報、例えば『雇い主の名前』や『自分たちの集団に関する情報』は、(おぞ)ましいことに『魂の束縛(ソウルボンデージ)』による制限がかかっているようだったのです。


 『魂の束縛』は被術者に特定の情報を漏らすことを禁じます。

 もし漏らそうとすれば、魂そのものを粉々に砕き被術者を殺害する極めて非人道的な魔法。

 その特性上、あまり多くの事柄を縛ることはできませんが、解除もまた出来ません。


 そして何よりも問題なのが、魂を扱う魔法は『人の手では完全に制御することが不可能な点』です。

 この子は、私よりもまだ幼いくらいのこの子は、魂に取り返しのつかない『傷』を負ってしまっている。

 『目的』を果たすための道具として先鋭化されてしまっているのです。


 私は『アホっぽい』なんて思ってしまったことを後悔しました。

 きっとこの子の『傷』は『精神年齢の退行』という形で現れているのでしょう。

 たかが、私なんかを囚えるために。





 「シャル、ありがとう。いろいろ話してくれて。それとごめんね、こんなひどいことしちゃって」


 私がシャルの拘束を解きながらそう言うと、彼女は眠そうにしながらやんわりと笑みを浮かべた。


 「えへへ、お相子だよう。ボクだって、お姉さんみたいな良い人に悪いことしようとしたんだから」


 そう言ってグシグシと解放された手で顔を拭うシャル。


 可愛い……。なんて良い子なんだろう。

 妹がいたらこんな感じなのでしょうか。


 「眠いなら、ほらおいで。抱きしめてあげる」


 「ありがとぉ……」


 そう言って私の胸に飛び込んでくるシャル。


 そんな彼女の様子を見ていると、私の中でますます『怒り』が大きくなっていきます。


 私は内心で密かに『笑み』をこぼします。


 ……ふふふ。いいでしょう。


 私があやしているうちに眠りについてしまったシャルを腕に抱きながら、外で待機していた商会員を呼び寄せます。

 私の浮かべる微笑に引きつった顔を見せる彼らに対して指示を出します。


 「この子、シャルが支店に忍び込んだという事実はなかったということにします。そのように取り計らって下さい」


 名も知れぬ敵対者。


 「え、それはどういう……」


 私は『容赦は無用ですね?』なんて言いましたが。


 「言葉のとおりです。我らは何の被害も受けなかった。そしてこの子は今日から私たちの身内です。――私はこれから領主さまのところへ向かいます。準備して下さい」


 どうやらそれでは『生温い』ようですね。


 覚悟してもらいましょう。

 思い知ってもらいましょう。


 たった一人で『未開拓地においても手押し車』で行商を行い、必要な物資を届け、数多の人々の信頼を得て、一代で大商会を築き上げたお祖父様。


 その偉大なる祖父の血を引く、この私の怒りを買うとはどういうことなのかを。




マジギレサーシャちゃん。

主人公以外が主人公っぽい言動する現象が収まらない件。

た、多分、最後は彼も頑張ると思うんで許してやって下さい。


そして、ステータス作って遊んでたら本編書くの遅れてしまいました。

せっかく作ったステータスも割りとネタバレ満載でまだ出せないという悲しさ。

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