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『ガーリッシュ ナンバー』 渡航 ~声優業界の裏の裏。主人公・千歳はクズだから可愛い~

【はしがき】

『ガーリッシュ ナンバー』は、小説・TVアニメ・コミカライズなどのメディアミックスが最初から仕掛けられた野心作。小説版とTVアニメ版の内容は微妙に異なり、小説版とコミックはほぼ同じ内容でしょうか?

アニメ・コミックを見て、面白いと感じた人は、小説版を買ってみても悪くないかも。

本レビューは、小説版の1巻目を対象にします。



【あらすじ】

――わたしが言うのもなんだが、この業界はおかしいと思う。


一説によると、全国の声優を志す人の数は30万人を超えているのだとか。

インターネットで見聞きする関係者の話によれば、その中で、声優として生活できているのは300人ほどだと言われている。


高校を卒業し、声優プロダクションに入所、現在大学生で現役声優である烏丸千歳の華々しい声優活動はといえば――――今日も、モブ。モブ・オブ・ザ・モブだ。


作品の中では、「女生徒A」などのモブが出しゃばってはいけない。目立たず、主張せず、みんなの芝居を邪魔せず、無難に役をこなす。


一回の収録での出番はわずか3ワード。

誰でもできる、個性もなにもない役。こんなことばかりやっていたら、誰でも腐る。

やばい、私声優じゃないかも。

でも、新人声優が番レギュで毎回現場に呼ばれることは、すごいことだとか。


だから、この業界はおかしいと思う。


つまらないことなんか、したくなかったんだけどなあ……。


でも、ゆーて、わたし結構そこそこ可愛かったりするじゃん?

いけるいける! 



――俺が言うのもなんだが、この業界はおかしいと思う。

元声優で、今は声優のマネージャーをやっている千歳の兄、烏丸悟浄は思う。


外見の華やかさとは異なり、声優業界はシビアそのものである。

声優として成功する人は必ずしも、純粋な実力とか才能だけによるものではない。

声優のくせに容姿が良いであるとか、あるいは政治案件によって、ヒットするかどうかが決まるものなのだ。


悟浄は、妹であり、業界を舐めきっているクズ新人千歳を支えながら、今日もマネージャー業に身を粉にする。土日出勤当たり前、社畜の中の社畜は、今日もため息をつき、頭痛薬を飲みながら、新人から中堅声優までのマネージメントに、日々奔走している。



……やさぐれて、性格クズな新人声優主人公・烏丸千歳と元声優で現在声優マネージャーの兄・烏丸悟浄の視点が錯綜して折り重なっていく、おかしなおかしな声優業界成り上がりストーリーが始まる。



【面白い点・みどころ】

大御所ラノベ作家である渡航の作品ということだけあって、やや軽いものの、ハズレはない作品に仕上がっていると思います。


千歳がどんなキャラクターかというと、同氏の著作「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」の比企谷八幡ひきがや はちまんを女の子にして、人生舐めきったエッセンスを加えた感じでしょうか。友達も、当然ながらほとんどいません。容姿は可愛いのに、同期の声優の中でも、親友・八重以外にはハブられているほどの性格の悪さ。そしてそこから、「男性から見た女性像」という理想像を加味して貰えればわかりやすいかと思います。理想と言いつつ、実際は下衆なのですが。でもあざと可愛い。全然わかりやすくないですね。


しかし、そんなひねくれた性格の千歳だからこそ、「声優」という、一見華やかな業界を、「頭おかしい」と、一刀両断にしてしまう。ここに面白さがあります。

同時に、そんな「おかしな声優業界」で、あっけらかんとのし上がらんとしていくクソ度胸もなかなか気持ちいいです。


クズだからこそ、業界の理不尽にズバズバ切り込んでいける。

クズだからこそ、業界の理不尽に振り回される生身の少女の本音が聞ける。

ここに、主人公・千歳の可愛らしさがあると思います。


ようするに、声優業界の闇と千歳の腹黒さとが合わさったものが、この作品の肝。楽しめる人にはとことん楽しめます。私は楽しかったです。



物語は、千歳の一人称と、千歳の兄・悟浄の一人称が入れ替り立ち替りで進行していきます。


業界を舐めきって、あけっぴろげにひねくれているのが千歳ならば、兄の悟浄は業界の裏を知り尽くした上で、ため息をつきながらも、全力で千歳を含めた自らのプロダクションの声優をサポートする、玄人であり、苦労人くろうととして描かれています。


彼もまた、声優業界は何かおかしいと悟りつつも、その中でなんとかやっていこう、担当声優を輝かせていこうという、現実に寄った夢を持つ(?)ややドライだが魅力的な人物として描かれています。なかなかに業界を知り尽くした、ビターな感じを味わえるのも、彼の視点あってものでしょう。



烏丸兄弟の他のサブキャラも魅力。

清純無垢然とした、ほんわかいじられキャラクターの八重。時折、「実は黒い子なんじゃないか」と思わせつつも、声優業界の良心として描かれています。

先輩声優、京。実力派ながらも、厳しい収入で、バイトと声優をかけもちする苦労人として、声優業界の現実を如実に物語っています。



ネタバレしてしまうと、この作品は「ヤマ」となるところが希薄です。

シリーズ各一冊ごとに設けられた物語の盛り上がりとか、どんでん返しとか、オチとか、そういうところを期待している人には物足りないかもしれません。2巻の後半に入って、ようやく千歳の成長が見られてきたかな、というところです。


ですが、先程も述べましたとおり、この作品は「キャラクターの面白さ・可愛さ」「声優業界のあるあるに、どう関わっていくか」ということを主眼に置いているように感じました。

それでも、充分グイグイ引っ張られるのですが。


ほんわかしたい、くすりと笑いたい、軽く読めるお話が読みたい、声優業界の裏側に興味がある、という方には、楽しめる作品に仕上がっていると思います。


一巻・二巻にされているのは次のようなお話。内容は割愛します。

<一巻>

#1 烏丸千歳とおかしな業界

#2 孤高の千歳と闇の女子力

#3 乙女な千歳と秘密のプロフィール

#4 ナチュラル千歳と飾らない写真

<二巻>

#5 策士な千歳と策謀オーディション

#6 夢見る千歳と語らないモノローグ

#7 迷える千歳と板挟みヒロインズ

#8 ヒールな千歳とヒロインタイム

#9 メタモル千歳と始まりのナンバー


さて、業界を舐めきった千歳と、業界の先輩であり、マネージャーである悟浄。

ふたりの向かう先は、大人気声優のスターダムか、果ては売れないままのヤサグレ声優業か。

今後の展開に期待です。



【残念だった点】

内容的には文庫で出しても良かったと思うのですが、900円を超える価格設定は少し痛い。ラノベは単行本で1200円とかするから、決して高くない設定なのかもしれませんが、「やはり俺の青春ラブコメは間違っている」が、ガガガ文庫であり、あの作品と同じノリのこのタイトルに1000円近く投資するのは、正直抵抗がありました。

もっとも、私は楽しんで読めたので、2巻も即買いでしたが(笑)


また、作中で使われるギャグは、もしかすると10代読者には理解できないかもしれません。少しネタは古めでしょうか。

「俺ガイル」が楽しめるくらいなら、まあついていけるくらいだと思います。



【その他】

ガーリッシュナンバーは、メディアミックス前提の作品です。

小説版は現在2巻まで。

コミカライズは12月に2巻が発売予定です。また、4コマ版の「ガーリッシュ ナンバー 修羅」、百花のスピンオフ「momoka memorial」も発売中。

TVアニメも、好評放送中です。


間口は広いので、興味がある方は、是非。

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