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『天久鷹央の推理カルテ』 知念 実希人 ~姿は子供! 頭脳は明晰! 天才女医のメディカル・ミステリー。医療×推理のコラボは思いつかなかった!~

【はしがき】

天久鷹央あめく たかおシリーズには、連作短編の『推理カルテ』、長編の『事件カルテ』があるようです。

私は一作目の『推理カルテ』を読んだだけで、続刊は積んでいる状態ですが、『推理カルテ』の1作目から入るのが良いようですね。



【あらすじ】

天医会総合病院には、『統括診断部』という特別部門がある。

『統括診断部』には、各科で「診断困難」と判別された患者が次々と送り込まれる、まさに診断の最後の砦。


……といっても所属しているのは、病院の屋上に家を建てて住み着いている変人部長の天久鷹央と、部下の小鳥遊たかなしの二名のみ。

厄介者の駆け込み寺とも思われているのが現状だ。


天久鷹央は子供のような容姿と、どんな人にもずけずけモノを言う、コミュニケーションに欠陥を持つ暴虐無人な問題女医で、彼女にかかれば、身長180センチを越える体躯の小鳥遊も「小鳥」呼ばわり。

ところが一旦病人を前にすれば、その明晰かつ超人的な頭脳をもった鷹央は、患者の抱える病気のみならず、背景の謎をズバリと言い当てる。


藁をもすがる思いで、統括診断部の門戸を叩く患者たちは、様々な、奇々怪々な問題を抱えている。


河童に会った、と語る少年。

人魂を見た、と怯える看護師。

突然赤ちゃんを身篭った、と叫ぶ女子高生。


そんな彼らの「事件」には、思いもよらぬ「病」が隠されていて……?


頭脳明晰・博覧強記の天才 (天災?)女医・天久鷹央が解き明かす、メディカル・ミステリー。


【面白かった点・みどころ】

作家でも文筆家として以外の一芸に秀でた作家は強いと思うのですが、なんとこの作者さんはお医者様です。メディカル・ミステリーという斬新な発想を出したのも、なるほどな、と頷けるものがありますね。

医学素人でも、職人芸的に丁寧な説明が織り込まれているので、スラスラ読めます。


『メディカル・ミステリー』という言葉を聞くと、「白い巨塔」のような、なんだか難しくて硬いものを考えてしまいますが、この作品はキャラクターが魅力的で、文体もライト。肝心のミステリーも面白くて、サクサク読めちゃいます。


作者の医学知識に裏付けされた超絶的な診断能力・摩訶不思議な病が、このメディカル・ミステリーの二つの柱。

これが、猛烈に小気味よく知的好奇心をくすぐってくれます。


例えば、こう。



「体中が痛くて手が痺れる」という若い男性。

ところが、何が原因なのか、担当医師にはわからない。


体の痛みだけでなく、腕の痺れがあるのが気にかかる。

血液検査でCPKなどの筋酵素の上昇もある。

本人も不安がっている。入院させたほうがいいのではないか……?


ところが天久鷹央は、カルテを二、三分で見て、何でもないように言い放ちます。


「性行為のしすぎだ」

「若い男だろ? 張り切りすぎて筋肉痛や関節痛が出た」


――それでは、腕の痺れは?


「土曜の夜症候群じゃないか? 性行為の後に腕枕なんかで神経が長時間圧迫されて、麻痺を起こす疾患だ。週末の夜に多く発生するから『土曜の夜症候群』」



……実にお見事な名推理・名診断! それに、そんな病気があったなんて!

ちょっとエッチな例になってしまいましたが(笑)、こんな感じで、鷹央はあらゆる病気を、その背景事情とともに、ズバッと言い当てていきます。


もちろん、そんな天才的な頭脳の鷹央でも、一筋縄ではいかない病気の患者が、次々に訪れてきます。患者が持ってくるのは「奇想天外な事件」もセット。事件の背後に隠された『病気』が、さらに謎を深めていく。


そして、巧妙に織り込まれた伏線が、畳み掛けるような診断(謎解き)をする鷹央の独壇場で、連鎖的に明かされるのが、本当に気持ちいいのです。



鷹央と小鳥遊の掛け合いもまた、本書の魅力の一つ。

テンポの良い、心地のよいやりとりが、物語を彩ります。

鷹央が年齢と比べて、造形が幼すぎる、という書評をする方もいますが、私は好きです、鷹央。というか、率直に言って、鷹央って、すごく可愛いと思います。

天才的頭脳を持っているのに、まったくもって、『大人子供』なギャップが、素晴らしくこのキャラクターを映えさせています。

屋上に家を建てた上、その室内の床には本の柱が何本も立っている、といった小ネタも、まったく面白いです。



【各話紹介:さわりだけ紹介】

(カルテ1 泡)

病院に送られて来た少年は、なんと、「河童を見た」と話した。

興味を抱いた鷹央は、小鳥遊を巻き込んで『河童探し』へと、意気揚々と乗り出す。

今にも何かが出そうな沼のほとりに、延々と座り込む二人。しかし、現れるものはなく。

少年が見た河童はなんだったのか? それとも少年の幻想?

何気ない事件に隠された、驚くべきつながり。

そして明らかになった真実とは?


これはお見事! と、思いっきり膝を打ったお話です。

何気ない、様々なことが伏線となり、物語を彩っていますね。


(カルテ2 人魂の原料)

夜の病院には死者が歩く。

夜勤のナースが、巡回中に見た『人魂』。

しかし、人魂の現れた場所には、小鳥遊からすれば別段異常も感じない。

人魂現れた近辺の病室にも、なんとも事件とは無関係な患者が入院しているだけだ。

――だが、鷹央の慧眼は事件の裏に隠された小さな病気(ナゾ)を見逃さない。

果たしてナースの見たものは何だったのか? そして、その意味は?


これは、少し先が読めたかな? フーダニット(犯人当て)というわけではないのかもしれないけど、一話に比べると、正直、少し失速した感じはしました。しかし、それでも面白いのは当然のレベルなんです。


(カルテ3 不可視の胎児)

堕胎を強制させられた女子高生が、再びの性交渉もなく、再び妊娠?

彼女の身に現れた、確かな妊娠のサイン。その謎は、一体?

そして、事態は一分一秒を争う、緊迫の事態に……!


「やられた!」まさに、その一言に尽きます。

確かに専門家でもない限り、こんなお話は書けない。

というか、専門知識すらないので当然ですが、この作者は、そういった未知の知識を、極めてわかりやすく、簡潔に読ませてしまうので、「へー、難しいなあ」ではなく「そうなのか。それじゃあ……」と、読者にペースを合わせて巻き込むことに気づかせない。


……そこがすごいんですよ、『推理カルテ』。


(カルテ4 オーダーメイドの毒薬)

体調不良をさかんに訴える子供。

診断に難癖つける母親を面倒くさそうにあしらいながら、鷹央は更なる病気の調査に乗り出した。

ところが、子供の母親が鷹央を、『診断ミス』で訴えると言い出し、『統括診断部』は存続の危機に陥る。

鷹央は、子供の体調悪化の原因を、『毒薬』を盛られたせいだと推測するが……?


手に汗を握る、とはまさにこのこと。

どんでん返しに次ぐどんでん返しで、一巻のラストに相応ふさわしい、ハラハラ感を存分に愉しめます。

医学的根拠に基づいた、最後の、びっくりするような鷹央の『診断』も大きな見所。


読み終わったあとは、「本当に読んで良かった」と、満足の息を吐き出すと思います。



【残念だった点】

物語は主人公・小鳥遊の視点で語られるのですが、小鳥遊が『探偵の助手』にありがちな、ワトソンタイプの無個性・朴訥な人物で、活躍の機会をもっと作ってもらいたかったかもしれません。

ただ、これは難しいんですよね。ワトソンがホームズのキャラクターを食ってしまったら、『名探偵ホームズ』は成り立たないように、『助手』は目立ってはいけないんです。

なぜなら、『助手』はまた、『読者』と同じ視点に立っているため、無駄に活躍させて色付けしてしまうと、読者的に興ざめしてしまう危険を孕むからです。

あるいはミステリー小説の、永遠の課題なのかもしれませんね……。



【その他】

天久鷹央シリーズは、コミカライズもされています。

「灼眼のシャナ」「涼宮ハルヒ」の作画を手がけたイラストレーター、いとうのいぢさんとは違う方が描いてらっしゃいますが、なかなか美麗な絵で、もちろん内容も面白いようです。そちらも読んでみてもいいかもしれませんね。

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