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『きみへの想いを、エールにのせて』 佐倉伊織 ~真っ直ぐで純真で心を締め付けられるような応援。君に、届け~

【出版社及び表紙について】

ケータイ小説文庫様より出版されている本書。

出版社の名前にちょっとセンスがなく、「えー」と思われる感じがするかもしれませんが、内容はしっかりしています。

広いプールのコース台の隣に腰掛ける女子高生を描いた透明感のある清々しい表紙絵。デザイン(文字の載り方など)も極めて秀逸。気になった方は、いや、気にならずとも、一度は見ておくべきでしょう。

野いちごGP2016ブルーレーベル賞受賞作。



【あらすじ】

水泳部のエース、結城に中等部時代から密かに心を寄せていた茜は、いつしか彼の愛する『競泳』という競技自体にも、並々ならぬ興味を持っていく。好きな人を、誰にも気づかれない校舎の一角から見る時期が過ぎて、とあるきっかけで結城から「チョコちゃん」と呼ばれる仲になった茜は、精一杯の想いを込めて、結城にエールを送る。

ところが、とある重要なレースの最中、結城はまさかの故障。得意のバタフライを続けるのが難しくなり、彼の愛していた競泳から身を引いてしまう。


身を切られるような悲しさに、茜はしかし折れることなく、部活動が活発ではない結城と同じ進学高校へ入学し、彼のために『水泳部』を発足させようと、孤軍奮闘する。


注目していた競技は、競泳の中でも、特に『リレー』だ。全員が力を合わせ、全員がタイムを縮めることによって、一人では決して味わえない成果を上げること。

そのためには、部員の数が、是非とも必要だった。


結城が手負いながらも再び泳げるように回復し、戻って来れる場所を作れるように。

困難を極めていた部員集め。部発足のための人数合わせのタイムリミットに差し掛かった頃、水泳経験者の香川が、入部する交換条件に茜に出したのは「俺と付き合え」ということ。


少しずつ心を交わすようになっていた勇気と茜の恋の行方は? そして、競泳にかける彼らの想いはどんな実を結ぶのか。胸が詰まるような純愛と、手に汗握るレースと応援エールの交錯する恋の物語。



【見所・面白かったところ】

まんま少女的な展開、少女的なお話のテンプレだなー、と思った方はお立会い。

なんと、「まさにその通り」なのです。

けれど、「まさにその通り」だからこそ、凄まじく新鮮な気持ちで読める、そんな作品です。


何を言っているか、よくわからないでしょうね。

この作品、ストーリーはベタながら、すごく胸を突かれるんです。


結城を想う主人公・茜の一途な純愛は、壊れてしまいそうな細密さを持って描かれ、10代ならずとも、読む者の胸を締め付けてきます。今時こんな一途な子っているのかな? でも、幼い恋心というのは、こういうものなのかもしれないと、少し甘酸っぱい気持ちを味わったりしました。私、オッサンなんですけどね?(笑)


そして、もうひとつの柱が、表題にもある「エール(応援)」。

結城だけを見続けていた茜はしかし、“彼の住む世界”にも興味を持っていきます。

それが、「競泳」。

私自身は、競泳というのは地味な競技のように思え、興味もまるでなかったのですが、本書を読んでみると、その面白さに俄然引き込まれます。

ストロークに合わせ掻き出される水の跳ねる音、しなやかな筋肉のうねり、飛び込む前の緊張感、一秒を争うレース展開。

――そして、彼らと一体になってレースを盛り上げる客席。


『何かを応援する』

そんな単純な、しかし純粋すぎる、熱くて、辛くて、喜びを持った、精一杯の感動が、繊細なタッチで余すことなく伝わって来る。

先程も少し触れましたが、一読者でありながら、プールの塩素の匂いすらしてきそうな競泳の舞台で、登場人物たちに、自分も「頑張って!」とエールを送ってしまいそうになるくらい引き込まれます。


結城と茜の恋模様に関しては、恋敵・香川を巻き込んで、まさにベタな展開が繰り広げられます。

しかし、本書で特筆すべきは、その「一途さ・壊れてしまいそうな繊細さ・訴えかけてくる、切ない気持ち」。これは、レビューでは一端しか伝えられるものでしかないので、本編を読んでみて味わって頂くしかない類のものなのですが、この書き込みがすごく良く出来ている。


胸が痛い。息を呑む競泳のレース展開と並行して、とにかく、胸が痛くなる小説です。

しかし、だからこそ、ベタな展開がベタを超えて、清々しい感動をもたらす。

そんな作品。



【残念だった点】

何度も言いますが、展開がベタ、先が読める、という点では、それは欠点かもしれません。

ですが、前述してきたとおり、本書で楽しむべきなのは「そこ」ではないです。


確かに、食わず嫌いの方にとっては、どうにも食指の動かないお話であることも確かでしょうね。――これはまったくもって残念ですが。



【その他】

表紙イラストが、突き抜けて美麗です。

挿絵はないのですが、このカバーを見て手に取ってしまう方も多いはず。

ふすい絵師の繊細かつ透明感を存分に表した蒼い冊子を見ているだけで幸せになれます(笑)


レーベル的に、書店ではなかなか置いてないところもあるでしょうね。

ネットでの購入も、併せてお勧めします。


追記:ケータイ小説文庫は「スターツ出版社」様となるようです。

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