『最後の医者は桜を見上げて君を想う』二宮敦人 ~死に抗うこと。死を受け入れること。『生きる』って、なんだろう?~
【あらすじ】
続々重版、25万部突破!本読み書店員が選ぶ「感動小説」第1位!
自分の余命を知った時、あなたならどうしますか?
死を肯定する医者×生に賭ける医者
対立する二人の医者と患者の最後の日々――
衝撃と感動の医療ドラマ!
あなたの余命は半年です――ある病院で、医者・桐子は患者にそう告げた。死神と呼ばれる彼は、「死」を受け入れ、残りの日々を大切に生きる道もあると説く。だが、副院長・福原は奇跡を信じ最後まで「生」を諦めない。対立する二人が限られた時間の中で挑む戦いの結末とは? 究極の選択を前に、患者たちは何を決断できるのか? それぞれの生き様を通して描かれる、眩いほどの人生の光。息を呑む衝撃と感動の医療ドラマ誕生!
【文庫書き下ろし】
【感想】
医療に情熱を傾け、『生きる』ことを、時には患者に強いることも辞さない福原医師は言う。
『桐子、お前の理屈はわかってる。俺たちは見てきたもんな。病気と戦い続け、全身ぼろぼろになって惨めに死ぬ患者を』
医師とはそういう現場を何度も見せつけられ、苦悩と挫折を繰り返しているのだと私も思います。
しかし、福原は続けます。
『お前だってわかっているだろう? ここでは奇跡が起きるんだ』
『医学で説明がつかないような劇的な回復を見せる患者。多臓器不全から不死鳥のように蘇った患者。誰にも匙を投げられながら、綺麗さっぱり癌の消えた患者……医者である以上、知らないとは言わせない。奇跡はあるんだよ。最後まで諦めずに戦えば、奇跡は起こりうる』
対する死を受容し、「死神」とも呼ばれる、患者に治療の放棄を勧めるスタンスの医師である桐子は言います。
『僕らが向き合うのは、患者さん一人一人であるべきなんだ。福原、君は病気とばかり向き合っている』
『奇跡の存在を患者に押し付ける。それがどれだけ残酷なことなのか、わかっているのか?』
福原は言います。
『……それでも俺は、奇跡をあきらめない』
桐子は言います。
『……医者が奇跡を諦めなかったら、誰が一緒に諦めてやれるんだ』
さて、皆さんが『患者』だったら、どちらの医師を主治医に選びますか?
皆さんが、もし『医師』になったとしたら、どちらの主張をこそ、正しいとすると思いますか?
福原の命をあきらめない。それもまた、正解でしょう。どんな絶望的な状態であったって、奇跡は起こりえます。実際に、世の中には数多くの奇跡が起きている。
福原は名医で、『生きること』に対して、絶対的な肯定感を持っています。
だからこそ、患者は励まされ、勇気づけられ、生きることを最後まで諦めず、最後まで彼と戦います。
しかし、『奇跡を押し付ける』という桐子の意見も確かです。苦しい闘病生活を強い、医師の使命感を満たすためだけに、ボロボロにされてまで、生きることに価値があるでしょうか? 『余命を長らえさせる』ことと、『生きている』ことは等価でしょうか?。
だから、桐子は最後まで『人として生きる』ことを患者に勧め、患者はそれを受け入れます。
『生きる』ってなんでしょう?
戦うこと。
諦めること。
世間の認知では、前者の方が賛美され、後者はネガティブだと忌避される。
ただ、医療の現場に身を置けば、別な角度から『生きること』が見えてくる。
チューブに繋がれなければ生きられない生が、『生』といえるか。
『生きたい』と思っている患者に『無駄だから、諦めなさい』というのが、医師として正しいと言えるのか?
二人の信念は対立しているけど、「生きること」に対して開かれ、それを追求している。
本作では、この相反する考え方をする二人と、もう一人の同期の医師、天才でもなく、どっちつかずの意見しか持たないが、それでも作中で医師として成長していく音山というキャラクターが登場し、この三者がメインとなって物語が展開していきます。
彼らは、様々な患者の死を看取っていきます。
自らの信念に従い、あるいはゆらぎ、模索し、医師としてあるべき姿を模索していきます。
この作品は『死』を扱っていますが、語られるテーマは『生きると言うことは、どういうことなのか?』ということだと思います。
自分が末期癌になったところを想像します。
そのとき、自分は奇跡を望んで癌と闘う道を選ぶか、穏やかに生き抜く緩和ケアに進むか。
これは別に象牙の塔で起こっていることではない。
日常と非日常の薄い壁一枚を隔てた現実であり、苦悩なのだ、と思います。
死を告げられた瞬間から突きつけられる究極の選択。
この物語に、答えはあるのでしょうか?
その問いの答えは、きっと読んだ人の感性などではなく、『どう生きるべきか』という信念に挑戦を仕向けてきます。
自分が客観的で、クレバーだと思っている読者なら、『私は福原/桐子の意見賛成だ。なぜなら……』と答えを出せるでしょう。
ですが、この話は最後の最後で、また問いかけてくるのです。
上記の答えを出せた人。
確かに、あなたの意見はそうなのでしょう。
なら、考えてみてください。
死ぬのが自分ではなく、最愛の恋人だったら? 親だったら? 子供だったら? 親友だったら?
実感として、いまいちピンとこないでしょう。
この物語では、もし自分がその立場になったら……と考えさせられる問題を持ってきて、キャラクター達も苦悩し、揺れ動き……そして考えさせられるのです。
『死とは何なのか? 生きるとは何なのか?』
その根源的な問いかけに。
最後に、この作品のタイトルに込められた意味ついて。
『最後の医者は桜を見上げて君を想う』
というように標榜されていますが、この『最後の医者』は誰であったのか?
読み終わった後、考えてみてください。
それを思うと、最後の最後まで、本当に考えさせられる作品です 笑




