『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』 しめさば~社会人とJKの同居生活は恋愛感情無しで成立するか? これはラブコメなんかじゃない! 本当の恋愛小説だ!~
【あらすじ】
WEBで大人気。【社会人×女子高生】の同居ラブコメディ、待望の書籍化。
5年片想いした相手にバッサリ振られたサラリーマンの吉田。ヤケ酒の帰り道、路上に蹲る女子高生を見つけて――「ヤらせてあげるから泊めて」「そういうことを冗談でも言うんじゃねえ」「じゃあ、タダで泊めて」なし崩し的に始まった、少女・沙優との同居生活。『おはよう』『味噌汁美味しい?』『遅ぉいぃぃぃぃぃ』『元気出た?』『一緒に寝よ』『……早く帰って来て』家出JKと26歳サラリーマン。微妙な距離の二人が紡ぐ、日常ラブコメディ。
【感想】
フラれてヤケ酒を飲んだ帰り道、主人公の吉田は一人の女子校生に出遭います。
「やらせてあげるから止めて」そう、交換条件を持ち出した家出少女の沙優。
しかし、吉田にとって沙優は『ガキ』にすぎず、恋愛対象とは到底考えていません。
書籍の表題にはラブコメディとありますが、これ、ラブコメじゃありません。
凄く一本芯の通った純愛小説だと思います。
沙優は家出を続ける中で、数々の男のもとに転がり込み、居住する場所を与えられる代わりに、自らの身体を代償として捧げてきました。
しかし、吉田は、沙優に手を出さない。
もちろん、恋愛感情がない、振られたばかりとは言え、まだ想い人がいるから、という理屈は成り立ちます。でも、かわいいJKと一つ屋根の下にいて、相手も拒んでいない、こんな状況で衝動を抑えられる男が、実際にどれだけいるかわかりません。
もちろん、吉田が性的不能というわけではありません。
そうではなく、吉田はただ単に、それが当たり前だと想っているから、人に親切にしようと信念を持っていうのではなく、ただ、それが正しいと想っているから、彼女に手を出さず、彼女のために、いろいろなことをしてやります。
それは、表題やあらすじのシュチュエーションを読んだだけでは理解に苦しむことです。
でも、吉田の視点で描かれるそれは『社会人とJK』ではなく、「大人と子供」という枠組みでの心の揺れ動きで、この心情描写が、非常に読ませる。
端的に言って、吉田は凄くいい人です。
それはもう、男であっても惚れ込んでしまうくらい。
JKが可愛くて、翻弄される大人のドタバタコメディなんじゃないの? と思って読み始めると、見事に裏切られます。それは、恐らく良い意味で。そんな浅い物語じゃないです。
対する家出JK・沙優は、とても繊細な心の持ち主です。
今まで身体を差し出して、都合が悪くなると、世間体のためであったり、恋人のために邪魔になって使い捨てにされる。そんなことを繰り返し経験していた沙優は、吉田の優しさに触れ、心を癒やされると共に、一抹の不安を抱くようになります。
沙優は言います。
『無条件な優しさなんて……ないと思うんですよ』
『他人に優しくするのには、少なからず、理由がいると思うんです』
だからこそ、沙優は自らの身体を、JKというブランドと引き換えに、行きずりの男達に『居場所』をあたえられていた。
だが、吉田が与えてくれた『居場所』は、それまでの男達が与えていたような『偽りの居場所』ではない、まさに『家』だったのだとおもいます。
吉田もまた、沙優によって変わっていきます。
守るべきものが出来る。家で待っていてくれる人がいる。
それって、凄く素朴で、凄く素敵なことなのではないでしょうか?
この作品は、とにかく感情の揺れ動き、描写、そして、キャラクター達の生き方に、『ハッ』とさせられます。キャラクター達が持っている悩みは生き方は、それぞれ筋が通っており、共感もできるものです。また逆に、『なるほど、こういう考え方の人間もいるんだ』と驚嘆されることもしきりです。それが、一人一人のキャラクターに、用意されている。
キャラクター達が、生きている。
こんな複数の人間の、深い人間観は、到底一人の作家が体験し尽くせるような人生観ではない。その点で、著者のしめさばさんは、驚異的な人物観察能力と考察力を兼ねそろえていると想います。
最後に、もう一度だけ繰り返します。
この物語は、ラブコメではありません。
本当に、胸が締め付けられるような、心に火をともしてくれるような、恋愛小説です。
『髭を剃る』ようになった吉田、そして、戸惑いながらも心を開いていく沙優の描写の妙は、ここにあげた感想だけでは、到底語り尽くせないと思います。
久しぶりにはまった本です。
現在3巻まで発売されていて、もう、続きが待ちきれないくらいの作品。
おすすめです。




