『余命六ヶ月延長してもらったから、ここからは私の時間です 上・下』 編乃肌 ~延長してもらった余命六ヶ月。『生きる』ことを愛した、とある少女の物語~
【はじめに】
モーニングスター大賞第一回目で受賞した本作。
なろうでは根強い人気があり、上下巻同時発売と言うことで話題を博しています。
【あらすじ】
『魔法』と呼ばれる特殊な力を持つもだけが入れる私立桜ノ宮魔法高等学校。人よりも遅く力に目覚め、急遽この学校に入学することになった野花三葉は、クラスになじめず、担任教師からは理不尽に嫌われ、憂鬱な毎日を送っていた。ある日の放課後、何者かに階段から突き落とされた三葉は、命を落としてしまう。こんなことならもっと好きに生きればよかった。なにもない真っ白な空間で後悔する三葉の前に、白猫の姿をした天使が現れ、あと六ヶ月だけ時間をくれるという。かくして、三葉は六ヶ月の“余命”を手に入れ、後悔しないよう生き直すことを決意するのだが!? 第1回『モーニングスター大賞』受賞作!
【レビュー】
もしある日突然、自分が死んだことを告げられたら?
もし、その失ってしまった命を、ほんの数ヶ月だけでも生き直すことができたなら?
主人公、三葉の奮闘は、ここから始まります。この物語は、『死んでしまってから』のお話です。
クラスではぶられ、担任に嫌われ、学校の決まりで強制的に組まされる『ペア』の樹虎にはぞんざいに扱われていた毎日。
――でも、たとえ死んでしまっても、もう少しだけ生きることを許されるなら。
三葉は、与えられた時間を、「自分自身」として、精一杯生きることを選びます。
ひょんな偶然から仲良くなった、超優等生心美。ペアとなる不良じみた樹虎。彼らはぎこちないながらも、三葉の底抜けの頑張り精神に触発され、かけがえのない友達として距離を詰めていきます。
いまだ劣等生かも知れないけど、「いま」を精一杯生きる三葉に思わず心を動かされる。それが物語の骨子です。一生懸命頑張る人を応援したい、そんな気持ちになりたい人には、もってこいの一冊(二冊)と言えるでしょう。
本編は現代ファンタジーということで、学内イベント、織り込まれた謎、キャラクターの造形のディティールまで、深く「魔法」が関わってきます。
ところが、『魔法の理論』などもきっちり、わかりやすく描かれていて、『ヒューマンドラマは好きだけど、ファンタジーはちょっと……』という方にも、非常に入り込みやすい配慮がなされています。
学内のイベントは、『死ぬ前の』三葉だったら、きっと憂鬱に過ぎていくだけのものだったかも知れません。ですが、『生きる』ことを望んだ少女のその周りの景色は、とても色づいて、鮮明な感動となって読むものの心まで元気づけてくれます。
余命六ヶ月。日にちにして183日。そのカウントダウンは、三葉の手に刻まれ、容赦なく、彼女が死んだのだという現実に引き戻します。
ですが、彼女はくじけないのです。どんな逆境に至っても、幸せの四つ葉のクローバーを探して『生きていく』姿勢を保ち続けます。
ツンデレ赤髪不良属性の樹虎、お姉様大好き百合属性の心美。周囲には誰もいなかった三葉に巻き込まれ、巻き込んで。築いた関係は、きっと三葉にとってかけがえのないもので。
憂鬱だった日常が、『死ぬ前』だったら何でも無かった日常が、きらきらと輝き出すのです。
さらに、三葉は何故死ななければならなかったのか? その裏に潜む、暗澹たる現実とも『余命六ヶ月』というわずかばかりの時間に、解き明かされていきます。ここでは立ち入ったところまでは踏み込みませんが、そこにもまた「人の想い」が介在していた、ということだけを述べるにとどめておきます。
これを読んでいるあなたは、「いま」を精一杯生きていますか?
もし、死ぬことが定められてしまったら、絶望しますか? それとも……。
『死ぬ前』に何もかもを失い、『死んでしまってから』沢山のものを手に入れた三葉に訪れるラストには、涙すること間違いありません。
彼女は『余命六ヶ月を私の時間として生きられた』のか?
そして、彼女を待ち受ける運命とは。
最後の最後まで目が離せない、元気を分けてもらってほっこり涙できる物語。
私は今まで語ってきたように物語を受け止めましたが、果たしてあなたはこの物語から、何をもらうことでしょうか?




