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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第1章 幼少期~暗闇と救済編~
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07 お義母さまの想いと鞭

ちょっと重めの話です。

血が出る描写があるので、苦手な方はご注意ください。

 シャルルと会ってから数週間、ティファニアの身体が丈夫ではないと知ったのか、シャルルの方からティファニアの家に来るようになった。いつの間にかシャルルの家に行った次の日にティファニアが熱を出して寝込んだことを聞きつけたようだった。

 しかし、そのせいでシャルルとアルベルトを仲直りさせよう作戦は未だ達成できていない。ティファニアがアルベルトに会えないので、シャルルのことをどう思っているか聞くことができないのだ。当のシャルルはティファニアがいて気が紛れるのか前ほどは気にしていないようだった。ティファニアが少しもどかしいと思いながらも進展は全くない。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 その日はシャルルが来る日ではなく、ティファニアは図書室に行こうとアリッサと手を繋いで歩いていた。最近は前世の知識のおかげだが、難しい本も読めるようになり、知識をスポンジのように吸収している。

 外へ行かず、本ばかり読んでいるティファニアを心配するアリッサだが、うきうきしているティファニアを止めるすべをもちろん彼女は持ち合わせていない。

 いつものように仲良く話しながら図書室へ向かう二人の前に一人の女性が立ちはだかった。普段ならティファニアの方を睨み、忌々し気に捨て台詞を吐いて彼女から去っていくはずのアドリエンヌだ。

 アドリエンヌの手は少し震えており、後ろに控える侍女の顔は真っ青だ。


「アリッサ、下がりなさい。その子と話があります」

「お嬢様にはお嬢様の予定がございます」

「そんなの関係ないわ。下がりなさい!」

「アドリエンヌ様には関係なくてもお嬢様には関係ありますので」

「下がりなさいって言ってるでしょ!!!」

「っ!?」


 アドリエンヌのヒステリックな声が廊下いっぱいに響く。

 アリッサはその気迫に少し気圧されてしまった。

 アドリエンヌの声は震えているが、諭すようにアリッサに言う。


「いいこと、アリッサ、これは命令なのよ? わかったならば、直ぐにその子を置いて下がりなさい!!」

「………かしこ、まりました」


 アリッサは不安げな顔をしながら自分の方を見ていたティファニアの耳元に口を近づけ、ぼそっと呟いた。


「何かあったらすぐに叫び声をあげてください。助けに行きます」


 ティファニアは少し首を傾げたが、すぐにアドリエンヌの侍女に背中を押され、アドリエンヌの部屋の方へ連れていかれる。

 昨日から外交官であるラティスは半月ほどの出張に出ている。その為なのか、嫌な予感がするとアリッサは思った。そして彼女は何があっても対応できるようにとすぐにラティスの護衛の一人に会いに廊下を駆けだした。





 ティファニアがアドリエンヌの侍女に引っ張られるように連れてこられると奥にある寝室に入り、中から鍵をかけられた。

 アドリエンヌは鍵がかかったことを確認すると、震える身体を抱き、急に高く笑いだした。


「あは、あはは、あははははは!! これでやっと、やっとなのね!!!」


 そう言ってティファニアの方をギロリと睨む。


「あなたにこれで助けはないわ。ラティス様はいない。アリッサもいない。あなたを助けるものはもうないのよ!!! あははははは!!!」


 ティファニアは扉の前にいた侍女の方を見ると、用意しなさいとだけ言った。

 侍女はティファニアの方へ寄り、お嬢様、申し訳ありませんと何度も呟き、真っ青な顔をさらに青くした。そして、怯えた表情で震えながらティファニアの服を脱がせていく。

 ティファニアは下着だけの寒そうな格好にされた。


「本当に、忌々しい子供ね!!」


 アドリエンヌはそう吐き捨てるように言うと、机の上に用意しておいた鞭を手に取る。

 彼女はただ高揚していた。自分からラティスを奪ったあの女の子供に復讐できる、と。

 外交官のラティスはティファニアを助けてからはなるべく出張はないようにと取り計らってもらっていた。しかし、4ヶ月近く経ち、ラティスがお気に入りの王女がいる国に行かなければならなくなってしまった。その為、彼はいつもより短めにしてもらってやっとティファニアと離れること納得したのだ。昨日、嫌々ながら隣国に派遣された。

 つまり、今日何してもラティスは知ることができない。そう思い、アドリエンヌは今までの鬱憤を晴らすべく、鞭を振り上げた。

 バシッと鈍い音が響き、ティファニアの背中に真っ赤なミミズ腫れが這うようにできる。ティファニアはうっと小さく呻き声を上げた。


「あなたが来たせいで、あなたが来たせいで!! ラティス様はこっちを向いてくれなくなったのよ!!!」


 そう叫びながらティファニアの背中に何度も何度も鞭を打ち付ける。


「あの女からやっと手に入れたのに!それなのに!! なんで戻ってくるのよ! なんで邪魔ばかりするのよ!! わたくしがラティス様の一番になるはずだったのに!!! いつかは振り向いてくれるはずだったのに!!!」



 ゲームでのアドリエンヌは家の力で昔から想い続けたラティスと結婚した。しかし、そこには誘拐から逃れたティファニアがおり、ラティスは妻に似たティファニアを溺愛していた。アドリエンヌがラティスに振り向いてもらえないことは分かりきっていた。そのため、ラティスによく似たティリアを可愛がり、邪魔なティファニアを無視し続けた。

 しかし、目の前のアドリエンヌは結婚当初にティファニアがおらず、ラティスはいつか自分を見てくれる、あの女のことを忘れ、自分だけを愛してくれると確信してしまっていた。彼女はラティスが何年経っても諦めずにティファニアたちを探していることを知らず、いつかはラティスが自分に振り向いてくれると信じていた。

 そう、ティファニアが助けられるまでは。



 ティファニアは呻き声を少し上げるだけで、逃げもせず、泣きもせず、ただ心を閉ざして時間が過ぎるのを待った。


(だい、じょうぶ……。あいつらより痛くないから……。待てば、終わる、から………)


 あいつら、スラムにいた頃にいつもティファニアを面白がって殴り、蹴り、ナイフを突きつけてきた奴らのより耐えられるとティファニアは自分に言い聞かせる。

 こういう類の人間はイライラを我慢し過ぎると後々怖いのだ。あいつらもティファニアが逃げ続けたあとはいつもよりずっと辛い仕打ちをした。爪を剝いだり、指を折ったりと少しずつ、楽しみながら、まるで拷問のようなことを子供のティファニアにした。

 それに比べ、アドリエンヌの腕は細く、筋肉があまりない為か鞭を叩く音が大きくてもティファニアにとっては耐えられるものだった。


(大丈夫……。いつも通りにすればいいから……)


 ティファニアは何も聞かず、何も見ず、何も感じないようにした。

 しかし、ティファニアが何も反応がないことがアドリエンヌの神経を逆撫でする。


「何で泣かないのよ!! 苦しみなさいよ!! もっと喚きなさい!!」


 喚いているのはアドリエンヌだが、それも気づかずに鞭を打ち続けた。

 既にティファニアの背中の皮膚は裂け、血がどくどくと溢れている。腰まで流れ落ちる前にまた鞭が背に触れる為、まるで血が塗ってあるようだった。

 苦しめる為に鞭を打っているはずなのに逆に自分が息苦しくなっているアドリエンヌははぁはぁと息が荒かった。

 アドリエンヌは鞭の手を止めた。そしてティファニアの前まで行き、顎に手を当て、俯いている顔をくいっと上げる。彼女は薄っすら笑いながら言った。


「痛いでしょ? これが嫌だったら、もうラティス様に近寄らないでちょうだい。あなたは邪魔なのよ」


 ティファニアはなんて醜い顔なんだと思った。そして少し眉を寄せ、首をふるふると横に振る。

 ラティスから離れるのは絶対に嫌だ。どんな仕打ちをされても、ラティスから離れたくない、そう強く思っているからだ。

 バシッと音がして、ティファニアの首が急に横に向く。そして時間差で頬にじんじんと痛みが走る。


「何なのよ! あなたは!!! もう、今日はいいわ! ルシア、それを片付けなさい!!」

「か、かしこまりました」


 ルシアと呼ばれた侍女はいそいそとティファニアの方へ寄り、手当てしますと言って背中の血をタオルで拭き取る。

 ティファニアは痛みに耐える為に拳を強く握り、唇を噛む。カリッと音がして、口元から血が伝うと、首の紋様が突然熱を発するように紅く光った。

 同時に、ティファニアの背中に先程とは比にならないくらいの激痛が走る。


「あっ…、うあぁぁぁ!」


 ティファニアは苦しそうな声を上げ、床にうずくまった。

 首だけでなく、二の腕や太ももの紋様も紅く光り、ティファニアの肌はお湯を被ったかのように赤く熱を帯びた。

 ティファニアは声を押し殺し、唇を噛んで痛みに耐える。彼女は熱で身体が沸騰しそうだと思った。


(大丈夫だ………。まだ、大丈夫だ……)


 ティファニアは朦朧とする意識の中で何度も自分にそう言い聞かせた。

 どれくらいの時間が経ったのかティファニアには分からなかったが、ふっと一気に痛みが止まる。首や手足の紋様も既に元の黒に戻っていた。

 ティファニアは荒い息を整え、クラクラする頭を右手で押し上げて横にいるルシアを見る。彼女の顔は驚きに染まっており、その眼は恐怖を宿していた。

 それもそうだろう。先ほどまで痛々しかったティファニアの背中の傷が全てなくなっていたからだ。

 ルシアは固まり、全く動かない。

 ―――しかし、それに痺れを切らしたアドリエンヌが甲高い声で叫ぶ。


「早くしてちょうだい!! そんな汚い子見ていたくもないわ!! あなたの家族がどうなってもいいの!?」


 ルシアははっと意識を取り戻し、顔を真っ青にしながら、恐る恐るだが、丁寧に優しくティファニアの汗でぐっしょり濡れた肌を拭いた。

 いそいそとティファニアにドレスを着せ、部屋まで送ろうとルシアは足元がおぼつかないティファニアを支えながら歩く。


「何をしているの? 早くお茶を出しなさい。疲れたわ。そんな子、部屋の外に捨て置けばいいのよ」


 低く、冷たくい放つアドリエンヌにルシアはびくりと肩を揺らす。


「し、しかし、お嬢様はもう倒れそうです。せめて部屋まで送らせてください!」

「……ルシア? 聞こえなかったの? それを捨て置いてお茶を出しなさいと言ったのよ? それとも、あなたは家族ともう会いたくないのかしら?」

「い、いえ! 申し訳ございませんでした!!」


 ルシアの顔は蒼白で、まるで死人のようだと言われてもおかしくないくらい青い。

 そんなルシアを見かねたティファニアは、掠れた声でなるべくルシアを安心させるように言う。


「……いいの、ルシア。ひとりでかえれるから。それに、……かぞくはだいじ、だから」

「……お嬢様」


 ルシアには今、家族について話せる人がおらず、子供ながらに気を使ってくれるティファニアに目が潤んだ。そして、丁寧に優しく扉まで連れていく。ティファニアが掴んでいる腕から熱気が伝わり、ティファニアの体調が悪いことを如実に表していた。

 扉を開けた先にはアリッサが屈強な男性と一緒に心配そうに立っていた。


「お嬢様!!」


 ティファニアが見えたことに一瞬安堵したアリッサは、扉の先のティファニアが見るからに体調が悪そうだった為、すぐに駆け寄る。


「お嬢様、お怪我はないですか!? なにもされませんでしたか!?」

「アリッサ、だいじょうぶ…。すこし、つかれた、だけ……」


 そう小さく呟くと、ティファニアは糸が切れたかのようにばたりとアリッサの方へ倒れこんだ。

 アリッサはティファニアを抱きかかえると、キッとルシアを睨み、怒りを滲ませた低い声で言う。


「ルシア、後で話を聞かせてもらうわ」

「…っ!? アリッサ様、私からは何も言えません。……申し訳ございません。どうぞご寛恕ください。……では、アドリエンヌ様に呼ばれておりますので、失礼いたします」


 ルシアはぺこりと頭を下げ、逃げるように扉を閉めた。

 アリッサは腕の中の小さな可愛いお嬢様を抱きなおし、その体温の高さに驚く。元々ティファニアは子供体温で温かいほうだが、今は熱い。


「カミル、お医者様をお嬢様の部屋に呼んでちょうだい!! すぐよ!!」


 一緒に待っていたラティスの護衛の一人、カミルに指示を出すと、アリッサはあまり揺らさないようしながら駆け足でティファニアの部屋に向かう。

 そして、アリッサは願う。今まで何度も何度も願ったことを。


(どうか、どうか、お嬢様が元気になりますように…!)

アドリエンヌの愛が重い……!

お父様はティファニアの母親一筋なので。


ラティスはティファニアを妻似だと思ってますが、どちらかというとラティス似です。

親バカのフィルターはすごいんです。


次はちょっと軽めのはずです。

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