06 わたしと公爵子息
ティファニアが屋敷に来て、3ヶ月経った。
まだ起きていられる時間は9時間と短いが、それでも痩けていた頬はふっくらお餅のようになり、短かった髪もベリーショートから耳にかかるくらいまで伸びた。
寝込まない日は毎日元気に屋敷を探検し、とてとてと歩く様子にウルタリアの使用人は既にティファニアの虜だ。
ティリアと顔を合わせてもアドリエンヌが睨んでくるので交流はない。ティファニアは弟と仲良くできないのは残念だが今は仕方がないと思うことにしている。
今日はティファニアは最近のお気に入りの探検スポットである図書室に向かおうとラティスデザインの白いドレスに着替えた。
美しい2つの宝石のような紫の瞳と白金の髪に白い肌、白いドレスを着るティファニアの姿はまるで地上に舞い降りた天使のようであると思ったことは屋敷の使用人全員が同意してくれるだろうとアリッサは思う。
首の紋様もティファニアのものだと分かるだけで美しいと思うのはおかしいだろうか。
ゲーム内で呪いと言われた黒い紋様は実は今のティファニアとは少し違うものだ。ゲーム内のティファニアの首の紋様は細く縄が巻きついているかのようだったが、ティファニアの紋様はそれよりも太く、チョーカーのようだ。緻密で美しい薔薇をかたどったそれはティファニアをより一層引き立てる。
ティファニアは鏡の前に立ち、最近は日課になりつつあるくるくる回る動作をした。ふわりとドレスの縁が上がり、ティファニアはうふふと嬉しくなる。
「お父様のあたらしいドレスかわいいね!」
「お嬢様は何を着ても似合いますよ。いえ、いっそ何を着なくても可愛いですわ!!」
「うん!!」
ティファニアは何を着ても似合うと言われて嬉しくなり、後半はよく聞いていなかったが、元気よく返事する。
少し暴走気味になってしまったアリッサはこほんと咳払いをし、仕切り直した。
「そういえば、今日は旦那様が執務室に来て欲しいと仰ってましたよ」
「お父様が!?」
最近のラティスは忙しく、屋敷で仕事をすることが少なかった為、執務室に行くのは久しぶりだ。今のティファニアのテンションはうなぎ登りである。
「ふ〜ふふ〜ん、ふふ〜ん、ふふふ〜ん」
鼻歌を歌いながら、スキップ混じりにラティスの執務室に向かうティファニア。その左手はしっかりアリッサの手を掴んでいる。ラティスに会えるのがよっぽど楽しみなのか今は手を引くのはティファニアの方である。
執務室の扉の前に着くと、いつもいる護衛がティファニアを見てほっこりと癒される。しかし、職務を全うする為に名残惜しそうに少しゆっくりだが扉を開けた。
「ティー! よく来たね!!」
「お父様!!」
扉の前にはいつも通りラティスが愛娘を迎える為に両手を広げて待っていた。
ティファニアはラティスにぱたぱたと駆け寄り、その腕の中に飛び込んだ。細い腕を一生懸命ラティスの首に回し、ぎゅっとする。そして、嬉しくなりうふふと笑いながら彼の頬にキスをした。ラティスもお返しとばかりに頬と額にキスをする。
「私の妖精は上機嫌だね。何かいいことあったかい?」
「うふふっ、お父様にあえました!」
なんて可愛いことを言うんだとラティスはうれしくなり、ティファニアの頬に手を添え、額にもう一度キスをする。そして、最近ではお決まりの抱きかかえながらソファに座った。
ちょこんと膝に座る愛娘は世界一可愛いなとラティスは思いながら、今日の本題に入ることにする。
「あー、その、ティーは、友達とか欲しいかな?」
「ともだち?」
「そうだ、まあ、家には同じ歳の子がいないだろう? だから、その……」
ティファニアはお父様にしては歯切れが悪いなと思う。
「だれかいえにくるの?」
「いや、違うんだ。まあ、その、男の子なんだが、会いに行って欲しいんだ。歳は同じだよ」
「おとこのこ?」
「ああ、ティーのはとこだよ。少し前に母親を亡くしてね、塞ぎ込んでいるみたいだから話し相手になって欲しいそうだ」
「おかあさま?」
「あっ、いや、ティーが嫌ならいいんだ。むしろティーは行かなくていいんだよ!」
「そのこのなまえ、なんていうの?」
「ん? ああ、シャルルだ。シャルル・ルイビシスだよ」
やっぱりとティファニアは思う。攻略者の一人にティファニアの幼馴染がいるからだ。彼とは仲良くしたいとティファニアはずっと思っていた。むしろ、いつ会えるのか、と。
(実際に会えるならば、彼との死亡フラグは一番回避しやすそうだから会いたいな!)
そう思ったならば、早速行動だとティファニアは決心する。
「いく! わたし、シャルルにあいたい!」
そう大声で嬉しそうに言ったティファニアにラティスは密かにがっくりと肩を落としたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガタゴトと馬車が揺れていた。
クッションによって振動は少し軽減されているが、それでも子供に馬車は辛いだろう。しかし、ティファニアは初めての馬車とこれから会う男の子について考えながら嬉しそうに過ぎていく景色をを眺めていた。
『シャルル・ルイビシス
公爵子息であり、主人公と同じ歳。常に冷静であり、物事を冷たく見ている。幼い頃に母を亡くし、父親とはそれ以来うまくいっていない。ティファニアの幼馴染』
そう書かれた説明文の上には薄い水色の髪で、菫色の目をした少し冷めた少年がこちらを見ていた。
シャルルは幼い頃に母親を亡くしている。その時に同じ境遇、母親がいないティファニアと会い、お互いで悲しい部分を隠すように、埋めていくように依存する。幼く、立場があった2人には対等なものが近くにおらず、そうしなければ心が挫けそうだったからだ。
恋人のようだと言われたらそれは違う。お互いは既にお互いの心の一部になっていたからだ。
そんなシャルルの心を慰めたのは幼馴染にそっくりの少女、ヒロインだった。彼女は彼の父親との仲を取り持ち、そして、ティファニアがいなくてもあなたは一人で生きていけないほどもう弱くないわと諭した。
そこで激昂するのはティファニアだ。既に愛されている妹が大切な、世界でたった2人の自分を愛してくれる人のうちの1人を奪うつもりなのか、と。
そしてティファニアは2人を引き裂こうとするが悉く失敗してしまう。そして最後にはナイフを持ち、ヒロインを殺そうとするが、ハッピーエンドではそれをシャルルが止めてヒロインを選ぶ。そして、シャルルの温情でティファニアは幽閉になるが、一月もたたずに衰弱死する。バッドエンドでは、咄嗟にヒロインは後ろにあった花瓶でティファニアを殴り殺してしまう。その現場をたまたま見てしまったシャルルは好感度が低いためティファニアを抱きかかえ、何も言わずに泣きながらその場を去る。表沙汰にはならなかったが、罪悪感に囚われたヒロインは自ら教会に入ってしまう。
そんなゲームの内容だったとティファニアは思い出す。
(つまり、わたしが死なないための攻略法は依存関係にならず、父親との仲を早く取り持てばいいはず! 未来で仲直りしているなら、今も仲直りできるよね!!)
どうやって仲直りさせようかとうんうん考えるティファニアと未だに愛娘を男と会わせたくないラティスを乗せて馬車は進む。
ルイビシス公爵邸まであと少しである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルイビシス公爵邸は大きかった。ウルタリア侯爵邸もかなり大きいが、それよりも大きく、ティファニアはだらしなく口をあんぐり開けそうになった。しかし、ここ数日間に付け焼刃で習った淑女教育では口を大きく開けるなんてとんでもないことなので、必死に顎を抑えた。
馬車から降り、玄関へ行くと、そこにはラティスと同じくらいの年齢の深い蒼に綺麗な薄紫の瞳をした男性が待っていた。ティファニアはその人がルイビシス公爵だと分かり、頑張って覚えた淑女の礼をする。
緊張しながらもひざ丈のスカートを軽くつまみ、ちょこんと頭を下げる。
「お初にお目にかかります、ルイビシス公爵様。ラティス・ウルタリアの娘、ティファニア・ウルタリアでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
誰もが驚く綺麗な可愛いお辞儀であった。
ティファニアが3か月前まで見つからなかったことは貴族内では周知の事実である。そのため、ルイビシス公爵はこの私的な場でティファニアがどんな礼をとっても構わないと思っていた。しかし、予想以上、いや、4歳にしては上出来なお辞儀をしたのでルイビシス公爵は柄にもなく驚いてしまう。
「あ、ああ、ようこそ、ティファニア嬢。ラティスの友人である、アルベルト・ルイビシスだ。今日は息子のために来てくれて感謝する」
そう言われてティファニアは周りを見るが、自分と同じくらいの子は見当たらない。
「すまないね。息子は塞ぎ込んでしまって部屋にいるんだ。そちらに行ってもらうことになるがいいかい?」
「はい。構いません」
アルベルトは少し疲れた顔をしていた。そのことにティファニアは疑問を抱く。なんでシャルルを心配しているのだろう、と。
ゲームではシャルルの母親が亡くなった後、アルベルトはシャルルに冷たい態度をとったはずだ。しかし、今のアルベルトは息子を心配する一人の親にしか見えない。
(もしかしたら、思ったよりも簡単に仲直りさせられるのかもしれない……)
そう考えながら案内された先は、シャルルの部屋である。
メイドたちの開けた扉の先には、少しやつれ、目に光がともっていない少年がいた。色素の薄い水色の髪が余計に彼を儚げに見せている。彼はぶすっとしており、来てもらったのだから一応顔をみせるという態度だ。
「本日はお招きいただきありがとうございます。ティファニア・ウルタリアでございます」
「シャルル・ルイビシスだ。……招いてないがな」
最後にぼそっと呟いたのをティファニアは聞き逃さなかった。面と向かって話すには子供だけのほうがいいと思い、後ろにいるメイドたちに目を向けた。
「わたくし、シャルル様と二人で話したいのだけれどいいかしら?」
メイドたちはそれでティファニアの意図をくみ取り、部屋から出ていく。彼女らもシャルルが心配であることには変わりないのだ。
部屋に二人きりになると、ティファニアはいつも通りの態度に戻り、シャルルに手を差し出す。
「あらためて、はじめまして。ティファニアよ」
急に口調が変わったことにシャルルは目を見開いた。しかし、すぐに不機嫌な顔に戻る。
「なかよくする気はない。そもそも、僕はまねいていない。……かまうな」
シャルルの突っぱねるような態度にティファニアは少し困った顔をした。
こういう風に人を突き放そうとするのはきっと母親が亡くなってから構われ過ぎたからなのだ。シャルルは公爵子息である。それならば、何度も何度も同じような慰めの言葉を聞いただろう。それはもう、子供でもうんざりするような。
「ふーん、あなた、お母様をなくしたんでしょ?」
「っ!?」
「ティーもね、いないの」
「そう、か。そう、なのか……?」
「うん」
それだけ言うと、ティファニアはくるりと身体を反転させ、横にあった本棚のほうに向かった。
「ねえ、この本よんでいいの?」
「えっ!? ま、まあ、いいぞ」
急に本を手に取り、読み出すティファニアにシャルルは驚いた。それもそのはずだ。ティファニアはシャルルがまるでいないかのように真剣な瞳で字を追っていたのだ。
ティファニアは最近教えてもらったばかりの文字で本を読むのがブームなのだ。構うなと言われたならば、見たことがない本で時間をつぶそうと思い今の行動に至る。
「お、おい! なんで本をよみはじめるんだ!」
「えっ? シャルル様がよんでいいっていったでしょ?」
「だ、だって、お前、僕に会いにきたんだろ?」
「でも、さっきかまうなっていってから」
「た、たしかにそうだけど……」
ティファニアの主張にシャルルは戸惑う。
今まで、母親が亡くなった後に慰めに来てくれた大人たちはみなずっと大丈夫だよと言い、突っぱねる彼をなるべく構おうとしていた。
しかし、ティファニアはシャルルの母親が亡くなったことに何も言わず、自分もいないと言ってからシャルルを放置している。
「お、お前はなにしにきたんだ?」
「シャルル様にあいに」
「じゃあ、なんで僕をほうっておくんだよ?」
「もうあったでしょ?」
にこりと笑ってそう言うとティファニアは目線を本に戻した。
その態度にシャルルの顔がカッと熱くなった。
「なっ、なんだよ! お前は僕に会いに来たんだろ? ちがうのか?」
「そうだよ。でも、かまってほしくないんじゃなかったの?」
「そ、そうだけど!」
「じゃあ、ティーがごほんよんでてもおかしくないでしょ?」
先ほど自分からティファニアに構うなと言ってしまったばかりに、シャルルは言葉に詰まった。ティファニアが自分と同じ境遇と知って、シャルルは少しは気持ちが通じ合えるのではないかと思った。しかし、当のティファニアがシャルルと話す気が全くなさそうなのだ。こんな風に放置されたことがないシャルルはティファニアの態度にイライラした。
しかしシャルルが何も言わなくなったからか、ティファニアはまた本に目を落とす。すると、シャルルは怒鳴った。
「おい! 何かを言えよ!!」
横から大声が聞こえ、ティファニアはゆっくり眼をあげた。
「うーん、シャルル様はなにかいってほしいの?」
「っ!?」
きょとんと純粋に問いかけたティファニアにシャルルは言葉に詰まる。まるで自分が慰めてほしいかのようじゃないか、と。今まで大人が何を言っても受け入れることができなかった。慰めなんかいらないとそう思っていた。全部自分が公爵子息であることを知った上でのうわべだけの言葉だと。
しかし、同じく母がいないと言う目の前の少女は違った。彼女は先ほどまで本に目を向けていたが、今は真っすぐシャルルの方を見ている。まるで彼の母のように。ただ真剣に、公爵子息であるシャルルではなく、シャルルを見つめて話している。母親が亡くなり、父親であるアルベルトは冷たくなり、誰も自分を見てくれなかった。それなのに、今、この自分より細く、弱そうな少女は自分を見てくれる。
「ちがっ、ただ、僕は、僕は……」
―――ただ、僕を見てほしかっただけだから。
はらりとシャルルの菫色の瞳から涙が落ちた。
母が亡くなって確かに悲しかった。しかし、それ以上に父が自分を見なくなり誰も自分をちゃんと見てくれない、それが彼を傷つけ続けた。
公爵子息だから、跡取りだからと言われずっと我慢してきた涙。それが堰を切ったように流れだす。
目の前で泣くシャルルをティファニアは無言で抱きしめた。まるで自分がスラムからお父様に助けてもらった時のように何も言わずに、優しく。その悲しみが、悲しみで乾いた心の泉がまた満ちるようにと。
シャルルはビクッとしたが、何の抵抗もなく泣き続けた。彼は縋るように静かに泣き続けた。優しい温もりが、母のように暖かく、懐かしく、嬉しかったから。
シャルルが泣き終えるまでティファニアはずっと彼を抱きしめた。泣き止むころにはシャルルは女の子の前で大泣きして恥ずかしかったからか顔を真っ赤にし、さっきはごめんと言った。
「ううん。だいじょうぶ。きにしてないから」
「そ、そうか。それで、その、今のことはわすれてくれるとたすかる」
ボンっと音が出そうなくらい一瞬で顔を器用に真っ赤にするシャルル。そんな彼を見てティファニアはうふふと笑った。
「いいよ」
「その、ありがとう」
「ううん、いいの。それでね、その、……シャルル様のお母様はどんなひとだったの?」
「シャルでいい」
「うん、わかった。わたしはティーでいいよ」
「ああ、ティーだな。―――お母様はやさしかった。いつも僕をなでてくれた。それでいつもほめてくれた。……ほんとうに、やさしいお母様だった」
「そっか。いいね、お母様って」
「うん。ティーのお母様はどうだったんだ?」
「しらない。おぼえてないの。いまいえにいるお父様のおくさんはティーのことむしするから、しらない」
「……そう、なのか」
母親について冷たく言い放つティファニアには驚いたが、少し悲しそうだとシャルルは思った。
「でも、ぜんぜんかなしくないの。お父様もアリッサもいるし、みんなやさしいの」
「…そう、か。よかった」
ティファニアはやっぱり寂しそうに見えたが、父親の話題が出てシャルルの胸が苦しくなる。
「シャルのお父様もやさしいよね」
「……うん。しってる。お父様はやさしくって、すごくかっこいい」
「うん。じゃあ、なんでそんなかなしいかおするの?」
「…かなしくなんかない」
「そう。でも、シャルのお父様はかなしそうだったよ」
ティファニアと話していくうちに少しずつ下がっていた頭をシャルルはがばりと上げた。
「そうなのか!? お父様はかなしいことがあったのか!?」
「うん。シャルのげんきがない」
「………えっ?」
「シャルのげんきがないからだよ。しんぱいしてるの」
「しん、ぱい? お父様が僕を?」
「うん。シャルのお父様、すごくシャルをしんぱいしてた。ずっとだいじょうぶかなっておもってるかおしてた」
「そう、なのか。そっ、か」
心配してくれたことに嬉しくなるシャルル。そしてティファニアはこれは仲直りするチャンスじゃないかと思い、行動を開始する。
「だからさ、ちゃんとはなしあおう? ね?」
「はなし、あい?」
「うん。いまからシャルのお父様とはなそ?」
「いいいいまから!?」
「うん。だめ?」
「ちょっ、ちょっとまて、ティーはお父様からしんぱいしてるってきいたわけじゃないだろ? だから、その、ティーがお父様からちゃんときいてくれない、か?」
「ティーが? なんで?」
「とっ、ともだちだからそれくらいいだろ?」
「ともだちなの? ティーとシャルが?」
「……ちがうのか?」
「ううん、うれしいの! ともだちだね! うふふっ」
そうやってシャルルの手を取り、突然嬉しそうにくるくる回るティファニアに彼は先ほどまで自分の父親との仲直りの話をしていたのをすっかり忘れてしまった。そして、シャルルはティファニアの笑顔につられるように一緒に回る。
くるくる回るティファニアの顔は紅潮しており、とても可愛らしい。ふわりと上がるスカートのせいでシャルルも顔を赤く染めた。
しばらく二人で回っていたが、コンコンとノックの音がした。
二人一緒に扉の方へ振り返り、どうぞというと、メイドがティファニアの帰宅を伝えに来たようだった。1日にそんなに長く起きていられないティファニアの滞在時間は短い。
入ってきたメイドは二人が手を繋いでいるのを見て驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「もうかえらないと」
「そう、だよね。また、きてくれる?」
「うん! シャルもティーのいえにきてよ!」
「わかった!」
ぎゅっとお互いの手を握り、約束すると、手を繋いだまま玄関へ向かう。
どの使用人もシャルルとティファニアが仲良さげに手を繋いでいることに驚いたが、シャルルの晴れやかな表情を見て安心する。心配であったシャルルが元気になってよかった、と。
玄関にはアルベルトもおり、嬉しそうに2人を見ていた。そして、挨拶を交わし、お互いが見えなくなるまで手を振った。
(シャルが元気になってよかった。それよりも、ゲームでは冷静って書いてあったけど全然そうじゃなかったな。まだ小さいからかな…?)
そう馬車で考えていたティファニアだが、最後に致命的なミスに気付く。
シャルルとアルベルトを仲直りさせるのを忘れた、と。
ティファニア可愛いよ!!天使だよ!!
次は少し重めにお義母様の話です。
5月2日、紋章を紋様に変えました。
追記
感想を読ませていただいて、少し追加説明(?)です。
作者としては、ゲームの中のティファニアとこの物語のティファニアの性格は全く別物と考えています。
ゲームの中のティファニアは落ち着きのある性格で、いわゆる深窓の令嬢に近いのを想像していただければと。しかし、妹に関してだけは悪役令嬢っぽく苛烈です。
ラティスとの関りも全く違く、受け身だったので今のティファニアとは少し違った関係です。ゲーム内のティファニアにとって、ラティスとシャルルは無条件に愛をくれる人だったのです。
作者としては愛されたいのだったら、愛される側もそれなりの努力が必要だと思います。しかし、彼女は受け身であり、環境があまりよくなかったとしても、自分からは相手を愛そうと思わなかったため、若干暗い子になってしまいました。
なので、ゲーム内のティファニアの性格は全く違うものとして読んでいただけると嬉しいです。そもそもゲーム内のティファニアはスラムなんて関係ない環境で過ごしたので同じ性格になるはずがないんですよね。
今のティファニアについてはまた本編で!