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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第4章 一年生~呪いと約束編~
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43 クラスと入学式

この回から改稿前よりもだいぶ内容代わっているのでご了承を。

 新入生。

 なんて新鮮な響きなのだろう、とティファニアはウキウキしながら新しい制服に袖を通した。

 それは膝よりも少し長い丈の白いローブ・モンタント。首元にはシャツのような襟があり、シンプルなリボンで飾られている。それに丈の短いジャケットを着るのがこの学園の女子生徒の制服だ。前世では堅苦しいように見えるかもしれないが、この世界ではだいぶカジュアルなデザインだ。それに加えてティファニアは首の『まじない』の紋様を隠すための薄ピンクのレースのチョーカーと、始業式用に派手すぎない薔薇の髪飾りをつけている。装飾品は華美すぎでなければつけることが認められている。ラティスが普段使いできるような銀の装飾が付いた髪飾りをたくさん特注してくれた。これもそのうちの一つで、小ぶりの薔薇が四つ連なり、水滴のように小さな宝石が散らばったデザインだ。

 きゅっとチョーカー代わりのレースを首の後ろで結んでもらうと、ティファニアは鏡の前で一回りした。ふわりとスカートの縁が舞う。


「よくお似合いですよ」


 懐かしいものを見るように目を細めてアリッサが言った。制服ができた時点でウルタリアの屋敷で一度試着をし、その時にも同じことを言われたがそれでも嬉しいものだ。

 ツクヨミも浮いたままの姿でうんうんと頷いて褒めた。


「俺のティアはなんでも似合うな」

「それに関しては全面的に同意ですわ」


 ウルタリアの屋敷のように他の使用人が来ることはないからと簡単に姿を見せるようになったツクヨミの言葉にアリッサも頷く。普段はあまり仲がいいとは思えないのだが、今は意気投合している。


「ありがとうっ!」


 と、表情を崩すと、なぜか二人は同時に顔を隠して天を仰いだ。

 どうやら学生ライフに心を躍らせるティファニアの笑顔は二人にはクリティカルヒットであった。ついその可愛さに悶えてしまう。

 そんな姿にティファニアは首を傾げつつ、鞄を持つと元気に言った。

 いってきます、と。







 寮の階段を降りると、そこにはシャルルが待っていた。

 おはよう、と笑いかけると、同じく返してくれる。


「おはよう、ティー。とても似合っているよ」

「ありがとう。シャルもね」


 男子生徒の制服は黒いブレザーで、水色の髪に映えていつもよりも大人っぽく見えた。少し見上げなければ合わなくなってしまった視線が絡み合うと、優しく見つめられ、なんとなくくすぐったい気分になって目を少し伏せた。


「えーっと、シャルルさん、だったね」

「―――そうだ。ティファニアさん、だ」


 新しい呼び方に少し照れてしまう。だが、慣れなければならない。

 このエルフィリス王立学園は基本的には平民も含め身分平等を謳っている。そのため、王族以外はみな敬称ではなくさん付けで呼ぶのが慣例だ。その中でも名前同士で呼ぶのは仲がいい証拠である。

 ティファニアは学園に来てすぐにシャルルと話し合い、自分たちの関係が公にどうみられているか、そしてどう勘違いさせないようにするかと話し合った。結果、血縁関係はあっても婚約者でもない二人が愛称で呼び合うのは良くないと名前にさん付けをすることにしたのだ。その時のシャルルの顔はなぜか、悲しそうだった。


 本校舎に着くと、そこにはすでに多くの生徒が集まっていた。

 どうやらクラス分けが張り出されているようで、一年生達が掲示板の前で騒がしくしている。事前には聞いていたが、この学校は一学年約60人ほどで3クラスに分かれているそうだ。クラスは月組、雪組、花組と身分成績関係なく平等に分けられている。最初に組の名前を聞いた時は宝塚かと心の中で突っ込んだものだ。


「僕は月組だね」


 背の高いシャルルが後ろから掲示板をのぞく。こういう時は同年代よりも小さな身長が恨めしくなる。

 わたしは? と聞くと、シャルルは嬉しそうに笑った。


「同じクラスだよ。……どうやら殿下もだ」


 その言葉につい頬が緩んでしまう。

 ユフィシアはどうなのだろうかと背伸びすると、その前にシャルルが教えてくれた。


「ユフィシアは花組のようだね。あ、ミルシェ嬢も僕らと同じクラスだ」

「えっ、ホント?」


 うん、とシャルルは強く頷いた。その返事に嬉しくなってつい表情が緩んでしまう。

 ゲームではユフィシアの編入は二年生だ。その時のクラス分けはゲームの通りであればティファニアだけ別だったはずだ。一年生の時のクラス分けはもちろんゲームの始まる前なので明かされていないが、それでも離れる可能性は十分にあった。しかし、心配は無駄だったようだ。

 これから一年シャルル達と共に過ごせるだなんて、と心が躍る。

 早速教室に向かうと、そこには先程シャルルが教えてくれた通り、ミルシェの姿があった。


「ティファさんっ!」


 すでに席についていたミルシェは大きく手を振ってティファニアを呼んだ。


「ミルシェさんと同じクラスだなんて、嬉しいわ」

「私もよ。クラス分けを見てつい声を上げて喜んでしまいましたもの」


 二人で手を合わせて喜ぶ。

 ミルシェは先日のお茶会にも招いたティファニアの親友とも呼べる令嬢だ。下位の伯爵家ではあるが、気兼ねなく話せる数少ない人である。実はゲームの中でサポートキャラでもあったりするのだが、それを思い出したのは仲良くなった後なので気にしていない。とても気さくで優しい彼女と一緒にいない選択肢はないのだ。


「ミルシェ嬢、先日ぶりだね」

「あら、シャルル様も同じクラスでしたのね! 賑やかになりそうで楽しみですわ!!」


 ミルシェは嬉しそうに跳ね上がった。

 ちょうどその時、始業の鐘がなり、皆好きな席に座った。ティファニアは窓側のユリウスの前でミルシェの隣だ。

 静まった後、改めてクラスメイトを見てみると、ティファニアが知らない顔ばかりであった。元々公の場に出ることがほとんどなかったので当たり前ではあるが、それでも見知った顔がシャルルとミルシェだけというのは自分のコミュニティーの狭さを痛感する。


「このクラスはどうやら平民枠の方が多いようですね」


 こそり、とミルシェが小声で教えてくれる。

 今年入学の平民は7人と聞いているが、そのうちの3人はこのクラスに所属しているらしい。ミルシェはサポートキャラの役に恥じない情報通であるので後でいろいろと聞くつもりだ。

 ガラガラ、と扉が開き、皆姿勢をただした。

 もちろん先生が教室に入ってきたのだが、その姿を見てティファニアはついぽかーんと口を開けてしまった。なんとそこにいたのは、ハルトヴィヒだった。


「皆さんちゃんと始業までにきちんと席についていますね」


 ハルトヴィヒが教室をグルリと見回すと、目が合ってにこりと微笑まれた。

 聞いていない。ハルトヴィヒが教師をやっているだなんて。それも担任の先生だなんて。


「今日の欠席はユリウス様だけのようですね」


 ハルトヴィヒが何かを書き込んでいるときに、教室の一番端の席を見た。人数分の机があるはずなのに、そこには誰も座っていない。

 先程クラスメイトを見たときに気づいていたが、ユリウスは来ていなかった。遅れてくるかとも思ったが、今日は欠席のようだ。

 ハルトヴィヒは軽く自己紹介を終えると、早速入学式に行きますよと皆を促した。

 ユリウスが座るはずだったその席だけがポツンと寂しく見えた。


 入学式は講堂にて行われた。

 教師がなぜかハルトヴィヒだったという驚きはあったが、ティファニアの心はこれからの生活に期待でいっぱいだった。

 今まで学校に入ればユフィシアのことやゲームのことで気が重かったのだが、考えてみればティファニアはツクヨミを味方につけて万全の対策をしているのだ。何かあるわけがない。唯一の懸念はクラス分けだったが、それも問題なかった。ならば楽しまない手はない。

 前に領内の小学校に入った時のことを思い出す。あの時は短期間であったが同世代の子供達と一緒に時間を過ごせて楽しかった。今回もそうなるといいなと壇上に上がった学園長を見ながら思った。

 この学園は昔、バルツァー公爵家が設立したものらしく、代々学園長はバルツァー公爵家の当主が勤めている。この設立時の公爵はおそらく転生者であるとティファニアは考えている。中庭のオージュやクラスの名前など、まず間違いないだろう。

 長くもなく短くもないスピーチが終わると、次は生徒会長の挨拶があり、シャルルの新入生代表としての言葉があった。

 新入生代表の言葉は毎年新入生の中で一番身分が高いものが選ばれる。今年はユリウスが一番であるが、おそらく断ったのだろう。そのため、公爵家であるシャルルに白羽の矢が立ったのだ。スピーチに関して乗り気で異様に見えたが、完璧にこなしていた。さすがである。


 式は恙無く執り行われ、ティファニアたちは教室に戻った。


 教室に戻ると、クラスメイト達の自己紹介が行われハルトヴィヒから連絡事項を伝えられる。


「明日から実力テストがあります。皆さんそれに備えて頑張ってください」


 苦い顔をする生徒たちもいたが、その一言で解散となった。

 ティファニアは鞄を手に取るとシャルルたちに断って教室を出たハルトヴィヒに声をかけた。


「ハル兄さ……、カマリアネス先生!」


 いつも通り兄様と呼びそうになるが慌てて直す。思ったよりも大きな声が出てしまい、周りからの視線が集まった。

 それをに気が付いているのかそうでないのかわからないが、ハルトヴィヒは優しく笑って振り向いた。


「どうしましたか、ウルタリアさん」

「あの、ちょっとお話を……」


 そういうと、ハルトヴィヒは頷いた。

 どこかへ移ると思ったのだが、この場で話すようだ。ティファニアは周りの目線に居心地が悪くなりながら聞いた。大人数の前で話した経験が少ないため、表情には出さなくてもつい敏感に反応してしまう。


「先生に、なっていたんですね」

「ええ、去年卒業してから教師として働き始めたんですよ。驚かそうと思って内緒にしていたんですけどね」


 パチリとウィンクをされた。

 確かに驚いたが、教室でみっともない姿を晒してしまった。こういうことは伝えてほしいものだ。しかし、ハルトヴィヒは昔から優しかったがこうしてからかってくることが多かった。毎度毎度してやられてしまうので今回も悔しくて小さく唇を尖らせた。


「そういうことは事前に教えて欲しかったですっ」

「それじゃあ、つまらないですからね」


 ふふ、とハルトヴィヒは笑った後、でも、と急に真面目な顔になった。


「成績に関しては従妹だからといって贔屓はしませんよ」

「えっ?」


 聞き返すとハルトヴィヒは横に視線を送った。つられてそちらを見ると、そこにはティファニアたちを眺め、コソコソとなにかを話す生徒たちがいた。

 あ、と気づかされる。


「でも、通信簿には可愛いと明記しておきましょう。真実ですからね」


 ハルトヴィヒはそういうとまたウィンクをして去って行った。

 先程ティファニアたちを見ていた生徒たちに目をやる。ちょうど視線が合って、逸らされた。おそらく親戚だから優遇してもらうために話しかけたのではないかと思われていたのだろう。ハルトヴィヒはそれにいち早く気づいてわざと廊下で話を続けた。ティファニアの立場が悪くならないように。


 寮に帰る道で、首をすり抜ける風が妙にくすぐったかった。






 次の日、ティファニアたちは全学年で実力テストが行われた。

 このテストは生徒たちの今の実力をはかるものだ。この国では義務教育がないため勉強の進み具合がそれぞれの家庭教師によって異なる。みな学園に入り、授業について行ける程度には仕上げてきているはずだが、それを正確に先生方が把握するためにこのテストは不可欠だ。

 テストの内容はティファニアには簡単であったが、ひねった問題が多く、少し手間のかかるものばかりだった。

 全てのテストを終え、終業の鐘が鳴ると、隣の席のミルシェが深いため息をついた。


「難しかったですわ……」

「そうかな?」

「もぉ、シャルルさんはすでに後期課程(デンプス)の内容を勉強していると聞き及んでいますわ。簡単で当たり前ですっ」


 ミルシェはぷりぷりと怒って口を尖らせた。

 その様子があまりにも可愛くて、ティファニアはくすくすと笑ってしまった。


「まぁ、ティファさん、笑ってないで何か言ってくださいまし。今回のテスト、本当に散々でしたのよ。結果が恐ろしいですわ」

「大丈夫よ。実力テストなんだもの。成績には反映されないわ」

「それだとしても自信を無くしますわ。家庭教師にはこれで十分と言われましたのに……」

「もともと実力テストの問題は難関度が高めだからね」


 そう言ってシャルルが教えてくれた。

 家庭教師の中ではかなり先の勉強まで教える先生がいるので、その生徒までカバーできるようにこの問題は難しく作られているらしい。転生しているわけでもないのにそれを難なく解けているシャルルには驚きしかない。


「あら、ユリウス様ですわ」


 談笑の最中、ふとミルシェが扉のほうを見た。

 他の生徒たちはテストが終了後、ホームルームを終えると教室から出ていた。今この場所にいるのはティファニアたちだけだったが、扉のほうにユリウスが立っていた。ユリウスは昨日と同様教室に一度も顔を出すことはなく、テストも受けていない。この場所で見るのは初めてだった。


「ユリウス様! こちらで一緒に話しませんか?」


 つい嬉しくなって声を掛けるが、ユリウスは一度目を見開くと、フイっと顔を逸らして去って行ってしまった。

 シャルルが様子を見てくるよ、とユリウスを追いかける。

 実はユリウスとは二年ほど前から疎遠になっている。前はしつこいくらいあちらから押し掛けていたというのに、突然連絡がなくなった。なぜだろうと思い切ってこちらから手紙を送ってみたが、結局無視され続けて今に至る。

 今の反応でも分かるが、どうやら避けられているようだ。


「ユリウス様、どうしたのかしら……」


 情報通のミルシェでも理由が分からないらしい。

 シャルルに聞いてもだんまりなので、正直どうしようもない。

 ティファニアの情報網によると、ゲームのユリウスの過去にあったジュリアンの暗殺未遂も怒っていないはずだ。ならばなぜユリウスが変わってしまったのかティファニアには見当もつかない。

 何もわからないことが、歯がゆかった。

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