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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第3章 少女期~邂逅と決意編~
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閑話 ウルタリア侯爵家の日常

続きを書いていてラティス成分が足りなくなって、衝動的に書きました。


時系列的にはツクヨミに会って数か月後。

「ふ~、ふふ~ん、ふふふ~ふ~ん」


 太陽が昇って間もない時間。大人たちはこれから仕事に向かう時間。

 ティファニアは上機嫌で鼻歌交じりに自室の扉を開けた。朝食はまだ先だというのに、今日は深緑の室内ドレスにすでに着替えてあり、髪も整えられていた。

 そして、その手に持つのはティファニアの相棒だ。


「ふ~ん、ふふ~ん」


 スキップをしながら廊下を過ぎると、斜め向かいのラティスの部屋の扉をコンコンコンと軽く叩く。

 すると、待ち構えていたかのようにそれは開かれた。扉の奥にはまだ少し寝癖が残ったラティスがナイトガウンの姿でほほ笑んでいた。扉に手をかけ、体を半分出しながら気怠い感じで笑うその姿は艶やかで色気をまとっていた。


「おはよう、お父様」

「ああ、おはよう、俺のティー」


 ラティスは眠気の抜けきらない声で明るく笑う可愛い愛娘に一層表情を崩す。

 起き抜けに天使が見れるだなんて、自分は今、世界で一番幸せだという自信がある。


「今起きたところ?」

「ああ、今日は少しのんびりしても大丈夫だからね」

「そうなの?」


 ティファニアが首をかしげると、ラティスは嬉しそうに愛娘を抱き上げ、額をこつんと合わせて瞳を見つめた。


「お昼までだけれど、一緒にゆっくりしようか」


 それを聞いて、ティファニアは満面の笑みで強くうなずいた。

 同時におでこを強くぶつけてしまい、笑いあった。





 ラティスが着替え終わると、ティファニアは待つ間読んでいた本から顔を上げた。

 ラティスの服はきっちり整えられていたが、髪だけは寝起きのまま毛先が遊んでいた。

 しかし、ティファニアはそんなこともかまわずラティスへと勢いよく抱き着いた。


「お父様、今日もかっこいい!!」


 ラティスは腕の中に飛び込むと、ぎゅっと抱きしめてくれた。


「ありがとう。ティーもかわいいよ」


 決まり文句のように毎日言っているが、何度言っても足りないくらい娘がかわいくて仕方がない。たぶん、人生すべての言葉を愛娘の賛美に使っても足りないだろう。

 ラティスは腕の中のティファニアに首をぎゅっと抱き着かれると、すぐに体を離されて、手を引かれた。そして、鏡台の前に連れていかれる。

 これはほとんど毎日恒例のことだ。ラティスは当たり前のようにその鏡台の前の椅子に座った。


「今日はどうしよっかな」


 ラティスが椅子に座ったことを確認すると、ティファニアはアリッサに踏み台を用意してもらい、すぐにその上に乗って自分の相棒をシャキーンと掲げた。

 そして、その相棒をラティスの頭に近づけ、優しく梳いた。

 相変わらずいい手触りの髪だ。


「今日は後ろに三つ編みでいいかな?」


 鏡の中のラティスを見つめると、お願い、と優しく微笑んで返してくれた。

 相棒とは、櫛である。

 ティファニアはこうして毎日のようにラティスとティリア、そして、ツクヨミの髪を梳いて結んであげているのだ。

 それは使用人の仕事と言われればそうだが、ティファニアは誰かの髪をいじるのがすきなのだ。こればかりはティファニアが嬉々としてやるので使用人たちが止めるすべはなかった。そもそも大好きなお嬢様であるティファニアを止められる使用人がいるかも甚だ疑問であるが。


「ふ~ん、ふふ~ふ~ん」


 ティファニアは何かの歌を口ずさみながらラティスの柔らかな髪を梳かし、後ろで三つに分ける。

 ラティスの少し癖のあるふわふわした髪をしており、ティリアはその部分を受け継いだのだとよくわかる。逆にティファニアは全く癖のないストレートヘアなので、毛先が少し巻いてある髪がちょっぴりうらやましくもある。

 小さな手で自分と同じ白金の髪を丁寧にゆっくり編んでいく。

 ティファニアは誰かの髪をいじっているとなぜか懐かしい感覚にとらわれた。これは、いつものことだ。前世に関することかもしれないが、思い出せたことはない。

 寂しい気もするが、それでも、嫌じゃなかった。

 むしろ自分が大切な人に近づけた気がして好きだ。


「うん、これでよしっ!」


 ラティスの髪を編み終えると、ティファニアは青い紐で毛先を結んだ。

 ラティスはツクヨミやシャルルほど髪を伸ばしているわけではないので、紐は脇の高さくらいに収まっている。


「ありがとう、ティー」


 ラティスが礼を言うと、ちょうどティリアが起きてきたのかノックの音がした。

 部屋に招くと、服だけは着替えてまだ髪が整えられていないティリアが無邪気に笑っていた。


「おはようございます、お父様、お姉様!!」

「おはよう、ティリア」

「おはよう、リア」


 ティファニアは今日もかわいい弟をいつものように鏡台の前に手招くと、ティリアの髪を梳き始める。

 ティリアの髪はラティスよりも癖が強いので、念入りに櫛を入れた。


「リア、今日はどうする?」


 ティファニアが鏡の先を見て尋ねると、ティリアはうーんと悩んで、編み込んでから横に流す髪形がいいと言った。先日ティファニアがシャルルにしてあげた髪型と同じだ。

 それなら簡単、とばかりにティファニアは側頭部から少しの髪を掬い、編み込んでいった。


「今日はお父様が午前中は休みなんでしょ? じゃあ、みんなでお庭に行かない?」

「ああ、いいね。何か本を持っていこうか。リアの勉強になるだろう?」

「うん! 僕、また神話の話がいい!」

「いいよ。じゃあ、前読んだ神話とは違う本にしようか」


 雑談をしながらもティファニアは手を動かし、ティリアの髪を編んでいく。そして、編み終わると首元で紐を結ぼうとして手を止める。


「リア、今日は何色の紐にする?」


 ラティスはいつも青い紐を、シャルルは紫か白の紐を使う。ティファニアは服装に合わせて日によって違うが、そこはアリッサが自分で決めると譲ってくれないのですべて任せている。

 ティリアといえば、その日その日で変わるので、こうして毎日聞いているのだ。


「うーん、今日は……」


 顎に手を当ててティリアは悩むしぐさをすると、鏡の向こうのティファニアを一瞬見て、緑、と短く答えた。

 ティファニアはアリッサから緑の髪紐を受け取り、きゅっと結ぶ。


「よし、これで大丈夫!」


 ティファニアの髪はサラサラストレートなのですぐ落ちてしまうが、ティリアの髪質だとちゃんと結べばそのまま紐の位置がずれないのはうらやましい。


「じゃあ、朝食食べに行こうか」


 ラティスが両手を差し出すと、ティファニアとティリアは嬉しそうにその手を取った。


「今日の朝ごはんは何かな?」







 その後、ティファニアはラティスとティリアと一緒に庭でゆっくりくつろいだ。

 そして、午後になりラティスは王城へ行き、ティリアは勉強に部屋に戻ると、次はツクヨミの髪を結んだり、二人で楽しく過ごしたりと満足した日だった。

ティファニアの髪を結んだりするのはアリッサの専売特許。


ラティスが青なのはレイフィアさんの色だからです。


続きは4月ごろになります……。

もう少しお待ちいただければと思います。


息抜きに短編を書いているので、もしよろしければそちらもどうぞ!

『闇に沈んだ君は、』

http://ncode.syosetu.com/n8214du/

『鳥籠の妖精』

http://ncode.syosetu.com/n4912dv/

どちらもすごく短いです。

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