番外編 サンタがいっぱい
本編じゃなくてごめんなさい。
今日思いついてさっき書ききりました。
まだ、クリスマスだからセーフ。
現パロっぽいので、本編とつながりは全くないです。
「「「メリークリスマス!!」」」
軽快な発砲音とともにパーティーが始まった。
「さあ、ティー、ティリア、プレゼントを開けてごらん」
ラティスの指さす先には大きなクリスマスツリーがあった。
その下には鉢植えが埋まりそうなほど多くのプレゼントが積まれており、ティファニアとティリアは目を輝かせた。
「わぁっ! お父様、ありがとう!!」
「ほ、本当に全部ティーたちのなの!?」
ティファニアはプレゼントの多さに目を剝いていた。
余りにも量が多いのだ。二人に向けたものとは思えない量である。ティファニアの前世の知識もこの量は非常識だと言っている。
「ああ、ティーとティリアにはいつも留守を任せてばかりだろう? そのお詫びと、この間の出張のお見上げも兼ねているんだよ。……まあ、俺が二人にプレゼントしたかった、ってだけでもあるけどね」
最後の一言がボソッとしていてティファニアは聞こえなかったが、ラティスはすまなそうに眉を下げていた。
「お父様、謝る必要はないよ! だって、ティーたちはお父様と過ごせてしあわせだもん!!」
「ぼ、ぼくも!!」
だから、そんな顔しないで、と抱き着いてくる娘と息子はまるで天使、いや、天使であった。
クリスマスは本来は決して赤いおじいさんの不法侵入を許す日ではない。聖イエスが生まれた日であり、天使が降臨した日でもある。
ラティスは思った。ああ、今年は天使たちは自分のもとに降臨してくれたのか、と。ラティスは無宗教であり、別に信仰心があったわけではないが、今日ばかりは神を信じれそうである。
ぎゅーっと二人の天使たちを抱きしめる幸せをラティスは堪能した。
十分後。
「それで、二人はプレゼントを開けないのかい?」
「うふふっ、お父様がつかんでたらツリーのところに行けないよぉ」
そういわれ、ラティスは名残惜しくも腕の力を抜いた。
「じゃ、じゃあ、ぼくから開けていいかな!?」
ティリアはプレゼントのことを思い出したのか、ラティスの腕の中からビュンと飛び出してクリスマスツリーを眺めた。大小さまざまあり、目移りしてしまう。
「青はティーの、赤はティリアのだよ。紫は二人で使っておくれ」
「はいっ!」
ティリアはどれにしようかな、とまずは一番小さい箱を開けた。すると、そこにはパーティーにつけていけるロケットのブローチが入っていた。赤い先端に白い機体と、なかなかリアルでかっこいい。
「わぁ、お父様、ありがとうございます!!」
次々と箱を開けていくと、中には服やマフラー、本、ゲーム機などたくさん入っていた。その中でもティリアが気に入ったのは外国語で書かれた絵本だった。最近、ティファニアはラティスのように将来は外交官になるとほかの国の言葉を勉強し始めたので、これで少しは追いつけるようなるとうれしそうだった。
「お姉さまも、一緒に開けよっ!!」
それまでティリアは夢中になってプレゼントを開けていたが、紫色のプレゼントに差し掛かってティファニアはまだ一つも明けていないことに気づいた。手を振ってラティスの横でうれしそうに笑っている姉を呼ぶ。
「リア、急がなくてもプレゼントは逃げないんだから大丈夫だよ」
弟のもとへ行くと、ティファニアはよしよしと頭を撫でた。一歳半と年齢は違わないが、ティファニアは転生者でもないティリアの成長がめざましくて最近驚いてばかりだったのだ。年相応の喜び方をしているのになんだかとても安心した。
撫でられてほほを膨らませるのもかわいいのでもう一度撫でておく。
「もーっ、ぼくは今度小学校に入学するんだよ?」
「それでもリアがかわいいから撫でるんだよ。さっ、紫のプレゼントを開けてみよ?」
ティファニアが話を逸らすとティリアは不服そうであったが、大きなプレゼントの前にはその気持ちもすぐに吹っ飛んでしまった。
「うん! まずはどれにする?」
「じゃあ、この大きい箱にしようか」
ティファニアが指さした箱は自分たちの身長よりも少し低いくらいの大きな箱であった。二人で協力して包装紙をはがしていく。そして、中に入っている箱を開けると、そこには二人がペアで着れるような青のフリルのついたドレスとネクタイが青の燕尾服が入っていた。
「わぁっ! かわいいっ!!」
「すごーい!!」
二人が感嘆の声を上げると、ラティスは表情を崩した。
「気に入ってくれたかい? 特注した甲斐があったよ」
「えっ!? これ特注なの!?」
「ああ、二人のために私がデザインしたんだ」
「お父様、すごいです!!」
ティファニアとティリアはきゃっきゃっと喜んだ。まさかラティスがデザインしてくただなんて思いもしなかった。二人に似合うように作られているので、うれしくてたまらない。
ありがとう、と抱き着こうとすると、ピンポーンという音が玄関から鳴った。
来客の予定はなかったので、ティファニアは慌てて玄関に向かった。ガチャリとドアを開けると―――
「「「メリークリスマス!!」」」
そこには従兄たちが満面の笑みで並んでいた。
「ヴァル兄さま! ハル兄さま! ジル兄さま!」
「私もいるわよ、ティーちゃんっ!」
後ろにはライトリアとエトヴィンもいた。
「ライト伯母さま! エトヴィン伯父さま!」
ライトリアと従兄たちはすぐに靴を脱ぎ、いつものように家に入る。まるで自分の家のようだ。
すると、エトヴィンが申し訳なさそうに眉を下げた。
「ティー、突然すみません。言っても聞かなくて」
「いいえ、大丈夫です、エトヴィン伯父さま。みんなと一緒に入れて楽しいですからっ!」
ティファニアはエトヴィンの手を引くとすぐに中に案内をした。リビングではすでにライトリアが食事を手に取り、ヴァルデマールたちはティリアを囲んでいた。
ラティスの眉間には川のように深いしわが刻まれている。
それを見て、エトヴィンは、はははと乾いた笑みをこぼした。
「大丈夫、ですか…?」
「えーっと、たぶん」
ティファニアの返事はどこか頼りなさげであった。
すると、エトヴィンが何かを思い出したかのようにポケットに手を入れた。
「ティー、中に入ってしまうと息子たちが迷惑をかけてしまいますから、今のうちに渡しますね。メリークリスマス。ライトリアと私からです」
エトヴィンがポケットから手を出すと、そこには小さな赤い箱があった。白いリボンがかわいらしい。
「…わあ、ありがとうございます、伯父さまっ! 開けていいですか?」
「ええ、どうぞ」
ティファニアがその箱を受け取り、開けてみると、中には小さなネックレスがはいっていた。紫水晶のクリスタルをバラを象った形にしてあり、とてもかわいかった。
「ティーももう社交界に出る時期ですからね。ぜひつけてみてください」
エトヴィンがにこりと笑うと、ティファニアはありがとう、と言ってお礼にエトヴィンのほっぺにキスをした。それにいとこたちが嫉妬したのは言うまでもない。
ヴァルデマールたちが父に何かしようとしたとき、タイミングよく玄関からまたチャイムの音が鳴った。
ティファニアはまた慌てて玄関に向かい、扉を開く。
「「メリークリスマス!!」」
そこには、シャルルとユリウスがいた。
「シャル! ……とユリウスさま!」
ティファニアは驚いた声を上げた。今日は二人とも大きなクリスマスパーティーがあると聞いていたのだ。
「どうしたの、シャル? ……それに、ユリウスさまも」
ティファニアが首をかしげると、ユリウスはむすっとした顔を作った。
「なんで俺はおまけなんだよ!!」
「ユーリ、気のせいです」
「気のせいじゃない!! 明らかに俺のは付け足した感じがあっただろう!!」
「……気のせいです」
「ティファ! 目をそらしてるからバレバレだ!」
「ユーリの相変わらずの被害妄想では? それに、ユーリは黒髪に今日のコートは黒なので見えなかったのですよ、たぶん」
「なんだ、そのたぶんは!!」
相変わらずのやり取りをすると、ティファニアはシャルルを家に招き入れた。ついでにユリウスも。
「いや、パーティーに戻らないといけないんだよね。ユーリがついてきた理由はわからないけど、僕はどうしてもティーに渡したいものがあって」
「なんで、俺は除外してるんだよっ!」
横がうるさかったが、シャルルはそれを無視し、メリークリスマスと言って、手に持っていた袋をティファニアに渡した。少しずっしりしていて重かった。
ティファニアが袋の中を覗くと、そこにはティファニアの読みたいと言っていた本がぎっしり詰まっていた。そこには絶版になった希少本も含まれている。
「シャル、これって…!」
「ごめん、入手するのに手いっぱいで包装できなかったんだよね」
「ううん……! ありがとう、シャル!!」
「大丈夫だよ。読み終わったら僕にも貸してね」
自分がまだ読んでいない本をくれるなんて、うれしくてたまらない。感極まって、ティファニアはシャルルに抱き着いた。
「大事にするねっ! ありがとっ!!」
「うん。――――じゃあ、行くね」
「うん、また学校でね」
ティファニアはなぜか顔をそらしてしまったシャルルを見送ろうと手を振った。
「おい、ちょっと待て!!」
―――突然、大声が横からした。
「あっ、ユリウスさま」
「ティファ! 今、忘れてたって顔したなっ!?」
「う、うふふ、気のせいです、ユーリさま」
ティファニアが頑張ってごまかすが、かなり無理があった。
しかし、ユーリと言われてうれしかったのか、不機嫌そうな顔は消えていた。単純である。
「ま、まあ、今日はクリスマスだからな、許そう。そ、それでだな、これを……」
ユリウスが手を差し出した先には小さい箱があった。
真っ赤な箱と黄色いリボンのいかにも豪華そうな箱である。
「こ、これは…?」
「あ、ああ、……クリスマスプレゼント、だ。あ、開けてみてくれ」
ユリウスに促され、ティファニアはリボンをほどいてその箱を開けた。そこには、赤い宝石のついたネックレスがあった。薔薇のように深いその赤色は美しかった。
なぜか横からシャルルの「うわぁ……」という声がする。
「ど、どうだ?」
そわそわしながら自分の様子を窺うユリウスはどこか挙動不審でティファニアの笑いを誘う。
「ふふっ、ユーリ様、怪しいですよ」
「う、うるさい!! それで、どうだ? き、気に入ったか?」
「ネックレスは先程、エトヴィン伯父さまからももらいました」
「……そうか」
明らかにがっかりするユリウスに、ティファニアはそのネックレスの赤い宝石を優しく撫でて、でも、と続けた。
「でも、この赤い色は、薔薇みたいで、とても美しくて、大好きです」
「っ!?」
目の前から息をのむ声が聞こえて、ティファニアは顔を上げた。すると、ユリウスがなぜか顔を真っ赤にしていた。耳まで赤く、目も見開いていて尋常じゃない。
玄関とはいえ、ここは冷える。もしかしたら風邪をひいてしまったのかもしれない、とティファニアは心配になった。
「ユ、ユーリさま、風邪ですか!?」
「ち、ちがう!! 帰る!!」
しかし、ユリウスはティファニアが伸ばした手をよけて、すぐさまドアを開けて外に出てしまった。その速さおよそコンマ1秒であった。
ティファニアが驚いていると、シャルルはプッと噴き出した。
ティファニアには何が何だかわからない。
「あはは、ティー、ユーリは頑張ったほうだから引かないで上げてね。じゃあ、またね」
そういうと、シャルルは颯爽とその場から去っていった。
ティファニアは首をかしげるが相変わらず意味が分からない。とりあえず、リビングに戻ろうと身をひるがえすと、今度はノックの音がした。
なぜチャイムでないのかわからないが、ティファニアは取り合ず扉を開く。
すると、そこではアリッサが優しそうに微笑んでいた。
「メリークリスマスです、お嬢様」
「ア、アリッサ!」
ティファニアは予想外の客に顔をほころばせた。
「今日は非番でしたが、お嬢様に渡したいものがあったので来てしまいました。今、よろしいですか?」
「うん! それよりも、寒いから入って!!」
「いえ、この後、行く場所がありますので、ここで大丈夫ですわ」
「そっか……。寒い中、どこ行くの? 風邪ひいちゃうよ」
ティファニアが残念そうに眉を下げると、アリッサは少し目を細めて悲しそうに笑った。
「その、今日はクリスマスですので、娘と一緒に過ごそうかと思いまして」
ああ、お墓参りに行くのか、とティファニアはすぐに分かった。よく見ると、アリッサの服は全身黒であった。どこかの偉そうな社長子息と違ってまっとうな理由で。
「そっ、か。娘さんによろしくね」
「……はい、ありがとうございます」
アリッサはティファニアの言葉を聞いて寂しそうであったが、でも、さっきよりはずっと笑っていたと思う。
「―――それで、これを渡したくてこちらに来たのですわ」
そういってアリッサは懐からレースのリボンを取り出した。
「旦那様方のように高いものではありませんが、お嬢様に似合うと思いますので」
そういってアリッサはきれいな翡翠色のレースをティファニアに差し出した。確かにすごく豪華ではないが、ティファニアに似合いそうであった。
「ありがと、アリッサ」
ティファニアはアリッサにギュッと抱き着いた。あったかくて、優しい香りがした。
「ねえ、つけてもらっていい?」
ティファニアがお願い、と見上げると、アリッサは一瞬固まったが、すぐに了承して、つけてくれた。決して上目遣いが可愛すぎて悶絶しそうになったわけではない。決して。
「……さあ、つけられましたよ。とっても似合っております」
「そう、かな?」
「ええ、お嬢様以上にこれが似合う人は世界中のどこにもいませんわっ!」
「もう、大げさなんだからぁ!」
では、とアリッサはティファニアの頭をやさしくなでた。
「わたくしはもう行きますわ。お嬢様、楽しんでくださいませ」
「うん、またね」
ティファニアが手を振ると、アリッサは去っていった。
いつの間にか、ティファニアの手の中にはプレゼントがいっぱいだった。うれしくて緩む頬をおさえた。三人ともわざわざ会いに来てくれたのだ。嬉しくてたまらない。
すると、後ろから声がかかった。
「ティー、お客様は帰ったのかい?」
なかなか戻らないティファニアを心配して、ラティスが様子を見に来たようだった。後ろからはぴょこりと弟の茶色い頭がのぞいているのも見える。
「うんっ! みんなプレゼントを置いて行ってくれたのっ!」
「そうか、よかったね」
ラティスが少し腰を落として手を広げると、ティファニアは当たり前のようにそこに飛び込んだ。小柄といえど、もう小学校に通っている自分をしっかりと受け止めてくれるのが安心する。
「お父様っ!」
ティリアも羨ましそうに手を伸ばしたので、ラティスは金魚を掬い上げるように持ち上げた。
「ねえ、お父様、ありがとっ! うふふ、大好き!!」
「僕もお父様が、大好きですっ!」
ぎゅーっと自分の首にしがみついてくれる自分の子供たちがかわいくて、本気でさらわれるのではないかとラティスは心配になるほどだ。既に、リビングの扉の隙間からこちらを除いている甥たちが今一番危険である。嫉妬の視線がひどい。
しかし、父親として当然の権利であるので、二人の天使たちが見えないように鼻で笑っておいた。
「「あっ!」」
ラティスが優越感に浸っていると、腕の中の天使たちはそろって声を上げた。
二人とも顔を見合わせて、にっこり笑う。
「ねえ、お父様、あのね、ティーの部屋まで連れて行って!」
「早く、早く!!」
急かされて、ラティスは個人の部屋がある二階へと二人を抱えて上った。普通なら重いと思うところだが、そこは親バカパワーで羽のように軽く感じた。いや、天使なのだから、本当に軽いのかもしれない、と本気で思ったラティスの思考を止めるすべはない。
そして、ティファニアの部屋の前につくと、二人はおろしてとせがんだ。
ラティスは残念に思いながらもゆっくり腰を落とす。
「ちょっと待っててね」
しーっと人差し指を口に当ててティファニアとティリアは部屋の中に入ってしまった。取り残されたラティスはポツンの廊下にたたずむ。いや、それにしてもしーっという仕草をする二人はかわいかったな、と思っていたので、寂しいと思うことはなかった。
部屋の中で少しバタバタと音がすると、中から「どうぞ」という声がして、緊張しながらもラティスは扉に手をかけた。そして、開くと――――
「「メリークリスマス、お父様!」」
ティファニアとティリアがサンタの格好をしていた。あまりにも可愛すぎて、ラティスは固まる。一瞬の瞬きもせず、この姿を目に焼き付けたい気分だ。
ティファニアたちはそんなことにも気づかずに、ラティスの手を引いた。
歩くたびにサンタ帽のポンポンが上下するのがかわいらしかった。
そして、ラティスはティファニアのベッドの前に連れていかれた。人形がたくさんのったかわいらしいベッドである。
「はい、お父様!」
二人の姿に夢中になっていたラティスはその時初めてティファニアのベッドの上に何か箱があるのに気付いた。
その箱はきれいに包装されていた。
「これって……?」
ラティスが目を見開いて二人に尋ねると、娘と息子はキャッキャと笑った。
「クリスマスプレゼントです!」
「実はね、お父様にあげるためにおこずかいをためたんだ!」
ねっ、と二人は笑って顔を見合わせていた。
ラティスはうれしすぎて、言葉にならなかった。
「ありが、とう。……開けて、いいかい?」
「「うん!!」」
ラティスが包装紙を破かないようにと慎重に開くと、そこにはマグカップが5つ入っていた。それぞれに名前が刻印されていた。
『ラティス』
『レイフィア』
『ティファニア』
『ユフィシア』
『ティリア』
紫地に金色で刻印されているだけであったが、それはただ―――
「ありが、とう」
ラティスの瞳からはらりと涙が流れた。
行方不明になった妻ともう一人の娘がいつか帰ってきたときに一緒に使えるようにと作ってくれたのだろう。なんて優しいいい子たちに育ってくれたんだと、ラティスの胸は喜びでいっぱいだった。
「ねえ、お父様、クリスマスは家族みんなで過ごす日でしょ? だから、次はみんなで過ごせるといいね」
「ねっ!」
そう、優しく笑う子供たちをラティスは気が済むまで抱きしめた。
本編の続きは1章分を描き切ってからその分を毎日投稿したいと思います。
だいぶ先になりますので、気長に待っていただけるとありがたいです。




