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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第3章 少女期~邂逅と決意編~
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0.21 アリッサ

遅くなりました。

 思い出したときに感じたのは喪失感でした。

 小さくなってしまった・・・・・・・・・自分の手を眺め、そして、いないことを、温もりがないことを知りました。



 私の娘はもう、私の腕の中にはいませんでした。





 自分の体か弱いことは知っていました。生まれつき小柄なせいで出産が危ないかもしれないと言われていたことも。しかし、私は欲しかったのです。大好きなあの人との子供を。本当の家族を。

 だから私は選びました。子供を産むことを。

 あの人は泣きそうな顔をくしゃりと歪めて笑い、僕たちの子どもだねと言ってくれました。彼の中でいろんな感情が渦巻いていたのは分かりました。でも、彼が私の選択を否定せず、肯定してくれたのは嬉しかったです。

 それからの日々は幸せでした。段々と大きくなるお腹を見て私はあの人と毎日のように喜びました。そして、私は毎日生まれるであろう私の子どもに語り掛けました。早く育ってね。元気に生まれてきてね。些細なことでも伝えたいと思ったことはすぐにお腹に語り掛けました。赤ちゃんが大きくなってくると、お腹を蹴って返事を返してくれるようでした。

 私は生まれつき両親がいませんでした。母は未婚のまま出産し、そして祖母の家に私を預けてどこかに去りました。祖父母は私が幼稚園に入る前までに亡くなり、その後は誰が父親かもわからない面倒な子供と親戚をたらいまわしにされました。家を出るにも祖父母の遺産はいつの間にかなく、私はずっと厄介者扱いをされていました。だから、彼と出会い、付き合い、結婚し、子供ができた時、本当に嬉しかったのです。自分に、本当の家族ができたことが。祖父母は可愛がってくれたそうですが、私は小さくて覚えていませでした。だから、家族というものを記憶の中で一度も感じたことがありません。親戚たちには遠巻きに見られ、同じ家に住んでいてもいつも私だけ一人でした。彼らにとって私は家族ではなく、祖父母の遺産のための存在でした。私はいつも目の前で仲のいい家族が談笑しているのを遠巻きに見つめるしかありませんでした。

 だけど、もうそんなことをする必要はありません。私には家族ができました。彼と赤ちゃんです。お腹の赤ちゃんは私にとって、私と、彼と、そして赤ちゃんとを本当の意味で繋ぐ家族です。

 それから、赤ちゃんが生まれ、毎日が幸福でした。くりくりした目と桃のように美味しそうなほっぺの娘は可愛く、天使のようで、あの人が彩ってくれた私の世界に新しい色をたくさん塗ってくれました。私が笑うと娘も笑い、私はそれだけで幸せでした。彼も一緒に娘を可愛がり、本当に楽しい日々でした。

 でも、もう私の身体の自由が段々利かなくなっていっています。お医者さんも言っていました。あと少しだろう、と。

 だから、私は毎日言いました。幸せよ、愛しているわ、と。毎日、毎日。

 最後見えたのは彼の泣き顔。そして、彼が支える私の腕の中で私の手を握る娘。

 嬉しくて、そして、これ以上一緒にいれないのが悲しくて、でも、これだけは伝えたくて私は言いました。

 家族を教えてくれてありがとう、愛してる。






 ―――私の意識はそこで途切れたはずでした。






 目を開けたら、小さくなっていました。

 小柄だった私でも小さいと思う手。そこに娘がいたはずなのに、と胸が空っぽになった気がしました。

 鏡を見ると、なじみのない色素の薄い茶色い髪と緑の瞳。

 生活に必要なものだけそろえられた簡素な部屋。

 ここはどこ、と思い、声をあげると、私の口から出た言葉は知っている侍女の者でした。


「リリーナ、どこぉ?」


 子供特有の高い声は震えていて、でも、口にしたことで私の短い記憶が頭に駆け巡りました。そして、理解しました。

 ここは私の家であることを。この一室に閉じ込められていることを。私は男爵家の妾の子であることを。そして、私は生まれ変わったことを。

 生まれ変わった、そう考えると、私の中ですとんと何かが落ち着き、混乱せずにこの身体を受け入れていました。


 それからの日々は私にとっては不思議な感覚でした。

 彼女は、生まれ変わった私は、ルチャーナといい、歳は4歳と幼く、前世は小柄でしたが、今世は平均よりも少し高いくらいです。色素の薄い髪と日本では到底見ることのなかった鮮やかなみどりの瞳を持っています。住んでいるところはノイワール家という男爵家で、そして、私は、やはり妾の子でした。私が思い出す前はメイドが話していたことを理解できていませんでしたが、今の私ならばわかりました。私の母は娼婦で、父は家に女児がいないからと将来のつながりのために引き取ったそうです。

 私が普段生活しているところは正妻が私を追いやった離れの部屋です。父が外で作った子供を正妻が認めるはずもなく、私は引き取られたその日にこの部屋で生活するように言われました。父は私はたかが男爵の屋敷の離れです。そこは手入れされてるわけでもなく、メイドが掃除してくれるまではとても衛生状態が悪いところでした。

 私はルチャーナが自分ということを理解しているのですが、やはり自分ではない感覚もあり、とても意識がふわふわ浮いていたと思います。



 しかし、それは学園に通い始めて変わりました。



 私は部屋をほとんど出されることもなく、13になると貴族が通う学園に通わされました。

 父はいい結婚相手を探せと言っていましたが、私はそんなことは気にせずに過ごしました。ほかの学生から妾の子と蔑まれることもありましたが、それは私の試験の結果のおかげで少なくなりました。

 私は学園の試験をマナー以外は勉強せずとも満点を取ることができたからです。前世の知識のおかげでしょう。前世で勉強しかすることのなかった私にとって、学園の授業は簡単なものでした。最高学年が習う算学でも中学校三年生の公式レベルに追いついていないでしょう。だから、私はいい成績を取ることでそういった中傷を避けることができました。

 おかげで、大切な人にも出会えました。


 私はその日、授業がなく、のんびりと中庭で日向ぼっこをしていました。


「まぁ、貴女が噂のご令嬢ね?」


 突然透き通るような声が響きました。授業がある時間に歩き回れる生徒はほとんどいません。加えて、私に話しかける人はいなかったので驚きました。

 私が勢いよく振り返ると、そこには光に照らされて銀色に輝く髪を携えた少女が後ろの太陽もかすむくらい明るい笑みで私を見ていました。


「あ、あの…?」


 私は日本でも、この国でも見慣れないその色に驚いて、口をだらしなくも大きく開けてしまいました。

 すると、彼女は冷たそうに見える青い瞳を優しく細めてふふっ、と笑いました。


「ああ、わたし? わたしはレイフィアよ。レイフィア・アベニウス。貴女は、ルチャーナ・ノイワール男爵令嬢よね?」

「は、はい」

「そう、よかったわ。よろしく」


 急に手を差し出されました。私は驚きましたが、うれしくて、おずおずとその手を取りました。私が手を握ると、握り返してくれたその手は暖かくて、なぜか涙が溢れ出てきました。


「あっ……」


 久しぶりに優しさに触れた気がしました。


「えっ!? ど、どうしたの!?」


 私が突然泣き出したことにわたわたと慌てるレイフィア様はまるで、あの人のようで、余計に涙があふれてきました。


「うぇ、ええっ!?」


 レイフィア様は益々驚いて、落ち着きないしぐさで私を抱きしめました。


「ごめんなさい。わたし、兄しかいないから泣いている人を慰める方法ってわからなくて……」


 少し不器用な抱きしめ方が私はうれしくて、思わずレイフィア様に抱き着いて涙を流し続けました。レイフィア様はそれ以上は何も言わずにただ、優しく頭を撫でてくれました。

 それだけでも私は胸がいっぱいになりました。


 その日から、私はレイフィア様とお友達になりました。


 レイフィア様は数教科試験に受かっている授業があったので、私たちは一緒に過ごしました。その日々はとても輝いていました。レイフィア様は優しくて、温かくて、一緒にいるだけで私の世界を明るくしてくれました。

 そこで私は普通ならば知り合うことさえできないようなラティス様やアルベルト様、イェレミアス様とも出会い楽しく過ごしました。本当に幸せな日々でした。

 彼らと知り合えたこともあり、私を悪く言う人はもうほとんどいませんでした。


 そして、私たちは卒業しました。


 レイフィア様とラティス様は婚約を1年置いて結婚することが決まり、アルベルト様もイェレミアス様も将来がすでに決まっていました。そんな中、私が嫁いだ先はとある伯爵家でした。

 本来ならば、男爵家が伯爵家に嫁ぐなどありえないことですが、私の交友関係と成績に目を付けた家がありました。父はその伯爵家子息の求婚に両手を上げて喜び、私の相談もなく決めてしまいました。


 私が嫁がされたのはその事実を知った数日後でした。

 レイフィア様は私は幸せになってほしいと反対しましたが、止める間もないことでした。

 私は望まれて嫁いだだけあり、最初は歓迎されていました。旦那になった方も悪い方ではなく、学園にいたころにはかないませんが、幸せだった、と思います。

 しかし、それも終わってしまいます。

 私たちには子ができなかったからです。いえ、できましたが、私のこの体は流産しやすい体だったようです。私は大事な子供を2度も顔も見ることができませんでした。

 私は、子供を持ちたいと思っていました。前世の娘のような子がほしいと思っていました。

 この世界に生まれ変わってから、義母にずっと閉じ込められている間、学園で過ごしている間、それはずっと変わりませんでした。

 なのに、なのに―――――


 私はいつの間にか伯爵になった旦那様と離縁させられていました。子をなせない女は必要ないそうです。

 そして、父からも勘当されていました。役に立たない娘は必要ないそうです。


 私は悲しみに暮れるしかありませんでした―――……






「ルーチェ、私の子供を一緒に育てましょう?」





 何もやる気のなかった私をレイフィア様は救ってくださいました。



「この子たちは私とラティス様の子供だけれど、貴女の子供でもあるわ」



 そう言って、行くところのなかった私をウルタリア家においてくれました。



「ほら、触ってみてっ! ルーチェママが来たから喜んでいるわ!!」



「ねぇ、双子よ!! やっぱり私たちの子供でしょ?」



「ねぇ、ルーチェ、抱いてみて。かわいいでしょ?」



「ルーチェ、この子たちは一緒に過ごせないの。でもね、私、二人とも惜しみなく愛したいわ」



「見てっ! 笑ったわ!!」



「ふふっ、ティーはルーチェママのほうがいいのかしら? ずっと服をつかんだままだわ」



「お母様もお父様も喜んでいたわ!! 早く家に帰りましょう!!」



「きゃあっ! 逃げて、ルーチェ!! ティーと一緒に生きて!!」



「ルーチェ!!」





 レイフィア様はいなくなってしまいました。

 私が抱いていた、レイフィア様()の娘、ティファニア様も守り切ることができませんでした。


 私が生きる意味は何なのでしょうか?


 あの人と娘と別れ、ずっと監禁され、望まぬ相手と結ばれ、子は顔も見ぬままなくし、レイフィア様との子をなくし、もう、なんなのでしょう?


 私は、どうするべきだったのでしょうか…?





「ルーチェ!! ティーが見つかったんだ!!」








 また、光が見えた気がしました。




「…おみず、おいしい」





 でも、その光は最初は弱弱しくて、





「アリッサ、いこう!」





 だけど、明るくて、





「なんできのうおこしてくれなかったの! お父様とあいたかったのに!」




 笑顔にしてくれて、





「アリッサ、だいじょうぶ…。すこし、つかれた、だけ……」





 時々、消えそうになって、





「おいひ~~~!!」




 可愛くて、




「じゃあ、その子はアリッサの子どもでしあわせだったんだね」




 優しかった。




 すべてが愛おしくて仕方がありませんでした。




 だから、お嬢様()が何も言ってくれなくても構いませんでした。


 同じ転生者であっても。


 私はお嬢様()が転生者だとすぐにわかりました。

 お嬢様()は日本語で文章を書くことが時々ありました。

 大切な文章のほとんどは日本語で書いていました。


 これから起こるであろう、乙女ゲームというものについても。


 私は前世でゲームというものをしたことがなかったのであまりわかりませんが、この世界は日本で売っていたシミュレーションゲームに似ているようです。その中で、お嬢様()はひどい役柄だったようですが、私はそうなるとは思えません。メモ書きにはすでにそのゲームとは違う話になっていると書いてあるではないですか。

 ならば、もう、心配なさらないでください。お嬢様の憂いはできる限り私たちが取り除きます。

 旦那さまやティリア様、シャルル様、そして、ツクヨミ様。そして、もちろん私もです。





「今できることをやる。アリッサ、勉強道具を持ってきてもらっていい?」





 ―――だから、だから、そんな顔をなさらないでください。


 私が、貴女を、レイフィア様と私の娘である貴女を、お守りいたします。






「ありがとう、アリッサ」





 私こそ、感謝でいっぱいなのですから。


 愛しています、ティー。私の娘。

うーん、ちょっとまとまりがなかったかなぁ。。。

もしかしたらもっと長くするために編集するかもです。


ちなみに、アリッサたちは前世の話はあれ以来何もしていません。

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