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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第3章 少女期~邂逅と決意編~
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41 対策と出発

「で、対策って何するの?」


 照れた顔を隠しながら首を傾げるツクヨミを見上げると、ティファニアはにこりと笑って言った。


「うふふ、それはね、ツクヨミレーダーを使おうかなって思ってるの」

「俺がレーダー?」

「うん。ツクヨミって、自分の紋様を付けた人の場所が分かるんでしょ?」

「まあ、そんなに遠くなかったらね」


 ツクヨミは自分の紋様を付けた人の居場所が分かる。それは近いときははっきりと、遠い場合はぼんやりと、だ。感知圏内はそう大きくないが、ツクヨミは近くにいるならば、ティファニアとラティス、ティリアそして、ユフィシアの居場所が分かるのだそうだ。ウルタリア侯爵家に生まれた子供は生まれてすぐに紋様を付けるため、ラティスの姉たちも近くに来れば分かるらしい。

 実はティファニアを見つけたのはツクヨミのこの探知能力のお陰だ。はっきり言って、ティファニアは白金の髪と珍しかったが、行方不明になってから見つけるのはラティスの情報網でも無理であった。それは砂漠に落ちたコメの一粒を探すような作業だ。ほとんど絶望的であった。

 しかし、ラティスがある出張である領地を素通りしたとき、持っていたまじないの指輪がわずかに光ったのだ。それは不意打ちの物理攻撃から身を守るまじないがかけられている指輪であったが、突然光った。ラティスは最初は首を傾げるだけだったが、淡く何度も点滅するそれにまさか、と思った。そしてそれは、本当にラティスにとっての天啓であった。

 あの時、ツクヨミは自分の紋様を付けたティファニアが近くにあると感じ取り、ラティスに何とか伝えた。もともとツクヨミはティファニアが生まれたころから『契約者の愛し子』と決めていたそうなのだ。その愛し子が近くにいて、弱っているかもしれないと思い、必死にラティスに呼びかけたのだ。

 案の定見つけた時、ティファニアは虫の息でありそのあと大変だったのだが、ツクヨミのその能力のお陰でティファニアは今この場にいることができる。


「じゃあ、あの女・・・の気配もわかる?」

「……まあね」


 ツクヨミの返事にティファニアはほっとした。これで対策がだいぶ楽になるのだ。

 ティファニアたちがこれから通う学園は敷地は広いが、過ごすうえで行動する範囲はそう広くない。ツクヨミが常に自分の紋様を付けた人の居場所を把握できる程度だ。つまり、だ。ティファニアはユフィシアの居場所を把握することで接触を避けることにしたのだ。

 これであの女・・・は自分の大切な人たちに接触すら難しくなる。そう思ってティファニアは満足した。

 常に居場所を把握するなど、少しストーカーっぽいっと思ったのはみんなを守るためには仕方がないと頭の片隅に追いやった。


「ねえ、ツクヨミ、学園にいる間あの女・・・の居場所を教えて。不可避な授業以外はシャルと殿下に接触させないから」

「……まあ、いいけど。でも、あいつはゲームの内容を知ってるんだろ?」

「うん。でも、シナリオ通りに進めるのは無理だと思う」

「どういうこと?」


 首を傾げるツクヨミにティファニアは説明した。実は、ユフィシアが見つかった時点でシナリオとは違うことを。

 今日、カマリアネス伯爵家で話を聞いた限りだと、ユフィシアの学園への入学は来年の春、つまりティファニアと同じだ。ユフィシアはこの半年、貴族としての教育をみっちり受け、そして一緒に入学することになっている。

 しかし、ゲームの中ではユフィシアは編入生・・・だった。シナリオだとユフィシアはティファニアが二年生に進級してからすぐに見つかり、その半年後に同じ学年に編入してくるのだ。


「だからね、あの女・・・は攻略者と出会うところから違うの。ここはゲームじゃなくて現実世界なんだから、シナリオ通りなんて進められるはずがないよ」

「……ふーん」

「でも、まあ、保険はかけておこうかな」

「保険?」

「うん。これは逆ハーレムエンド(?)への鍵だったと思う。これは記憶で幼馴染が言ってただけだからよく覚えていないんだけど、なんか、学園に入ってすぐのステータスの振り方がとある状態になってるとできるものなんだって。確か、逆ハーレムって一人じゃなくて複数の攻略者と直ぐ結ばれるんだっけな。……って、ビッチじゃん!」


 突然ティファニアが叫んだことにツクヨミはびくりと肩を揺らした。

 そして、ティファニア自身も自分の口から出た暴言に驚いていた。口を軽く手で覆い、目を見開く。


「ティア……?」

「う、ううん。何でもない。それでね、えーっと、その逆ハーレムエンド(?)に行くには、生徒会に入らなきゃいけないの」


 気を取り直して説明を再開すると、ツクヨミは面白くなさそうだった。しかし、ティファニアは構わず続ける。


「その生徒会って言うのがね、入学してすぐに行われるテストの結果で入れるものなの。だから、わたしが勉強を頑張って生徒会に入ればいいかなって。ゲームだと、生徒会長はジュリアン殿下で、副会長はユーリ殿下、会計はシャル、あと騎士とティリアも後から入って、ウルリヒ様が顧問だったと思う」

「へえ、勢ぞろいだな」

「そうなんだよね。だから、必然と攻略者と接触する機会も増えちゃうの。でも、今回は私が生徒会に入ってみせるよ」

「それが保険?」

「うん。生徒会に入れるのは学年に一人か二人。シャルが選ばれるなら、もう一人はわたしがなればいいんだよ。あの女・・・がどれくらい勉強できるかわからないけど、侯爵家のわたしの方が優先されるはずだから」


 学園ではみな平等と謳っているが、実際はそうではない。家格はどこでも関係してくる。それは交友関係であったり、パーティーでの席の順番であったりする。実際に平等なのは勉学の面のみだ。

 しかし、その勉学でティファニアとユフィシア、二人とも満点を取ったとした場合、優先されるのはやはり侯爵家であるティファニアだ。家の力をこのように発揮するのは嫌だが、今回は仕方がないと割り切ることにした。そもそも幼いころから貴族教育をされているティファニアはどれだけユフィシアが優秀だとしても一年生の勉強で負けることはないとは思うので、家の力は使うことはないだろうという気持ちもある。


「ふーん、じゃあ、対策はそれでいいの?」

「うん。でも、ちゃんと守って見みせる。あの女・・・が何か行動したら他にもすると思うけど今はそれだけ。」


 ティファニアが今できることは勉強だけだ、と思うと、ベッドから手を伸ばし、サイドテーブルの鈴を鳴らした。ツクヨミがいまだに自分を抱きしめているので、現状できる行動範囲が少ない。

 鈴を鳴らしてしばらくすると、アリッサがお呼びでしょうか、とやってきた。ティファニアは頷いて勉強する用意をしてほしいという。入学までにできる勉強は終わらせておきたいのだ。

 しかし、アリッサは渋い顔をした。


「お嬢様、今日はもう遅いですわ。それに、顔色もよくありません。もうお休みになった方がよろしいかと思いますわ」


 アリッサに体調不良を指摘され、ティファニアはそうかな、と首を傾げた。疲れてはいるが、そんなに体調が悪い気がしてなかったのだ。しかし、言われてみれば少しだるい気もした。

 勉強を詰めたいが、心配させるのは本意ではないので、ティファニアは今日は大人しく寝ることにした。


「わかったわ。今日は休むことにする」


 ティファニアの了承の言葉を聞いて、アリッサはほっとした表情になると、寝る準備をしてくれた。





 お風呂に入り、寝間着に着替え、もうベッドに入るだけ、というとき、ティファニアはベッドのわきに座り、部屋で作業をしているアリッサを見た。


「ねえ、アリッサ」


 ティファニアにの声に気付き、アリッサは手を止めていかがいたしましたか、と丁寧に答える。


「バタフライエフェクトって知ってる?」


 アリッサの緑の瞳を真っすぐ見つめ、ティファニアは問いかけた。それはこの世界にはないはずの言葉だ。

 アリッサは少し驚いて、そして、返事をせずに曖昧に笑った。


「小さな行動が大きな結果をもたらす。元々は力学の話だけど、いろんなファンタジーの物語で小さな過去がとある未来の事象に繋がったことも言うよね」


 淡々と説明する言葉が物音一つない静かな部屋に響いていた。


「だからね、わたし、感謝してるの。今の状況に。ありがとう、アリッサ」


 それだけ言うと、ティファニアはベッドに潜り込んだ。布団をすっぽりかぶると、外から鼻をすする声がした。


「……わたくしこそ、ありがとうございます」


 誰かが発したその声は自らが光を消したことで薄暗くなった部屋に溶けて消えた。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ティファニアのそれからの日々はめまぐるしく過ぎた。

 まずは領地に向かい、領内で必要なことを行い、王都に帰ってくると学園に必要な制服やドレスを作り、そして、執務を行う。そのハードなスケジュールの間に勉強やマナー、ダンスを学ぶ。やるべきことが多く、ティファニアはユフィシアのことなど思い出さない日もあったくらいだ。

 当のユフィシアも報告を聞く限りだと忙しく、パーティーなどにはほとんど参加していないそうなので、シャルルやユリウスと接触した様子はない。しかし、これからは毎日気に掛けることになるだろうな、とティファニアは内心ため息をついた。


「お姉さま、どうかしましたか?」


 学園に向かう馬車の目の前で少し俯いたティファニアを見て、ティリアは心配そうな声をあげる。

 それを聞き、ティファニアは慌ててにこりと笑った。


「大丈夫。ただ、みんなと離れるのが寂しいだけよ」


 そう、これから学園に向かうのだ。学園は寮生活なので、長期休みにならないと屋敷に顔を出すことはほとんどできない。一緒に行くアリッサ以外の大好きな使用人たちともしばしの別れなのだ。

 ティファニアは一度ティリアから視線を外すと、お見送りに来てくれている使用人たちを見た。


「皆さん、また長期休みに帰ってきます。今まで本当にありがとう」


 最初来た頃はとても小さく、今にも死にそうだったお嬢様が立派になった、と仕事を早く片付けて見送りに来ていた使用人たちはほろりと涙をこぼした。ティファニアはレイフィアと双子の娘たちがいなくなり、そして、アドリエンヌが来たことで暗くなっていた屋敷に差した光だった。この数年は大変だったが、使用人たちもとても幸せな日々だったのだ。


「いえ、お嬢様が立派になられて私共は幸せでございます。どうぞお身体にお気を付けください。いつでもお嬢様の帰りを待っております」


 代表して口を開いた執事長に皆が頷いた。それだけでティファニアは幸せだった。


「ありがとう」


 お世話になり過ぎて、言いたいことが他にもあったが、ティファニアには今はそれしか出てこなかった。


「お姉さま、」


 目の前にいたティリアに呼ばれ、視線を弟に戻す。弟は寂しいようで、眉尻を下げていた。


「お姉さま、学園で辛いことがあったら、ぼくに頼ってくださいね。いつでも待ってます」

「ええ、ありがとう、リア。また半年後にね」

「……はい」


 ティファニアはティリアの頬を両手で挟み、少し背伸びして額にキスをした。

 そして、最後に大好きな父親と向き合う。


「お父様、行ってまいります」


 いつもはスキンシップ過多なラティスは今日はティファニアを一度ぎゅっと抱きしめただけだった。そうでなければラティスは離せない気がしたからだ。


「ああ、ティー、行ってらっしゃい」


 ラティスは手を振った。娘の門出に。自分が出張で見送られることはよくあっても、見送るのがこんなにつらいと思いもよらなかった。


「また、戻ってきてくれるかい?」


 凛々しい顔に似合わぬ弱々しい声が響いた。


「もちろんよ。愛してる、お父様」


 ティファニアは自信満々に笑った。

 ラティスが少し虚を突かれたような顔をする。しかし、すぐに表情を崩した。


「ああ、愛してる、ティー」

「うふふ、じゃあ、行ってきます! みんな、お元気で!!」


 ティファニアは軽やかに馬車に乗り込むと、窓から手を振った。

 本番はこれからなのだ。

突然のアリッサのカミングアウト。

まあ、割とフラグを立てていたので気付いていた人はいたと思いますけど。。。


これでこの章は終わりです。


次から学園編に入ります。


お知らせです。

資格試験の時期(?)になりました。

リアルが忙しいのとそろそろ本腰を入れないとヤバいので、半月ほどお休みします。

次の本編の更新は11月23日(水)になると思います。

お手数おかけいたします。

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