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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第3章 少女期~邂逅と決意編~
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36 成長と朗報

突然の4年後。

すみません。間違えていたので、5年後から4年後に修正しました。


一話前に忘れていた話を挿入しました。

「ティア、今日もあいつが来るの?」


 ツクヨミがけだるげな声をあげ、浮かぶ・・・身体で後ろからティファニアの肩に抱き着いた。その端正な顔はしかめっ面をしており、はっきりと嫌悪感を現していた。どうやら、契約者たちは歩くのが面倒だと浮かんでいることが多いらしく、ユエの契約者もそうだが、ツクヨミもティファニアについているときは常に浮いている。


「今日はお茶会で他の人も招いているからシャルと顔を合わせることはほとんどないよ。だから、ねっ?」


 ティファニアは不機嫌なツクヨミをなだめるように言った。

 ツクヨミと出会ってから既に4年経っている。しょっちゅう我が儘を言うツクヨミの機嫌を取るのはティファニアにとっては日常茶飯事なのだ。

 長くなったティファニアの髪を自分の指にくるくると絡めて、ツクヨミは拗ねるような顔をした。


「だって、あいつ、俺のティアに馴れ馴れしすぎだと思うんだけど?」


 俺のティアなのに、と口を尖らせて言うツクヨミに、ティファニアは上品にうふふと笑った。口に手を当て、微笑むその姿は洗練されたもので、小さな動きでさえ優美に見えた。

 ティファニアはこの4年で11歳になった。低かった身長も平均より少し低い程度に伸び、顔つきも子供の丸い輪郭からすっとすっきりしたものに変わった。身体つきはだんだんと女性らしくなり、小さな胸のふくらみが見えるようになった。それに反比例するように腰は少しずつ細く括れていき、天使と言うよりは女神と言う表現に近い姿になってきた。

 ティファニアは少しつり眼のパッチリと開いた瞳からのぞかせる紫を少しだけ細めると、思い出すように微笑み、口を開いた。その微笑みは乙女ゲームのティファニアにはないもので、とても柔らかい。


「ツクヨミ、シャルは家族よ。馴れ馴れすぎではないわ。それに、ツクヨミとは朝から夜まで一緒なのだから少しはいいじゃない?」

「いや、あいつはダメだ。あと、なんとかって王子も。あいつらは俺のティアに対して下心があるんだよ」


 どうやらツクヨミは初対面の時からシャルルやユリウスが嫌いなようであった。下心がどういう意味で言っているのかはティファニアには首を傾げるしかなかったが、ツクヨミが彼らに会いたくないのはティファニアから遠ざけたいという意味合いもあるようだった。

 さすがに仲良くなった二人から、特にシャルルからは離れることは出来ないな、とティファニアは苦笑するしかなった。


「ダメでも二人と会わないなってできないからね? 特にシャルがいないと、困るもの」

「俺は仕事を変わってやれないからなぁ…。くっ、なんかあの小僧に後れを取ったみたいで悔しいっ」


 ツクヨミはティファニアの胸元にある拳をギリリと握った。

 すると、ティファニアはその手を両手で優しく包み込みこんだ。


「ツクヨミにはツクヨミにしかできないことがあるじゃない。私はツクヨミがいつもそばにいてくれて助かってるわ」

「ティア……!」


 感極まってツクヨミはティファニアを前からぎゅうぎゅうと抱きしめる。それにこたえるようにティファニアも背中に手を回した。

 しかし、ツクヨミの至福の時間はすぐに終わってしまった。


「ティー、久しぶり」


 扉が開かれ、そこからシャルルがにこやかに歩いてきたからだ。シャルルには張り付けたような笑顔が浮かんでおり、心なしか、その目は笑っていない。


「シャル、いらっしゃ……」

「ようこそ。そして、帰れ」


 ティファニアがにこやかにシャルルを出迎えると、ツクヨミはあからさまに嫌そうな顔をした。そして、顔をあげたティファニアをもう一度抱き寄せて言葉を遮り、扉の方を指さしてシャルルを冷たくあしらった。

 しかし、シャルルは動じた様子はなかった。


「お久しぶりです、ツクヨミ様。その命令は残念ながら聞けません。そして、毎度毎度言わせていただいていますが、未婚の女性であるティーにくっつかないでくださいますか?」

「はあ? ティアは俺のだから何してお前には関係ないだろ?」


 二人は犬猿の仲なのである。

 ティファニアがツクヨミを見ることができるようになり、そばにいるツクヨミの存在を看破したのはラティス、シャルル、そして、アリッサだけだ。

 ラティスはウルタリア家の当主であり、今のツクヨミの契約対象でもある。そして、ティファニアが『契約者の愛し子』だと知っていた。実はティファニアの近くに契約者であるツクヨミが常にいたことは気配だけだが感じていたらしい。その気配が大きくなったことで、ティファニアがツクヨミを見れるようになったことが分かったのだ。

 シャルルの場合は、ティファニアの仕草や目線でわかったそうだ。シャルルも公爵家であるため、魔力が高く、魔力を感じ取る力も高い。ティファニアの近くに違和感を覚え、そして、ティファニアが時々そちらに目を向けたりしていたので、そこに何かあるのではないかと思った。シャルルも『契約者の愛し子』という存在を知っていた。もしかしたら、ティファニアはそうなのかもしれないと勘ぐり、探りを入れてみたところ、ティファニアが正直に話したのだ。

 アリッサに至っては、ティファニアは理由がよくわかっていない。しかし、ツクヨミに出会った日、部屋に入ってきた瞬間、アリッサが「なにかいますね」と呟き、見えないはずのツクヨミのいる方に顔を向けたのだ。それにはティファニアも目を見開いた。すぐに真相を話し、契約者のことに理解を得たのだった。そのお陰で、端から見ると、ひとりごとのように見えるティファニアとツクヨミの会話は不審に思われずに受け入れられている。


「関係なくありません。僕はティーの家族です。ティーが変な噂を立てられないようにするのは当たり前です」


 シャルルは目を細め、透けるように見えるツクヨミを冷たく見据えた。

 ツクヨミが姿を見せようと思えば、幽霊のように身体は透けるが、魔力の高い者だけは少しの時間可視することが出るのだ。ツクヨミはよく、シャルルを挑発するためにわざと姿を現していた。


「俺をみえる奴なんてほとんどいないんだ。そんな噂が立つわけがない」


 そういうと、ツクヨミはにやりと笑い、お前の下心がそう思わせているんだ、とシャルルにだけ声を届けた。

 その言葉にシャルルは奥歯をギリリと嚙んだ。魔法を使っているため、ティファニアにはその一言は聞こえていなかったらしく、きょとんと首を傾げているだけだった。

 ああ、ティーは、と思うが、その思考はティファニアによって続けることはなかった。


「シャル、ツクヨミ、喧嘩しないで。それに、お客様がくる時間が迫っているわ。もう準備を始めないと」


 行こう、とティファニアはシャルルの手を引いた。

 今日は仲のいいお友達だけを招いてのお茶会である。シャルルは早めに来て、友人たちを出迎えるのを手伝ってくれる予定だったのだ。早くお茶会をする北の薔薇園に行こうとティファニアはシャルルを急かす。

 今日来るティファニアの友達は、この4年で数えるほどの社交の場にしか顔を出していないティファニアの数少ない友達だ。

 ヴェレット商会が有名になり、そして、ウルタリア侯爵領が栄え始めると、ティファニアと好を結びたいとすり寄ってくる人が増えた。それまで侯爵令嬢でありながら、ティファニアの生い立ちと見た目で忌避していた者たちは手の平を返すように仲良くしようとしたのだ。しかし、そのような邪な心を持つ輩がティファニアに近寄るのを見逃すラティスではなかった。社交の場では極力ティファニアから離れず、自分たちの子どもを使って少しでも交流を持とうとするのもできうる限り阻止した。ティファニアはラティスのこの行動を窮屈と思うこともなく、逆に社交界での相手の位置づけが分からないことが多かったので助かっていた。そして、ラティスに愛されているということも実感でき、嬉しかったほどだ。

 つまり、今日来るティファニアの友人たちはそんなラティスの目に適った者たちだけだ。

 ラティスは交友関係に家柄を気にする性分ではないため、子爵令嬢や男爵子息もいるが、彼らは人柄がよく、ティファニアを忌むことなく本当に友達と思ってくれる子たちだ。


「お姉様! シャル兄様!」


 北の薔薇園につくと、先に用意をしていたティリアが待っていた。

 10歳になり、既にティファニアの身長は超えてしまったが、相変わらずティファニアが大好きであることは変わらない。満面の笑みでティファニアとシャルルに手を振る。


「リア! 準備してくれてありがとう!」


 お茶会の会場はすでに整っていた。

 鮮やかな薔薇が彩る花壇の中には広めのガセボがあり、そこには真っ白なクロスがかかったテーブルが置かれていた。その上には色とりどりの薔薇が活けられた花瓶が置かれている。席は人数分用意されており、今日はシャルルが一番身分が高いため、上座に座ることになっている。

 ティファニアは小さな会場をざっと見渡すと、満足し、嬉しそうに笑う。


「これでよさそうね。じゃあ、皆さんを迎えに行きましょう」


 ティファニアがくるりと身を翻すと、シャルルが優しく微笑みながらエスコートの手を差し出していた。


「さぁ、ティー、行こうか」


 シャルルも今年で11になり、顔つきは青年に近づいた。スラリと伸びる身長はティファニアよりも頭半分も高く、ティファニアよりも薄い菫色の瞳で優しく微笑む姿はどこかの第2王子よりも王子らしい。色素の薄い水色の髪は三つ編みに綺麗に編まれ、左肩に流すようにたらしている。その微笑は優しく、乙女ゲームのシャルルのような冷たさは全くない。


「ありがとう、シャル」


 ティファニアがそっとシャルルの手を添えると、次は反対側からも手が差し出された。


「お姉様、行きましょう」


 少し幼さが残る笑みでティリアが手をティファニアの方へ差し出していた。その顔はシャルルに先手を取られたせいか、少しだけ拗ねているようにも見える。天然パーマのふわふわとしたチョコレート色の髪はシャルルと同じく後ろに一つにまとめられ、ティリアが動くたびにゆらゆらと背中で揺れている。その笑みは無邪気さがあり、乙女ゲームのシャルルのような軽薄さは全くない。


「ありがとう、リア」


 ティファニアは嬉しそうに反対の手を添える。

 こうしてティファニアは二人にエスコートされ、玄関へと向かった。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 お茶会は無事に終わり、ティファニアはふぅ、と息をつく。

 仲のいい友達だけとのお茶会だが、こちらが主催者であるため、少し肩に力が入っていたようだった。


「お姉様、疲れているなら、僕が後始末をするから休んでいいよ」


 既にシャルルも含めた客は全員帰っており、今は玄関ホールで見送り済ませたティファニアとティリアだけだ。


「大丈夫よ。少し気を張り詰めていただけよ」


 ティファニアがにこりと笑うと、ティリアは心配そうに眉を下げた。


「本当に?」

「ええ、本当よ。これくらいで疲れていたら、執務なんてできっこないもの」


 数年前からティファニアは少しずつ執務を手伝うようになった。そして、最近は本格的に関わるようになり、ヴェレット商会のことや領内のことはラティスがいない間はティファニアだけでも切り盛りできるほどだ。その執務は本来は子供がする量ではないため、ティファニアはそんなに虚弱ならばあの執務はこなせないところころと笑った。


「う~、僕も手伝えればいいんですけど……」

「大丈夫よ。リアも出来るようになるわ。今はその為の勉強じゃない。ねっ?」

「そうですけど……」


 もう少しお姉様の負担を減らしたいんです、と少し拗ねた顔でティリアは目を口を尖らせた。

 しかし、ティファニアは大丈夫よ、とだけ言って嬉しそうに笑った。自分を心配してくれる弟の気遣いは嬉しいが、ティファニアが執務に早くから関われたのは前世の知識のお陰である。下地があったからこそできたのだ。だから、ティリアには今はその下地を作る作業を頑張ってほしいと思うのだ。

 そして、ティファニアはティリアには言っていないが、ツクヨミと言う心強いストッパーが近くにいるのだ。本当に大変な時には普段は人がいるときは息を潜めているツクヨミから声がかかっている。ティファニアのすぐ近くに浮かんでいる彼から何も言われないということは問題ないのであろう。


「じゃあ、行きましょうか」


 ティファニアがティリアの手を引くと、外から馬の蹄の音が近づいてきた。

 何だろうと二人は首を傾げる。ラティスが帰ってくるには日は高すぎる。普段の帰宅時間は一緒に夕飯が取れるギリギリの時間なのだ。

 もしかしかしたら、友人たちの中の誰かが忘れ物でもしたのかもしれないと思い、二人は扉を開けてもらう。しかし、その馬車は二人の予想とは違う見覚えのあるウルタリアの馬車であったのだ。

 見慣れた御者が馬を止めると、勢いよく馬車の戸が開かれた。すると、そこからラティスが出てきた。すぐにティファニアとティリアに気付くと、駆け寄ってくる。その顔は満面の笑みを浮かべており、二人を勢いよく抱きしめた。


「お、お父様!? どうしたの?」


 ティファニアが驚いた声をあげると、ラティスはふーと自分を落ち着かせるように息を吐き、身体を離して、二人を見つめた。その顔はニヤけており、幸福感があふれていた。


「聞いてくれ、ティー、ティリア!! 見つかったんだ!!」

「見つかったって、何がですか?」


 嬉しすぎるためか、ラティスの話は要領を得なかった。

 ティリアはきょとんと首を傾げる。

 すると、ラティスは興奮冷めやらぬ声で、また言った。


「何がって、フィーがだよ!! 見つかったんだ!! ティーの双子の妹が!!」


 その一言でティファニアは思った。ああ、ヒロインが見つかったのだ、と。

お茶会に来たお友達はまた後程。


そして、ヒロイン登場までいけなかったぁ。。。

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