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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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0.19 真珠ちゃん、泣く、泣く、そして……。

真珠ちゃんシリーズのラストです。


やっぱりちょっと読みにくいと思います。


前回と同じく、流血・残酷表現があります。

苦手な方は、ご注意を。。。

 男は項垂れていた。

 目の前には小さな女の子が膝を抱えるようにうずくまっており、その姿は今にも地面に溶け込みそうであった。

 男はその女の子を痛々しそうに見ると、重い口を開いた。


「ごめん、ルゥルゥ。また、間に合わなかった」


 知っている声が聞こえ、女の子――ルゥルゥは顔をあげると、へらりと力なく笑った。


「えー、ユエさん、わるいことしたのー?

 わるいことしちゃ、だーめっ!

 エルドがおこっちゃうよぉ!」


 ルゥルゥの空元気に男――ユエは泣きそうな顔になる。

 そして、また言った。


「ごめん、ルゥルゥ。また、クーツェを守れなかった」


 ルゥルゥは目を細め、また、笑った。


「クーツェはつよいからだいじょうぶだよー。

 ルゥはいつもまもってもらってるもーん!」


 グッとガッツポーズをつくると、ルゥルゥは胸を張った。

 しかし、ユエはまた言った。


「ごめん、ルゥルゥ。みんなの遺体、全員分は見つけられなかったんだ。きっと、川に流されてしまって……」


「いたいー?

 いたいってなぁに?

 いたいって、ルゥがおめめ、いたいたのこと?

 なんかね、ルゥのおめめからおみずがでたらね、いたいたになっちゃったのぉ」


 目を擦るルゥルゥに、ユエはいつの間にか涙を流していた。何もできなかった自分が歯がゆい。


「ごめん、ルゥルゥ。あの人数だったら、クーツェも魔力が足りなかったんだ。君の放出された力でやっと使えたんだよ。クーツェはもともと、紋様はなかったから。俺は、他人に紋様を付けられないんだ……」


「まりょく? もんよー?

 まりょくって? もんよーって?

 もおーっ、ユエさん、むずかしいことばっかいうーっ!」


「ごめん……! ごめんね、ルゥルゥ。俺は、俺は、長く生きてきたけど、いつも後悔してばかりだ……! 昔も、この小屋が前に襲われた時も、クーツェが男たちに襲われた時も、今も、後悔でいっぱいだよ…」


「こーかい?

 ルゥもしたよー。すごーく、こーかいしたの。

 いつかはおぼえてないけどねー。

 うふふっ」


 ユエは無邪気に笑うルゥルゥを強く抱きしめると、ただ、涙を流し続けた。何もできなかった自分とこの小さな女の子に何もできない自分が恨めしくて、情けなかった。

 だが、それ以上にユエは悲しかった。クーツェが、みんなが、いなくなってしまったことに。

 たまにしか来ない自分に対して歓迎してくれて、いつもおいしい手料理をふるまってくれた、ユエの大事な大事な家族のような存在はもう、いない。

 それはユエの心にぽっかりと穴をあけたのだった。








 クーツェたちが襲われ、埋葬してからもう、何日も過ぎていた。

 ユエが手ずから作った墓は立派とは言えなかった。しかし、ユエは自らの力で作ってあげたくて、棺を作り、穴を掘り、彼女らを埋めた。重労働は胸が空っぽすぎて苦ではなかった。


 その墓の前に尋ねると、今日もそこにはルゥルゥがいた。

 ルゥルゥは昨日去ったときと同じ体勢でうずくまり、墓石にすがるように手を触れていた。

 その姿を見て、ユエはまた、涙を流す。


「ごめん、ルゥルゥ。ごめん、ごめん。だけど、もう、泣かないで。何日もそこにいるじゃないか……! 君が死んでしまうよ……!」


 知っている声がし、ルゥルゥは顔をあげた。そして、へらりと笑う。


「ルゥがないてるー? ルゥはないてないよぉ?

 ちょっとさびしーだけ。

 だってね、みんな、いなくなっちゃた。

 みんな、みーんな。

 みんな、うごかなくなってね、ユエさんがうめちゃったの。

 こーしないと、いけないってユエさんいってたもんねー。

 だからね、ユエさんはあなつくってね、うめてたでしょ?

 そしたら、みんないなくなっちゃった。

 ルゥはひとりになっちゃった!

 だからねー、ルゥはさみしーのぉー」


 えへへと、笑うその姿はもう、力がなく、今にも死んでしまいそうであった。

 その姿に、ユエは覚悟を決める。

 もう、自分はこの土地を離れなければならないのだ。ルゥルゥを旅先に連れていくことは出来ない。

 ならば、この小さな子供が生きるにはどうすればいいのか。そう思って、ユエが導き出した答え。

 ユエは強く拳を握り、隣に浮かぶ・・・相棒に目配せをした。

 そして、言った。


「ごめん、ルゥルゥ。お願いだから、ここを離れよう? そこにはもう、クーツェたちはいないんだよ? クーツェたちは、しんじゃったんだ……。だから、だったら―――……」


 ごめん、ルゥルゥ。

 そう、ルゥルゥが耳にすると、意識は勝手にぷつんと途切れた。












◇ ◇ ◇ ◇ ◇





『ああ、私の真珠ちゃん』


 何かが聞こえた気がして、うーんと声をあげて、少女は伸びをした。

 少女は土の上に眠っていたようだった。その土は一度掘り返されたかのように周りの土の色より少し濃かった。横にある大きくて、何か文字が書いてあったが、少女には読めなかった。

 少女は首を傾げた。なぜ、外で寝ているのだろう、と。

 同時にお腹がぐーっとなる。どうやら何日も何も食べていないようで、喉はカラカラ、お腹は背中とくっつきそうなくらい空いていた。


『おなかすいた時には食べないとね!』


 誰かの声がした。

 そうだ、サファニアだ。しかし、サファニアとは誰だろうと少女は首を傾げた。

 そして、自分の隣になぜか置いてあったパンを手に取った。少し硬くなっていたが、空腹は満たすことができた。


『さあ、帰ろうか。俺たちの家に』


 誰かの声がした。

 そうだ、エルドだ。しかし、エルドとは誰だろうと少女はまた、首を傾げた。

 だが、その言葉は守らなければいけない気がして、少女はなんとなく『家』と呼ばれたもののありそうな方角に足を向けた。


『ルゥルゥ、ぼくたちの手を放しちゃだめだからね』

『そうよ。繋いでないと、迷子になっちゃうからね』


 誰かの声がした。

 そうだ、マイカとブロンだ。しかし、ルゥルゥって誰だろう、マイカとブロンとは誰だろうと少女はこてんと首を傾げた。

 そして、手を繋ごうとしたが、その手は空を切っただけだった。少女の手には空しさだけが残った。



 少女が向かった先には小屋があった。その小屋からは煙が立ち上っていた。

 少女は思った。

 そうだ、ヴィレットだ、と。しかし、ヴィレットとは誰だろうと少女は首を傾げた。

 少女は確かめたくて、先ほどから浮かぶ名前が、浮かばない顔が、知りたくて、走って小屋に向かった。

 小さな足は先ほどから歩いていたせいで疲れていたが、そんなことも構わずに少女は駆けていた。知りたい、その欲求に突き動かされて。

 少女が勢いよく扉を開けると、そこには、知らない男たちがいた。

 男たちは下卑た笑いで少女を見た。







 それから少女が過ごした日々は、地獄だった。




 少女は毎日のように殴られた。

 意味もなく、何度も、何度も。

 男たちは楽しそうに笑い、少女が顔をぐちゃぐちゃにして叫ぶ様子を見ていた。


 少女の爪が、一枚、また一枚と剝がされる。そして、小指から順番に少しずつ指の骨を折られていった。

 少女は泣き叫ぶが、煩いと罵られ、そして、殴られるだけだった。


 少女の背中にジュッと熱いものがつけられた。

 それは先ほどまで男が口にくわえていたもので、火を消したいからと背中に押し付けられたのだ。

 少女の背中には斑点のようにたくさんの小さな赤い跡があった。

 少女はいたい、熱い、と言うが、男の蹴りが飛んでくるだけだった。




 少女は最初の内は泣き叫んでいたが、段々と何も言わなくなった。

 自分の心を奥に、奥にずぶずぶと沈め、そして、時が過ぎるのを待った。

 男たちは感情のはけ口として少女を嬲っていただけだった。ただの憂さ晴らしである。それに、拷問の様な事を加えることで男たちは娯楽要素も見出していた。

 それに、少女はただただ耐えた。


 少女にはこの家を離れるという選択肢もあった。

 だが、ここは自分の家である気がした。

 そして、誰かが自分を守ってくれると言ったのだ。誰だかはもう、思い出せないけれど。

 だから、少女は何があってもこの家に帰ってきたのだ。



 少女はこの小屋で、食べ物がほとんど手に入らなかった。

 だから、盗みやごみを漁ることで食いつないだ。

 水は家の裏にある井戸から泥水の様なものを組んで飲んだ。

 何日も食べないこともあった。

 それでも、少女は理不尽な暴力と空腹に耐えて、誰かが助けに来てくれると、守ってくれると思って生きた。






 しかし、少女の想いは空しく、終わることになる。

 一年ほど少女はその生活に耐えていたが、ついに力が尽きたのだ。


 あの小屋ではなく、小屋のある森の近くのスラムまで少女は食事を漁りに来ていた。

 少女はもう何日もまともな食事を口にしておらず、本当におなかがすいているのかわからない状態だった。

 何かを口にしないと、と少女は思ったが、ごみを漁りに暗い裏路地に入った瞬間、力が抜け、崩れるように膝をついた。そのまま近くにあった木箱に身体を預ける。

 もう、力はほとんど入らなかった。

 少女は死ぬのだと思った。

 しかし、死にたくないと思った。

 死ぬのが怖かった。生きていたいと思った。



 少女が恐怖に包まれていると、いつの間にか目の前に身綺麗な青年がいることに気付いた。

 そして、青年は言った。


「久しぶり、ティファニア。愛しい僕のティー」

冒頭に戻ります。


真珠ちゃんシリーズ終わりました。

作者としては人数が多くてとても書きにくかったなぁと思っています。

もう少し減らせばよかったと何度後悔したか…w

おそらく、読者さんも突然出てきたよくわからない話で読みにくかったと思います。

すみません。


この真珠ちゃんシリーズですが、前にも言ったとおり、そんなに深く言及する気はないです。

いつか活動報告にでも裏話をかければなぁと思っています。

ユエさんについては次話でちょこっとでますので、それで納得していただければいいなと思います。


次はついに倒れたティファニアが起きます。

やっと(少しだけ)ファンタジーっぽくなりますので…w


次回は、わたしと悪魔とまじない、です。

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