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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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0.18 真珠ちゃん、瞠目する、叫ぶ。

予告したのに遅れてすみません。。。。


ちょっと読みにくいと思います。


流血表現があるので、苦手な方は御覚悟を。。。

 コルトは焦っていた。

 小屋の周辺にはたくさんの罠が仕掛けてあり、侵入者があると知らせられる仕組みになっている。そのお陰で、いち早く敵の存在に気付くことができた。この小屋は森の奥にあるため、侵入者はそう多くない。しかし、まれによからぬ目的で小屋の近くまで来る輩もいるのだ。そういった類の侵入者が来ると、気付いた誰かが始末する。

 今回も少人数なら一人で片してしまおうとコルトは剣を腰に掛けると、気配を消して、罠が反応した方向へと偵察に向かった。

 罠の位置から少し離れた距離で、木の上から目を凝らして侵入者の方を見ると、コルトは息を呑んだ。

 その数は軽く50人を超えていたからだ。侵入者たちは武装しており、小隊ごとに行動しているようだった。小屋の周りを囲むように小隊は配置されていた。


(なんで、あんな数…!? 進行方向的に、俺たちを狙ってきたはずだ。でも、なぜ…? 今までの奴らは残さず消してきたはずなのに……!)


 頭の中では疑問符ばかりだった。しかし、その疑問を深く考える余裕は今はなかった。


(この数は俺でも、エルドにぃでも無理だな……。どうやって逃げれば…?)


 成長したと言っても、コルトはまだ11歳の子どもだ。5,6人の大人を相手にできても、それ以上の数で荒ればエルドの補助なしでは無理だ。ましてや、今回のように大人数で戦闘慣れした敵が相手だと、複数人との戦いはほとんど無理なのだ。

 小屋の中にはマイカとヴィレットがいる。マイカはともかく、ヴィレットは戦うことが得意ではない。その二人をフォローしながら逃げる自信がコルトにはなかったのだ。たくさんの案を考えるが、どれも現実的でないと頭を振った。焦りだけが積もっていった。


(くそっ! 俺だけじゃこの状況を打開する案がねぇ!)


 自分の力不足に悪態をつくと、コルトはとりあえずはマイカとヴィレットを一刻も早く小屋から離れさすために、木を伝って急いで戻った。


 小屋に戻り、状況を説明すると、二人は少し驚いたようだったが、急いで外に出る準備をした。

 ヴィレットは小屋にある少ない金品を。マイカは応戦できるように武器を。

 それぞれ、準備が終わると、まるで夜逃げであるかのように静かに、狭くても自分たちの家であった小屋を出た。


「ねぇ、コルト、エルドにぃたちにはどうやって知らせるの? 指笛は居場所がバレちゃうし……」


 いそいそと逃げる中、マイカは心配そうな声をあげた。


「エルドにぃがたぶん気付くだろうから、俺たちが知らせる必要はないと思うよ。それに、俺たちもそんな余裕はない」


 コルトの険しい顔に、マイカは息を呑む。

 こんな危機があったことは今までなかったのだ。面倒ごとがあっても大抵すぐにエルドとコルトが片付けてくれた。そして、大事にならないように取り図ってくれていた。だか、今回は敵が来たと分かっただけで小屋を離れる判断をした。その事実だけが小さいマイカの不安を煽った。

 自分の腰に刺してある剣の柄を握っても、じとりと汗が滲むだけだった。


「ねぇ、」

「伏せろ!!」


 ルゥルゥたちは大丈夫かな、と言いかけたところで、マイカはコルトの怒号と共にぐっと腕を引かれた。バランスを崩して転び、膝を擦ってしまったが、そんなことはどうでもよくなる光景がそこにあった。

 自分が先ほどまでたっていた場所に矢が刺さっていたのだ。

 マイカの血の気が引く。


「きゃぁ!」


 ヴィレットの叫び声が響くと、矢が数本降ってきた。

 コルトはそれを剣で撃ち落とすが、雨のように迫ってくる矢をすべて切り捨てることは出来ない。数本がきわどい距離に刺さった。


「ヴィレット、マイカ、もう見つかってる!! ここは危険だ! なるべく離れずに隠れ場所に向かうぞ!!」


 早口で必要なことを述べると、コルトはピーーーーッと緊急事態の時だけ使う指笛を鳴らした。

 居場所がバレてしまった今、エルドたちが気付いているとしても知らせないのは得策とは言えない。それに、あちらには非戦闘員であるクーツェとルゥルゥがいるのだ。逃げる時間が早くなるのに越したことはない。

 コルトはヴィレットとマイカの手を取ると、先ほどまで小走りだったのをスピードを上げて安全地帯へと向かった。地の利はこちらにあるのだと、矢が降ってこない木々の密集地帯を通る。

 その効果があったようで、あれ以来矢は飛んでこなかった。

 しかし、あと少しで隠れ場所だ、と思った時、そう遠くない場所から、叫び声がした。


「いやぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 それは可愛い末の妹の声だった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 彼女は転ぶかのように自然にぱたりと倒れた。しかし、その光景には違和感を覚えさせるものがあった。

 彼女の肩には深々と矢が刺さっていたのだ。


「クーねぇ!?」


 彼女と並走していたブロンが足を止め、裏返った声を出す。その声に、サファニアもエルドも振り向いた。

 そして、彼女の肩に突き刺さった矢を目にすると、エルドは険しい声をあげた。


「くそっ、もっと距離があったと思ったのに!! もうだめだ!! ここは見つかっている!!」


 早く矢から逃れられる場所に、と指示を出すと、エルドは腕の中で青ざめ、震えているルゥルゥをサファニアに渡し、彼女をおぶった。

 彼女は全力疾走した疲れと、肩に矢が刺さった痛みで声も出さずに呻いていた。


「クーツェ、大丈夫か?」

「だい、じょう、ぶ……」


 エルドの背中の上から必死に声をひねり出すが、彼女の顔は真っ青であり、説得力は全くない。エルドは極力揺れないように走っている。しかし、それでも小さな振動が矢が刺さった肩に伝わり、彼女の痛みを強めていった。


「もうちょっとで隠れ場所だからそれまで耐えろ!」


 エルドも切羽詰まっていた。

 敵を侮っていたのだ。緊急事態の指笛が鳴らされたが、てっきりいつものように始末できると思っていた。しかし、それは己の力を過信していただけなのだ。

 相手の人数も知らず、実力も知らないにもかかわらず、エルドはいつも通りなら、と考えてしまった。そのせいで、敵が多数であり、武装した集団ならばと言うことを考慮しなかったのだ。普段から油断しないようにと言っていたが、一番油断していたの自分だったのだ。

 自分の愚かさにエルドは唇をかんだ。自分の判断が少しでも違ったら、彼女は矢にあてられる事もなかったかもしれない。

 敵の足音が近づき、エルドは走る速度をあげる。前を走っているサファニアとブロンも後ろに近づく敵の存在に気づいたらしく、少しでも早く逃げられるようにと足を前に出していた。

 地の利はこちらがあるはずなのに、敵は迫ってきていた。エルドが後ろを振り向くと、森の中でも目視できる距離にそいつらはいた。剣を片手に持ち、軽い装備を身に着けた男たちだった。男たちは手慣れた様子で陣形を組み、じわじわとエルドたちを追い詰めるように囲っていく。

 いくらエルドたちに地の利があり、子供の割に俊足だとしても、大人の体力には勝てはしないのだ。増してやエルドは彼女を、サファニアはルゥルゥを抱えている。いつも以上に速度を出せていなかった。

 あっという間にエルドたちは男たちに囲まれてしまった。


「対象確認」

「依頼を実行する」


 男たちは淡々とそれだけを告げると、剣を構えた。

 同時にエルド、サファニア、ブロンも剣を男たちに向ける。


「かかってきたやつから切り捨てる!」


 一番近くにいた男の喉を素早く掻っ切ると、エルドは大声で叫んだ。


 男たちはエルドの早業に息を呑んだ。連携に慣れていることでわかるが、彼らはこういった犯罪を犯して生きている集団だ。剣の腕には自信があったのだ。しかし、目の前の成人前の少年にすぐに仲間が切り捨てられたことに驚く。

 この男たちは先日、エルドやコルトに始末された連中の仲間である。実はサファニアが最後の一人を始末する前に既にその男は鳥を使って伝令を飛ばしていたのだ。

 伝令には相手は子供だが、恐ろしく強いので大人数で武装してくるようにと書いてあった。

 残った仲間たちは安全に仕事をこなすためにその伝令通りにしたのだ。しかし、大人数出来たにもかかわらず、男たちは一人、また一人と首を深く切られ、倒れていった。

 少年はとても素早く、一人始末したと思えば、目を離したすきに他の仲間に迫っているのだ。

 そして、その少年だけではない。少年をフォローするように幼子を抱えた少女と小さな少年も剣を振っていた。その子供たちの動きも一瞬で手慣れていると分かるほどであった。


 しかし、それはエルドたちの命を奪うことになった。


「依頼を第二案で片づける! こいつらは始末していい!!」


 リーダーらしき男が声を上げると、男たちは剣を持ち直す。そして、近くにいた金髪の少年の腹を遠慮なく貫いた。


「うぐっ!」


 突然の衝撃にブロンはなすすべもなく倒れた。

 鮮血が地面を赤く染める。


 その様子をルゥルゥはサファニアの肩越しに見ていた。

 先ほどから小さいルゥルゥには何が起きているのかわらない事態が続いている。それに加え、周りにいる兄や姉は険しい顔をしており、ルゥルゥもその空気を感じ取って黙っていることしかできなかった。

 しかし、急に彼女が倒れ、そして、今はブロンが真っ赤に染まっている。

 ルゥルゥは恐怖に口を魚のようにはくはくとしながら息を吸う。怖くて、怖くて、身体が強張って、何も言えないのだ。

 ルゥルゥがそんな状態に陥っている間にも事態は進んでいた。

 男たちは先ほどまでは殺さないように手加減していたのだろう。しかし、もうそんなことはない。彼らに躊躇などみじんもなく、エルドとサファニアは押されていた。

 そして、ついにエルドが庇っていた彼女の下へ剣が振り下ろされた。彼女へと振り下ろされる剣はスローモーションのようにゆっくりに見えた。

 ルゥルゥは先ほどブロンが倒れたことでわかっていた。その剣が彼女に届いてしまうと、彼女がブロンのように動かなくなってしまうことに。

 手を必死に伸ばして止めたいが、ルゥルゥには何も、できなかった。


「クーツェっ!!」


 目に涙をため、名前を呼ぶと同時に、彼女は剣に貫かれた。

 肉を切る鈍い音が妙にはっきりとルゥルゥの耳についた。


「いやぁぁぁぁぁーーーー!!!」


 つんざくような叫びが辺り一面に響いた。

 びりびりと空気を揺らすようなその叫びは周りにいた男たちの動きを一瞬止める。


 その瞬間、彼女は痛みから覚醒した。相変わらず自分の肉を削る剣はわき腹に刺さったままだが、そんなことは、どうでもよかった。

 彼女は時が止まったような状態の周りの状況を見まわし、すぐに把握する。

 ブロンは血を流して倒れている。エルドは自分を庇うのに必死だったため、ところどころ怪我をしている。サファニアはルゥルゥを抱えながら戦っていた。もう体力の限界だ。

 彼女は一瞬で家族たちを助ける最後の打開策を見出した。

 自分が刺されたからこそ実行できるようになった打開策。

 成功するかはわからない。むしろ、一人助かればいいくらいの成功率だ。

 みんな助かってほしいというのが本音だ。でも、と彼女は思う。


(誰か一人でも助かってくれるなら……!)


 彼女は覚悟を決めた。

 これは彼女がユエに教わったことだった。使うことはないと思っていた。そして、使えることもないと思っていた。

 彼女は眼を一度閉じると、カッと見開いた。そして、叫ぶ。


『座標固定!!』


 その響きは、ルゥルゥの叫びによって体の動きを一瞬止めていた男たちの動きをまた止めた。

 ルゥルゥはその言葉は知らないはずなのに、なぜか懐かしさを覚えた。しかし、そんなことを考えている暇はなかった。彼女がすぐにいつもの言葉で声を張り上げたからだ。


「早く逃げて!!」


 彼女の力ではルゥルゥによって補助されたとしても、長続きはしない。この男たちの動きを止めていられるのは数十秒だけなのだ。


「逃げて、ルゥルゥ!! お願い!!」


 彼女の悲痛そうな声に今起こっていることを眺めていることしかできなかったエルドとサファニアははっと目が覚める。そして、直ぐに石のように固まった男たちの間を縫うようにしてその場を去った。

 サファニアの眼には涙がいっぱいたまっていた。彼女とブロンを見捨てることになるのだ。でも、詳しくは分からないが、彼女がしたであろう捨て身の行動を無下にするつもりはなかった。歪む視界の中で自分を奮い立たせでもしないと、直ぐに足を止めてしまいそうだった。

 そんなサファニアの腕の中で、ルゥルゥは叫んでいた。


「待って!! 逃げたくないよ!!」


 お願いだから、待って!!!

 何度も何度も暴れるように叫んだ。手を伸ばして、伸ばして、いっぱいに伸ばしたのに、その手は空を切っただけだった。

 エルドとサファニアが十分な距離を取ったとき、ルゥルゥの綺麗な紫の瞳には遠くに見える彼女の首だけが地面に落ちたのを写した。


「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」






 それから、ルゥルゥは泣き叫び、何が起きたのかあまり覚えていない。

 ただ、直ぐにコルトたちと合流して逃げた。

 必死になってみんなで逃げた。

 だが、ルゥルゥの虚ろな目には一人、一人、減っていったように見えた。

 最初はヴィレット。次にマイカ。

 そして、森の奥にある川を渡ろうとした時、遂に男たちは追いついてきた。


 残った中で、最初に切られたのはサファニアだった。ルゥルゥを抱えたまま、その身体は前に倒れた。

 ぼうっとしていたルゥルゥは突然の衝撃に目を少しだけ覚ます。

 そして思った。ああ、朝かな。サファニアの寝相は相変わらず悪いなぁ、と。


「ねーえ、サファニア、おもいよぉ…」


 場にそぐわぬのんびりとした声で、ルゥルゥはくすくすと笑いながら文句を言った。これでいつもの流れなら、サファニアがおはようと言いながら自分をくすぐり、コルトかエルドに怒られるのだ。

 しかし、ルゥルゥが望んだ言葉は返ってこなかった。


「ご、めん、ね、ルゥ、ルゥ……。わ、たしの、かわい、い、いもう、と……」


 サファニアはかはっと血を吐いた。その赤が、ルゥルゥの目の端に映る。

 同時に思った。何かおかしい、と。

 自分がいる場所は寝室ではない。何故かコルトがサファニアの名前を何度も繰り返し叫んでいる。そして、周りには知らない男たちがいた。


「サファニア? どーしたの?」


 サファニアの下から少しだけ抜け出して顔をあげるが、返事は返ってこなかった。

 ねぇ、と揺さぶる。


「サーファーニーア!! おーきーてー!!」


 しかし、やはり返答はなく、手にべったりと何かがついただけだった。

 手のひらを見ると、それは赤くて、生暖かくて、サファニアの背中からどくどくと流れ出ていた。


 ただ、赤だけが視界を染めた。


 直後、ルゥルゥは頭に衝撃を覚え、それから先のことはもう、わからない。

投稿遅れてすみません。

作者の中でいろいろと整理をつけたかったので。。。

明日はちゃんと投稿します。


うーん、暗い話だとなかなか筆が進みませんね……。

明日で真珠ちゃんシリーズは終わりです。

今日の謎部分は明日説明されます。

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