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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第1章 幼少期~暗闇と救済編~
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03 今のわたしとゲームとの違い

 屋敷探検の次の日、ティファニアは熱を出して寝込んでいた。

 心配したラティスは直ぐに医者を呼び、診断させるとはしゃぎすぎて身体がびっくりしてしまっただけだろうとのことだった。1日安静にしていれば治るそうだ。

 当のティファニアは熱など気にせず頬をぷっくり膨らませ、アリッサから顔を逸らしていた。


「なんできのうおこしてくれなかったの! お父様とあいたかったのに!」

「お嬢様、寝ているお嬢様を起こすことを旦那様が許すわけありませんわ」

「そうだけど! でも、だけど、お父様にあいたかった……」

「朝に心配してお嬢様の顔を見にいらしてましたよ。今日の夜にお嬢様に会いにいらっしゃるそうですからそれまでゆっくり休みましょう」


 うんと小さくティファニアは呟いた。一応夜に会えることで納得したようだ。

 アリッサは怒ったりしょんぼりしたりところころ表情が変わるティファニアを見て癒される。普段ティファニアは聞き分けがよく、この1ヶ月は我儘一つ言わなかったのだが、初めての我儘がラティスに会いたかったから起こして欲しかったとは可愛いものである。

 熱があるのは自分自身理解しているので、ティファニアは布団をかぶり、夜に起きれるように今寝ておこうと眠りについた。


 ティファニアは前世では成人女性だったが、その性格は今の性格にあまり影響を与えていない。先ほどの我儘も前世のティファニアならばしないものだ。

 なぜそうなったかは、おそらくティファニアの今までの人生が凄まじかったからだろう。幼い子供のわずかな時間だっただが、平和な日本に住んでいた『彼女』には耐えきれなかったのだ。今のティファニアは前世の記憶を知識として認識している。前世の自分と今のティファニアは別物である、と。

 しかし、『彼女』が残した最後の想い、後悔があったと言うのはティファニアの心に突き刺さった。それは今のティファニアの感情にも影響を与えるくらい強い想いだった。ゆえに後悔をせずに生きたいとティファニアも思ったのだ。


 ティファニアが目を覚ますと、窓の外は既に赤みがかっていた。


「お嬢様、お起きになったのですね。では、ご飯を用意いたしましょう」


 そうアリッサが言うと、ティファニアのお腹はぐーと可愛い音を立てた。今朝は食欲がなく、あまり料理に手をつけられなかったからだ。ティファニアが少し顔を赤くし、小さくおなかすいたと零せば、アリッサが一瞬で食事の用意をしてくれた。

 今日のメニューはホワイトシチューだ。色とりどりの野菜は小さく切られ、ティファニアが食べやすいようになっている。今のティファニアの2番目に好きな料理で、料理長が元気になってほしいという一心で作り上げた逸品だ。ティファニアの1番好きな料理はラティスが作ったものであるのは言うまでもないだろう。


「あったかくておいしい!」


 空腹は最高のスパイスである。この屋敷に来てからあまり空腹になったことがなかったティファニアにはいつもの倍の美味しさを感じていた。

 ふーふー冷ましながらゆっくりと味わって食べていると、口についたシチューをアリッサが優しく拭ってくれた。

 ティファニアはあれ? とアリッサを見て疑問に思う。ティファニアは周りから敬遠され、幼少期に信じられる人はお父様であるラティスと幼馴染だけだったのではないか、と。

 思ってみれば、敬遠される理由である首の紋様はゲームの中のティファニアよりも今の自分のほうが派手である気がする。それに、首以外にも紋様があるのだ。首の他にも二の腕と太ももにも巻きつくような薔薇の紋様。普段はドレスや寝間着で見えないところだが、くっきりと綺麗な黒いそれが浮かび上がっている。

 するりと手を伸ばし、その首の紋様に触れる。寝込んでいる間は締め付けられるような熱をずっと帯びていたが、今はそのようなことは全くなく、ただ刺青のようなそれが首を美しく魅せいているだけだ。


(ゲームのティファニアも他の箇所に紋様があったのかな…?)


 ゲームの中のティファニアは常に肌を隠すようなドレスだったため、記憶を探っても確かめようがない。

 ぼーっと考えながらシチューを口に運ぶ。そして、そう言えばと思う。


(ゲームのティファニアは乳児期に攫われたけど、直ぐに助けられたんじゃなかったっけ?)


 ゲーム内でのティファニアは生後半年ほどの時、妹と母親の実家に顔を見せに行った帰りに攫われた。ずっと母親を想い続けていた変態貴族の企みだった。ティファニアを侍女が抱き、妹を母親が抱いて逃げたが、母親は捕まってしまった。その後侍女は必死にティファニアを屋敷まで連れて帰ったと言うのが事件の真相だったはずだとティファニアは思う。

 今のティファニアに前世の記憶はあっても、乳児期の記憶はない。それ故、侍女に助けられたはずの自分が、どういった経緯でスラムに行き着いたのかが全くわからない。


(なんでだかわからないけど、ゲームとは違うシナリオが既に進んでるってことなのかな…?)


 ティファニアは首を傾げた。同時に腕も傾き、スプーンにのっていたシチューが指にかかる。


「あちっ!」

「お嬢様、大丈夫ですか!?」


 アリッサは直ぐに駆け寄り、ティファニアの指を見た。少し赤くなっているだけで、なんの問題もなさそうだった。


「お嬢様、ぼーっとしながら食べるからこうなるんですよ。私はお嬢様の白魚のような手が火傷したのではないかと気が気でなかったです」


 アリッサがじっと見つめると、ティファニアは申し訳なくなって少し俯いて、ごめんなさいと言った。


「あの、ね、くびのこれ、なんなのかっておもってたの」


 実際はシナリオについて考えていたが、紋様については前々から気になっていたのでティファニアは思い切って聞いてみた。


「そちらは『まじない』ですよ。昔は使える人が多くいたそうですけれど、今は殆どおりません。お嬢様の薔薇の紋様はウルタリア家に伝わる『まじない』だそうですよ」

「まじないって?」

「そうですね、私もあまり詳しくないのですが、未来を占ったり、病気を祓ったりするものだったと思います。旦那様がお嬢様にまじないをかけたので今日の夜に旦那様に伺ってみるといいですよ」

「わかった!」


 『まじない』についてはゲームでも少し触れられていた気がするが、ラティスに会える喜びでそんな思考はすっかり飛んでしまった。

 頬を染めて嬉しそうにシチューを食べるティファニアをアリッサはゆっくり食べるんですよと軽く注意しておいた。


 その夜、不幸なことにラティスの仕事が長引き、ティファニアはラティスに会うことはできなかった。

 夜中に愛娘と今日一日一回も話せなかったラティスの悲鳴が上がったという噂がウルタリアの使用人の中で流れたのは、帰り道で早くしろと八つ当たりされた部下の嫌がらせではなく、事実だろう。


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