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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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30 体験入学と学校の生徒たち

前話の最後の髪の色を染めたことを忘れて書いてしまったので、紺に直しました。

 ティファニアは領都の北側でアリッサと馬車から降りると、手をつないで学校へと歩いた。馬車で学校に入ってしまうと、あまりにも仰々しく、身バレする危険が高くなるからだ。ティファニアは学校の生徒たちに身分の隔たりなく接してほしかったのだ。


 学校は領都の西側にあり、空き家だった大きめの館を買い取って改装したものだ。生徒は1年生から6年生まででだいたい300人いる。一クラス約25人で、なるべく多くの生徒に少しでも目が行くようにしている。

 ティファニアは職員室にアリッサと行くと、すぐに4日間だけ担任となる先生と顔を合わせた。女性の若い先生で、真っ赤な髪と青い瞳を持った元気そうな人だった。


 ウルタリア侯爵領の教師が教えているのは算数・国語・音楽・体育・家庭科・マナーだ。これらは全て領内で統一されており、学年ごとに教えられる項目は同じだ。

 教師たちは小学校が始まる前に一人少なくとも一教科選んでもらい、これらについて、短期間で学んでもらった。たいていが教養がある商人の娘や息子たちであり、若い人が多いのはやはり、呑み込みが違うのだ。小学校で教えることは日本の教育に通ずるものばかりであり、募集をかけた中にいた年配の人たちにはなかなか受け入れられないことが多かった。特に顕著だったのが算数だ。分数の四則計算や筆算などはこの世界にはまだ確立されてなかったものであり、今まで全く違う方法で計算してきた彼らには残念ながらなじまなかったようだ。

 これらの教科をほとんど教えたのは、完璧超人でないかと言われるアリッサだ。ティファニアがアリッサに日本の算数をサラッと説明すると、アリッサは学生時代に自分もその計算方法を使っていましたと天才発言をし、数日でマスターしてしまったのだ。それも、方程式や図形の計算を含むものまで。これにはさすがにティファニアも驚きで目を見開いた。

 アリッサは一か月ほどウルタリア侯爵領に向かい、100を超える教師になる予定の生徒全てに教えるという、超人的なことをやり遂げた。これにもティファニアはびっくりし、アリッサは乙女ゲームの公式設定で天才と呼ばれたユリウスを超えるの天才なのではないのかと開いた口が塞がらなかった。

 短期間で仕上げたのは、王都にいるティファニアに早く会いたい一心だったのは、ティファニアの与り知らぬところである。


 エイミーはティファニアに深々と頭を下げた。


「ティファニアお嬢様、初めまして。エイミーと申します。2年2組の担任をさせていただいてます。これから4日間、どうぞよろしくお願いいたします」


 エイミーの声は緊張からか、少し震えていたが、はきはきとしていた。


「エイミー先生、顔をあげてください。短い間ですが、今日からわたくしは先生の生徒ですわ。そんなにかしこまらないで下さい」

「ありがとうございます。お嬢様とアリッサ様に会えるということで、緊張してしまったようです」


 エイミーは顔をあげると、お嬢様が予想通り可愛い方でよかったです、と笑った。


「エイミー先生、もう聞いていると思いますが、わたくしはここで身分を明かすつもりはありません。ですから、普通に生徒と接する言葉遣いでかまいませんわ。わたくしも他の生徒たちの前ではこのような話し方は致しません。名前もティーとお呼びください」

「はい。かしこまりました。……いえ、わかったわ。よろしく、ティー」

「はい! よろしくお願いします、エイミー先生!」


 そうして、ティファニアは始業時間が近づいてきたので、教室へと向かった。

 アリッサは学校内を視察し、そのあとは授業を見学するらしい。先ほどから、ほかの先生方がちらちらとアリッサを見ていたのはそのためだ。もし、授業中に変なところがあれば、一か月の鬼特訓をしたアリッサに何を言われるのか、とひやひやものだ。

 教室の前の扉に立つと、中がざわざわとしているのが聞こえた。

 ティファニアは少し息を吐いて、まるであの時の転校生みたいだな、と思った。同時に、あの時って? と思うが、エイミーに教室に入るように促され、その疑問は打ち消されてしまった。

 教室に入ると、ざわりと周囲の空気が揺れたのが分かった。しかし、ティファニアはそれに臆するのことなく大きな黒板を背にして、前を向いていた。

 生徒たちは自分と同じ年齢ほどの子から、10歳くらいまでが一緒にごちゃ混ぜになっていた。


「はーい、みなさん、おはようございます。突然のことで驚いていると思うけど、今日から新しい友達が一人増えます! 王都から来た、ティーちゃんです。4日間だけしか一緒にいれないけれど、仲良くしてねー!」

「「はーい」」


 元気な返事が返ってくると、エイミーはティファニアに目配せをし、自己紹介をどうぞ、といった。


「はじめまして、ティーです。王都から来ました。短い間ですが、よろしくお願いします」


 ぺこり、とティファニアがお辞儀をすると、よろしく、と所々から声がかかった。どうやら好意的に受け入れられてたようだ、とティファニアは安心する。


「じゃあ、ティーちゃんは後ろの空いている席を使ってねー!」


 エイミーの明るい声に促され、ティファニアは後ろにある窓際の席に座った。椅子に腰を落ち着け、ショルダーバッグから紙の代用品として使われている小さな黒板を石筆といっしょに出すと、すぐに授業が始まってしまった。

 1時間目は算数で、1年生レベルのものだったので、ティファニアはエイミーの授業がどんな様子か見学気分で受けた。

 授業が終わると、15分の休み時間だ。小学校では45分の授業が午前中に4時間目まであり、それぞれの授業の間に15分の休み時間を作っている。

 休み時間になると、ティファニアはたちまち数人の女の子たちに囲まれてしまった。


「ティーちゃん、わたし、カロラ。よろしくね」


 8歳くらいのその女の子は隣の席に座っていた子で、ぱっと笑った。

 そして、ティファニアは次々と自己紹介をされる。名前をすべて覚えたか自信がないくらいに次々と言われ、目をぱちくりとしてしまった。


「ティーよ。よろしく」


 ティファニアが笑うと、カロラがそわそわとしながら聞いた。


「ティーちゃんって、王都から来たんだって?」

「うん。そう。父さまが商人だから」

「へー、そうなんだ。ねぇねぇ、王都って、どんなところ? やっぱりおしゃれな人がいっぱいいるの?」

「うーん、わたしは家にずっといることが多かったからあんまりわからないけど、お城はでかかったよ」

「お城!? 王様が住んでる!?」

「そうそう。王都のどこからでも見えるんだよ。おっきくて、中に入ったら迷子になりそう」

「へー、そんなにおっきいんだ!! わたしも王都に行ってみたいなぁ…。それよりもさ、王子さまってすごくかっこいいんでしょ?」


 カロラが目を輝かせると、他の女の子たちもどうなの? と目をキラキラとさせていた。


「王子さまって、どっちの?」


 ティファニアが首を傾げると、女の子とたちはきゃあきゃあと華やいだ声を上げ、はしゃいだ。


「どっちもどっちも!! やっぱりかっこいいの?」

「王都に出回ってる絵姿しか知らないけど、二人ともかっこよかったよ」


 ティファニアが二人の特徴を述べると、また、黄色い声が上がった。


「きゃー、やっぱり、そうなの!?」

「会ってみたいわぁ」

「一目でも見てみたいっ!」

「ねぇねぇ、ティーちゃんはどっちの王子さまが好みなの?」


 カロラと女の子たちの期待したような瞳に、ティファニアはうーんと悩む。二人とも攻略対象者であるため、確かに顔(だけ)はいいのだが、ティファニアの好みは全く別である。


「わたしは、わたしの父さまみたいな人が好きだから、王子さまに優劣はないよ」


 えー、そんなーという声がしたが、丁度次の授業の先生がやってきて、話は中断された。

 次の授業は国語だった。担当の若い男の先生が、ティファニアを見てカチコチに固まっていたので、ティファニアは保護者気分でその授業を受けたのだった。

 授業中、周りを見回す。すると、自分を含めて25人の生徒たちの横顔や背中が見えた。年齢は8歳から10歳くらいとまちまちであり、先ほどと顔ぶれは少し変わっている。


 小学校を義務化するにあたって、問題になったのは、義務教育期間の年齢、またそれ以上の年齢の子供たちをどうするか、だった。その子たちを年齢に見合った学年に入れても、計算どころか文字すら読めない子供もいるのだ。だから、ティファニアはその子たちのために、季節の変わり目ごとに1度のテストを設けた。そのテストは生徒一人一人の能力を見極め、そして、それに見合った学年、クラスに振り分ける。つまり、ティファニアは日本式の学校ではなく、アメリカなどのような飛び級ありの学校にしたのだ。そのため、テストによっては算数は5年生なのに、国語は3年生といったちぐはぐも生まれたりする。そのお陰で、一クラスで幅広い年齢層が一緒に学ぶようになり、授業ごとに顔ぶれが変わることになったが、クラスを超えて交流がある学校になったのだ。

 小学校が作られてから1年経つからか、上の年齢の子たちが小さい子と学ぶのは嫌だと頑張ったからなのか、今は大体の年齢に分けられている。ティファニアが今いる2年1組も年齢が似通っているのはそのためだ。

 そして、義務教育期間が終了している子供でも、成人を超えていなければ希望者は無料で学校で学べるようにしている。午前の生徒が終わった後だが、特別に授業を開催しているのだ。これは割と人気であり、仕事終わりに参加する生徒が多い。


 年齢を超えて上手くいっているようでよかった、とティファニアが安堵すると、国語の授業は丁度終わりを告げていた。若い先生は最初は緊張こそしていたが、途中、冗談をはさんだりして、面白かった。

 次はマナーの授業だったため、ティファニアは移動のために、隣のカロラにどこの教室なのか聞いた。


「カロラ、マナーの教室ってどこかわかるかな? 移動しなきゃいけないから」

「ああ、私も同じだから、一緒に行こうよ!」


 カロラから差し出された手を取ると、ティファニアたちは廊下に出て、マナー教室に向かった。

 マナーの授業は男女別であるため、教室には女の子しかいなかった。そして、ティファニアが入ると騒然とした。初めて見る顔だったからだろう、とティファニアが思うと、突然、華やいだ声が上がった。


「きゃぁー! 可愛い!!」

「ちっちゃくてふわふわしてるー!!」

「目がくりくりしてて、リスみたい―!!」


 10歳くらいの生徒たちがすぐさまティファニアを囲み、可愛い可愛いと撫でた。

 ティファニアの見た目は年齢より下であるためか、小さい子供の面倒を見るのに慣れている子たちはティファニアを抱き上げて、撫でまわす。

 ティファニアはどこか既視感のある状況に、嬉しいが、ぐったりしそうである。


「あ、あの」


 なんとか、声をはさむと、喋ったぁーとまたきゃあきゃあと嬉しそうにほっぺをぷにぷにされる。


「あの、授業が……」


 ティファニアが必死になって言うと、女の子たちの後ろでは、マナーの先生が目を三角にしていた。


「あなたたちっ、初対面の小さな子にそんな風にしてはいけませんよ。女の子は優雅にふるまわないとっ!」


 目元に逆三角の銀のメガネが見えそうなその先生はすぐにティファニアとその女の子たちを引き離した。そして、小声で大丈夫ですか? と確認してくれる。ティファニアがこくりと頷くと、授業が始まった。


「さあ、みなさん、今日も優雅に振る舞うためのマナーを学びましょう」



 マナーの授業はつつがなく終わり、最後は家庭科の授業だった。

 家庭科も男女別であり、女の子は裁縫だった。

 こればかりは、先ほどまでの授業を卒なくこなしてきたティファニアもそうはいかなかった。普段、本や資料の前で書き物ばかりしているティファニアは裁縫や刺繍が苦手だったのだ。嗜む程度にはできるが、好んでやることはなかった。そのため、裁縫の授業は自分の身分を知っている先生にみっともないものを見せないように必死になって縫ったのだ。


 授業が終わると、帰る前に給食があった。

 今日のメニューはシチューであり、もちろんジークの作ったものには劣るが、おいしかった。この給食は授業と同じく無料である。このお陰で、家業を手伝わせたい親が食費が浮くからと学校に通わせてくれるのだ。


 給食も終わり、後片付けをすると、解散だ。

 放課後は広い庭で遊ぶ子供たちもいるようで、外いこーぜ、という元気な声が聞こえた。

 ティファニアは文房具を鞄に詰めると、カロラたちにさようならといい、職員室で待っているアリッサのもとへ向かった。今日のことを早く話したいので、心なしか足が軽かった。


 廊下を歩いていると、中庭が見えた。そして、そこで教室で見かけた男の子たちがボールで遊んでいた。

 ティファニアは、そうだ! と思い、駆け足でそこへ向かった。


「ねぇ!」


 突然、転校生(それもとびっきり可愛い)に話しかけられ、男の子たちはびくりと肩を震わせた。今日、話しかけられなかったのは、ティファニアが女の子たちに囲まれていたのもあるが、誰も緊張して声をかけられなかったのだ。


「ねぇ、なにしてるの?」


 にこにこと笑っている顔で聞かれ、ある男の子が顔を真っ赤にしながら答えた。


「球を投げあってるだけだよ! お前に関係ないだろ!?」

「ただ、投げあってるだけ?」

「そうだよ! なんか文句あるか!?」


 つんつんとした様子が少しユリウスみたいだな、と思いながら、ティファニアは続けた。


「ふーん、わたしね、面白い球遊び知ってるけど、一緒にやらない?」

「なっ、誰がお前と――……」

「「やりたい!!」」


 先ほどのつんつんした男の子は拒否しようとしたが、どうやら他の男の子の勢いに負けてしまったようだ。


「うん、いいよ!! あのね、ドッヂボールって言ってね―――……」


 ティファニアがそこらへんにあった木の棒で地面に四角を書き説明すると、男の子たちは早速やろうと盛り上がった。ティファニアも袖をまくり上げ、臨戦態勢である。

 しかし、後ろから声がかかった。


「お嬢様、時間ですわ」

「あっ、アリッサ……、そっか、時間だよね」


 ティファニアは少しうなだれたが、男の子たちにごめんねと言った。男の子たちも残念そうに、えー、と言っているが、ティリアが心配するため、こればかりは譲れない。そして、また明日、と手を振って、アリッサの元へと駆け寄り、その場を後にした。




「お嬢様、申し訳ありません。ですが、球遊びをしてしまいましたら、お嬢様が明日の授業に参加できなくなってしまいますわ」


 馬車への道でアリッサが申し訳なさそうに言ったが、ティファニアは構わない、と返事した。


「アリッサが心配してくれたのは分かってるから、全然大丈夫だよ。それに、身体弱いって忘れてたわたしも悪いから」


 繋いだ手をぎゅっと握ると、アリッサもぎゅっと握り返してくれた。それだけで、ティファニアはさっきの残念な気持ちは吹っ飛んでしまったのだ。





 それから4日間、ティファニアは女の子たちに囲まれつつも、男の子たちともボール遊びで交流を持ち、楽しく学校生活を終えることができた。

 自分が発案した小学校が予想以上に無事に運営できているようでよかった、とティファニアはまた一つ、肩の荷が下りた気がした。

メインはここじゃないので、初日以外はまたさらりと終わらせてしまいました。


というか、ティーはモテますねぇ。

男女ともに。

まあ、王都ではこうはいかなかったでしょうけど、ウルタリア領の人って寛容で豪快なので。

南の人って、そんな気質がある気がしますw


蛇足。

ティリア、拗ねる ぱーと2

「お姉さま、おかえりなさい!」

「リア、ただいま!」(ぎゅーっ)

「お姉さま、学校はどうだった?」

「楽しかったよ。女の子たちには王都の様子を聞かれて、男の子たちとは球遊びの話をしたんだ」

「男の子…?」

「うん、そうそう。わたしより少し上の子たちで、一人はユリウス殿下みたいだったんだ、うふふ」

「へー、ふーん、……その子たちとははなしただけ?」

「うん、そうそう。新しい球遊びの方法を教えてあげたの」

「そうなんだ。それだけ?」

「うん。本当は一緒に球遊びをしたかっ―――……」

「したの!?」

「ううん。したかったけど、明日、熱出しちゃうからやめたの。だから、説明しただけで帰ってきちゃった」

「そっか、よかった」

「ん?」

「ううん、何でもない」

「そう? リアに構ってあげられなかったから、してほしいことがあったら言って。…ねっ?」

「……じゃあ、お姉さま、ひざまくらしてください」

「うふふ、いいよ」


甘えたい盛りのティリア。

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