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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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28 市場とウルタリア侯爵領の発展

 「「わぁ!!」」


 ティファニアとティリアは嬉しそうに声を上げた。

 目の前にはウルタリア侯爵邸から馬車で20分ほどの広場で、週に1回開かれる朝の市場が広がっていた。そこは人でにぎわっており、ほとんど外出をしたことがない二人はその人の多さにわくわくが止まらない。


「ティー、リア、手を離さないようにね。はぐれたら大変だ」

「「うん!!」」


 二人は元気な返事をすると、ティファニアはアリッサと、ティリアはラティスと手を繋いだ。安全面を考慮した結果、この組み合わせが一番いいということになったのだ。もちろん人に紛れて護衛も数人いるので、よっぽどのことがない限り、二人の子供たちに何かある、ということはないだろう。

 4人の姿はまるで一つの家族のようだった。


「ねぇ、アリッサ、あそこに小物屋さんがあるよ!! 行ってみよう!!」

「お嬢様、走ると転んでしまいますよ!」


 ティファニアははしゃぎながらアリッサの手を引くと、アクセサリーが売られている露店に足を運んだ。

 ウルタリア侯爵領が海に近いからだろう。そこには、サンゴや貝で作られたアクセサリーがたくさん並んでいた。薄いピンクの小さな貝殻で作られたイヤリングや、サンゴを連ねて作ったネックレス。他にも、紐を編んで作ったブレスレットやアックレットが置かれている。


「わぁ、これ可愛い」


 ティファニアは貝のピアスを手に取ると、嬉しそうに声を上げた。それは濃いピンクの巻貝でできたもので、色素が薄いティファニアによく似合いそうだった。

 ティファニアは外に出るときには、首にある『まじない』の紋様を隠すために襟が高い服を着ることが多い。今日も紺のワンピースの下に来ているブラウスは襟の高いものだ。そのため、あまり首周りにつける装飾品は持っていない。その代わりに、ティファニアはピアスを好む。屋敷に来た頃はそれこそラティスから貰った紫の宝石のピアスしかなかったが、アリッサから貰った後、ティファニアがその緑のピアスを気に入ってつけていたので、対抗意識を燃やしたラティスがたくさんプレゼントしたのだ。それ以来、ティファニアのお気に入りアクセサリーはピアスなのだ。


「ええ、これは色が鮮やかですのでお嬢様の綺麗な肌にとても映えると思いますわ」


 アリッサがティファニアの耳に当てて、合わせていると、露店の主らしき妙齢の女性がほかの似たようなアクセサリーを持って勧めてきた。


「あら、可愛らしいお嬢様ねぇ! そちらのピアス、とてもお似合ってるわよ! ほかにもこんなブレスレットがあるけど、どうかしら??」


 ティファニアが手に取った貝に似たような色のアクセサリーをぐいぐいと勧められ、ティファニアは一瞬たじろいでしまう。


「うーん、ティーにはこれが似合うかな」


 すると、やっと追いついてきたらしいラティスとティリアが後ろから覗き込んできた。その手にはなぜか味付けされた香しい串肉が握られている。

 ラティスはティファニアが選んだのと同じピアスを手に取ると、先ほどアリッサがしたように、ティファニアの耳にあてて合わせている。そして、うんうん、ティーはこれが似合うな、と満足そうに言うと、すぐにお金を出して払ってしまった。


「あっ、お父様! まだ決めてなかったのに!」

「ティーに似合うんだから、買わないと損だろう? それにとっても可愛かったよ」


 ラティスが蕩けるように微笑むと、ティリアも続けて、お姉さま、似合ってました、と嬉しそうに言った。そして、ラティスは商品を受け取ると、その笑みのままで、店主の女性にありがとう、とお礼を言った。

 すると、店主の女性はラティスの笑みに当てられてしまったのか、ぽぉっと頬を上気させ、うっとりとラティスを見あげた。

 それを見たティファニアは、ばっとラティスと女性の間に立つと、女性にお礼を言って、早く行こうとラティスの串肉を持っていない方の手を引いた。少しだけ、少しだけだが、そんなラティスの姿を見られたくないな、と思ってしまったのだ。

 少し強引にぐいぐいと手を引くと、ティファニアはぱたり、と足を止めた。そして、俯いて、一瞬顔を歪める。ああ、やってしまった、と。自分が嫌になって、唇をかみそうになると、ぐいっと体が持ち上げられた。横に目をやると、ラティスの二つの紫の瞳と目が合う。

 なぜか、ラティスは先ほどとは比べ物にならないくらい甘い笑みを浮かべていた。道を歩く女性方が餌食になっているのは、きっとティファニアの気のせいではないだろう。


「ティー、別に構わないんだよ」


 ラティスは俯きそうになっているティファニアとまっすぐ目を合わせていった。


「私は逆に嬉しかったからね」


 パチンとウィンクをすると、ラティスは食べるかい? とティファニアに串肉を差し出した。それを食べながら、ティファニアはお肉と一緒に嬉しさも噛みしめていた。

 ティファニアは人にあまり好まれない感情はほとんど表に出さない。しかし、先ほど、嫉妬してしまったのだ。あの女性に。子供らしく、お父様がとられた気がして。

 そんな感情を表に出してしまったことをティファニアは後悔したが、しかし、ラティスにはそれを見せてくれたことがとても嬉しかったのだ。その嫉妬した理由も踏まえて。


「お父様、ありがとう。……このお肉、おいしいね」

「ああ、そうだろう? 私がここに来た時によく買うんだよ。ティーたちにずっと食べさせてあげたいと思っていたんだ」

「そうなんだ。すっごくおいしい」

「それはよかった。さあ、じゃあ、次のところに行こうか」

「うん!!」


 ティファニアはラティスに下してもらうと、もう一度アリッサと手をつなぎなおして、市場を見て回った。

 市場では食材や香辛料、先ほどのようにアクセサリーや小物、生活用品など様々なものが売られていた。初めて見るティファニアとティリアはその一つ一つに驚き、喜びながら見て回った。

 ティファニアの当初の目的のみんなへのプレゼントは見つからなかったが、また来ればいいとラティスは言った。どこのお店も賑わっていて、ティファニアたちは飽きることなくたくさんの店を回った。





「おお、お嬢ちゃんたち、見ない顔だねぇ。旦那の子供かい?」


 お昼になり、朝の市場もそろそろ終わりになる頃、ティファニアたちがラティス行きつけの食事処に足を運ぶと店主に声をかけられた。どうやら、そこは常連客ばかりが集まるお店のようで、初めて来たティファニアとティリア、そしてアリッサは少しばかり目立っていた。

 ラティスは王都から来た商人と偽って、顔見知りらしく、店主にいつもの、と頼んでいた。


「そう、です。えーっと、王都から来ました」


 ティファニアが少し遠慮がちに笑うと、店主は豪快に笑った。


「わっはっはっはっは。旦那にこんなに大きな子供がいたとはなぁ! そりゃあ、言い寄られても断るわけだ! こんなに別嬪なお嬢ちゃんがいるってことは、奥さんも美人さんなんだろう?」


 なあ、旦那? と店主が問いかけると、当たり前だ、とラティスは不敵に笑った。


「おお、羨ましいぜ!! それより、お嬢ちゃんたち、ウルタリア領はどうだい? 活気があっていいところだろう?」

「はい! 市場も賑わってて、楽しかったです!」

「そうだろう? 1年ちょっと前から領主様が出してくれた新しい決まりのおかげでな、随分と過ごしやすくなったからな。そのお陰で他の領地からもたくさん人が来てくれているんだよ」


 お陰様でうちも大繁盛だ、と店主は嬉しそうに言った。


「そうなんですか。じゃあ、他に、良くなったことはありますか?」

「うーん、そうだな…。やっぱり、治安が良くなったな。警備隊が良く働いてくれて、犯罪が減ったのが嬉しいね。それによ、スラムの連中が減ったからか、そういう意味でも犯罪は減ったな。あとは、あれだ、学校だな。あのお陰で子供たちが賢くなってよ、今は俺に代わって息子がこの店の勘定をしてるんだ! まあ、小さいお嬢ちゃんにこんなことを言ってもわかんないだろうがな!」


 店主は、その、小さいお嬢ちゃんが実はそのための政策を考案しただなんて思いよるはずがなく、また、豪快にわっはっはと笑った。


「いえ、この領のことが分かってよかったです。ありがとうございます」

「いやぁ、構わんよ。まあ、俺たちは何もしてないんだがな。でも、このウルタリア領がどういう風に変わったかってくらいだったらいくらでも話せるぜ!」


 これも全部、領主様のお陰さぁ! と店主は誇らしげに笑った。

 それにティファニアも嬉しそうに頷く。そして、少し遠慮がちに聞いた。


「あの、えーっと、変わって、よかったです、か?」


 すると、店主はティファニアの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。


「当たり前だぁ! この領地に住んでいる奴ら、みんながそう思ってるぜ!」


 そう言って、店主は嬉しそうに笑った。

 ティファニアはその笑顔だけで、今までの努力が少しだけ報われた気がした。


 そのあと運ばれてきたラティスおすすめの料理は美味しかった。それは、ウルタリア侯爵領伝統の川魚の料理であった。ティファニアはその料理に舌鼓を打つと、満足して屋敷に帰ったのだった。

ティリアのターンにしたいのに、どうしてもラティスのターンになっちゃう……


夏中は2日に1回のペースで投稿したい(願望

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