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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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0.15 真珠ちゃん、守られる、撫でられる。

 ルゥルゥが拾われてから1年程が経ち、季節は冬に移り変わろうとしていた。

 エルドたちも雪こそ余り降らないが、それでも薪は必要になる。その為に連日森に通っている。


 今日もマイカとブロンは背中に籠を背負い、そしてルゥルゥと一緒に森へ向かっていた。


「ルゥルゥ、ぼくたちの手を放しちゃだめだからね」

「そうよ。繋いでないと、迷子になっちゃうからね」


 家ではいつも年下扱いされる二人は、今日は一段とお兄さん、お姉さんらしくしようとしている。

 そんな二人と手を繋いでいるルゥルゥはまだ少したどたどしい歩き方だが、嬉しそうに歩いていた。普段は抱っこしてもらって森を歩いていたので、自分の足で歩けるのがうれしいのだろう。

 三人は仲良く森の中へ入っていった。

 いつも訓練に使っている開けた場所につくと、マイカとブロンは交代でルゥルゥを見ながら薪となる枝や調味料として使える木の実などを探した。既に木々の葉は散ってしまっている時期なので、収穫はそれほどない。

 3時間ほど採集を終え、三人はまた仲良く手を繋いで家へと戻る道を歩いた。日が沈むのが早い為、冷え込むのも早いからだ。


「あー、寒くなってきたね」


 マイカはそういうと、ぶるりと身体を震わせた。


「うんうん。もう冬だもんね。今年も薪が足りるといいんだけど…」

「そうだよね。それより、ブロン、クーねぇの帰りが今日は早いって知ってた?」

「そうなの? 珍しいね。この時期って忙しいって言ってたのに」

「うん。でも、今日は早く帰れるって朝、ルゥルゥに言ってた。ねっ、ルゥルゥ?」


 マイカが隣を見ると、ルゥルゥは嬉しそうに笑うだけだった。


「そうみたいだね。ルゥルゥって本当にクーねぇが好きだよね。ぼくらの方が面倒見てるはずなのに…」


 ブロンは口をとがらせると、でもぼくたちもクーねぇが好きだからしょうがないか、と笑った。


 そして、そのまま歩き続けると、森の入り口まで着くともう家まではあと少しだ。

 小屋が見えるところに来ると、そこからヴィレットが料理をしている湯気が少しだけ見えた。ブロンはお腹が鳴りそうになりながら呟く。


「今日はなんのご飯かなぁ…?」

「なんだろうね?」


 ブロンとマイカは驚いた。返事が返ってきたことではない。聞き覚えのない男の声が後ろからしたからだ。

 二人はすぐに腰に掛けてあるナイフを手に取ると、先手必勝と言うばかりに後ろにいる誰かにめがけて思いっきり切りかかった。


「おっと、危ないなぁ」


 男は一瞬で攻撃を繰り出した二人の手を軽々と避けると、少し距離を置いて飄々と笑った。


「でも、なかなか上達したじゃん。うん、今の攻撃は鋭くてよかったよ。でも、真ん中に守るべき子がいるんだから、二人で攻撃しちゃダメでしょ」


 男はこの辺では見かけない褐色の肌、そしてとても整った顔をしていた。一つにまとめた長い銀の髪を揺らし、金の瞳を細めて嬉しそうに笑った。

 その姿を見て、マイカとブロンは顔をほころばせた。


「「ユエさん!!」」

「おう! お前ら、元気だったか?」


 二人は嬉しそうにユエと呼ばれたその男に駆け寄ると、ピョンピョンと飛び跳ねながら今日はどうしたのと尋ねている。


「今日はこっちに寄ったからな。クーツェに会いにきたんだよ。……それよりも、チビちゃんを放っときっぱなしだぞ?」


 大丈夫なのか、とユエが聞くと、二人は慌ててルゥルゥに駆け寄った。勝手に家に帰ろうとよちよちと歩き始めていたのである。


「ル、ルゥルゥ! 危ないから手を繋いでなきゃダメだってばぁ!」


 離したのは自分たちであるのだが、そんなことも忘れてすぐにルゥルゥの手を取った。


「よかったぁ。ルゥルゥが迷子になったら、わたしたち、クーねぇにすごい怒られちゃうよ!」

「えっ? あの・・クーツェが?」


 マイカの言葉を聞いて、ユエは驚いた。

 彼女が誰かのために怒るところが全く想像できなかったからだ。彼女は『光る』ものにしか興味がなく、他のものには無関心だったのだ。『光る』ものがなくなっても傷ついても彼女は残念だと思うだけだった。確かにルゥルゥは彼女が言う『光る』ものだろうが、それを守るためだとしても彼女が怒るとは思えなかった。


「うん。クーねぇ、怒るよ。特にルゥルゥに何かあったときに。すっごい怖いんだから!」

「マジかぁ……。でも、そんなクーツェの顔も見てみたいなぁ…。」


 ユエはしみじみと言った。彼女が怒るところを見るどころか想像もできなかったのだ。彼女に会いに遠路はるばるここまでやってくる一人の男としてはそれは見たいと思うのは当然なのだろう。

 ユエがしゃがみこんで彼女の怒る姿を想像していると、後ろから声がかかった。


「ユエさん、キモイ。クーツェに言いつけるよ?」


 丁度家に帰ってきたらしいエルドとコルトがそこにいた。エルドは見下すようにユエを見ていた。

 エルドは基本的に昔からお世話になっているユエを尊敬しているが、どうもクーツェのことになるとちょっと、いや、かなり情けない奴になるのだ。


「ちょっ、それは止めて!! これ以上クーツェに嫌われたくない!!」

「大丈夫。嫌われることはないよ。好かれることもないけど」

「エルド、直球過ぎ! 俺でも傷つく!」

「そもそも、クーツェが小さいころから求婚してたとか犯罪じゃね? ユエさん、幼女趣味だったんだね。まあ、知ってたけど」

「幼女趣味じゃないから! クーツェが好きなだけだから!」

「必死になっちゃって、まさか本当に……。ああ、これからルゥルゥに近づかないでくれる?」

「コルト、助けて! お前の兄ちゃんが俺をいじめる!!」


 エルドがますますユエを攻めると、ユエは縋るようにコルトを見た。無駄に顔が整っているだけあって、半泣きの顔も様になる。

 しかし、コルトはユエが幼女趣味と聞くや否、すぐにルゥルゥを自分の腕の中に引き寄せ、守るように抱いたのである。そして、冷ややかな目でユエを見た。


「ユエさん、それ以上近づかないでね。ルゥルゥが穢れる」

「穢れる!? ひどすぎない!?」

「いや、そもそも、ユエさんはいくつなの? それによってちょっと対応変わるけど」

「あれ? そういえば言ってなかったっけ? でもまあ、正直言うと覚えてないんだよね。三桁超えたあたりから数えてないや」


 その返事を聞いて、エルドは何を言っているんだと言いそうになった。理由は簡単だ。どっからどう見てもユエは20代前半である。10台と言われても通じる若さがある。頑張っても30代に見えない外見だ。

 しかし、ユエは底知れないところがあるのだ。もう7年以上の付き合いになるが、それでもこの男のことはうかがい知れない。エルドが知っているのは、彼女が好きということ、彼女が働いている宿のオーナーであること、自分たちに生き方や戦い(殺し)方を教えてくれたこと、そして、一年中どこかしらの国を回っていることだけだ。彼が自分たちに何かと手を焼いてくれるのもおそらく彼女を好きだからに過ぎない。

 そんな、エルドには計り知れないユエが言った先ほどの言葉は何故だか嘘には聞こえなかった。


「へー、尚更じゃん。100越えの人がクーツェにアプローチとか、うわぁ…」

「いいんだよ! クーツェはそんなこと気にしないから!」

「はいはい。そんな変態はおいて帰ろうか」


 必死に言い募るユエを放って置いて、エルドはさっさと帰ろうとみんなを促した。

 すると、遠くに丁度帰宅途中のクーツェが見えた。マイカが気付いて駆け寄り、抱き着いた。


「クーねぇ! おかえりなさい!」

「ええ、ただいま。今日は早く帰れたのよ」


 にっこりと笑う彼女はルゥルゥの方にすぐに近寄り、自分の方へ手を伸ばす彼女の真珠をすぐに抱き上げた。


「ただいま、私の真珠ちゃん。今日も綺麗だわ」


 しかし、ユエは自分には目もくれずルゥルゥに向かった彼女に叫んだ。


「えっ、ちょっと! クーツェ、ここに俺がいるよ!! 気付こうよ!」

「あら、ユエ、来ていたのね。見てちょうだい、ルゥルゥよ。綺麗でしょ?」

「う、うん。その子はとっても君の好みだと思うけど、もうちょっと何かないの? 1年ぶりだよ?」

「そういえば、そのくらい経っていたわね。久しぶり」

「………それだけ!? もっとないの? 久しぶりに恋人と会った再開のキスとか!!」

「おい、ユエさん! クーツェとキスなんかしたことないだろ!! そもそも恋人ですらない!」

「エルド、ひどい! ね、クーツェ、何か君の弟に言っておくれ!」


 ユエは先ほどコルトに縋ったように次は彼女に助けを求めてみた。

 それを聞いた彼女はエルドを見て、少し困った顔をした。


「エルド、ルゥルゥがお腹すいているみたいだわ」

「ちっがぁーう! 今、その子の話をしてなかったよね? 俺と君の関係の話だったでしょ!? 俺について何か言っておくれよ!」


 そうユエが必死に彼女に主張した。自分のことをどう思っているのか聞きたい、と。

 すると、彼女はユエをまっすぐ見て、迷いもせずに言った。


「私、貴方が綺麗だと思うわ。その、瞳も髪も」

「う、うん。ありがとう。…クーツェも綺麗だよ。俺よりも、ずっと」


 話が逸らされた、もちろん彼女は意図的ではないが、全く違うことを言われたにもかかわらず、ユエは気づかずに彼女に褒められたことに頬を染めて照れてしまった。恋は盲目なのである。さっきまでの必死さはどこかに飛んで行ってしまったかのようだ。


「私は違うわ。それよりも見てちょうだい、ルゥルゥよ。綺麗でしょ?」


 そういって彼女はユエに近寄り、ルゥルゥを自慢げに見せた。

 自分の元にやってきた彼女たちをユエは見ると、少し面白げに目を細め、優しくルゥルゥの頭をなでた。


「うん。この子、すごく綺麗だね。それに、変わり種、みたいだよ」


 どうやら、気に入ったようだった。ユエはルゥルゥを見ると、周りを見回し、また面白げに笑った。


「ここは面白いね。本当に、君は面白い子たちを集めてくる……」


 そう言うと、ユエは目の前の、上に、自分の方向に手を伸ばしているルゥルゥをひょいっと抱き上げた。アッという二つの声とエルドらしき殺気が後ろから漂っている気がするが、今は無視だ。

 そして、目線をルゥルゥと合わせる。

 その赤ん坊は彼女が綺麗というだけあって、珠のように白い肌、輝くようなアメジストの瞳と、まっすぐ伸びた、この世界・・・・では珍しい白金の髪をしていた。

 目が合って、ユエが笑うとその子も笑うが、視線は上を向いたままで、ずっと嬉しそうにそこに手を伸ばしていた。何もないはず・・・・・・の空に。

 ユエもその方向に目を向ける。そして、同じく、嬉しそうに笑った。


「君も―――……」

「あーー!!!! もう! みんな帰ってこないと思ったら、こんなところにいたの!? 早く帰ってこないと食べれないじゃん! わたし、もうお腹ペコペコなんだからね!!」


 ユエの小さな呟きは、サファニアによって遮られた。どうやら、ずっと帰ってこないみんなを待っていたらしく、お腹がすいたサファニアはたいそうご立腹だ。駆け足で彼女たちのもとに来て、手を引っ張って早く帰ろうと急かす。


「あっ、ユエさん、久しぶり。それよりも、ごはん食べよ? ね、ルゥルゥもそう思うでしょ? まんまだよ? おなかすいた時には食べないとね!」


 ご飯に自分の存在を流されたユエは苦笑しながらも彼女たちと一緒にその小さな小屋に向かった。


 彼の腕の中の赤ん坊はまだ、空に向かってきゃっきゃと嬉しそうに手を伸ばしていた。

赤ちゃんって何もないところに手を伸ばしたり、じっと見てたりしますよね。

結構ホラー((((;゜Д゜))))


というわけで、次からまた本編です。


あと、前の方を少しずつですが改稿しました。

本編にはほとんど影響ありません。

興味のある方は覗いてみてください。

一番改稿したのは06とかですかね。


宣伝ですが……

新作の方も今は週3で更新しているので、ぜひ覗いてみてください!

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