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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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0.14 真珠ちゃん、歩く、帰る。

「ただいまー」


 コルトがその日早く家に戻ると、いつも寝室として使っている部屋でヴィレットとルゥルゥがすやすやと寝息を立てていた。おそらくヴィレットは寝付かせているときに一緒に寝てしまったのだろうとコルトはずれた掛け布団を二人にかけなおす。

 そして、ルゥルゥの頬を少しつついて柔らかさを確かめた。


「ゆっくりおやすみ、おれ達のルゥルゥ。おれが守ってやるからな」


 この場所ではすぐに壊れてしまいそうだから。だから、可愛い可愛い大事な妹は絶対に守る。そう思うとコルトはルゥルゥの額に唇を落とした。

 そして、一緒に帰ってきたエルドいる部屋へと戻る。


 エルドはすでに席についており、コルトも腰を下ろすと一緒に今日の収穫を確かめた。


「今日はこっちは全然だった。エルドにぃは?」

「俺はまあまあ、だな。商家の娘っぽのがいたからそいつからそこそこ手に入った」


 エルドは懐から袋を取り出すと、その中身のお金をジャラジャラと机に落とす。枚数は少ないが、銀貨が少し入っている。それに口角をあげたコルトだが、その枚数を数えると少し難しい顔をした。


「今月はあんまりだな…。クーねぇも最近は残り物が少ないって言っていたしな」

「まあ、な。でも、近いうちにユエさんが帰ってくるらしい。その時に相談すればいいだろ?」

「ほんとに!? じゃあ、とりあえずは安心だな」


 数えた銀貨をコルトは袋にかき集める。すると、寝室から物音がした。

 コルトたちが目を向けると、欠伸をしたヴィレットが出てきた。


「ふぁぁ、………あら、二人とも帰っていたのね。おかえり」

「ああ、ただいま。ヴィレット、ルゥルゥはまだ寝ているのか?」

「うん。でも、そろそろ起きると思うわ」

「そうか。サファニアとマイカとブロンは森か?」

「ええ、今日は訓練するって言っていたわ。エルドも手伝ってあげて。私じゃもうサファニアには敵わないの」

「わかった。じゃあ、俺は森に行くよ。採集もついでにしてくる。必要なものはあるか?」

「そうねぇ。バジルでも取ってきてちょうだい。今日はスープにするつもりなのよ」

「バジルだな。わかった。じゃあ、コルト、ここはよろしく」

「ああ、ルゥルゥの面倒はおれが見ておく」


 じゃあ、いってくるとエルドは言うと、家を後にした。


 向かう先はすぐ近くにある森だ。その森は実りがいいとは言えない。そもそも、実りがよければスラムの住人が既に取り尽してしまっている。しかし森には毒を含む植物や実が多く、彼女が持つ知識がなければエルドたちも森の恵みを受けることは出来ず、スラムで飢え死にする前にその毒によって死んでしまっていただろう。

 エルドは森の中を草をかき分けて進んでいた。少し中に入ったところに開けた場所があるのだ。エルドたちが訓練をするときはいつもそこを使う。サファニアたちが訓練をしているならば、そこにいるだろうと足を進めていた。


 すると、前方から気配があった。エルドは神経をとがらせながら慎重に進む。

 がさっと横の草が音を立てると、何か鋭いものがエルドめがけて向かってきた。エルドはそれがナイフだとすぐに判断すると、目の前まで迫ったナイフを持った手を素早く握り、自分に攻撃を仕掛けた相手をぐっと持ち上げた。

 相手は一度エルドに腕を引き上げられたことによってぶらりとぶら下がってしまったが、直ぐにわき腹に蹴りを入れる。しかし、それもエルドのもう片方の手で防がれてしまった。ならばもう片方の足で、と反対の足で腹筋に蹴りを入れようとするが、それは掴まれていた足を上にあげられたことによってできなかった。

 そして、エルドの深いため息が聞こえた。


「はぁぁぁ、マイカ、筋は悪くないが、ナイフはせめて練習用にしろ。俺でも当たったら危ないぞ」

「そ、そうかな?でも、サファニアがエルドにぃなら余裕でよけられるからって」

「ああ、やっぱりサファニアが言ったのか…。あいつ…!」

「と、とりあえずさ、エルドにぃ、おろして…?」


 サファニアが練習にもかかわらず、ナイフを使わせたことに怒っているエルドにマイカはビクッと驚いたが、とりあえずは右手と右足が掴まれてぶら下がった状態なのでおろしてもらった。


「で、そのサファニアは?」


 低い声で聴かれ、マイカは黒い瞳を少し潤ませた。この兄のように慕ってきた少年には昔から敵わないと分かっているのだ。隠し事などしたら、どんな風に怒られるかわかったもんじゃないとマイカはサファニアがいる方向を指さす。

 すると、その方向から「やばい!にげろ!」という焦った声が聞こえた。

 エルドはいつもの兄らしい笑みでマイカの頭に手をポンとのせると、声がした方に矢のごとく駆けた。エルドの行く先にはサファニアが青い髪を乱しながら必死に走っている。


「おい、サファニア!! 逃げたらもっと悪いことになるぞ!!」

「ひゃあ! 逃げなくてもエルドにぃはお仕置きするじゃん!?」

「お前が練習なのに本物のナイフを使わせるからだろ!! コルトだったらかすってたぞ!!」

「エルドにぃってわかってたから奇襲したんだもん!! 今日の成果が見れてよかったじゃん!!」

「んなわけあるかー!」


 エルドが怒鳴ると同時にサファニアに追いつき、ついにその身体を捕まえた。もちろん拘束的な意味で。そして、腕をひねって後ろに回す。


「いだだだだ! エルドにぃ、痛いから!!」

「反省してるのか?」

「いたい!! いたいってば!! 反省してるから離して!! 折れる!!」


 サファニアの必死な声に、お前がそんなやわなわけないだろと言いながらエルドは渋々サファニアの腕を離した。サファニアはまだ腕が痛いらしく、手首をさすっている。

 そして、隠れていたブロンとマイカを呼んで、一列に並ばせた。


「マイカ、今日の太刀筋は悪くなかった。でも腕を抑えられたからと言って、ナイフを使わなかったのはダメだな。持ち替えてからの反撃を最初にすべきだ」

「う、うん! わかった!」

「ブロンはまだ今日の成果は見ていないが、隠れて気配を消すのはうまくなったな」

「エルドにぃ、ありがとう!」

「サファニア、お前は油断し過ぎだ。隠れるなら、最後まで隠れきれ。あと、俺たち相手に本物のナイフは使うな。余計な傷か増える」


 エルドは一通りのアドバイスを述べる。

 エルドたちにとってこの訓練の様なことは日常茶飯事なのだ。スラムで生き抜くために、スラムでお金を手に入れるために、武力があるに越したことはないとある人に言われ、彼女以外のメンバーはチンピラの大人一人であれば余裕で倒せるほどの腕はある。そうでもなければスラムでは異端のあそこを、エルドたちにとっては家であるあの場所を襲いに来る輩から守ることができないからだ。

 すでにエルドはスラムの中では誰もかなわないくらいの腕であり、裏の仕事を依頼されることもある。次点のコルトは子供の小ささを生かした戦法で数人を相手にできる。ヴィレットも少しは戦えるが、こういう荒事は苦手であるため、次に実力があるサファニアは忙しいエルドやコルトに変わってこうして小さいマイカとブロンに戦う訓練をしているのだ。

 こういった戦う力は自分の死ぬ確率を下げるだけでなく、危機察知能力や生き残ることにも役立つからだ。

 どうやら今日はサファニアは気配を消してからの奇襲の方法を教えていたようで、あの小屋を襲いに来る輩を始末するために役立てるものだ。


「はーい。でもさ、やっぱり本物じゃないと実感がないじゃん! それに、エルドにぃは絶対に避けられるでしょ?」

「そういう問題じゃない!!」


 エルドが目を三角にすると、ゴッという音ば響いた。すると、サファニアがおでこに手を当てている。どうやら、エルドが思いっきりサファニアに頭突きをしたようだ。


「いったーい! エルドにぃ、ひどい!!」

「アホか! そういう心構えで訓練すると怪我するんだよ! 薬草はユエさんに言わないとないんだからな!! これはしつけだ!! ちゃんとその痛みをこれから思い出すようにしてやめるようにしろ!」

「………はぁい」


 サファニアはジンジンする額を抑えながら、渋々うなずいた。


「はぁ、またサファニアが何かしたの…?」


 横から声がし、全員が顔を向けると、そこにはコルトとその腕の中におさまる珠のように可愛い天使がいた。天使は驚いた様子でエルドたちの方を見ている。


「ああ、それより、ルゥルゥも来たんだな」

「うん。起きたら外に出たがったからね。散歩がてら。……それより、ルゥルゥがエルドにぃが頭突きしたのにすごい驚いてたよ。もう、目玉が飛び出さんばかりに」

「ああぁぁぁ。ルゥルゥに見られてたのかぁぁぁぁ」

「なに? エルドにぃもやっぱり荒事はルゥルゥに見せたくないんだな」

「まあ、な。でも、あれはしつけとして必要だったんだよ。確実にサファニアが悪いからな。頭突きはしつけとして神聖なものだから、まあ、本当に何かしてるところを見られたわけじゃないし、今回はいいよ」


 エルドが項垂れると、ルゥルゥはエルドの方へ行きたいとばかりに手を伸ばしてコルトの腕から降りたがった。


「えーど、えーど!」


 名前を呼び、頑張ってエルドに手を伸ばしているルゥルゥをコルトはそっと下す。すると、ルゥルゥはたどたどしい歩き方で少しずつエルドに向かって歩いた。歩き始めて間もないルゥルゥは転びそうになりながらも、とてとてと歩く。その姿は危なっかしいがとても愛らしい。

 エルドはルゥルゥを待つために腕を広げた。そして、優しく名前を呼ぶ。転ばない限りは手伝わないとエルドは決めているのだ。クーツェやヴィレット、コルトは過保護が過ぎるところがあるため、自分だけでも少しは厳しくせねばと心を律しているのだ。律しているにもかかわらず、エルドも十分過保護であることは本人は気づいていいないが。


「ルゥルゥ、あと少しだよ。おいで」


 エルドが名前を呼ぶと、あと数歩というところに迫ったルゥルゥは嬉しそうに笑い、そして、足を頑張って動かして最後は倒れこむようにエルドの腕に飛び込んだ。


「よし! ルゥルゥ、よくできたなぁ!!」


 そういってエルドは頑張ったルゥルゥを優しくなでると、ルゥルゥは抱き着いてまた「えーど」とエルドの名前を嬉しそうに繰り返して呼んだ。


「ちょっ、エルドにぃばっかりずるい!! 私の方がルゥルゥと過ごしてるのになんでエルドにぃの方になつくの!?」


 そんな様子を見て、サファニアはぶーぶーと文句を言った。

 確かにエルドは日中は外に出ているため、家に残ることが多いサファニアの方がルゥルゥと過ごす時間はかなり長いのだ。しかし、ルゥルゥはなぜか普段家にいる時間が一番短い彼女とエルドに一番懐いているらしく、家で面倒を見てるヴィレットたちにはそれが少し不服なのだ。もちろん何故なんだと問いただすことは可愛いルゥルゥを見たらすっかり忘れてしまうのだが。


「ルゥルゥにはお前のがさつさが分かるんだよ。きっと危機察知してるのさ」

「エルドにぃ、ひどい!」

「ひどくない。本当のことだ。というか、そろそろ帰らないとご飯に遅れるぞ?」

「あっ!? そういえば、もうそんな時間か!」


 ご飯と聞いて、サファニアはすぐに目の色を変えた。今はエルドにルゥルゥは取られてしまっているのだし、それならば、エルドに任せて早く帰ってつまみ食いしなきゃと採集につかった籠を手に取るとすぐに家に向かった。

 エルドはその態度の変えようにやれやれと思いながら、他のみんなを率いてサファニアを追った。


「サファニア、バジルはあるかー?」


 少し先を走るサファニアにエルドは確認を取ると、「あるー!」と返事が返ってきた。大声だったため、既に随分と先に行ってしまったようだ。

 その俊敏さにエルドたちは苦笑しながら後に続いた。

 そして、エルドは腕の中のルゥルゥを見て、言った。


「さあ、帰ろうか。俺たちの家に」

遅くなりましたぁぁぁ!!


真珠ちゃんシリーズはなかなか筆がのらない…。


でも、フラグの建設は終わったはず…!


蛇足。

名前の由来

クーツェ  →クオーツ(水晶)を名前っぽくしただけ。麦を踏んだりましません

エルド   →エメラルドを名前っぽくしただけ。

ヴィレット →ヴァイオレットを名前っぽくしただけ。

サファニア →サファイアっぽい名前を見つけただけ。

コルト   →ゴールドを名前っぽくしただけ。

マイカ   →雲母を英語にしただけ。

ブロン   →ブロンドを名前っぽくしただけ。

ルゥルゥ  →アラビア語で真珠。


作者は名前を付けるのが下手なので割と適当ですw

ちなみに、クーツェとエルド以外はみんなお互いを呼び捨てです。年齢構わず。ヴィレットだけは上の二人も呼び捨てですが。

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