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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第2章 幼少期~現在と過去編~
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0.13 真珠ちゃん、笑う、泣く、そしてまた笑う。

真珠ちゃんシリーズ、人数多くて書きにくい……。

 彼女は目を覚ますと、直ぐに横で気持ちよさそうに眠るルゥルゥの方へごろんと身体を向けた。そして、真っ白な肌に手を添えるとにっこり笑う。


「ああ、私の真珠ちゃん。今日も綺麗だわ。」


 そう言って、そのもっちりとした頬をなでると、彼女は布を敷いただけの硬い寝床から起き上がる。横には他の『光る』子たちがすやすやと寝ていた。

 そろそろ冬も近づいてきたため、隙間風が彼女たちの肌を刺す。彼女は立ち上がると自分の下に敷かれていた少し薄汚れた布をすぐに大事な『光る』子たちにかけた。


「体調を崩したら大変ね。」


 そう一言呟くと、彼女は小屋の様な家から出て、近くに設置されている井戸に向かった。

 井戸は枯れてはいないが、作りが粗雑なものである為、くみ上げた水はきれいではない。彼女たちは彼女が独自に作ったろ過装置を通してその水を使っているのだ。その為、彼女たちが起きて一日の最初にするのは井戸の水をくみ上げてそのろ過装置に入れることだ。一日に使う分だけをろ過装置に入れる。

 彼女が4杯目の水をくみ上げているときに欠伸をしながらエルドやコルトが起きて出てきた。そして彼女の腕の中の桶を取ると、自分たちがやると言い、彼女には他のことを頼んだ。

 それは、マイカやブロンと一緒に森へ行き、薪拾いをすることだ。季節は冬を迎えつつある。この場所は冬は厳しくはないが、それでも雪が降って温度が下がる為、凍死するスラムの住人は少なくないのだ。

 彼女は昨日、2日休みを取ったと言っていたので、エルドは暇になった彼女には森での薪拾いを頼む。しかし、彼女は首をふるふるふった。


「今日は家にずっといるわ。わたしがご飯を作るから、ヴィレットとサファニアに今日は頼むことにするわ。」


 彼女は2日しか休みがないのだから、ずっとルゥルゥといたいと言った。

 昔から自分のことに関しては強く言うことがない彼女にエルドは驚きつつもわかったと了承した。

 彼女はエルドからの了承を聞くと、すぐに部屋にいる彼女の真珠の下へ向かった。


 彼女たちが寝室として使っている部屋に行くと、そこにはまだマイカとブロンが抱き合って寝ており、その隣のサファニアは足を広げて反対隣のヴィレットの腰のあたりを蹴っている。そのせいで寝心地が悪いのか、ヴィレットは少し眉を寄せて目を閉じている。

 彼女はヴィレットたちには目もくれず、自分が寝ていた場所で少し綻んだ籠の中にいる彼女の真珠に真っすぐ向かった。

 彼女の真珠はいつの間にか起きていたようで、綺麗な紫の瞳をパチクリさせながら彼女を見ていた。


「あら、おはよう。私の真珠ちゃん。」


 頬をなでながら彼女がそういうと、赤ん坊は彼女に手を伸ばしてキャッキャと笑った。まるで本当の母親に会ったかのように笑っている。おそらくこの赤ん坊の母親は既にこの世にはいないであろうが、彼女にはそんな情報はどうでもいいことだ。自分の目の前にこの『光る』子がいれさえすればいい。それだけで彼女の人生は幸せなのだ。



 それから、彼女たちの生活体系は少し変わった。

 ルゥルゥの面倒を見なければいけなくなったからだ。彼女が休暇を終えてしまうと、彼女が仕事をしている間は必然的に家に残っている面々がルゥルゥの世話をしなければならない。

 彼女以外の子どもたちは普段は2組に別れて行動している。片方は外で日雇いの仕事をしたり、街でってきたりする。もう片方の組は、小屋の近くの森で採取をしたり、料理をしたりと家事をするのだ。

 最近はエルド、コルト、サファニアが外に出て、料理が得意なヴィレット、そして幼いマイカとブロンが家に残ることが多かった。

 しかし、これにルゥルゥが加わることによって少し変わる。ルゥルゥは大人しいのでそんなに面倒はかからないが、それでも一人の赤ん坊の世話なのだ。家に年長組のヴィレットがいるとしても負担が大きい。その為、外に出る組の内の1人が家に残ってルゥルゥの世話の手伝いを始めた。

 誰もがここに来たときは既に3歳は超えていたため、赤ん坊の世話をするのは初めての経験だった。しかし、みんながルゥルゥを新しい家族、妹として可愛がったお陰で、ルゥルゥはこの場所に来てから3か月で未だに問題なくすくすく育っている。

 最近はハイハイもできるようになり、毎日の成長を誰もが噛みしめていた。


 それはヴィレットが料理を作りながらルゥルゥを負ぶっていた日のことだった。

 冬はすでに超し、マイカとサファニアは森になった木の実を取りに出かけていた。ブロンは料理のために使う水を取りにろ過装置にの近くにあるため水を取りに小屋を往復していた。

 ヴィレットはみんなの帰りを待ちながら、自分の唯一の長所だと思っている料理でみんなを喜ばせようと味付けに精を出していた。そのとき、後ろから声がしたのだ。聞きなれているけど、聞きなれない単語が。


「いえっとー!」


 ヴィレットははっと後ろにいるルゥルゥを見た。ぱっちりした自分と同じ、もっと深い色の瞳でこちらを見つめ返している。


「いえっとー!」

「…………喋ったぁぁぁ!!」


 予想外の出来事にヴィレットは嬉しくなって叫んでしまった。急な大声にルゥルゥは身体をびくりとさせ、泣き出した。


「うえぇぇぇぇぇん!!」

「あ、ごめんごめん。ルゥルゥ、ごめんってば。」


 ヴィレットはすぐに身体を揺らしてルゥルゥをなだめた。さすがに今回は自分の大声が原因であるがゆえにヴィレットも申し訳なさそうだ。

 そして、外からバタバタと足音がするのも自分のせいであろうとヴィレットは肩を落とした。


「どうしたの!?」

「大丈夫!?」

「ルゥルゥに何かあったの!?」


 三者三様に声を揃えて言ったが、それもすべてルゥルゥを心配しての言葉だった。外で合流したらしいく、大きな音を立ててなだれ込んできたサファニア、マイカ、ブロンは急いできたのか少し息が荒い。

 それもそうだろう。そんなに泣かないルゥルゥの泣き声が外から聞こえたのだ。何かあったと考えるが当然だ。

 ヴィレットは心配する3人を見てあははと乾いた笑いをこぼすと、ごめんと謝った。


「ルゥルゥが私の名前を呼んだから驚いて叫んじゃったんだよね。それで泣いちゃったの。ごめんね。」


 正直に話すと、3人はきょとんとした。


「えっ、ルゥルゥ喋ったの!?」

「ルゥルゥが!?なんて言ったの!?」

「ルゥルゥ、僕の名前いってくれるかな!?」


 このメンバーには誰かが話しても自分の話をやめる者はいないのである。すぐにおぶわれているルゥルゥに近寄って自分の名前を呼ぶようにせがむ。3人が来て、ルゥルゥはすっかり涙が引っ込んでしまったようだ。


「ちょっと!ルゥルゥが驚いてるでしょ!私の名前を呼んだからって、みんなの名前を呼ぶわけじゃないんだから!!私の名前は呼んだけど!」


 ヴィレットは自分だけは呼ばれたことがあると主張する。ヴィレットの先ほどの罪悪感はどこかに吹っ飛んでいき、今あるのは優越感だけだ。


「ちょっとー、ヴィレットだけずるいよー!!ルゥルゥ、ほら、サファニアって呼んでごらん。サーファーニーア!」

「ヴィレットだけなの!?ずるいよ!」

「そうだよ!ぼくだっていっぱいルゥルゥの面倒見てるのに!」


 3人はヴィレットに引っ切り無しにずるいずるいと言い、そしてルゥルゥに自分の名前を呼ばせようと頑張っていた。そんなに何度も言われてもルゥルゥは何が何だかわからないように目を見開いて驚いているだけだ。


「急に言われても呼ぶわけないでしょ?私みたいにずっと愛情いっぱいで面倒見ないと。まあ、私が一番最初に呼ばれたのは当たり前だよね?一番一緒にいたんだから。」


 えっへんとヴィレットはない胸をぽんと叩いて自慢した。納得がいかない3人からは悔しそうな声がするが、それはヴィレットの気分を良くするだけだった。

 そんな地味な争いをしていると、扉の方から足音がした。


「ただいまー。なんか騒がしいけどどうしたの?」


 開いた扉から現れたのは彼女とエルドとブロンだった。どうやら彼女たちも外で合流したようだった。


「おかえり!ねえ、聞いて、エルドにぃ!ルゥルゥが喋ったんだって!でもね、ヴィレットが最初に名前呼ばれたの!わたしはまだなのに!」


 サファニアはルゥルゥが話したのはうれしいが、自分の名前はまだ呼ばれていないことは納得できないようで、不満を隠さずにエルドにぶつける。


「落ち着け、サファニア。ルゥルゥが驚くだろ。ルゥルゥが喋ったっていうけど、俺とクーツェはもう呼ばれたことあるから、ヴィレットが一番じゃないよ。」

「「「「えっ!?」」」」


 これにはみんなびっくりである。ヴィレットは自分が一番じゃなかったことに肩を落としている。


「な、なんで教えてくれなかったのさぁ!」

「だって、自分が最初じゃないと拗ねるだろ?」

「そ、そんなことないよ!ルゥルゥが喋ったなら、ふつうによろこぶよ!たぶん、きっと……。」

「まあ、ヴィレットよりは俺たちが先っていう方が納得できるだろ?」


 そうなのだ。なんだかんだ言っても、みんな拾ってくれた彼女やエルドが一番ならいいかなと思ってしまうのだ。


「うん、まあ。ヴィレットが一番じゃないならいっか。」

「ちょっとー!私は納得いかない!!一番だと思ってたのに!!」


 マイカとブロンもサファニアの言葉にうんうんと頷いていたが、やはりヴィレットは納得がいかないようだった。一人でぷんすか怒っている。


「ヴィレット、鍋はいいのかしら?」


 部屋に荷物を置いて落ち着いたらしい彼女は怒るヴィレットの様子も気にせず、ヴィレットの背中で先ほどの様子をきょとんと見ていたルゥルゥを自分の腕の中に収めた。そして、そろそろご飯ではないかと冷静に鍋の火の具合を尋ねる。


「あぁぁぁぁぁ!」


 ヴィレットは慌てて火を止め、サファニアたちがとってきた木の実が入った籠に手を入れ、手早く味付けを済ます。


「もう、今日は微妙になっちゃったよ…。」


 がっくりとヴィレット肩を落とした。自分は家で待っているだけなので、できるだけおいしいものを作ってあげたいのだ。


「まずくても気にしないよ、ヴィレット。」

「もうっ、励ましてよ、マイカ!」


 その願い空しく、お腹がすいた子供たちは落ち込むヴィレットなど気にせずにご飯の準備をした。ルゥルゥはすでにお一人様贅沢な食事中である。


「おなかすいたぁ!早く食べよ!」

「めしだー!めし!」

「ブロン、そこの籠、どかして。」

「エルドにぃ、今日のパンはここでいい?」

「ああ、そこでいいぞ。ヴィレット、お皿、置いておく。」


 そんな様子を彼女はルゥルゥと一緒に眺めていた。

 少し下を向くと、自分の腕の中で満足そうに母乳を頬張る赤ん坊がいる。その子は今日も暖かくて、可愛くて、綺麗だった。

 パチッと目が合うと、彼女の真珠は嬉しそうに笑った。

 その笑顔は彼女にとっての『光る』ものである。

ちなみに、後日談。

「ルゥルゥ、サファニアって言って。サーファーニーア!」

「さーにあ!」

「シャァベッタァァァァァァァ!!!」


サファニアだとこういうノリになります。

その後、もちろんルゥルゥに泣かれます。

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