19 王子様と乙女ゲーム(改稿版)
ユリウスが不憫キャラになってきました…w
ティファニアは遠慮と自嘲がなくなりましたねw
「殿下、何をやっても不敬にならないというのは僕には適応しますか?」
「ん? シャルルはいつも通り、何やってもいいと言っているだろう」
「そうですか。それはよかったです」
そう言ってシャルルは笑みを深くした。
「…そうか。…………って、あれ?」
さっきも似たようなやり取りをしたような―――……
ゴッ!
先ほどよりも鈍い音が響いた。すると、予想通りユリウスの眉間らへんがジンジンと痛む。ティファニアが小さい為、顎に命中したが、ユリウスと近い身長のシャルルでは額の下の部分にあたった。
「おい、シャルル!! 何するんだ!?」
「なにって、頭突きですが?」
シャルルはティファニアと同じ答えをすがすがしい笑みで言った。その態度はあっけらかんとしており、ユリウスは何なんだこいつらはと言いたかった。
「いや、それは分かるが、なんで頭突きをするんだ!!」
「それはですね、しつけですよ。ね?」
シャルルは爽やかに笑ってティファニアの方を見た。
「そうですわ、殿下。頭突きはしつけの時に行われる神聖なものなのですよ。自分も相手の痛みを知ることができるでしょう? つまりこれは自分も相手の痛みを知ることができ、かつ相手は悪かったところを自覚できるという素晴らしい方法なのですわ!」
ティファニアが頭突きがしつけのために如何にいいものなのか力説し、前にティファニアに頭突きをされたことがあるシャルルが隣でうんうんとうなずいている。しかしながらユリウスにはさっぱりその理論がわからなかった。そもそも、どこをどうやったら頭突きが神聖なものになるのかがわからない。
「意味が分からん。そんなおかしなことを言ったのはどこの誰だ……」
「さぁ、なぜか知っていましたの」
「なんだそれは……」
ティファニアの悪気が全くない態度に呆れを通り越して既にユリウスは疲れてしまった。
もういいやと思い、椅子に腰を落ち着け、部屋に入ってから誰も手を付けていないテーブルのお菓子をつまんだ。一番立場が上のユリウスが手を付けたので、ティファニアたちも続いて紅茶やお菓子を口に運んだ。
先ほどとは違って、部屋はシーンとする。
ユリウスは冷めた紅茶を飲み切ると、ティファニアをちらりと見た。
「はぁぁ…。もう、なんなんだ、この女は?」
疲れた様子で額を押さえながらユリウスは呟く。
ティファニアは一瞬きょとんとすると、当たり前のことを聞くなぁとくすくす笑いながらユリウスに行った。
「ティファニアですわ」
「そんなこと知っている! はぁぁ…、俺のペースが乱される……」
「それは殿下の通常運転では?」
「ちがう! 明らかにお前たちのせいだ!」
さっきから的が外れた返答しかしない二人にユリウスは気分が晴れない。
「さっきからお前たちは俺に失礼すぎだぞ!」
「礼をはらうべきところがあるのですか…?」
「…………おい、シャルル」
「はいなんでしょうか、殿下? ……あっ、このお菓子美味しいですよ。ティーが持ってきてくれたんです。僕の最近のお気に入りなんですよ。殿下でも食べてみたことないはずですから、挑戦なさってみてください」
「ああ、それはわたくしが昨日作ったアーモンド入りのクッキーですわ。シャルル様に気に入って頂けて光栄です。他にもクルミやレーズンが入ったものもありますのでどうぞ殿下も召し上がってみてください」
ユリウスは頑張ってドスをきかせてシャルルを少し脅したつもりだったが、今のシャルルにはどこ吹く風だ。全く気にせず、うふふふあはははと穏やかに笑いながらティファニアとお菓子について語り合っている。
「おい、お前たちはもう少しくらい王族に対して敬意を示せ。あからさま過ぎだぞ」
そうかなとティファニアは首を傾げると、シャルルにちらっと目配せをする。そして、ユリウスの方を見るとばっと手を広げて仰々しく身振り手振りを加えて言った。
「ああー、殿下は何を言っても不敬になさらないとおっしゃったとてもお心の広い方ですわー。尊敬いたしますわー」
突然のティファニアの賞賛にユリウスは驚く。しかし、棒読みだったので全く喜べない。
「殿下は僕が失礼なことを言っても許してくださる素晴らしいお方だー。そんな方と一緒にお茶ができるだなんて僕は幸せだー」
次はシャルルがユリウスを褒める。まるで演劇のように。もちろん棒読みで。
「………お前たち、馬鹿にしているのか?」
「いえいえ、敬意とおっしゃったのでわかりやすく言葉にしてみましたわ」
「馬鹿にしているだなんて、殿下はひどいお人ですね。……でも、心にもない言葉を言うのがこんなに疲れるだなんて初めて知りました。新しい発見をさせてくれるだなんてさすが殿下ですね」
「……なんか、もういい。俺は疲れた……」
ティファニアたちのひどい言いようにさすがにユリウスも2度目の音を上げた。
「それはそれは、よかっ……いえ、大丈夫ですか、殿下?」
「……シャルル、今日はいつも以上に遠慮がないな…?」
「そうですか? まあ、殿下がティーを悪く言ったからですよ。殿下だってご自分やご自分の大切な人が悪く言われるのがお嫌いでしょう? ……その気持ち、殿下ならよくわかると思ったのですが?」
シャルルは冷めた目でユリウスを見ると、ユリウスはうぐっと言葉に詰まってしまった。
そういえばそうだったなとティファニアは思いながらぼうっとユリウスを見つめた。
(そういえば、ゲームの中の殿下は兄が悪く言われるのが嫌だったはずだよね……)
『ユリウス・エルフィリス
エルフィリス王国の第2王子。主人公より1歳年上。自分が常に正しいと思っている。唯我独尊。天才であり、学園では勉強・剣術共にいつもトップ。ティファニアの婚約者』
そう書かれた説明文の上には少し癖のある漆黒の髪と美しい深紅の瞳でこちらを見下ろす少年がいた。
この王国では苗字は貴族、王族しか持たない。王族だけはミドルネームに母親の苗字が入るのだ。しかし、ユリウスにはない。それは彼が平民の使用人との間に生まれた子だからだ。そして、彼の本当の父親は現王ではない。先王が亡くなる前年にメイドに手を出してできてしまった子供だ。先王は女遊びがとても派手だったが、王妃や側室以外とでは子供を作らないように気を付けていた。しかし、年になり油断してしまったのか最後の最後にできた子供がユリウスなのだ。
ユリウスが生まれてすぐに先王が亡くなり、平民という身分の母親は何もすることができなかった。そこで、血の流出を防ぎたかった現王が自分の子どもとして育てるように引き取った。もちろん事情を知らない王妃は反対し、ユリウスの母親を攻めたため、精神的に病んでしまい、彼女はユリウスが赤ん坊の内に亡くなった。それから彼の居場所は城ではほとんどなくなり、幼いユリウスには自分を息子と慕ってくれる王とその息子の兄王子しか味方がいなかった。
ユリウスがそこまで冷遇されたのは彼の外見に原因があった。闇のように吸い込まれそうな漆黒の髪と輝くような黄金の瞳では王族である証なのだ。しかし、ユリウスは深紅の瞳であった。紅色の瞳は王国でも珍しく、何故か人々には気味が悪く見えた。城に勤める者たちはユリウスと目を合わせることに脅え、遂には彼は王と兄王子以外とは話さなくなった。
しかし、彼の不幸はそれだけではなかった。ユリウスが大きくなると、家庭教師がつき、王族としての教育が始まった。ユリウスは淡々とこなしていたつもりだったが、彼は天才と呼ばれてもおかしくないくらい早く完璧に勉強を進めていった。何でもすぐに、簡単にこなしてしまうのだ。これに危機を覚えたのは兄王子の母親である王妃だ。二人は年齢が1つしか離れておらず、兄王子の方がユリウスに比べて頭がいいわけではなかったため、もしかしたらユリウスに自分の息子の地位を取られてしまうのではないかと思った。そして、兄王子をユリウスから遠ざけ、何度か暗殺しようした。王のお陰ですべて防がれているが、王妃の心配を増長させるようにユリウスを推す派閥がだんだんとできていった。これにはユリウスは何もできなかった。自分が知らないうちにできていたのだ。
彼がそのことに気付いたのは7歳になった時だ。勝手にユリウスを次期国王と望むものが兄王子を暗殺しようとした。兄王子はユリウスに比べて何もできず、王族として頼りなさすぎだからだそうだ。彼はメイドたちが噂をしているのを隠れて聞いたのだ。兄を馬鹿にし、暗殺に手を染めようとした者たちにユリウスの頭には怒りで血が上った。しかし当時のユリウスは王宮での力は何もなかった。ユリウスはずっと会っていない自分の大好きな兄が自分のせいで死んでしまうかもしれないと気付いた。自分の味方は2人しかいないにも関わらず、その一人が失われてしまうかもしれない。そう思い、ユリウスは自分を変えることにした。
彼は普段、自分以外の者には変な軋轢を避けるために丁寧に接してきた。しかし、それをやめることにしたのだ。わざと横暴な態度を取り、自分を将来的に王にしたいものたちに自分は手を付けられないものだという印象を与えることにした。元々の性格が合ったのか、彼の作戦は成功する。そして、ユリウス派閥の者たちは鳴りをひそめることのになるのだ。
ユリウスはやったと思った。これで少しは王妃も静かになり、兄への中傷も減る。そして、これで兄に会いに行ける、と。久しぶりに兄に会うことにうきうきしながら彼は兄王子のいるところに向かった。しかし、そこで受けたのは拒絶だった。兄王子はユリウスには見向きもせず、自分の前から消えろと言った。もう顔も見たくないと言われたユリウスは呆然とその場で立ち尽くすことしかできなかった。
それからのユリウスは演技ではなく横暴になる。自分以外どうでもよくなったのだ。彼の心は傷ついたままユリウスは貴族だけが通う学園に入学することになる。
1年目は王族として最低限のことはした。成績は勉強・剣術共にトップである。しかし、同じ学園にいるはずの兄には会うことができず、毎日つまらない日々を過ごしていた。しかし2年生になった時、ユリウスは一人の少女に出会った。いつも惰性で会っていた婚約者とそっくりな、しかし瞳の色と顔立ちが少しだけ違う少女、ヒロインと出会った。彼女は初めて会った時、目を反らさずにユリウスと話した。そんな真っすぐ見つめて話す彼女は彼にとって変に心を揺さぶるうっとうしい存在だった。しかし、段々真剣に見つめる彼女は彼の長年一人になるために壁を作っていた心をほぐし、最後には兄王子とユリウスの間を取り持った。
兄王子との件が解決すると、ユリウスはヒロインに惹かれていることに気付き、自分のものにしようとする。ここで邪魔をするのがティファニアだ。自分の婚約者に近づき、自分から奪っていくヒロインを排除しようと暗躍するが、何度もユリウスに阻止され、逆に彼らの仲を深めることになった。
ハッピーエンドではティファニアとの婚約が公然のパーティーで破棄され、二人は結婚して幸せに暮らす。婚約破棄されたティファニアは修道院送りになり、その先で衰弱してすぐに亡くなっている。バッドエンドでは終盤、ユリウスが婚約者であるティファニアではなくヒロインを連れた夜会でティファニアとヒロインは二人でベランダで言い合いになる。そこでとっくみ合いになり、ティファニアはヒロインをベランダから突き落とそうとした。しかし、彼女は咄嗟にティファニアをつかみ、二人そろって落ちてしまうのだ。残念ながら二人とも助からなかったという死亡エンドだ。
ティファニアはユリウスのゲーム内のストーリーを思い出しながら、突っ込みたくなった。
(なんで、こんなにゲームと違うの!?)
ユリウスの性格が若干、いやかなりゲームとは違うのではないかと思った。ユリウスはゲーム内では確かに俺様キャラを演じ始めたが、今回は素なのではないのか、と。いや、最終的にはそのような性格になったということは元々そういう性格だったのだろうか。一応ユリウスは今は人目があるところでは取り繕っていた。ならば、まだ兄王子暗殺未遂が起きていないのではないのか。ゲームでもシャルルとユリウスは一緒にいたが、シャルルが変わったことでユリウスも変わったのだろうか。もしかして、シャルルと出会う時期が変わったのだろうか。それとも、ユリウスの周りの環境も変わっているのだろうか。
しかし、ティファニア自身も既にゲームとは違うことが起きているので、ユリウスにもゲームとは違うことが起きているのかもしれない。
ティファニアは次々と浮かぶ疑問の渦にとっぷり浸かっていた。
(じゃあ、わたしとティリア、シャルル以外のまだ会っていない攻略者たちもゲーム通りのシナリオが進むわけじゃないってこと……?)
それならこれから会う攻略者たちとの死亡フラグ回避はあんまり考えなくてもいいのかもしれない。いや、保険はかけておくものだろうかとユリウスを見つめていろいろ考えを巡らせながら、それにしても、とティファニアは思う。
(こんなに綺麗な深い薔薇の色なのに、なんでみんな避けるんだろう)
ずっとユリウスを見つめるティファニアに全く気付かずにシャルルとユリウスは言い合いをしていた。
「―――そうだが、そっちだって俺を謀ろうとしたのは悪いだろう!」
「王族の前で本来の口調になれる人などいません。勉強ができるのですからそれくらいわかるでしょう?」
「俺が許可したんだぞ?」
「許可云々の話ではありません。それに、突然いらして無理難題をティーに押し付けるのはやめてください」
「た、たしかに突然だったが、そんなに予定があるわけじゃないだろう?」
「いえ、僕にもありますよ。家庭教師が来ていることだって今日のように来客があるときだってあります」
「うっ、お、俺だって忙しいんだ。だったら少しくらいは………って、なんだ?」
ユリウスはティファニアが自分の方を見ているのに気づくと、あからさまに眉を寄せた。
「じっとこちらを見ているが、なんの用だ?」
そういわれて、ずっと相手のコンプレックスであるはずの瞳に綺麗だからという理由だとしても見入っていたことにティファニアは気づいた。きっと指摘されてしまったらユリウスは嫌な気持ちをするだろう。そう思い、ティファニアは口をつぐみ、少し目を反らした。
「いえ、ただ――………」
「ん?なんだ?先ほどのような無礼でなければもう何も気にしない。言ってみろ」
「いえ、なんでもありませんわ。お気になさらないでくださいませ」
ユリウスは怪訝そうな顔でティファニアを見た。
「そう言われると気になる。これは命令だ。何を思っていたか言え」
「………よろしいのでしょうか?」
「ああ、構わん」
ユリウスの許可を聞くと、ティファニアは困った顔を一変させてふわりと笑った。
「ただ、……ただ、殿下の瞳はとても美しい色だと思っていましたの。わたくしの大好きな薔薇の色です」
「っ!?」
予想外のティファニアの言葉にユリウスは固まってしまった。耳から段々と顔が赤くなっていく。
横ではシャルルが「これは天然なんだろうな…」とため息をついているが、ティファニアにはどういう意味かさっぱりだった。
首まで真っ赤にすると、ユリウスはガタガタっと椅子から立ち上がった。
「ばっ、おまっ、急になんだ!! ……あー! もう今日は帰る!!」
そう言って、ユリウスは部屋の外の護衛を連れるとさっさと帰ってしまった。
ユリウスの突然の帰宅に、ティファニアは顔を蒼白にした。もしかしたら、コンプレックスを指摘されてしまったから帰ってしまったのではないか、と。
「シャ、シャル、どうしよう………? ティー、すごく失礼なこと言っちゃったかな……?」
そんな真っ青なティファニアの肩をポンと叩いてシャルルは心配してるようなことじゃないよと安心させるように言った。
「だけど、もうあんな可愛い顔して可愛いことを言うのははもう殿下にしちゃだめだからね」
シャルルの発言がよくわからないという風にティファニアは首を傾げるが、その意味が分かるようになるのはいったいいつなのだろうかとシャルルはもう一度ため息をついた。
全部、シナリオのずれのせいなんです!
作者の文章力のなさのせいではないはずです!!
あと、17のアリッサの本名について少し文章を追加しました!
追加情報なので、ご確認ください。
次回から数話、真珠ちゃんシリーズを更新します。
あと、来週の日曜日に前々から勉強していた日商簿記検定があるので来週の更新はありません。
お手数おかけします……。
その代わり、再来週は補てんで3,4話投稿できればいいなと考えています。
その前に試験乗り切らなければいけないんですがね……。




