18 わたしと王子様
久しぶりに乙女ゲーム要素を書いた気がしますw
ティファニアがはっちゃけますので、いろいろ注意かもです。
レストラン開店から半年以上経ち、ティファニアはもうすぐで6歳になるところだ。
レストラン経営はすでに安定しており、ティファニアはまたシャルルとよく遊ぶようになった。週に3回はあっている気がするのはきっと間違いでないだろう。
シャルルと遊ぶときにティリアも一緒に混ざるようになり、前より賑やかになっている。
ウルタリア侯爵邸で遊ぶときはティリアも一緒だが、ティファニアがルイビシス公爵邸に行くときは一人で行く。それは、ルイビシス公爵邸では基本的に図書室で読書か勉強をしているからだ。ティリアは本に興味はあるが、ティファニアやシャルルのようにじっとしていることができなかった。その為、ティファニアと一緒にいたいがために家で勉強してから出直すそうだ。
ティファニアがルイビシス公爵邸の図書室に通うのはわけがある。実は特別にルイビシス公爵領の資料の閲覧許可をアルベルトにもらったのだ。ルイビシス公爵領は王国の北側にあるため、ウルタリア侯爵領とは違った習慣や動物、作物があるようで、ティファニアは新鮮な気持ちでそれを読んでいる。この国は王国直轄地以外の政策は領主に一任されているため、ウルタリア侯爵領にはなかった決まりなどがあり、それを参考に改革案に改善するべきところはあるかと考えている。
アルベルトにはすでに改革案のことは知られており、高く評価してもらっている。しかしその内容はかなり新しいものが多い為、ルイビシス公爵領はウルタリア侯爵領の施行後の様子を見てから徐々に取り入れたいそうだ。
ウルタリア侯爵領では戸籍を早急に作り上げ、既にそれを参考に学校を開校した。街道整備も始まっており、この夏中には警備隊が活動予定なので、これからもっとお金が回るようになり、治安もよくなるだろう。ティファニアは実際に行くことは出来ていないが、数字で僅かながら景気が上向きになってきているのを喜んだ。まだ先だが、この改革案がスラム救済としての役目をどんどん果たしてくれるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日もティファニアはルイビシス公爵邸で資料や屋敷にはない本を読み漁っていた。隣のシャルルは家庭教師からの宿題をやっている。
ティファニアにも家庭教師がつく予定だったが、ラティスがあまりティファニアの優秀さを外に出したくなかった為、勉強も礼儀作法も完璧なアリッサに習っている。普通の子どもにとってはスパルタだが、前世の知識があるティファニアにとっては勉強はそう難しくなかった。本来ならば13歳で通い始める貴族の学園で習う範囲を既に勉強し始めている始末だ。
シャルルはティファニアの横で算数を解いていた。シャルルは地の出来がいいのか、攻略キャラだからなのか、今は10歳が習うような範囲をやっている。先日6歳になったばかりなので、シャルルは天才なのではないかとティファニアは自分のことのように喜んだ。しかし、もっと先を簡単に終えてしまうティファニアの褒め言葉はシャルルには悔しかったようで、今は前さらに勉強速度を上げているらしい。
算数はティファニアが知っている前世にあった公式を使う方がわかりやすいので、それを使っている。先ほどティファニアに教えてもらった分数の公式を使いながらシャルルは家庭教師はいらないのではないかと少し考えていた。しかし、隣でのんびりと本を読んでいるティファニアに完全に全てを教わるのはプライドが許さないのでグッと抑えた。
ティファニアたちはいつも使っている図書室の窓際の席にいた。深い紫の綺麗な瞳は楽しそうに文字列を追っている。肩を超えるような長さに伸びたストレートの白銀の髪は窓から注ぐ光を弾いてきらきらと光っていた。シャルルは結ばずに遊ばせてあるさらさらした髪に手を伸ばして少し掬い上げた。
それに気づいたティファニアはきょとんとして本から目を離した。
「どうしたの、シャル?」
「ん?ああ、かみ伸びたなって。」
「あっ、かみのこと?最初は短かったもんね。」
「うん。最初見た時は本当におどろいたよ。」
「ずいぶんバッサリ切られてたからね。」
ティファニアが目を伏せたため、シャルルは顔を顰めて誰に?と聞こうとした。しかし、それは遮られた。
バンッという扉を開く音がすると、若いメイドが息を切らせてティファニアたちの方へ小走りで寄ってきた。そして、シャルルに耳打ちをする。
それを聞くと、最近は感情を表に出さないようにしていたシャルルには珍しく目を見開いて驚いた。そして額に手を当て、苦い顔をしてティファニアの方を見る。
「……ティー、今日は夕方までうちにいる予定だったよね?」
今はお昼を終わった時間で、人によってはお茶会を始めるころだろう。
ティファニアは自分の予定を知っているはずのシャルルがなぜそんなことを言うのかわからず、首を傾げた。
「…?そうだけど、どうしたの?」
ティファニアの純粋な質問にシャルルは言いにくそうな顔をした。
「あー、えーっと、あんまり信じたくないんだけど、実はね、これからさ、ユリウス様がいらっしゃるみたいなんだ。」
「………えっ?」
ティファニアは驚きすぎて一瞬思考が停止してしまった。
「だから、ユリウス様がいらっしゃるってさ。」
「……ユリウス様って、あの?」
「うん、あの。」
「第2王子の?」
「そう、それ。」
「………なんで急に?」
「いや、なんていうか、半年くらい前に僕も将来的な付き合いになるからって顔合わせをして、何度か会ってたんだよ。それで、まあ、……気に入られたみたい。」
「ちょっ、それはわかったけど、なんで急に!?ティーが最初に約束してたのよね?まさか、日にち間違えた!?」
「ティー、一回落ち着いて。多分殿下の性格上、僕の家ならいつでも大丈夫だと思ったんだと思うよ。」
「えっ!?そうなの?」
「うん。僕がいつでも屋敷にいらしてくださいって言ったのもあると思う。」
「それって、社交辞令だよね!?」
「まあ、ね。だけど、あの人だから……。」
シャルルは少し遠くの方を見た。
「とりあえず、わかった。じゃあ、ティーは帰った方がいい?それとも図書室にずっといていいの?」
「それが、さ、実はお客さんとしてティーが来てるって言ったら、会いたいって言ったらしいんだ。」
「えっ!?いやっ!!ぜったいにいやっ!!」
「はぁぁ。今のティーはそういうと思ったよ……。」
ティファニアはアドリエンヌの一件以来、嫌なことはなるべく嫌ということにしたのだ。
王族の望みなので普段なら断れないが、今回は相手が突然の訪問であり、ティファニアはドレスも王族の前に出るようなものではないため、拒否をした。そして、個人的に第2王子に会いたくないというのもある。
「っていうか、なんでティーに会いたがるの?ティー、一回も会ったことも話したこともないんだけど。」
「あー、たぶん、僕がティーの話をしたからかも……。」
「えっ、そうなの!?なら、なおさらいやっ!!」
「……ティーは遠慮なく嫌っていうようになったよね。前はいっつもいいよって言ってくれたのに……。」
「なにそれ!?ティーが悪いっていうの?」
王子がティファニアと会いたいと言ったのは自分のせいじゃないかと悪態をつきながらティファニアはシャルルを少し睨んだ。
「あー、違うよ、ごめんごめん。でも、殿下が言ったことだからなるべく叶えないといけないんだよ。」
「なにそれ!シャルが機嫌取りする必要ないじゃん!他にも友達候補はいるんでしょ?」
「まあ、いるにはいるんだけど、殿下があんまり人を近くに置かなくってね。」
「ふーん……。殿下ってどんな人なの?」
ティファニアが不機嫌な顔を隠さずに尋ねると、シャルルはとてもきれいな社交の笑顔になった。
「とても素晴らしい方だよ。勉強は覚えがいいし、聡明だ。よくご自分の周りを見てらっしゃる方だよ。」
「……………本音は?」
「勉強のできるアホ。」
無表情で即答したユリウスに対してのシャルルの本音はひどいものであった。仮にも王族で、一歳上であるのにも関わらず、この評価だ。
「あーあ、シャルが王族に不敬はたらいちゃったよ。ティーは悲しいよぉ。」
ティファニアが棒読みでそういうと、シャルルは笑った。
「大丈夫。聞いてたのはティーだけだから。ティーが言わなかったら何ともないよ。」
よく見ると、メイドはティファニアたちより離れたところにおり、今の会話はほとんど聞かれていないだろう。
ティファニアは少し笑った後に小さくため息をついてシャルルを見た。
「でもさ、服装だって身内用だよ?王族の前に出るにはそれこそティーが不敬だって。」
「服とかは気にしない人だよ。多分、大丈夫っていうはず。それに、会わなかったときの方がめんどくさそうだし。自分が気に入っている僕と仲いいティーがどんな子か見てみたいだけだと思う。」
「そっか。でもなぁ…。」
「だめ、かな?」
ティファニアが渋る理由は服装だけではない。実は第2王子ユリウスは『白いアザレアを君に捧ぐ~あなたに愛されて幸せ~』の攻略対象だからだ。しかも、立ち位置がティファニアの婚約者であったため、ティファニアはなるべく会いたくないのだ。
後悔しないという目標は変わっていない。それならば婚約者になるかもしれないユリウスといい関係を作る方がよさそうだが、ティファニアはそもそも婚約者になりたくないのだ。ゲームではどういった経緯でティファニアとユリウスが婚約を結んだかは全く触れられていなかったが、会ってしまったらそうなってしまう可能性が高くなるかもしれない。それならば、会わなければいいのではと思っているのだ。婚約者というのは案外いらないしがらみができてしまうので、自由にいろんなことをしたいティファニアには憧れの第2王子の婚約といえども、いらない立場なのだ。おそらくラティスが婚約話はすべて跳ね除けるだろうが、心配事は減らしたい。
まだ嫌な理由はあるが、シャルルにも立場があるので今回は了承するしかないだろうとティファニアは肩落とした。
「うーん、わかったよぉ。あんまり会いたくないけど、今回はしょうがないよね……。」
「ティー、ありがとう!!今度お礼に何かするよ!!お父様に許可をもらって街に行くとか聞いてみるね!」
「本当に!?それなら、少しやる気でてきた!!」
先ほどまで苦い顔をしていたティファニアは直ぐにぱぁっと笑顔になり、シャルルの手をつかんでピョンピョン飛び跳ねながら喜んだ。そんな様子をシャルルが少し頬を染めながら見ているとは露知らずに。
シャルルは直ぐにお茶やお菓子の用意をさせると、あと少しで来るユリウスを出迎えるためにティファニアの手を引いて玄関に向かった。
先触れが来たのはついさっきだが、ユリウスの性格なら時間を置かずに来るだろうと思ったからだ。
そして、その予想を違えることなくユリウスは優しい笑みで扉から現れた。
「急な押しかけですみません、シャルル。」
「いえ、殿下にいらしていただき、光栄にございます。」
ティファニアはユリウスの態度にあれ?と疑問に思った。当のユリウスはティファニアに見つめられてか少し困った笑みだ。
「そう、かな。それで、そちらがシャルルが前に言っていたティファニア嬢かな?」
少し考え事をしていたティファニアははっとして直ぐに姿勢を正してにこりと笑った。
「お初にお目にかかります、ユリウス殿下。ラティス・ウルタリアの娘、ティファニア・ウルタリアでございます。本日は大変失礼な服装で御身の前にまかりこすこと、どうぞお許しくださいませ。」
ティファニアがアリッサ直伝の可愛い(らしい)笑顔と丁寧な所作で礼をすると、ユリウスは固まってティファニアをじっと見ていた。
あまりにもユリウスが動かないので、ティファニアは不安になってユリウスを見上げた。
「あの、なにか失礼なことがありましたでしょうか?」
「あ、ああ。なんでもない。……大丈夫ですよ。よろしくお願いします。」
ユリウスは取り繕ったようにティファニアに笑いかけた。それをシャルルが少し不機嫌な顔で見ると、直ぐに自分の部屋に案内した。
3人ともそれぞれ違うことを考えており、ある意味部屋への道のりで上の空だったのは気のせいではないでだろう。
部屋につくと、シャルルはテーブルの用意をさせ、直ぐにメイドたちを外に出した。ユリウスの後ろについていた強そうな護衛達も外に出されたのはティファニアには驚きだった。しかし、それほどシャルルが信頼されているということだろう。
部屋に残されたのが3人になると、直ぐにユリウスがため息を吐いた。
「はぁぁ。疲れたぁ……。」
まるで中間管理職についてしまった人のため息だとティファニアが思っていると、ユリウスの眼がこちらに向いた。
「シャルルもそうだが、もう取り繕わなくていいぞ。」
ユリウスは先ほどまでの丁寧な口調を殴り捨てたのような言い方だったので、ティファニアは少し驚きはしたがしっくりきた。
「お気遣いありがとう存じます。わたくしはいつもと変わりませんので大丈夫ですわ。」
「はっ!よく言うな。お前、そうやってるのが素じゃないだろう?」
ティファニアはイラッとしたが、王族の前なのでもちろん顔に出さない。というより、彼はこれがデフォルトのはずなのでこれからも交流があるならば、耐えなければならないのだ。
実はティファニアがユリウスに会いたくなかった理由のもう一つは彼の性格である。ユリウスは典型的な俺様キャラなのだ。ティファニアは自分にかかわる人はなるべく仲良くなりたい、好きになりたいが、彼女も博愛主義者ではない。好きになれない性格もあるのだ。その為、なるべくユリウスに会いたくなかったのである。
「素、というのかどんなのかわかりかねますわ…。」
ティファニアは何のことだろうと頬に手を当てて少し首を傾げてみせるが、どうもユリウスはそれでは納得しないらしい。
「お前、とんだ狸だな!終始そんな態度ではないとシャルルから聞いているんだぞ?今なら何を言っても不敬にはしない。そんな態度辞めてしまえばいい。」
ティファニアはいらいらする心を押さえつけ、シャルルの方を少し見ると、顔の前で手を合わせて謝るそぶりをしていた。あとで何かお返ししてやると誓って、口元を少し隠しながら笑う。
「うふふ、殿下はご冗談がお好きですのね?わたくし、先ほどから笑いが止まりませんわ。」
「まだ本性を現さないとは!本当に、親の顔を見てみたいなぁ!」
「殿下!」
シャルルの静止が入るが、ユリウスは全く止まらなかった。
「ああ、親はラティスだったかな…?」
「……父をご存じなのですか?」
ティファニアが感情のない言葉にユリウスはふふんと鼻を高くし、にやりと笑って話し出す。
「ああ、知っているぞ。外交官で、行く先々で女を作っているのだろう?あいつは学生時代にかなり女遊びをしていたそうじゃないか?そんな奴の娘だろう、お前は?」
「殿下、おやめください!!」
「ラティスはそれを見せないように取り繕うのがうまいからな。さすがそんなやつの娘だと思ったよ!!」
ティファニアは感情が抜け落ちた顔でユリウスをまっすぐ見ていった。
「殿下、今わたくしがなにをやっても不敬にはなりませんか?」
「ティー!」
シャルルの言葉など今のティファニアには耳に入らない。
「ん?ああ、何をやっても不敬罪にしないぞ。」
「それはよかったですわ。聞きましたか、シャルル様?」
問われたシャルルはもういいよと諦めた様子で深いため息をついて、聞いたよと短く答えた。
それをちゃんと聞くと、ティファニアはユリウスの目の前まで歩き、両手をユリウスの肩に乗せて少し彼を見上げた。
「な、なんだ、やっと本性をあらわ―――……。」
その言葉をユリウスは言い切ることは出来なかった。それは、先ほどとは打って変わったティファニアの満面の笑みが目の前にあったからだ。それは誰もが惚れ惚れするような綺麗な笑みだった。もちろんユリウスも例外なく顔を真っ赤にする。
ゴッ!
鈍い音が響くと、ユリウスは自分のあごに痛みを感じた。そして、何故かティファニアのつむじがよく見えた。
そして数秒後、自分が頭突きされたのだという事実に気付く。
「何するんだよ!!」
ユリウスは咄嗟に怒鳴ったが、ティファニアは距離を置いてすっきりした顔で笑っていた。シャルルはやっぱりかとため息をついている。
「なにって、頭突きですが?」
「お前はそんなことをしたら不敬だと分かんないのか!?」
「いえいえ、先ほど何をやっても不敬にしないと言質を取りましたので。」
ティファニアの飄々とした態度がユリウスの神経を逆なでする。
「あ、あれはっ!……とにかく、王族にそんなことしたらどうなるかわかってるんだろうな!お前、覚悟してろよ!!」
「何の覚悟かわかりませんが、人の父親の悪い噂をつらつらと述べ、馬鹿にした殿下に何をされても徹底抗戦致しますよ。それに、ご自分の言ったことの責任も取られないのですか?」
「っ!?なんだと!」
「先ほどおっしゃったでしょう?わたくしが何をやっても不敬罪にしない、と。」
「こ、これだから、常識の分からないやつは嫌なんだ!!あんなのウソに決まってるだろ!!お前、汚い下界で育ってきたんだろう?城の者たちが言ってたぞ?お前は外で育った汚らわしいやつだってな!そんな場所にいたから俺のような高貴なものの言うことが正確にわからないんだよ!こんな奴と話すのなんて王族の俺にはふさわしくない!」
自分が会いたいと言ったのだろうとティファニアは思いながら支離滅裂なことをいうユリウスを眺めていた。こんなのが婚約者じゃなくって本当に良かったとも同時に思う。
ティファニアが7割方ユリウスの話を聞き流していると、隣のシャルルが顔は笑顔が張り付いているが、不機嫌になっていくのが分かった。そしてあーあ、殿下やっちゃったと呆れる。今度はティファニアが傍観することにした。
シャルルはユリウスの目の前へすたすた歩くと、満面の笑みを作って言った。
「殿下、何をやっても不敬にならないというのは僕には適応しますか?」
おさまらなかった…!
次は王子様の乙女ゲームでのいろいろが書いてあるので…。




