17 商会とレストラン
ちらっと確かめてみたら、15000pt超えてました(*'ω'*)
ありがとうございます!
予告詐欺しました。
すみません。
商会設立とレストランの開店はラティスの有能な部下のおかげで順調に進んでいた。
ラティスから商会のことを任されたのはマルクと言い、商人の3男坊だ。彼は商業ギルドにコネがあるらしく、ティファニアと打ち合わせをした次の日には商会を設立させていた。
商会の名前は『ヴェレッド商会』とした。古語で薔薇という意味を持つ。ウルタリア侯爵家の商会にふさわしいですねとアリッサが引っ切り無しに褒めたので、名付け親のティファニアは何故か鼻高々である。
そしてレストランの店舗だが、なんとマルクは1週間で物件を見つけ出した。上流階級が利用する店が並ぶ道の一角にある建物だ。もともとそこで食事処が開かれていたが、数年前に閉店してから誰も買い手がいなかったらしい。それを目ざといマルクは見つけ出してレストランのために購入したのだ。
上流階級向けの場所に第1号店を開店することにしたのは理由がある。まず、貴族やお金がある商人たちは目新しいものが好きな為、お金を多く落としてくれるからだ。
そして、ティファニアの料理が珍しいことは料理人たちの反応ですでに分かっていることだ。その全く新しいおいしい料理を提供することで、ヴェレット商会の名前を広げ、一種のブランドにしたいと思っているのだ。ブランドにすることで、この先何かほかの業種の商品を売り出すことになったときに信頼になる。
これはマルクもしようと思っていた商売戦略らしく、ティファニアの意見も取り入れてその物件になったと言える。
しかし、ティファニアはすっかり忘れていたことがあった。
ティファニアには宣伝するだけの人脈がないのだ。ラティスや懇意にしてもらっているアルベルトに夜会などで宣伝してもらうこともできるが、やはり少し足りない。そもそも、こういう宣伝は女性間のお茶会などでの情報で広げた方がいいのだ。だが、ティファニアの周りにはお茶会に参加するような女性はいない。アドリエンヌはもちろん無理であり、唯一の知り合いのアルベルトも妻がいないのでどう新しいレストランの存在を上流階級の人たちに広めようかと頭を悩ませていた。
ティファニアは胸の前で腕を組み、うーんと首を傾げていた。そして、横にいる少し派手なオレンジの髪のマルクにいい案がないか聞く。
「マルク、宣伝できる伝手がいないけどどうしよう?」
「それでしたら、旦那様が考えてくださっていますよ。」
お嬢様の事業が成功するように根回しをしていたのですよとマルクは落ち着いた声で言った。
「本当に!?さっすが、お父様!!」
「旦那様のお姉様であるライトリア様が他のご婦人方に広めてくださるようです。」
「お父様のお姉様ってことは、ティーの伯母様?」
「はい。ライトリア様は社交界でも顔が広くていらっしゃるので、十分その役割を果たしてくださると思います。先日、屋敷にいらしたときに料理を召し上がってとても喜んでいらっしゃいましたよ。」
「伯母様がきてたの!?ティー、会ってないんだけど!」
いつの間に来てたのかとティファニアは驚いた。宣伝を頼むことになっていたなら、せめて顔を見たかったのになと少し口をとがらせる。
すると、アリッサが少し疲れた顔で答えてくれた。
「お嬢様がシャルル様のところに遊びに行かれている間にいらしたようですわ。お嬢様の頼みだからととても張り切っておられるようでした。」
「そうなの?じゃあ、ティーがお礼しに行った方がいいんじゃないの?」
「ダメですわ!!」
突然大きな声が聞こえてティファニアは目を丸くした。
アリッサは申し訳ありませんと綺麗な所作で一礼すると、こほんと咳払いをした。
「実は……お嬢様は小さいころにライトリア様に可愛がられ過ぎて熱を出したことがおありなのですわ。」
「かわいがられすぎ、て?」
ティファニアはきょとんとした。可愛がられ過ぎて熱を出すとはどんな過剰な愛情表現だったのかと思う。
「……はい。生後5か月ごろにライトリア様が屋敷にいらして、かわいいかわいいと言いながらお嬢様にキスをしたり抱き締めたりとずっとしていたのです。お嬢様がいつの間にかぐったりとしていてすこし大騒ぎになりました。旦那様が止めなければそれ以上何されたかわかったもんじゃありませんわ!というわけで、お嬢様がライトリア様と会うことを旦那様はだめだとおっしゃっていましたわ。申し訳ありませんが、わたくしもお嬢様がライトリア様に会うのは反対ですので……。」
ラティスは現在隣国へ出張に行っているため、使用人たちに口を酸っぱくライトリアとの接触がないように言い聞かせていたのだ。使用人たちも5年前の悪夢がもう一度起こらないように必死である。
「そっかぁ…。でも、いつか会えるならいいや!」
「はい、旦那様の許可が出ましたらいつでも。」
「うーん、それじゃあいつになるかわかんないから、お礼の手紙でも書こうかな…。」
「そ、それはいい考えだと思いますわ…。」
アリッサが苦悶の表情で同意してくれたが、ティファニアはなぜアリッサがそんな表情をしたのか全く分からず、首を傾げた。それは自分がもらったことがない手紙をライトリアがもらうことになるのが悔しいだけなのだが、ティファニアにはもちろんわかりっこなかった。
「…?とにかく、送ってみるよ?」
「………はい。便箋をご用意いたします…。」
「ありがとう!……アリッサ、どうしたの?」
「な、なんでもありませんわ。」
アリッサが顔を顰めていたので、ティファニアは心配になったが、なんでもないと言われてしまったので口をつぐんだ。
「ルーチェ、大人げないですよ。お嬢様に自分も手紙がほしいと正直に言えばいいじゃないですか。」
「マルク!!」
アリッサの不機嫌な顔のせいで首を傾げるティファニアにマルクが助け船を出した。しかし、自分の思っていたことをティファニアに知られてしまったアリッサは顔を真っ赤にしてマルクを怒っている。マルクはくすくす笑ってその様子を見ていた。
「ルーチェは意地を張り過ぎですよ。お嬢様に言ったら絶対に手紙を出してくれるんですから、心配しなくても大丈夫ですよ。」
「わ、私は心配なんてしてませんわ。ただ、言ってしまうと無理やり書かせたみたいになってしまうではないですか…。」
珍しくティファニアに対して以外に焦るアリッサをティファニアは少し面白そうに見ていた。
「うふふ、アリッサ、ティーはいつでもアリッサにお手紙書くよ?」
「お、お嬢様、からかわないでくださいませ…。」
「よかったですね、ルーチェ。ライトリア様より先にもらえそうですよ。」
「うん!じゃあ、今日の夜にでもアリッサのために書くね!!」
「も、もう、お二人とも……。」
アリッサは顔を真っ赤にしながら綺麗な翡翠色の瞳をツンと横に向けてしまった。あまり見ないアリッサの表情にティファニアはもう一度うふふと笑った。
「そういえば、なんでマルクはアリッサのことをルーチェって呼ぶの?」
ティファニアは先ほどからアリッサをアリッサと呼ばないマルクを不思議に思っていたのだ。ティファニアは純粋に聞いただけだったが、マルクは少し困った笑みを浮かべてアリッサの方を見た。すると、アリッサがティファニアと目線を合わせるようにかがんだ。
「お嬢様、私の本名はルチャーナ・ノイワールというのですわ。アリッサの方があだ名ですの。それでも、昔馴染みの方は私をルーチェと呼んでくださるのですわ。」
「へー、そうだったんだぁ……。」
「家を勘当されてしまったので、もう家名を名乗る資格はないのですわ。」
「そっかぁ……。」
なんで勘当されたのか気になったが、二人とも困った笑みだったため、ティファニアにもあまり触れてほしくないことだとすぐに分かった。少し無神経だったなと思い、直ぐに話題を変える。
「……そういえば、いつ視察に行けるかな?」
「はい。ウルタリア領への視察許可は出ませんでしたが、レストランの方は来週にでも途中過程が見れるでしょう。お嬢様の意見を交えて改装していますが、その時に改善点があれば言ってほしいそうです。」
マルクが秘書のように淡々と落ち着いた声で連絡事項を伝えてくれた。
「やっぱり、領内に行くのはお父様がいないと無理だよねぇ…。実地で見てみないと分かんないこともあると思うんだけど、そこはジークたちに任せるしかないかぁ。」
ラティスとの話し合いから半月しかたっていないが、既に改革案は改善されて施行準備をしている。学校になる予定の建物や警備隊の様子などを知りたかったが、さすがにラティスの許可がないとティファニアも動くことができない。いつもは書類上だけのウルタリア領に行けるかもと楽しみにしていたティファニアは少し肩を落とす。
「でもまあ、レストランの視察に行けるならいいかぁ。で、料理人の選抜は終わった?」
「はい。ブルーノが既に選抜を終えたようです。こちらの料理人が減ってしまうので、新しい弟子を取る許可を求めていましたがいかがいたしますか?」
「うーん、ティーはいいって言いたいけど、来週帰ってくるお父様の了承をもらってからブルーノに返事して。」
「かしこまりました。」
そういってティファニアたちは他数件の連絡事項の確認をすると、その日の打ち合わせは解散だ。ティファニアが仕事をする時間が決められているのと、レストラン開店の件でマルクが忙しいからだ。
ティファニアはティリアと遊ぼうとすぐに執務室を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本日は晴天なり。季節が秋に移り変わってきているが、まだ太陽が照り差す日が続いている。
とてもいいレストラン視察日和だとティファニアは思った。馬車で行き、室内を見学するので特に天気など関係ないのだが、お出かけの日はやはり晴れが一番なのである。それに屋敷に来てからは、シャルルの家にしか言ったことがなかったティファニアは初めての街にうきうきなのだ。
貴族街と呼ばれる貴族だけが住む場所を抜けるとヴェレット商会のレストランはすぐ近くだ。大通りの目の前にある黄色い建物の前で馬車が止まると、ティファニアはびっくりしてしまった。立地が思ったよりもいい場所だったのだ。数年買い手がつかなかった場所と聞いたので、てっきり少し奥まったところにあると思っていたのだ。
口をあんぐり開けながら隣にいるマルクを見るとにこりと笑っていた。
「マルク、ここ、立地条件良すぎない……?本当に数年買い手がつかなかった物件なの?」
「お嬢様、世の中には知らなくていいことがありますよ。」
先ほどよりも綺麗な笑顔でマルクは笑うと、ティファニアの背中を押して中に入るように促した。
ティファニアは腑に落ちない気分のまま建物に入るが、そんな気持ちは直ぐに吹っ飛んでしまった。
「わぁ……。」
外は淡い黄色一色の建物だったが、内装はティファニアの希望通り木材がたくさん使われたデザインになっていた。床や腰板は木材にし、観葉植物を置いて温かみがある雰囲気になっている。
玄関ホールは広く開放感があるが厨房が近くにあるため、きっと開店したらおいしそう香りが漂って食欲を掻き立てるだろう。
部屋はすべて個室だが、大人数で利用できるように大部屋も用意してある。利用はすべて完全予約で紹介制なので、基本的には不審な客が来ることはないだろう。
個室は一つ一つが少しずつ雰囲気が違うものになっており、希望があれば選べる仕様だ。商談や仕事の話をする場合は壁が青っぽい色の部屋で、家族や友人とプライベートで利用する場合は柔らかい印象を与えるクリーム系の色の部屋だ。
すべて見て回った後、ティファニアはあれ?と思い、マルクの方を見た。
「マルク、改装終わってない……?」
「はい。昨日までにすべて終わらせました。」
「えっ!?まだ始めたから半月しかたってないよね!?それに、途中経過を見に来たんじゃなかったっけ!?」
「いえ、旦那様が懇意にしている職人に頼みましたら直ぐに仕上げてくれました。旦那様が気合入っていたのもあるでしょう……。」
マルクは少し遠い目をした。きっと職人たちは無理を言われたんだろう。
ティファニアは間違いなく自分のせいだと分かったので、少し目を反らした。知らなくていいこともあったのだ。世の中には。
「じゃあ、開店はいつからできるの?」
「では、内装はこれでよろしいですか?」
「うん!わたしはこれで満足だよ。後は明日帰ってくるお父様の確認だけかな?」
「はい。旦那様が明日、確認を終えましたらまだ家具が入っていない部屋に家具を入れて終了ですので、食材の仕入れを考えると再来週から開店できます。」
「わかった。じゃあ、最初はお父様が知り合いを呼んで晩餐会を開くから、それまでに店員の教育をお願い。相手が貴族だから、失礼のないように徹底してね。後は、従業員を含めた厨房の衛生面も気を付けてね。あとは、次の日には伯母様が食事会を開くから、その準備もお願いね。」
「かしこまりました。旦那様とライトリア様の食事会については人数とコース両方とも確認済みです。従業員の教育は従来のものに加え、お嬢様の用意された『まにゅある』を参考に行います。衛生面は徹底させますので、大丈夫でしょう。」
「うん!特に衛生面は気を付けてね。何かあったらことだから。」
食中毒になったりしたら大変なので、ティファニアは衛生管理について念を押すとマルクはもう一度かしこまりましたと言って頭を下げた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
開店当日、ティファニアは実際に行くことができなかったが、ラティスによるとかなり好評で当日中に予約が数件入ったらしい。
ライトリアの食事会も奥様方から高評価だったそうだ。ティファニアのお礼の手紙の返事として、すごくテンションの高い手紙が返ってきたのだ。奥様方も家族と来ると言って数人は当日中に予約をしたそうだ。
既に開店から2か月たったが、満室ではないが毎日の予約は絶えない。貴族間ではおいしい食事処としてじわじわと人気が上がってきている。
社交界では有名なラティスとライトリアが宣伝したのもあるだろう。
しかし最初の食事会の日、ライトリアがうっかり1回だけ「姪が、」とつぶやいたことが密かに噂になっているのはティファニアには知らぬことであった。
アリッサの年齢は20代真ん中くらいで書いています。
ライトリアはいつかまた出てきますよ。
割と重要な位置にいる人なので。
次こそ新しい攻略キャラを……!




