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死ぬ予定なので、後悔しないようにします。  作者: 千羊
第1章 幼少期~暗闇と救済編~
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10 わたしと弟

 シャルルがアルベルトと仲直りした日、二人は顔を真っ赤にしながらも仲良く馬車で帰っていった。

 ティファニアはその様子に、これからはもう大丈夫だろうと思い、死亡フラグを一つ回避できたかもしれないと喜んだ。

 しかし、執務机の下でずっと待っていたため、体を冷やしてしまったティファニアは次の日まで熱を出してしまったのだ。熱を出すのはよくあることだったので使用人たちは手際よくティファニアをベッドに放り込んだ。しかし、ラティスが登城せずにティファニアを看病をすると言ったのを止めるのは大変だったようだ。





 熱が下がり、外出許可が出ると、ティファニアは今日も今日とて図書室へ向かおうとしていた。

 まだスラム救済案で修正するべきところがあるからだ。2日間行けなかった分を取り戻すために、少しだけ速足で廊下を歩いた。


「おねえさま!」


 後ろから聞きなれない声がし、ティファニアは振り返った。

 そこには、茶色いふわふわした髪を後ろに小さくまとめ、自分とよく似た色合いの紫の瞳でティファニアの方を見つめる子供、もといティリアがいた。

 突然ティリアに話しかけられたことに、ティファニアは少し眉を下げた。まだ、アドリエンヌに打たれてから一月も経っていない。もし今ティリアと接触してしまったならば、また彼女を刺激してしまうのではないかと思ったのだ。

 しかし、ティリアはきらきらとした目でティファニアを見つめている。これに、どうすればいいかわからなくなり、ティリアの乳母の方を見た。

 乳母は少し困った笑顔だが、こくりと頷いた。


「えーっと、ティリア、どうしたの?」


 ティリアはきょとんとした後、濁りない笑顔で笑う。


「おねえさまがいました」


 ティファニアは少し首を傾げた。


「お嬢様を見つけたので、話しかけたのですよ。実はティリア様は前々からずっとお嬢様と会いたがっておりました。今日はアドリエンヌ様がお茶会で不在ですので、少しは大丈夫かと思われます」


 ティファニアが不安に思っていると思ったのか、乳母のリリーは安心させるように説明してくれた。


(お義母さまがいないならいい、かな? 元々ティリアとは仲良くしたいと思ってたし!)


 ティファニアは許可を取るためにアリッサをちろりと見上げる。アリッサは少し苦い顔をしていたが、いいですよと了承してくれた。


「じゃあ、ティリア、おにわにいこう!」

「うん!!」


 ティファニアがティリアの手を引いて向かう先は、薔薇園だ。前にそこで遊べなかったから丁度いいかなと思い、向かう。ティファニアにはアドリエンヌに何か言われた場所だが、あの日の彼女と会ったことは既にどうでもいいことなのだ。

 薔薇園は今日も美しく、甘く上品な香りが漂っている。


「ティリア、なにしてあそぶ?」


 そう聞くと、ティリアは薔薇園の紫の薔薇がある方を指差した。


「おとうさまにおはな」


 ティリアは前にラティスの部屋に遊びに行った時、飾られている紫の薔薇を覚えていたのだ。味気ない部屋にぽつんと飾られた美しく鮮やかな紫の薔薇。その薔薇について聞くと、微笑みながらティファニアがくれたとラティスは言った。それを見たティリアは、自分もあげたいと思ったのだ。


「お父様にもっていくの? じゃあ、いっしょにえらびましょう!」

「うん!!」


 ティリアが元気よく返事すると、ティファニア達は仲良く手を繋いで紫の薔薇のある方へ向かった。


「ティリアはどんないろがすきなの?」

「うーんと、このいろ!」


 少し悩んでティリアが指さしたのはやはり紫の薔薇だった。


「むらさき! ティーもいちばんすきないろなの!」

「てぃー…?」

「ああ、えーっとね、ティファニアだから、ティーってお父様がよぶの」

「おねえさま、じゃないの?」

「ううん。お姉様だよ。ティリアもお父様ってよぶでしょ? でもお父様のなまえはラティスっていうんだよ」

「へー…」

「そうだ! ティリアのことは、リアってよぼう! リアってよぶのはティーだけ!! いいでしょ?」

「りあ?」

「うん!! そっちのほうがなかいいみたいでしょ? ねっ?」

「うん!!」


 ティリアは完全に理解できたわけではないが、ティファニアと仲がいいと言われて嬉しくなる。

 お姉様と呼んでと言われたその日からずっと仲良くなりたかったのだ。


「リアはなんでむらさきがすきなの?」

「おとうさまとおねえさまのいろ、だから」


 ちょっと照れながらもじもじと理由を述べるティリアにティファニアは悶絶級のダメージを受けた。


(か、かわいい…! おとうとってこんなにかわいんだ……!)


 そういえば、弟は攻略対象なのだから顔はいいはずだとティファニアは思う。



『ティリア・ウルタリア

侯爵子息であり、ティファニアの異母弟。いつも女の子を引っ掛けて遊んでいる。姉のティファニアとは不仲であり、母親から歪んだ愛を受けて育ったため、女性不信』


 そう書かれた説明文の上には、ティファニアと同じ紫色の流し目にふわふわとした茶色の長い髪を後ろで三つ編みにして、少し軽薄な笑みを浮かべる少年がこちらを見ていた。

 ティリアには一人の姉がいた。小さい頃から母の目をかいくぐり、秘密でいっしょに遊んでいた姉だ。ティリアはそんな自分と同じ紫色の瞳を持つ姉が大好きで、いつまでも一緒にいたいと思っていた。

 そんなティリアが6歳くらいの頃、彼の母親がティリアに何事もラティスのようにするようにと言い出す。仕草や話し方、歩き方まで全てラティスと同じものを求めたのだ。笑い方が違うと頬を叩かれ、言葉遣いも強制的に直された。しかし、ラティスと同じことができると、溺れるように甘やかした。彼には苦痛だったが、母親に笑って欲しくて頑張った。たまに会ってくれるティファニアの存在もあり、ティリアは日常を過ごせた。

 しかし、ある日突然姉がティリアのことを避けはじめる。もちろん何度も前と同じように会おうと誘ったが、断られ、終いには姿を見せることもしてくれなくなる。ティリアは思った。お姉様、なぜ、と。支えがなくなった彼の幼い心はガラガラと瓦礫が崩れるように壊れていった。

 同じ時期にティファニアは自分の母親と妹のことを知り、自分は愛されない、捨てられた子だ、選ばれなかった子だと自分を責めていた。甘やかされるティリアを見て、彼女はどう接していいかわからなくなっていたのだ。しかし、接触を絶ったため、ティリアがそれを知ることはなかった。

 そんな幼少期を過ごしたティリアは女性が信じられなくなる。信じられなくても信じたいから、でも信じきれない。そう思って複数の女性に手を出して、離れたりということを繰り返した。次第に彼は軽薄なことで有名になるが、ラティスがそうだったように、彼の甘いマスクと幼いながら隠しきれないフェロモンに女性達は惹かれていくのだ。

 そんなティリアが学園に入学すると、そこで見かけたのは姉によく似た髪の少女、ヒロインだった。白金の髪は珍しく、そうそう見かけない。後ろ姿を見たときにティリアは咄嗟に追いかけ、呼び止めてしまう。しかし、顔を見ると、自分とは違う、姉とも違う青い目をした少女だった。咄嗟とはいえ呼び止めてしまったティリアは思う。姉に似た彼女は僕を信じてくれるのかな、と。

 何度か話すと、ティリアは何故だかその少女に惹かれていった。裏表のない笑顔でくすくすと笑う姿は貴族女性にはなく、本当に彼女は僕を信じているのではないかと思わせた。そして、少女は彼をラティスではなくティリアだと言ってくれた。母親に強要され続けたことで自分がラティスなのかティリアなのか分からなくなる時が彼にはあった。それにも関わらず、彼女は彼をティリアだと言ってくれた。それを聞いたティリアが少女を信じるようになったのはそれからそう時はいらなかった。

 それに激怒するのがティファニアだ。愛されてきた2人が愛を育むのが許せなかった。どうにかして2人を引き離そうとするが、悉く失敗する。

 ハッピーエンドだと、ヒロインとティリアが駆け落ちするところに暗殺者を送るが、ティファニアは失敗し、暗殺容疑で流刑後、衰弱死。ヒロインたちは2人で隣国で幸せに暮らす。バッドエンドでは暗殺が成功したが、激昂したティリアに首を絞められ死んでしまう。その後のティリアの行方は分からないそうだ。



 一瞬でゲームのティリアがどんな感じだったか思い出すティファニア。


(こんなに可愛い弟とどう接していいかわからなくなるなんて、もったいないよ!!! それに、昔から仲良くしておけば死ぬことはないんじゃないかな?)


 そう思い、ティリアの方を見る。


「ティーもね、お父様のいろだからむらさきがすきなの。いっしょだね!」

「うん!!」


 そう言って笑いあうティファニアとティリアを見て、今度はアリッサが悶絶級のダメージを受けた。ティファニアは普段と同じく子供っぽく笑っているが、お姉ちゃんらしくしようと少し背伸びしている。そのいつもとは少し違う笑い方が可愛く、アリッサにとっては攻撃力抜群だ。

 アリッサがプルプルと悶えるのを我慢していると、屋敷の方からメイドが血相を抱えて走ってきた。そのメイドは息を整えて、ティファニアとティリアの方へ軽くお辞儀をすると、アリッサたちに早口で言った。


「アリッサ様、リリー、アドリエンヌ様がお戻りになりました。ティリア様のご様子を聞かれたので、お早めに戻った方がよろしいかと思われます」


 それを聞くと、アリッサは少し眉を寄せた。


「わかったわ。知らせてくれてありがとう。ティリア様はまだこちらにいても大丈夫でしょう。私はお嬢様とこの場を去ります」


 そうアリッサはリリーとメイドに指示を出すと、ティファニアと目を合わせるようにしゃがんだ。


「お嬢様、申し訳ございません。アドリエンヌ様がお戻りになったようです。ティリア様と離れた方がいいかと。当初の予定通り、図書室に行きませんか?」

「………うん。わかった」


 ティファニアはしょぼんと萎れてしまったが、アドリエンヌが来るならば仕方ないと思う。また癇癪を起されたら面倒だからだ。

 ティリアの方を向き、繋いでいた手をぎゅっと握る。


「リア、ごめんね。ティーはもういくね。お父様へのおはなはリアがえらんでおいて」

「おねえさま…?」

「じゃあね…」


 そう言って、ティファニアは手を離して去ろうとした。

 しかし、はしっとティリアに腕をつかまれる。


「また、あそべる…?」


 不安そうな顔でティファニアをまっすぐ見るティリア。ティファニアの体格が小さいほうであるのと、ティリアの体格は少し大きめなので、目線はそう変わらない。

 潤む紫の瞳を見て、ティファニアは少し困った顔で微笑む。そして、ティリアの手を取り、お互いの小指と小指を繋ぐ。


「また、あそぼうね。やくそくよ」


 アドリエンヌの目があっては確実にこの約束は守れないだろう。守れる確信はない、そんな約束だ。でも、この小さな弟には約束しておかなければとティファニアは思った。ゲームの中でティリアがティファニアを心の支えにしていたように、アドリエンヌとずっといるにはこの幼い子には支えが必要だ。


(これは約束よ。わたしがあなたを裏切らない。ずっと信じられる存在になる、そんな約束よ)


 日本式の約束の方法だが、なんとなくティファニアはこれでいいのだと思い、図書室に向かった。

次回は、シャルルの心配です。

用事があって、少し投稿が遅れる可能性がありますので、ご了承ください。

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