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春男の家の事情

春男の家の事情


春男の実家には、春男の両親だけが住んでいる。もう一人いたはずの妹は現在、外国にいる。春男の母親は有名な料理研究家で食材を求めて、あっちこっちに出かけている事が多い。ところが。

「休みをとった?それじゃ、おふくろさんは最近、何やってるんだ?」

「それがねぇ。」

春男がため息をついた。

「ひさしぶりに、家にずっといるんだ。父さんが愚痴をこぼしていたよ。あれこれ家の中を掃除しているんだろうけど、いままでした事が無かったもんだから、余計に汚れていくって。あれじゃ、定年退職した旦那さんが急に家にいるようになった後の奥さんの愚痴だよ。」

「……おふくろさん、料理以外はできないのか?」

「できないわけじゃないんだけど、ほら、父さんのほうが細かいから。」

 オレはなんとなく納得した。春男の父親の趣味は家事だ。それも、裁縫に関してなど、インターネットで服の注文がくるくらいの腕前だ。普通の編物やレースも編むそうだ。それを仕事の合間にやっている。

 家ではこっそりと料理もすれば、掃除も洗濯もアイロンがけまでやる。ただ、妻には黙っているという難点が問題なだけだ。

「それにしても、家の中が綺麗なことによく疑問を思わないな。」

「父さんが帰ってくるのが遅いからね。」

オレは怪訝な顔をした。それに気がついたのか、春男は付け足した。

「普段は家に誰もいないから、汚れないものだと思っているみたい。休みの日だけはハウスクリーナーの人が来てくれるし。」

 オレは頷いた。

「あー……あの、次々に変わる人たちか。」

「どうにかしなきゃとは思ってるんだけどねぇ。会社、一つ潰したし。」

オレは目を丸くした。春男の家に、休日だけは家政婦さんがきていることは知っていたが、会社を潰したというのは初耳だ。

「潰した?」

「登録していた人たちが少なかった上に、やめていったもんだから、営業できなくなったみたい。ほら、父さんの方が、できるもんだから。」

「……怖い話だな。」

「この間なんか、料理にかつおぶしのパック使ったって、嘆いていたよ。」

「普通だろ?」

「いや?削り器で削る。うちにもあるよ。」

平然と春男は言った。

「それで、今度の人には料理を作るのはやめてもらったらしいよ。」

それでは長続きしないだろう。

「なんかいい案、ないかな。」

 春男の家には、人とはちょっとずれた悩みがあるようだ……。相談があるというから、春男の家に来てみれば、仕事とは何の関係もない話だったようだ。オレはため息をついた。

「こう……、家政婦でもできるような、それでいて、黙っていてくれるような。なおかつ、やめないでもらえるような仕事って無いかな?」

オレは考えてみた。そして思いついた。

「ネット販売を手伝ってもらうっていうのはどうだ?パソコンはできなくても、電話番くらいならできるだろ。ネットを使わない人たちからも注文を受け付けることがあるから、そんな人が欲しいようなことを言っていただろう。」

「お。いいかも。じゅあ、今度父さんが来たら言ってみるよ。」

春男はにこやかに笑った。見事にオレの案は通ったのはいうまでもない。


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