生首 (後編)
「違いますよ。僕の料理の師匠なんです。恋人においしいお菓子が作りたくて。」
ニコニコした昭二君が言った。それならある程度納得出来る。春男の父親は顔にまったく似合わず、料理などなんでもこなせる主婦の鑑のような人だ。それにしても、恋人が女性なのか、そうではないのかはあえて聞かないでおこうと思った。
「その代わりに、カットを教わっているんだ。」
「へぇ。」
やっと納得のいく理由がわかって、ほっとした。
すると。
「綺麗な髪ねぇ。」
綺麗な女性に触られるならまだしも、くねくねした男性に急に触られると、びっくりする。
「な、なんですか?」
「ねぇ。その髪、ちょっと切らせて。」
「え、えーと……。」
オレがためらっていると、春男は言った。
「いいじゃないか、減るものじゃないし。彼、うまいよ。」
「いや、切ったら、減るだろ!」
「でも、ほらぁ、床屋代金が浮くと思って。ね?」
「はぁ。」
結局オレはとくに断る理由も浮かばずに、髪を切ってもらうことにした。ちょうど伸びていて、そのうち行こうと思っていたところだったのだ。たしかに、腕はいいのか、綺麗に切れていて、帰り道、首が少々スースーしていた。
その三日後。
オレの隣の席にいる同僚の女性はおばちゃんだが、最近の流行には追いついていたいのか、よく雑誌を読んでいる。
「ん?」
オレは彼女の読んでいるページに目を移した。
「なに?」
「この人、昭二・・・・・・は?カリスマスーパー美容師?」
「そうよー。知っているの?まさか、佐々木君が美容に興味があるとは知らなかったわ。この人に髪を切ってもらうのに、1年待たなきゃいけないのよー。すごい売れっ子なんですって。今度、アメリカに進出ですって。すごいわねー。」
目をきらきらさせて感動している彼女に、まさか、自分の髪をついでに切ってもらったとは、口が裂けてもいえない。ついでに、どうみても、写真では男前に写っているのに、本人はくねくねした感じな人だとも、オレの口からは言えなかった。
「なんだ言わなかったんだよ!」
と、春男から原稿を受け取るなり、となりから借りてきた女性雑誌を見せて後から文句を言うと、春男はしれっと言った。
「別に有名人でもそうじゃなくても、髪がきるのがうまけりゃ、それでいいじゃないか。」
「それはそうだけど……。」
「カット代も浮いただろ?」
「浮いたけどさ!こんなに有名人だとは・・…。」
「え、でも、君、知らなかったんでしょ?」
「知らなかったけど……。」
「つまり、その程度の有名ってことだよ。それとも、君の有名の判定は雑誌に載るか載らないかで決まるのかい?」
春男に、口で負けるとかなり悔しい。いつの日か。春男がビックリするような有名人と知り合いになってやると、オレは心から思った。




