父の日という日(後編)
父の日という日(後半)
オレは思わず春男に聞いた。
「マキさん、編んでいる時間があるのか?オレの母親でも、手編みっていったらえらくかかっていた様な気がするけど?」
当然のように、春男は、首を振った。
「あるわけないだろ。時間も技術もない!十二月までに、マフラーでも出来ていたら、僕は拍手を送るね。しかも、初めての編み物で。」
オレは目を丸くした。
「初めて?いきなり、セーター編む気なのか?」
「そう。」
春男は一気にしゃべりだした。
「これから夏だっていうのに、毛糸の売っているところが少ないって文句を言っていたよ。どっちが無理言ってるんだか。まずは、マフラーくらいからにしたら?って言ったんだけど、デパートで見かけたセーターがきれいだったから、自分で編むって言い出して。それも、今年のバレンタインくらいに、見かけたセーターだよ?とにかく早く、そんなことを忘れてくれる事を願うよ。父さんならまだしも、母さんじゃなぁ・・・・・・。」
春男は再度首を振った。よっぽど、言い聞かせてやりたいようだが、きっと何を言っても無駄だという事を知っているのだろう。
「うちの母親は、もう目が疲れるから編まないって宣言していたけどな。」
「それで正解。父さんなら、三日で徹夜すれば、何とかセーターくらい編める。けど、最初で半年・・・・・・毎日特訓すれば出来るんだろうけど、そんな時間、ないだろうなぁ。」
春男はしみじみといった。
「まぁ、できたら、奇跡だね。」
「・・・・・それで、お前は今年、父の日には何を送るんだ?」
「酒。」
春男はあっさりと返事をした。
「酒?飲むのか?」
「飲む名目で、料理用にも使えるやつ。これが欲しいって自分で言ってきた。父さんも、父さんにそれを送るからね」
オレはちょっと考え込んだ。
「ん?父さんの、父さん?ってことは、お前の爺さんか。そういや、お前のところは、お爺さんも料理するんだよな。」
「そう。」
「マキさんのお父さんには何もないのか?」
「父の日に会いに行くからプレゼントはなし。」
「なるほど。会える幸せか。オレも、酒を送ろうかなぁ。飲むためだけに。」
オレはとりあえず、用も終わったので帰宅することにした。
「じゃ、またな。」
「おー。」
春男はまたパソコンに向かい始めた。帰宅途中、だんだん曇ってきている空を見ながら思った。
春男の親父さんがセーターをもらえる日は来るのだろうかと。まぁ、こなくても、親父さんは永遠にでも待っているだろう。
そして、春男にも作ってあげるといっていたが、そんな日が来るのだろうかと。春男のなら、自分で作ってしまうかもしれない。
一体誰のための父の日なのか、オレは少々疑問に思うこの頃だ・・・・・・。
これにて『春男の足元には(春編)』を終了します。 夏編をそのうちお届致しますので気長にお待ち頂ければ幸いです。




