父の日という日(前編)
父の日という日
雨の少ない六月の頭。
オレは別に、毎日春男の家に行っているわけではない。たしかに、最初の頃に比べて、確実に増えてはいるが、決して毎日ではないのだ。
そんななか、春男から、いや、正確には春男の母親であり、有名な料理研究科のマキさんから呼び出された。なにか、オレに用があるという。春男の家に行くと、彼女は笑顔で出迎えてくれた。
「よく、来てくれたわぁ。」
「ど、どうも。」
春男の母親は、美人だ。しかし、しっかりしているような外見とは裏腹に細かい事はまったく気にしない女性でもある。それだから、細かい親父さんとうまくやっていけているんだろう。
それはともかく。
「あの、今日は?オレに何か用があるとか。」
「ええ、実はね、もうすぐ父の日でしょ?」
「・・・・・・・。ですね。」
オレはすっかり忘れていた。どうして、春男の家のメンバー全員がイベント好きなのだろう。遺伝というものだろうか、性格というものだろうか。
「でね、あの人に、セーターを作ろうと思うの。」
あの人とは、当然、だんなさんの事だろう。おかしい、だんなさんじゃなくて、おとうさんはどうしたんだ?
「セーター・・・・・・ですか。」
オレは、春男の父親がセーターを着たところを想像した。どう、かんがえても、想像できなかった。それほど、春男の父親の顔は怖い。実際に着ているところは見た事がないような気がする。
「僕はセーターより、着物の方がいいって言ったんだけど。」
春男は口を挟んだが、着物も怖い。
「あら、だって、着物じゃ、手で縫えないじゃない。」
「あ、あの。父の日って、もうすぐですよね?」
確か、一週間後だ。
「そうね。」
「手編みですか?」
「そうよ。」
ケロっとした顔をしていった彼女に、オレはおそるおそる聞いた。
「あの、編めるんですか?いや、技術がどうのこうのというわけじゃなくて、時間的に。」
「あら、6月に、セーターが出来ても、着ないでしょ?」
「・・・・・・そうですね。」
「だから半年かけて編むのよ。」
彼女はにっこりと微笑んだ。・・・・・それでは、父の日ではなく、クリスマスプレゼントになるのではないだろうか。
「それでね、編む前に体の大きさを知りたいんだけど、この子、太いんですもの。」
「はぁ。」
確かに、春男は丸い。
「だからね。ちょっと体、貸して。はい、後ろ向いて。」
「はぁ。」
オレは言うままに後ろを向いた。なにやら、長さやら、首周りやらメジャーで図っていった。そして、るんるん気分でマキさんは帰っていった。
「うまくいったら、あんたにも編んであげるわねぇ。」
そういい残して。




