春男の夢(3)
それを聞いて、オレは思った。春男の不精さは、もしかしたら誰かからの遺伝なのかもしれない……。
「すごい量ですね。全部食べるんですか?」
「無理。だから、あげようと思って、いま、袋に分けてるんだ。隣近所にも渡してくるけど、洋介も辻村さんも、もちろん、持って帰ってね。ついでに、うちで食べて行ってね。と、いうより、もうすぐできるから座って。」
「んじゃ、ここ、どうぞ。」
台所の椅子に辻村さんを座らせて、オレはソファの後ろに隠れている、折りたたみ様の椅子を持ち出した。電球などを取り替えるときにしかでてこない椅子だ。春男は当然、普段つかっている椅子を転がして持ってくる。辻村はまさか、夕飯が出てくるとは思っていなかったのか、少々戸惑っているようだ。
「あの、机と椅子の数があってないんじゃないですか?」
「んー。でも普段は私、一人だからね。別に椅子があっても邪魔なだけだし。」
しゃべりながら、春男の手は休んでいなかった。三人分、あれこれ、よそいでいる。
「あの、お手伝いしましょうか?」
「そう?じゃ、適当な皿にご飯よそって。ご飯、ジャアー、そこね。」
「は、はい。」
彼女は、しゃもじを片手に、食器棚の中をのぞいたが・・・・・・・。
「あの。」
「なに?」
「茶碗は・・・・・・。」
「ない。この間、割った。だから適当に何でもいいよ。」
何でもいいといわれて、彼女の手は止まっていた。オレはその様子を気の毒に思った。春男になれていないと、普通はこうなるだろう。オレは立って、かなり適当に食器を選んだ。
「えっと、これと、これと、・・・・・・このへんでいいや。これで、お願いします。」
「あ、はい。」
サラダ一人分でも入りそうな皿に、彼女はご飯を入れた。その顔には奇妙な色合いが浮かんでいる。しかし、良く見れば、ほとんどの皿がばらばらで、まともにそろっている食器のほうが少ない。
同じ料理が乗っていても、皿が違えば、かなり変わって見える。
「えっとね、漬物と、サラダと、あと、海苔巻きに入れてみた。ごはんに、ごはんだけど、食べて。ほかに、思いつかなかったもんだから。そのままスティックで食べてもいいし、こっちはきゅうりとかぼちゃのスープ。酢の物もあるよ。」
「暖かいきゅうりか・・・・・・。」
「んー。こちらではあまり食べないかもしれないけど、南のほうへいくと普通にある料理だよ。ひやじるもあるよ。」
そういわれて辻村は、急に今日来た目的を思い出したようだ。
「あ、あの、春男さん。私、あなたのお母様である料理研究科のマキさんの取材をしているんです。」
「やせてるね。」
「・・・・・・は?」
急に言われて、戸惑ったようだ。
「いや、母さんの取材をしている人って、だんだん太るんだよね。担当になってから、まだそんなに日数経ってないでしょ。」
「はい・・・・・・あの、よくそういう方が来るんですか?」
「くる。母さんの取材に僕を載せようって人が。君も?」
「はいぜひ!」
「あれでしょう?僕があまり売れていないから、母さんの子だと分かれば、もっと売れるようになるって事でしょう?」
「なんだ、春男、知っているのか。」
「今までに何人来たのやら。」




