春男の夢 (1)
春男の夢
春もすっかり、うららかなこの季節。しかし、会社の中はそうでもない。
マスクをしたり、くしゃみをしたり、なんともなかったりで、花粉に苦しめられるものとそうでない者がはっきりと分かれていた。
そんななか、彼女はなにごともないかのように、オレのところへやってきた。彼女の名前は辻村 秀子。オレとは同期入社なのに、花の女性雑誌の担当だということは、オレでも知っていた。しかし、話したとはほとんどない。
「佐々木さん。」
「はい?」
「料理研究科のマキってご存知?」
ご存知も何も、春男の母親だ。
「え、ええ。まぁ。それが?」
「佐々木さん、彼女の息子の担当ですよね?」
「そうだけど・・・・・・?」
「その息子さんの取材をさせてもらえませんか?」
オレは目を丸くした。
「春男を?取材?なんで?」
「今度うちの雑誌で、マキさんの特集を組むんです。そのために、色々調べていたら、息子さんが同じ集版社で作家をしているということがわかりましてね。それで、お願いに伺ったんです。」
「断ぶぁる!」
そういったのは、オレではなく、花粉症に苦しめられて、何を言っているのか聞き取りにくい事この上ない、編集長だった。
「まぎさんの、息子にあんなやつがぁ、いるどは思われだくない。絶対ぃ、やべろぉ。」
「あんなやつ?」
彼女は怪訝な顔をした。オレはこんな編集長の声が聞き取れたことに感心していた。
「そいつのペンネームは春男って言うんだけど、僕とは同級生でね。編集長は春男が嫌いでして。」
「あぃつがぁ、俺のまぎざんのけーぎにいやがらぜをぉしたんあだー。」
「いやがらせ?」
「いや、誤解なんだけど、解けてなくてね。ただ、編集長の意見はさておいても、たぶん春男は断ると思いますよ。」
「どうして?売れない作家なんでしょ?取り上げられたほうが本だって売れるし、知名度も上がるんじゃない?」
「いや、あいつの場合、あんまり顔を出したくない奴なので。本人の希望で。住んでいる家の周りの人も、たぶん、ほとんど、作家だって知らないんじゃないですかね。」
辻村はあきれたように言った。
「それって、どんな人よ?人嫌い。変わり者。ほかには?」
「んー。友人はなぜか多いけど、春男のほうから友人たちのところへ遊ぶに行く姿はほとんど見た事がないし、外にも自分の趣味目的以外は出ないし、本当は食料品だって、買いに出かけるもの、嫌なんじゃないかな。それくらい、外に出たがらない。」
「そんなに・・・・・・?それって病気じゃない?」
「どうかなぁ?病気というより、究極の無精者なんだと思いますよ。会いに行く事は出来るけど、どこかに自分が出るのは嫌みたいで。」
「会えるの?」
「会いたいなら。」
「やべておげー、どろわれるぞー。」
「編集長、聞きにくいですから、いいかげんに薬飲んでくださいよ。」




