恐怖の一瞬
恐怖の一瞬
オレがそのことに気がついたのは、春男の服のせいだ。春男はそんなに外に出ない。しかし、服は毎日変えている。だが、変えている筈なのに、同じような服を着ている。
「なんでだ?」
「父さんの手作りなんだ。」
「ああ、なるほど。……なんで、普通のは着ないんだ?」
「なんがか、きつくてねぇ。」
それだけの会話でオレは悟った。春男はまた太ったようだ。手作りの服ばかり着ているのは、おそらく春男の父親がどんどん大きな服を作りつづけているからに違いない。オレは春男を連れ出すことに決めた。
「今度、恐竜の骨見に行こうと思ってねぇ。」
春男がうれしそうに語ったのをオレは聞き逃さなかった。
「オレも行く。」
「え?意外だね。いつもなら行くの嫌がるのに。」
「招待されているのはオレだからな。」
「じゃ、道は君が知っているね?」
「ああ。」
「なら、いいや。」
オレは細く笑った。そう、春男は方向音痴だ。それもかなり、ひどい。トイレに行くといって出かけたら、そのビルの外から戻ってきた事があった。それほどひどいのだ。普段、春男が趣味で出かけるときは自分で調べていくが(それでも迷っている)、誰かと一緒だと絶対に、自分で調べようとしない。
オレは、ある計画を考えていた。
「まだぁ?」
「お前、本当に運動不足だな。ほら、いくぞ。」
後ろからゆっくりついてくる春男をのんびり待ちながら、オレは自分の計画に少々、うっとりしていた。
そう、遠回りをしているのだ。それにしても、まだ2時間も歩いていないというのに、どうしてこんなに
疲れているのだろう。本当に、完全なる運動不足のようだ。
「あー・・・・・・。」
なにやら、春男はうなっているが、じゃ、タクシーでも拾おうという考えがおきないところが春男らしい。そんなにお金を持たせなかったのが、正解のようだ。
「ほら、建物が見えてきたぞ。あれだ。」
「お。」
目標が見えたせいか、春男はいきいきして歩き出した。
まさか、あれが坂のかなり上がったところにあるとも知らずに。
中を見終わって、出てくる頃には、かなり春男は疲れたようだ。だいぶ無口である。
「さっき、別の道から変える方法を教わった。帰りはちょっと早く帰れるぞ。」
「あー、ホントー?」
春男は少し笑った。帰り道は別にして、通常よりちょっとだけ、遠回りをして帰った。
「じゃあな。」
「おー。」
すっかり口数が減っていた。春男のアパートの前で別れたが、おそらく春男はそのままベッドにもぐるだろう。そして、明日は筋肉痛に違いない。オレも疲れたが、オレにもいい運動になった。オレはさわやかな気分で帰宅した。
翌日、オレは筋肉痛で悩んでいた。しかし、春男は翌日ではなく、その次の日に苦しめられていた。春男よりも運動不足ではなくて良かったとオレは心から思った。
そして、春男ににこやかに声を掛けた。
「今度は、いつ、どこに行くんだ?」




