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春男の味覚

春男の味覚


春男は料理がうまい。作るのもうまいし、はやいのだが、見た目には一切こだわらないせいか、見ただけではうまいか、まずいか分からない。しかし、食べてみると、結局全部食べてしまうのだから、味もうまいのだろう。

おそらく、味覚もいいのだろう。たくさんある、スパイスやら調味料やらを使い分けて、料理を作るのだから。

それは、料理研究科の母親のおかげと、いうか、せいというか。しかし、それだけ春男本人が味にうるさいかというと、それがそうでもない。春男の母親の作るものはどちらかといえば、実験に近いものがある。それを幼い頃から食べさせられてきたのだから、あまり、味にはうるさくはないようだ。日本から出て行っても、食の違いで困ることはなさそうだ。

問題はこっちだ。

オレが春男の家で食べるものは、春男が作ってうまいと感じたものが多い。おかげで、美味しいものばかり食べているオレの舌ばかりが、こえていく。

ついでに、最近、コンビニの弁当の味が濃いような気さえしてきている。インスタントラーメンなど、ここ最近、食べてもいない。

こんなときに、オレはしみじみ結婚したいと考えるのだ。そうしたら、弁当を作ってもらえるのに。

そうぼやいたら、同僚の女性は怒った。

「それじゃ、弁当が欲しいために結婚するみたいじゃない!」

しかし、オレにその反論はあまりできなかった。

「いっそのこと、彼に弁当でも、作ってもらったら?」

と、そこまで言われたが、さすがにそれは断りたい。そんなことをしたら一生そばにいる羽目になる。オレはまだ、こいつの担当をやめることをあきらめたわけではないのだ。

 じゃあ、春男に作家をやめてもらい、コックにでもなってもらえばいいと、愚痴を聞いたオレの友人はいった。

しかし、春男には料理人には決してなれない理由がある。

それは。たとえば、なにかの料理の味見をオレがしたとする。

「味が薄いような気がするなぁ?」

「ん?じゃあ、そこらへんのもの、適当に入れて。」

 春男は、調味料を差し出した。

たとえば、なにか煮物をしていたとする。

「これは、どのくらい煮るんだ?」

「んー。適当に。火が通ってて、こげなきゃ、いいよ。」

これだ。

つまり、春男の作るものに、レシピがないのだ。自分が思う量を適当に鍋などにいれて、自分で好む味を適当に作る。なにやら、たくさん母親から送られてきている調味料があるのだが、どれがどれだけ使われているのか、さっぱり本人もわかっていないようだ。

それが、なくなっても、基本的な醤油や砂糖のような調味料以外は、とくに自分で買いに行くこともないようだ。

これでは、人に教える料理人にはなれまい。なれるわけがない。まぁ、その前に修行の段階で、クビになるのが目に見えている。基礎など繰り返しやるのは、面倒だと言い出すだろうからだ。

「料理はいいんだけど、菓子はねぇ、きっちり、しっかりやらないとできないんだよ。そういうのが積み重なっていけば、いいものができるんだけど、それが面倒で。」

そんな理由で春男は菓子をあまり作らない。おそらく菓子も春男の父親が作れるのだから、春男も作れるのだろう。

しかし。たんに、味覚のよさと、それを作る技術があるだけではどうにもならないことがあるのだと、春男を見ているとしみじみ思うのだ。


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