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呼び名

呼び名


オレは、春男という作家の担当をしている、佐々木洋介という。春男の四番目と六番目の担当者だ。ほかにも何人か、春男の担当になったが、一人残らず、やめている。それも、担当が代わるということではなくて、出版業からいなくなっているのだ。その春男は、出版社のなかでは、呪われているんじゃないかという噂まであった(らしい)作家だったようだ。

オレは別に、昔から春男と呼んでいたわけではなかった。最初は仕事の相手だったし、名前にも聞き覚えがなかったせいか、誰なのか、思いつきもしなかっと言うよりも、考えもしなかったというほうが正しい。

最初に呼んだのは、春男先生というところから始まった。

「春男先生、作品、受け取りにきました。」

「はい。」

 そういって、しばらくのうちは、フロッピーだけを渡される日々だった。オレは、春男の次の担当者が決まるまでの中継ぎだったのだ。オレは他に何人かの担当をしていて、その間に春男からフロッピーを受け取るだけの仕事をしていたのだ。

 あれは、三回目だっただろうか。いつもは、すんなり渡してもらえる、作品がまだ出来上がらないからと、家の中で待つことになった。そのときに、本棚に並ぶ、自分と同じ高校の卒業アルバムを見つけたのである。編集長からすでに、同じ歳だとは聞かされていた。まさか、そのアルバムを開けてみるわけにはいかない。オレは、家に帰るなり、自分のアルバムをめくりだした。

「おかしいなぁ、ないぞ。春男……、春男ねぇ……。そういえば、苗字、なんだ?」

翌日のことだった。編集長に聞いてみた。

「あの、春男先生の名前なんですけど、苗字ってなんですか?」

「ん?ああ、春男はペンネームだ。言わなかったか?あいつの本名は、秋山だ。秋山 亜樹斗。あの、マキさんの息子だ。」

「マキ?」

「料理研究家の。知らんのか?」

編集長は、ちょっと顔をしかめて見せた。オレは後に、この編集長がそのマキさんの熱狂的なファンだということを知ることになるのだが。

「あー、あいつ、高校のときの同級生だ!」

「なに!?」

その時の編集長の顔をちょうど見ていた同僚は、まるで、餌を見つけた鷹かワシのようだったと、こう語る。しかし、オレはそんなことに一切気がつかなかった。

「あー、そうだ、どこかで見たような気がしていたんですよ。そうか、あいつかぁ。」

「……仲がよかったのか?」

「良かったら、すぐに思い出しますよ。いや、腐れ縁っていうのかなぁ、たしか、小学校の途中から高校の卒業まで同じ学校だたんですけどね、一回も同じクラスになったことなかったんですよ。だから、話したこともほとんどなかったなぁ……。」

「お前、いま、作家、誰を担当している?」

編集長はにっこりと笑った。オレはそのとき、初めて、なにかまずいことを言ったような気がしてきていたが、後の祭りだった。そこから作家を二人外されて、春男の担当になり、オレはなぜかいまだに出版業界にいる。

 編集長はいまだに、酒が入ると、俺の選択は間違っていなかった、出版業界からの若手流出を防いだのだ、のろいを振り払ったのは自分だと、豪語する。

 オレは最初のころは出版社をやめることばかり考えていたはずが、すっかり春男に慣れてしまった。なれというものは本当に怖い。

 そして、今日も春男の家へとフロッピーを受け取りに行くついでに、ご飯を食べようと考えているオレがいるのだった……。


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