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第17話 目標発見




「イクアラ! バーン先輩! ウィリス先輩! 金太さん!」



エントランスホールからタツマは仲間たちの名を呼ぶ。しかし、返事は帰ってこなかった。

タツマ達の目の前で、巨大な歯がまるで門のように右への道を塞いでいた。

発動したトラップについては、後ろから全てを見ていたタツマ達の方がはっきりと見えていた。


床と天上から突然生えてきた歯。奥までまっすぐに20mは続いていただろうか。トラップが通路を、完全に塞いでしまっていた。



最後の瞬間、バーン達がトラップから逃れたのかどうかは定かではない。


呼びかけては見ても、、通り抜けることはもちろん、声を届けることも叶わなかい。歯と廊下の隙間を、ぎっちりと埋め尽くしている赤黒い歯茎が忌々しかった。



「左側から回り込もう! イクアラ達を助けなきゃ!」



そう言って左側の通路へと駆け出そうとしたタツマを、腰元のオルタが柱にしがみつくことで押しとどめた。

「離してください! オルタ様!」叫び、取り乱すタツマの顔を、カヤが両手で頬をギュッと掴んで、ぐるりと自分の方へ振り返らせた。



「タツマ! コレと同じトラップがあっちにも無いと思ってるの!!」



ゼロ距離からのカヤの剣幕に、タツマはようやく我に返った。

第一病棟は完全なシンメトリー。同じトラップが反対側にも隠されている可能性は高い。


金太ですら見落としたトラップの引き金が廊下のどこかにあるはずだ。それを見つけられなければ、金太達の二の舞いであろう。



「タツマ君。た、たぶんじゃけど、みんなはトラップ躱したと思う。そう見えたけん」



「ほんとうか!? イリア?」



「たぶん……、じゃけど…」



イリアは自信なさげに俯いたが、その言葉はタツマの心を幾分軽くした。エルフの目は静止視力、動体視力共に卓越している。イリアが見たというのであればイクアラ達は無事かもしれない。それでもやはり確証は持てなかったが…。



-ドンッ-



突然の物音に振り向くと、アイアンが入り口近くの壁を殴っていた。

一度、二度、三度、四度、殴った後、暫く壁に身を預けるように休んで、また再び壁を殴り始めた。


苛立って、壁に八つ当たりしているのかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。

壁を殴った後、真剣な表情で壁面に耳をじっと当てていた。



しばらくして、鉄の口が、笑った。



「みんな、生きてる」



タツマ達も急いでアイアンの元へと駆けより、同じように入り口付近の壁に耳を当てた。非常に小さな物であったが、振動が音になって伝わってきた。

一度、二度、三度、四度。



4度の拳の音が終わった後、アイアンがまた、4度拳を打った。

すかさず、四度の拳が返って来た。



きっとそれはバーンの拳。4度壁を打ったのは4人共無事だという返答であろう。

互いの声は届かなかったが、互いに無事だという事が分かった。



「モールス信号でも、習っておけばよかったわね」



カヤの言葉にタツマは「全くだ」と頷いた。









「……問題はどうやってイクアラ達と合流するかだよな」



「大人しくここで待ってるっていう選択肢が正解だとは思うけど…」



トラップによって分断され、エントランスホールに取り残されたタツマ達は作戦会議を行っていた。


四人と一柱の作戦会議は、実質的にはカヤとタツマの二人だけの相談であった。冒険者としては浅すぎるキャリア故に口を挟めないイリアに、滅多に喋らないアイアン。そして今後は二度と喋ることはないかもしれぬオルタ。五名の内三名が寡黙であったため、二人だけの作戦会議が続いていた。



「確かに、セオリー通りならそれが一番正しいんだが」



「……聞こえなくなっちゃったよね。バーン先輩の拳の音」



無事を確かめ合っていたバーンの拳の音が突然やんだ。

20m以上離れていたタツマ達にも聞こえたバーンの拳の音。それがモンスターをおびき寄せてしまった可能性が高い。


この病院にどんな魔物がいるのかはわからぬが、溢れかえる特濃の魔素から考えると、公園で出会った虫の魔物達よりも弱いなどとは考えられない。


あのバーン達が簡単に魔物にやられるとも思えないが、敵の数も分からない。たった4人で魔物と闘い続けるのも限界があろう。



「トラップの引き金がわからないことには、左の通路は進めないな」



「もしこちらからも動くなら、……3つ目の選択肢よね」



カヤがエレベーターゾーンへと続く入り口を見た。



「行こう。エレベーターが動くかどうかだけでも確認して損はないはずだ」



タツマの言葉に全員が頷いた。




受付カウンターから奥へと向かう通路を4人は慎重に進んでいく。そこにトラップは無かった。



たどり着いたエレベーターゾーンは、バスケットコート程の広さはある空間だった。休憩室も兼ねていたのだろう。部屋の中央には朽ち果てたソファーが鎮座し、壁面には数台の自動販売機が、変形し、壁にもたれかかっていた。



エレベーターは全部で7基ある。6基の小型のエレベーターと、その対面に一基の機材搬入用の大型のエレベーターが存在していた。


機材搬入用の大型のエレベーターは鍵がなければ使えない仕様だった。

残り6基のエレベーター全てのボタンを押したものの、ボタンにランプは灯らなかった。



アイアンがエレベーターの鉄の扉をこじ開けたが、中には何もなかった。黒い空間が上下に続いているだけで、エレベーターを吊るす為のワイヤーすら無かった。

これではワイヤーをつたって二階へと昇るような事は出来ない。

残るエレベーターは5基。アイアンが無言で、隣のエレベーターの扉に手をかけた




・・・・・・・・・



・・・・・・・・・




「これも駄目か……!」



最後のエレベーターを確認したタツマが天を仰いだ。6基全てのワイヤーがなかった。

現代の建造物とはいえやはり迷宮。簡単にショートカットをさせてくれるものではない。タツマは苛立ちを、壁のボタンにぶつけた。



「タツマ、静かに!」



カヤの刺すような声で、タツマは動きを止める。



音が聞こえる。機械が動く音だ。

タツマ達の背後にある大型の機材搬入用のエレベーター。そこから音が響いていた。

ワイヤーがモーターでギリギリと巻き上げられる、あの音だ


入り口脇の表示、下向きのランプがオレンジ色に灯っていた。表示されている数字が、ゆっくりと少なくなっていく。

誰かが、何かが、タツマ達のいる一階へと向かってきている。



「せ、先輩達かな?」



イリアの願いをタツマ達は肯定できなかった。重いエレベーターの音と相まって、異様な気配が近づいてきているような気がした。

オルタが臨戦態勢に入る。紅白戦のとき、変異体と相対した時と同じように。

アイアンが無言で前へと進みた。タツマ達三人を庇うように、最前列で腰を低く落とした。



「鬼が出るか、蛇がでるかって奴ね……」



カヤがギュッと棍を握った。

タツマがゆっくりと頷いた。そこから現れるのは人ではないだろう。未だ目には見えぬが、確信があった。




-チーン-




呑気な音が響いた後に巨大な鉄の扉がゆっくりと開いていく。



最初は蛇だと思った。


鱗が見えたのだから。イクアラの鱗ではない。もっと巨大な生き物の鱗だ。

-蛇だ、とてつもなく大きな蛇だ-最初はそう見えたが、次の瞬間には-鬼だ-と思った。


巨大エレベーターの中でとぐろを巻く蛇。その頭部が鬼である。

額から角を生やし、青い肌に、大きく角ばった顎。逞しくごつごつとした二本の腕と、手には10本の鋭い爪。そして巨大な蛇の下半身。

下半身が蛇、上半身が青鬼のバケモノだった。



体の構造はラミアに似ているが、醜悪であり、雄であり、明らかに強い。

『鬼が出るか蛇が出るか』とカヤが言ったが、出てきたものは鬼と蛇のキメラであった。



タツマ達を認めた鬼の顎が開き、吠えた。



ビリビリと顔を突き刺す振動。毛穴をこじ開けて体に分け入ってくるような凄まじいプレッシャーは、タツマ達が戦ったあのホオジロザメのサハギンにも届こうかというものだった。

気圧されてはならぬと、タツマは鬼蛇を睨みつける。

睨みつけた時に、鬼の頭のすぐ脇に何かがあるのを見つけた。



鬼蛇が、肩に何かを担いでいた。



「あっとタツマは声を上げた。



「えっ?」と肩に担がれていた何かが反応した。



それはタツマ達が迷宮に挑む目的、二つの内の一つ。





「もみじ先輩!?」



「須田さん!?」





バケモノの肩の上には、アバラ骨のような形をした楕円形の檻に閉じ込められた、万十もみじの姿があった。






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