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第4話 サイクロプスの鍛冶師




「ここがワシの魔剣工房の入口よぉ」



巨大なマシンや金属が並ぶ工場の内部。その一番奥の床板に無骨な取っ手が付けられていた。一つ目巨人、ヤマトがぐいとそれを持ち上げると、中からは魔素を含んだ熱い空気が上昇気流のように吹き上げた。

大気に含まれる魔素。その事は一つの事実を意味している。



「これは……ダンジョン!?」



「その通り。サイクロプスの一族に伝わる鍛冶神の迷宮よお。ホンモンの魔剣っつうもんはな、迷宮の火と水と空気がないと打てんものよ」



サイクロプス。洞窟に暮らし、マグマの炎で鍛冶をしたと伝えられる種族である。

地下から吹き上げる熱気はその伝説をタツマ達に思い出させた。

神話に詳しいイクアラがある疑問を抱いた。



「すみませんヤマト殿。鍛冶神の迷宮というのは小アジアにあるあの鍛冶神の迷宮と何か関係が有るのでしょうか?」



「おお、よう知っとるなあリザードマンの坊主。あそこは確かにワシの先祖が住んどった迷宮よぉ。迷宮の心臓がない今じゃあ、ただの大きな洞穴だがのぉ」



鍛冶神の迷宮、そう呼ばれる廃墟が小アジアには存在する。火山の裾野に掘られた長大な洞窟は、ただの鉱山の名残だとも、迫害されたキリスト教徒が身を隠していた場所だとも言われているが、その正体は今でも定かではない。

巨人の何気ない回答は、迷宮学者達が聞けば嬉々として学会で発表する新事実であった。



「つまりここに、心臓が移されたと…」



迷宮の心臓の有無。それこそがただの洞窟とダンジョンとを隔てるものだ。

迷宮の心臓がある洞窟では魔素が満ち、魔物が産まれる。サイクロプスの鍛冶場とは、紛れも無い生きた迷宮なのだ。



「ワシの先祖は小アジアから追われた後、何百年もの間、絹の道を東へ東へと旅をしたんじゃ。迷宮の心臓を大事に抱えながらのぉ。こんな風体じゃったから、行く先々で追われてしもうた。東へ東へと歩き続けて、一族も散り散りになって、最後に辿り着いたのがこの国よ。もう1000年以上前、この国がヤマトと呼ばれとった頃の話らしいのぉ。爺さんはこの地に落ち着けたのが余程嬉しかったらしいわい。ここで生まれたワシをヤマトと名付けたそうじゃ。……ほれ、付いて来い。生きとる迷宮じゃあ。ワシから離れるなよ」



ヤマトの後に続いて、6人は鍛冶神の迷宮へと潜って行った。






・・・・・・・・




・・・・・・・・




「これはまた…、相当のもんじゃなぁ。よくもまあおめえらが倒したもんだぁ」



机の上に並べられた変異体のドロップアイテムを見ながら、ヤマトは唸った。

鍛冶神の迷宮の一階層。その最も大きな広間に、サイクロプスの工房はあった。

地上にあった工場の10倍ほどもある大きな空間は、様々な工具と材料でうめつくされていた。近代的な機械が並んでいた地上とは違い、いにしえの時代から伝わる道具の数々が目を引いた。


部屋の隅の炉は下層から吹き上がるマグマと直接つながっているらしく、凄まじい熱気に満ちている。

そうかと思えば、炉の側には冷たい地下水がこんこんと湧き出ており、この世の道理の届かぬ迷宮の神秘という物を、ありありと感じさせた



「ヤマトのおっさん、言うとくがワシ等だけで倒したんじゃぞ。インチキなしでの全力勝負じゃ」



「あほぉ金太ぁ、疑っとるわけじゃないわ。そんな事は素材を一目みればわかるわい。お前らの戦い、迷宮によっぽど惚れ込まれたらしいのぉ」



「惚れ込まれる? どういうことですか?」



巨人の言葉は何かの比喩であろうか。タツマにはヤマトの意図する所が解らなかった。



「迷宮は生きとるっちゅう話、聞いたことはねえかぁ? あれは本当だ。迷宮は生きとる。心もある。動いたり、喋りかけたりせんだけでな」



「心?」



「そうよ、心があるから勇敢に戦う人間を迷宮は贔屓するのよぉ。ドロップアイテムっつう形でのぉ」



迷宮に心がある。ただの世迷い言にしか聞こえぬそれは、一つ目巨人から聞くと真実に思えた。彼らは何千年も迷宮とともに暮らしていた種族なのだから。



「迷宮がお前らを贔屓した以上、ワシはお前らに力を貸さにゃあならん。それがワシらの掟なのよ。迷宮と共に生きてきたサイクロプスのなぁ。言っとくがぁ、いくらドロップアイテム持ってきても、お前らが自分で手に入れたもんじゃなけりゃあワシは魔剣を打たんかったぞ」



一つ目巨人は手に持っていた素材をテーブルの上に下ろすとニヤリと笑った。頬に刻まれた皺が、巨人が生きてきた年月を物語っていた。



「そいじゃあまずはリザードマンの坊主からだなぁ、大剣でよかったかぁ?」



「はい、“私にとっての大剣”ですが」



イクアラは自分の倍ほどの背丈の巨人を見上げながらそう言った。



「心配するなぁ、使い手を選ぶ分、選んだ以上は使い手にとっての最高の武器を作る、それがサイクロプスの矜持よぉ。ほれ、まずはおまえさんの動きがみたいからこれをふれ」



そう言うとヤマトは、武器を入れた籠の中から一振りの大剣を取り出した。

刀身は鏡のように曇り無く、三日月のように美しい弧を描いていた。



「なんたる…業物」



手渡された大剣を両手で受け取ったイクアラは、奮えた。



「業物ぉ? 何を言うとる、業物はこれから作るのよぉ。こいつらはただの雛形よぉ」



そう言うと巨人は奥から大量の剣や薙刀などの武器を次々と運んできた。無造作に籠の中に、まるで薪か何かのように入れられた武器の数々を。



「もぉ少し大きくても行けそうじゃのぉ、成長期は終わっとるな? リザードマンの小僧。そこの娘っ子は棍じゃったかぁ?」 



大小太細、様々な形態の棍が入った籠をカヤにぐいと突き出した。

カヤは目を輝かせながら、その中から自分の理想に近い一本を選んでいく……。




こうして、サイクロプスの仕事が始まった。



ギリシャで途絶えた鍛冶の技は、遥か東の国でたたらの業として受け継がれていた。

神話に詳しいイクアラがふと、思った。




そう言えば、ニッポンに伝わる製鉄の神も単眼であったなと。





・・・・・・・・



・・・・・・・・





「合わせはこんなもんかのぉ。任せとけぇ、一週間で最高の武器を作ってやるわい」



イクアラ、カヤ、バーンの武器の合わせは1時間ほどで終わった。



目が、良いのだろう。

ヤマトは三人の体格や動きの癖をするすると読み取り、次々と試しの武器の形を変えていった。時にはイクアラが“業物”と称した武器を、惜しげなくバッサリと切断しながら。



「それでぇ、お前はええのかぁ? 坊主」



自分の事を言われているのだと気付くまでに、暫くタツマは時間がかかった。巨人からみれば、イクアラもバーンもタツマも、全員が“坊主”なのだから。




「おお! そうじゃそうじゃ! ヤマトのおっさん、こいつの剣を見てもろうてええか?」



タツマが鞘から抜いて掲げた短剣に、一つ目巨人の巨大な単眼が、零れ落ちそうな程に大きく見開かれた。



「……こいつはたまげたぁ、紛れもねえ、ヘイパイストス様の神剣じゃあ。………なんじゃぁ? おまけに神様までついとるのかぁ?」



タツマの神剣、その本質を巨人は一目で見ぬいた。オルタが姿を表していなかったにも関わらずだ。



「神剣の手入れの仕方なんぞワシらじゃわからんからのぉ、ヤマトのおっさんに聞きたかったんじゃ」



「……まあ、神剣じゃあ普通の鍛冶屋じゃ研ぐこともできんわなぁ。どれ、貸してみい」



タツマに向かって巨人の手がぬっと突き出された。タツマは「でも…」と逡巡する。


タツマの持つ神剣はタツマとオルタ以外には誰も持つことができない。

紅白戦の後、イクアラやカヤも試してはみたが、やはりその柄を握ることはできなかった。



「心配すんなタツマ、このオッサンには持てるはずじゃあ」



タツマが差し出した短剣を巨人の手がしっかりと握った。驚くタツマに向けて金太がぬたりと笑った。



「ヘーパイストスの加護を持つサイクロプスが、神剣扱えんわけがないじゃろ?」





・・・・・・・・




・・・・・・・・





「ほれ、これでいい。刃こぼれすることは無いと思うが、たまにこうやって研ぎに来い。年に一度も研げば十分じゃ。いつでもタダで研いでやるわい」



研ぎ終わったオルタの短剣をタツマは礼を言って受け取った。刃の縁が輝いている。

黒い短剣が生きているように、いや、生き返ったように思えた。



「神剣はこれまでワシも何本か手入れしたことがあるがなぁ、おまえのそれは別格だぁ。ヘイパイストス様が相当に気合を入れて作ったもんらしいのぉ」



「これって、そんなに凄い物なんですか?」



タツマは刃渡り20cmほどの短剣を見つめた。

オルタの剣が神剣だとわかった後、図書館で神剣について調べたことがあった。写真に残る神剣はどれも大きく、神々しかった。

言っては悪いが、自分の持つ神剣がそれらと同じものだとはタツマには思えなかった。

しかし今、研ぎ終わった後の剣の輝きと、鍛冶に生きた巨人の賞賛の言葉を受けると。

自分が本当にとんでもないものを手に入れたのだという実感が湧いてきた。



「ああ。肉、魚、野菜、この神剣は相手を選ばねぇ。ジャガイモの皮むきだろうが、豚骨の骨立ちだろうが、これ一本で全部イケる。キュウリを切っても刃のへりに残らねえ。脂がつかねえから切れ味もオチねえ。使い終わった後は洗剤もいらねえ、さっと水ですすいで布で拭けば十分だ。間違いなく、ヘーパイストス様の最高傑作の調理包丁よ。この包丁に見合うだけのいい板前になれよぉ、小僧!」



「へっ……? ほ、包丁?」



オルタの髪がするるっと伸びて、正解の丸を作った。









「調理包丁…かぁ」



マイクロバスの助手席でタツマは短剣を見ながらため息を吐いた。確かに、言われてみれば、調理用のナイフにしか見えなかった。


そもそも、オルタはいつもこれで料理していたではないか。

何故、今まで気づかなかったのだろうか、なぜ、自分も魔剣が欲しいと言わなかったのか。

タツマは今、後悔していた。



「まあまあ、戦いにも使えるってヤマトさんも言ってたじゃないの。……難色は示してたけど」



運転席の厳島がそう言ってタツマを宥めた。

神剣を武器として使うことにはお墨付きは貰えなかったものの、一応のGOサインはサイクロプスから出ていた。

「まあ、何でも切れるから武器にも使えんことはないかもしれんがのぉ」と、狭い額に皺を寄せながら不機嫌そうに体を揺らしていた。

オルタが毎日調理包丁として使っている事を知ると、「まあ、それならええかぁ」と、少しだけ機嫌を直した。道具を作るサイクロプスとしては、道具は正しく使って欲しいのだろう。



タツマとしても、短剣を武器として使いづらくなった気がした。


これまで大会の提出用書類には、『武器・短剣』と書いていたタツマ。

明日からは『武器・包丁』と書かねばならないのだろうか、二つ名がナマハゲになったりしないだろうか。そんなどうでもいいことをぐるぐると考えていた。



落ち込んでいたタツマを気遣ったのであろうか。ヤマトは最後に、タツマにこんなことを言ったのだった。




「まあ、板前になれとは言わんから。大きく育てよぉ、小僧!」



工場のシャッターの前で、大きな巨人が大きな声でタツマに発破をかけた。



「神剣の持ち主なら前を向け! 神剣と共にまっすぐ歩め!」



巨人の発破は豪快だった。タツマはピンと背を伸ばした。



「神剣はなんでも切れる。その言葉は正しい。じゃがなあ、切れんこともある。なぜかわかるか?」



タツマは-いいえ-と首を横に振る。



「神剣は持ち主の意思と共に育つ。お前が育たねば神剣も育たん。正しく育てば、石でも鉄でも呪でも幻だって断ち切れる。それこそ、神や迷宮の心臓ですら貫くこともできるだろうて。……ええか? その刃、努々使い所を誤るな。まっすぐに育て、大きく育て。その剣に見合うほどの男になれよぉ!!」



オルタの神が一房伸びてタツマの手の甲を優しくなでた。

細い髪の毛の応援が、心強かった。


そして、優しき巨人のエールは、発破だけではなかった。



「小僧、鞘はそれだけか?」



ヤマトはタツマの腰元の鞘を見ながらそう言った。オルタの剣に鞘はついていなかった。タツマが今使っているものは、ホームセンターで買った工具入れを改造した程度のシロモノである。



「皮と軟骨が余るじゃろう。その剣の鞘、ワシに作らせてはくれんか?」



巨人はニヤリと笑って、そう申し出た。



「大事なモンを守る為のものじゃからのお、それなりのモノを用意してやるわい!」



大きな親指を突き上げて巨人は言った。心遣いが、心に響いた。











「大事なものを守る為のものだもの、それなりのモノを用意しないとね」




その日の夜10時。どこか聞き覚えのあるような台詞をタツマは聞いた。



ニヤリと笑ったその顔は、巨人の笑顔とは全く別物だった。



「だ、大事なもの……、ですか」



タツマは恐恐と、相槌を打った。



「ええ、女の子の貞操は何よりも大切なのよ。ねえ、どっちがいいと思う? 私の大事なモノを守る最後の一枚は」



そう言って午後10時の淑女は、袋に入った二枚の女性用下着をタツマに見せた。



昨日おとなしかった反動か、今晩の午後10時の淑女は、最初から飛ばしていた。



「ねえ、どっちが私に似合うと思う? 赤か、黒か」



二つの下着の袋を両手で掲げた。赤い下着、きれいな顔、黒い下着というサンドイッチがタツマの視界に飛び込んだ。



どれを選べというのか、赤か、黒か、それとも…



「…それとも、穿かな…」



「わかりません!」



三つめの選択肢だけはない。タツマは淑女の言葉を叫んで遮った。

タツマの回答が不満だったのだろう、午後10時の淑女は唇を尖らせた。



「想像力が足りないわね。仕方ないわ、無難に黒を買うわ」



何が無難なのかは解らなかったが、-よかった-とタツマは心のなかで安堵の息を吐いた。

『わからない』その回答は正解だったようだ。


赤を選んだ場合も、黒を選んでいた場合も、その後の午後10時の淑女の容赦無い追撃が容易に想像できたからだ。

商品のバーコードを読み取る音は一つだけだった。

今日の午後10時の淑女の買い物は、この下着一枚のみだった。



最後にコンビニの袋に下着をいれようとしたタツマの右手を、白い手袋のしなやかな手が、上からそっと被さって、止めた。





「袋はいらないわ。今ここで、穿いて帰るもの」





戦慄が、走った。





雨の日に買うビニール傘のような気安さで、午後10時の淑女は「穿いて帰る」と。そう言った。



「サイズが合わなかったら面倒だもの。私の家、結構遠いのよ」



そう言うと彼女は迷わず下着の袋に手をかけた。袋の糊付けがビリリッと音を立てて開けられる。中の台紙とビニール袋をレジの上に無造作に置くと、彼女は両手の人差し指で、下ろしたてのショーツをくいっと引っ張った。


タツマの目の前で。



「あら? それなりに可愛いじゃない。コンビニの下着にしては中々ね、そうは思わない? 私の夏」



私の夏。そう呼ばれたタツマはまるで夏の日差しの下に立ち尽くしているかのように、ダラダラと汗をかく。



午後10時の淑女は両手の親指と人差し指で下着を摘むと、ゆっくりと下げていった。


ライトグリーンのワンピース。その下腹部に黒い下着を押し当てた。タツマに良く見えるように、一歩淑女は後ろに下がった。



「ねえ、これなら想像できるでしょ? この下着、私に似合うと思う?」



「わ‥わわ‥わ、わかりません‥」



消え入りそうな言葉で、タツマはようやくそれだけを言った。


『わからない』今回もこの回答で正しいはずだと、タツマはそう信じた。





罠だった。





午後10時の淑女の唇が、怪しく歪む。



「想像力の足りない子ね。だったら穿いて見せるしかないわよね?」



タツマは一瞬呆けたが、その言葉の意味はすぐに理解できた。

午後10時の淑女は、黒い下着を持ったまま、手をさらに下ろすと、両手の小指をライトグリーンのワンピースの裾にかけた。

膝下まであるワンピースの裾にまで両手をおろしたため、必然的に、前に屈んだような格好になった。


タツマの顔を上目遣いで見上げている筈の目。しかしタツマは、なぜか自分が見下されているような気持ちになった。

平衡感覚がぐらぐらと揺れた。


白い手袋の二本の小指が、ワンピースの裾をゆっくりと持ち上げていく。



「今ここで穿いて見せれば、いくら貴方でも解るわよね?」



白い太ももが徐々に顕になっていく。-待って-と、心のなかで叫んだが、声にはならなかった。




タツマの脳に恐ろしい仮定が浮かんだ。


そもそも彼女は今、下着を穿いているのだろうか。


下着を穿いて帰るということは、今は穿いていないということではなかろうか。


傘を持っている人間が、わざわざコンビニで傘を買ったりなどしないだろう。



ゆっくりとたくし上げられていくワンピース。徐々にあらわになっていく白い足は付け根に近づくにしたがって、その肉感を惜しげなく曝け出していく。



そして遂に、付け根に辿り着く前のギリギリの所で、タツマは正解を叫んだ。



「似合ってます!!! その下着! とってもとっても似合ってます!!!」



午後10時の淑女の手がピタリと止まる。

タツマが踏み込んだ急ブレーキは、ギリギリで間に合った。



「本当に、ちゃんと想像して言ってる? 適当じゃあ許さないわよ」



タツマは言われるがままに想像する。


見せられるよりも、想像するほうがマシだと思えた。


白く伸びる足、ライトグリーンのワンピース。彼女の下腹部を多い隠す黒い三角形。


タツマは一生懸命想像する。不埒な絵を、自分にとって大切な何かを守るために必死に想像する。


目を閉じて力いっぱい想像する。

タツマの妄想の中。白い肌に黒い下着だけを纏ったあられもない姿で、それでも彼女は勝ち堂々とタツマを見下ろしている。

にやにやと、勝ち誇った笑みで、タツマを見下ろしている。





「いい子ね。よく出来ました」





耳元で声がした。目を開けると、泣きぼくろの目がタツマのすぐ側にあった。

タツマが想像していた笑みとは違っていた。


楽しそうな、満たされたような、子供のような裏表のない笑みだった。ここ数日、偶に見せることのある綺麗な笑みだった。両手を後ろ手に組んで、タツマを楽しそうに見上げていた。

タツマの不埒な妄想は、いつの間にかさっぱりと消えていた。まるでひょいと何かに吸い取られたかのように。



「袋。やっぱり貰えないかしら。考えてみれば下着を二枚も履く必要ないものね。そうは思わない?」



ライトブラウンの髪をかきあげながら、悪戯っぽく首をかしげた。



「は、はい!」



タツマが慌てて白いナイロン袋を手渡すと、午後10時の淑女は無造作に黒い下着を放り込んだ。まるでもう、用は済んだと言うように。




「ごちそうさま。また明日ね、私の夏」




そう言うと彼女は、今にも歌い出しそうな上機嫌で去っていった。




「ごちそう…さま???」




午後10時の淑女は、やはりタツマには難解すぎた。






サイクロプスがなんで鍛冶師やねん?

と思われた方は、私の割烹にあるサイクロプスの神話を読んでみてください


以下、リンクです

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/262783/blogkey/827967/

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