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Twilight Blue  作者: シュガナッツ
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プロローグ


 錆び付き、塗装が剥がれ落ちたドアを開ける。

 ギギギという不快な音とは裏腹に、外の新鮮な空気が俺の胸いっぱいに広がった。

 薄暗い階段から足を一歩踏み出すと、視界が一気に開ける。

 数十の階層からなるこの建物の屋上から見渡す景色は、寂しくもあり美しい。

 

 時刻は午後5時15分。

 太陽が西へと傾きかけ、その端は微かに見える地平線と接触していた。

 正しく、夕暮れ。

 一日の終わりを告げるその美しい夕焼けは、4年前からもう一つの意味を持っていた。 

 太陽が地へと降り、そしてその姿を完全に隠してしまうわずかな時間。

 『トワイライト・ブルー』と呼ばれる現象が起こるそのわずかな時間のみ、世界は本来の空の色を取り戻す。

 

 4年前に奪われた、青く、どこまでも透き通った空の色を…。 


 



 


 「 明人(あきと)~!ご飯よ~!」

 チュンチュンと小鳥がさえずり、窓からは朝特有の冷たい光が差し込んでいる。

 温々とした布団から出たくないという欲望を理性で押さえ込み、俺は階下から呼ぶ母の声に答えるように大きめのあくびを一つこぼした。

 季節は10月の中頃。つい最近までの蒸し風呂のような残暑はすっかりとなりをひそめ、朝晩はひんやりと冷え込む季節となっていた。

 

 寝間着から制服へと着替え、リビングへと降りる。

 ガラス製のテーブルの上にはトースト、目玉焼き、そしてみそ汁と如何にも現代日本人というような朝食が置かれていた。

 

 「おはよう」

 

 俺がそういうと母はテレビの前に置かれたソファーから、「おはよう明人」と笑みを溢す。

 見慣れているはずの顔に、朝日が当たり、いつもと違う幻想的な笑みを見せる母に少し

慌てながらも、椅子へと座る。

  

 テレビから流れる朝一のニュースをBGMに朝食を食べ始める。

 母は「あら~怖いわね」などとニュースに見入っているようだ。


 いつもと変わりない朝。平和で退屈で、それでいてかけがえの無い朝。

 窓から差し込む日の美しさに、今日はいいことがありそうだ、と思っていた。



 

 「おはよ~!」

 靴を履き「いってくるよ!母さん」と声をかけドアを開けた先にいたのは、幼なじみの少女だった。

 8時10分に家の前で待ち合わせ。それが俺と彼女との間に決められた不文律であった。


 小学校の時から近所に住み、また家同士の交流もあった俺と彼女は、高校に入学した今でも仲良くその腐れ縁を保っていた。


 「来週からテストだね~。勉強大丈夫?」

 

 薄く茶に染まったショートヘア、スポーツ系女子特有の凛々しさと可愛さを兼ね備える顔、膝上5cmのスカートに紺のブレザーを着る幼なじみの少女。

 その少女から発せられる「大丈夫?」という言葉に、平気だと気丈に答えながらも、内心では頭を抱えてしまう。

 そんな内心を見透かしたように、クスっと笑う彼女の声に、のどかな朝の一時を感じつつ、その染めた頬にいつも以上の美しさを感じた。

 

 「じゃあ私が教えてあげるよ」

 

 いつも通りの言葉。

 小学校中学校高校とずっと繰り返されてきたその言葉に対する俺の答えはいつも一つ。

 

 照れ隠しのように歩く速度を早め、よろしくといって振り返る。

 「任せろ!」というように胸をはり、自信に満ち溢れた満面の笑みを見るために。




 「え…?」


 しかし、俺の予想に反し、そこにあったのは彼女だった“モノ”。


 綺麗に整えられ、前髪を分けられていたはずの髪は、右半分をその頭部ごと無くし、その中身がだらりと垂れ落ちていた。


 顔が半分無い。

 溶け落ちたかのような頭部からは、脳漿が滴り落ち、美しい黒い瞳をもった右目は、半熟卵の白身のようにトロトロと首元にたれていた。

 

 何が起こったか、そして何が起きているかの判断ができず、思考が停止する。

 彼女のブレザーについた緑色の液体が、醜悪な音と煙をたてている。


 いったい…なに…が…?

 

 その俺の問いに答えるかの様に、あたり一面から水風船を潰したときのような音が鳴り響く。

 見れば緑色の塊。

 家も道路も電柱も、彼の周りの至る所に空から飛翔してきたそれらは、ところ構わずすべてのものを溶かし始めた。


 ベチャ。


 右手に軽い衝撃を感じ、震える手を持ち上げると、その手にあるはずの黒塗りのカバンはその姿の7割近くを無くし、ほとんど取手だけの代物へとかわっていた。


 胃の中のものをすべて吐き出す。

 俺はここにきて漸く状況を理解した。

 さらに湧き上がる嘔吐感を必死に押さえ込み、「ここにいては死ぬ」という生物的本能にしたがい、俺は駆け抜ける。

 ちらりと見た彼女だったものは、すでにその原型を止めておらず、肉片とかした彼女が赤色の液体と共に広がっていた。


 

 

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