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物々交換は階段で

ああ。

これが例の「好きな男子のネクタイを・・・」ってやつか。


最後のホームルームも終わり、あちこちで写真をとる姿が見られるようになった教室では、何人かの女子がリボンをはずし男物のネクタイをぶら下げていた。

同じ様ににカッターのボタンをはずし、ネクタイが無い男子の姿も何人か。


・・・何かあれだね。

この状態で普通にネクタイ締めてると、「俺もてません」って顔に書いてあるみたいで痛いね。


「永井~こっちで一緒に写真とろうぜぇ~」

そう声をかけて来た、松谷のカッターもボタンが外れてネクタイは消え去っていた。


「おいでよ~」

松谷の隣で俺を呼ぶ市橋加奈の首に、ブルーのチェックのネクタイがかかっていて。


なんか・・・みんなそれぞれ旨くやってんのね。


「おう。今行く」


そう答えながら俺の右手が無意識にネクタイを緩める。


『捨ててくるんじゃないわよ』

そう言った母さんの声が聞こえたけど。


捨てないけど外してもいいかな、捨てないでかばん入れとくだけ。

・・・ほら、ちょっと今日暑いし。

しつこく心の中で言い訳しながら、ネクタイを抜いてジャケットのポケットに見られないように押し込んだ。


そんな事やってるほうが痛いって、きっと姉ちゃんなら言うだろうけど。

これも男の見栄ってもんです。



もう誰の携帯に誰が写ってるかもわからないほど。

何回も集まって何回もシャッター押して。


俺の携帯にも何人写ってるのか、何枚写ってるのかわからないくらいにみんなで笑って。

それでも何かを惜しむように、皆教室を出られずにいた。


「あ~雨があがったよ~」


誰ががそう言って。


「お~。んじゃ中庭行って写真とるぜぇ~」


また誰かが言って。


「お~行こう行こう!!」


・・・今までそんなに団結したクラスでもなかったくせに。

俺が朝感じたみたいな、今日を越えると何かが変わっちゃうような不安をみんな感じてるのかな。

なんて思ったら、少し教室を出るのが遅れた。


教室を出ると、廊下の窓から斉ちゃんが中庭を見ていた。


「・・・何してんの?」

声をかけると、斉ちゃんは振り向いて少し笑った。


「なんかさ、こんなにあたしたちのクラスって仲良かったっけ?とか思ってさ」

そう言った斉ちゃんの胸元に、まだピンクのチェックのリボンがあるのを何気なく俺は確認していた。


よし。

何かわかんねぇけど、よし。


「俺も知らなかったけど、仲良かったんじゃねぇ?」

「そうか、まさぴょんも知らなかったんだ」

「・・・まさぴょん・・・」


・・・それ、有効だったんですね。


「ところで一つ聞いていい?」


小さな抗議の声はまったく無視されて、斉ちゃんは廊下を歩き出しながら言った。

俺はあわてて後を追うように階段へ向かう。


「何ですか、斉ぴょん」

「・・・かっこ悪い呼び方」

「そっちが呼んで良いって言ったんだろうがっ」

「ああ、そうだっけ。んでね」


とんとんとんっ。跳ねるように階段を下りながら。


「何で皆男子のネクタイしてんの?何の仮装?」


・・・出たよ。天然鈍感発言。

仮装って!仮装になってないしっ。


「卒業式に好きな男のネクタイ貰うのが流行ってんだろ?」

「そうなの?」


・・・少し見開いた目がくりくりで、またパワー感じるよ。


「そうらしいよ?」

「貰ってどうすんの?」

「どうするんだろうね?俺女子じゃねーからしらね」


俺たちの教室は3階。

でも今は30階でも良かったな、なんて馬鹿な事考えて。


「じゃあさ、男子は女子のリボン貰うの?」

「・・・それはちがうっしょ?つか、リボン持ってる男ってある意味怖いよ」


好きな女子のリボンを持ち帰る男。

怖すぎる。フェチな匂いを感じる。


「そう?」

「怖くねぇ?リボン見つめて喜んでる男想像してみろよ」

「・・・・なるほど」


そう言うと斉ちゃんは結んだ形になっているリボンの首に回った紐の金具を外した。

外したそれを見つめたかと思うと、いきなり俺に差し出した。


「ほれ」

「・・・へ?」

「あげる」

「・・・へ?」

「それ見て喜んでへらへら笑え」

「はぃぃぃぃぃぃ?」


喜べって!へらへら笑えって!

何その命令形!


喜ぶけどっ!

いや違うっ!


「何で命令形なんだよっ!へらへら笑うって何なんだよっ!」

「喜ばないのか」


今、そこ問題じゃないからっ!


「喜ぶとか喜ばないとかじゃなくてだな」

「とりあえず、あげるから」


そう言ってリボンを俺の手に握らせると。

斉ちゃんの右手が、俺のジャケットの左ポケットに差し込まれた。


「この行き先の無いネクタイはあたしが貰っておいてあげる」


・・・!!!


押し込んだネクタイを見られていた事に動揺して、動けなくなった俺に。


斉ちゃんは少しよれよれになったネクタイを首にかけると、にっこり笑って見せた。































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