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道は始まりに通じる

そして。


たった一ヶ月の時間で。

俺の立場は「高校生」から「大学生」に変わってしまった。


一ヶ月なんて短い時間で、俺自身は何も変わっちゃいないのに。


新しいネクタイはやけにつるつると滑ってなんだか結びにくい。

高校の制服とそれほど違うとも思えないのに、スーツには何故か革靴をはかなくちゃいけない。


「似合ってねぇ~」って笑ってくれたのは写メを送った松谷とねーちゃん。

まるで七五三のようだと母さんは言った。

そんなところはほんの少し前と何も変わらないのだけど。


自由に選ぶカリキュラムには迷うことばかりで。

学校に行けば座る席どころか教室も毎日、毎時間違うし。


なんだか、もうね。

自分でやって行きなさいって突き放された気分。



桜が咲いていたのも気がつかないくらいに新歓コンパに明け暮れて。

いつの間にか葉桜になって、やっと毎日着ていく服にもローテーションが決まってきたころ。


大学生の斉ちゃんに会った。


「やほぉ」


そう言いながら冬に会った駅の改札で手を振る斉ちゃんは、当たり前だが制服姿ではなく。

髪の色も少し明るくなっていた。


「よお」


答えた俺はとりあえずなんと呼んでいいのかわからずに、毎日顔を合わせていた時とは違う空気を感じていた。


「さて、行こうか」


笑いながら斉ちゃんが言った。


「カラオケ?」

「そう、君が代歌ってもらわなきゃいけないしさ」

「うぇっそれ有効だったの?」

「だって、まさぴょんがそう言ったんじゃん。卒業式の日に」


・・・あの日。

校門を出た俺は、そのまま歩きながら斉ちゃんへ電話をかけた。


『俺、まだ約束果たしてない。だから会おうよ』


俺の中で誰かが、俺をせかしていた。それは松谷だったのかもしれないし、高校生の俺だったのかもしれない。


『そうだ!約束は守ってもらわなきゃ』

『だからまだ、終わりじゃない』

『・・・・ほえ?』

『このまま終わりにはしたくない』


きっと俺は浮かされていたんだ。雨の卒業式に。


『終わりって何?』

『もう同じクラスじゃなくなっちゃうじゃん』

『・・・そうだね』


学校の角を曲がるとコンビニが見えた。その前に制服姿の女子が立っている。


オレンジの傘を持ち、携帯を耳に当てた・・・斉ちゃん


『・・・なんでそこにいるの』


オレンジの色が見えたときから気づいてた。どんなに遠くても多分俺は気づくんだと思う。

同じ制服を着た子が何人いても、きっと見つけてしまう。

制服を着てなくたって、きっと。


『・・・ハーゲンダッツが食べたくなったの』


近づいていく俺をじっと見つめながら、斉ちゃんは携帯越しにそういった。


『ここで食べたいなって思ったの』


何も言わずに近づく俺から視線をそらさずに。


『・・・バニラ?』

『そう』

『寒いのに』


もう目の前にいるのに携帯から斉ちゃんの声が聞こえる。


『ここで食べるバニラは暖かいんだよ』 

『・・・マジで?』

『嘘だと思うなら一緒に食べてみればいいじゃん』


そう言うと斉ちゃんは携帯を外し、もう一度言った。


「永井と一緒に食べたバニラは暖かかったんだよ」


・・・もしかして。

もしかしたらもしかしてだけど。


鈍感だったのは俺だったのかもしれない。


ものすごく希望的観測だけど。

そしてそれが当たってたら、俺どうして良いかわかんねーけど。


「それってさ・・・」


もう、たとえば外れてても良いや。だって、俺は一歩踏み出してみたんだし。


「俺と食べたからとか・・・そう感じだったりするんじゃね?」

「・・・何でそう思うの?」


斉ちゃんの目は相変わらずの目力で俺を見つめている。

普段の俺だったらこんなこと恥ずかしくて絶対言えないけど。

だけど、今は言わなきゃいけないときだってやっぱり俺の中の誰かが言ってるから。


「そうだったら、俺がすっげー嬉しいから」


そう言うと。

斉ちゃんの目がふんわりと半月型にゆがんで、極上の笑顔になった。


「じゃあ、そういうことにしておいてあげる」




正直。


あの日の会話はしっかり覚えているけど。

できれば、掘り返しては頂きたくない。


きっと。


あの日は何かに取り付かれていたのだ、と思う。


というか、思いたい。



じゃねぇと、俺。恥ずかしすぎて死ねると思うから。

舌噛んで死ねると思うから。


だからといって、あの日をなかったことにしたいとは思わない。


「将文っち行くよっ。時間がもったいないじゃん」

「今日も7時までですか?」

「もっちろんっ」


そういって笑う斉ちゃんがここにいるから。


まだまだ始まったばかりだから。








短いお話なのに長い間かかってしまいました。


何とか季節が追いつきましたでしょうか?


読んで頂いた方ありがとうございました。 

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