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前編

「ず、ず、ず、ず、ずっとずっと、タカシのことが好きでした! 私と付き合ってください! ……ありがと、俺もアケミの事が好きだよ。……タカシ! アケミ!」


 ギュッと抱きしめて、ふんわりとした感触を感じる……なんだか空しくなってきた。

 ベッドの上に座って、犬のぬいぐるみのポチに向かって、今日も私はずっと出来ないでいる告白のシミュレーションをしてる。

 学校から帰ってきてから宿題も手につかず、延々とポチを相手にしてギュッと抱きしめては、はぁ……とため息を繰り返す。ここ最近は毎日そんな感じだ。寝てもさめてもタカシのことばっかり考えてる。


「……私は一体何やってるんだろ……」


 ポイッとベッドの上に犬のぬいぐるみを放り、そのまま私も一緒になってベッドの上に倒れこむ。

 隣に住んでるタカシ。今までは全く意識してなかったのに、高校生になってから、突然かっこよくなった気がする。

 相変わらず行動はやんちゃ坊主そのままなのに、サッカーをしているときに時々みせる真剣な表情に最近ドキッとしっぱなしだ。

 そう思うようになってから、前は普通に話せてたのに、今は全く話せない。登校中や学校ですれ違っても、あたふたとしちゃって変なことばっかり口走ってしまう。


「ねえ、ポチ……あのニブチン、どうすれば私の気持ちに気づいてくれるかなあ」


 ポチの耳をいじくりながら聞いてみたけれど、聞いてもポチが返事してくれるはずも無く、ただ私の質問は部屋の中に空しく響くばかり。


「やっぱり告白するしかないよね……でも……」


 やっぱり怖い。今までの関係が全部終わってしまうかもしれない、もしかして迷惑がられるかもしれない……そんな悪い想像ばかりが頭をよぎる。


「はああ……タカシのバカ……もう寝よ」


 こんなこと考えててもしょうがないよね……そう思い、ポチを抱きかかえて、私はベッドにもぐりこんだ。





「ふぁあ……ねむ……」


 なんだか目がさえちゃって、あんまり眠れなかった……眠い目をこすりながら、学校への道を歩いてる。


「おっはよ! アケミ!」


 ビクッと体が跳ね上がった、この声はタカシだ。後ろを振り返ると、スポーツバッグを抱えた制服姿のタカシがいた。

 ……やっば、今日あんまり眠れなかったから、多分クマが出来てる……。


「お、お、お、お、おはよ……」


 ドギマギしちゃって小さな声しかでてこない。


「ん? どした? なんか元気ないな。目にクマできてるし」


 そう言いながら、私の顔を覗き込んでくる。


「ちょ、ちょっと、ち、近い近いよ! のぞきこまないでよ! 変な顔なんだから!」


 アップで見えるタカシの顔にドキドキしながら、手で押して突き放す。

 やっぱりクマできちゃってる……は、はずかし……こんな顔、タカシに見られたくないのに。


「ははあん、さては、夜更かしだな? ダメだぞ、若者よ。いくらテレビが面白いからって遅くまでおきていては」


 私の気持ちを知らないのをいいことにタカシが好き勝手言う。


「ち、違うもん! テレビ見てないもん! あ、あ、あ、アンタのせいで眠れなかったんだから!」


「は? 何で俺のせいになんだよ?」


 し、しまった。変なこと口走っちゃった。え、え、え、ええと、な、んとかしてごまかさないと。


「な、な、な、な……なんでもないよ?」


 ああ、私のバカ。これだけどもってたら、何かあるってバレバレじゃない。


「それだけどもりながら『なんでもない』って言われてもなあ。俺のいびきってもしかしてお前んちまで聞こえるのか?」


「ば、馬鹿じゃないの!? そんなでっかないびきなんて、いくらタカシでもしてるわけないでしょ!?」


「ははっ、やっぱそうだよな?」


 ふぅ、何とかごまかせた。タカシへの告白の練習とか、タカシとのデートの想像ををしてて、全然眠れないなんて絶対に言えるわけがない。


「……た、タカシこそ今日はどうしたの? ……あ、ああ、あ、朝練は?」


「んー。なんか今日は先生が出張なんだとさ。監督責任がどーたらとかで、大人が見てないと練習させてもらえないってのも、めんどくさいよなあ。仕方ないから今日は近所をランニングしてた」


 ふ、ふーん……が、頑張ってるじゃない。

 何気ない会話をしてるだけなのに、ずっと心臓がどきどきと早鐘を打っている。静まれ、私の心臓。


「っと、なんか久々だなー。アケミと一緒に登校するの」


「そ、そうだった? 別にタカシの顔なんて見慣れてるし、特に新鮮味もないけど」


 バカバカバカバカ! 何私は悪口を言ってるの!


「んー? そっか? まあ、学校でもいっつも顔合わせてるしな。そうかもなー」


 よかった。タカシは別にムカッとしたわけじゃないみたいだ。お、落ち着け私。

 そんな風に、今日の朝はタカシの言葉一つにあたふたしながら学校に行った。







 夜、私はカレンダーを見た。2月10日。バレンタインデーまであと4日。


「こ、こうなったら、今年は本命チョコをタカシに渡して、私はそこで告白する!」


 この幼馴染って関係、私にとってはとても居心地がいい。きっと告白をしないで、今のように過ごし続けていれば、ずっとこのいい関係が続くんじゃないかって思う。

 けど、いつかもしかすると、別のいい人がタカシの前に現れて、その人とタカシが恋人同士になってしまうかもしれない。


「そ、そんなのだけは絶対にいや!」


 犬のぬいぐるみのポチをベッドにぶつけながら、私は叫んだ。

 もしもタカシが別の人と、腕を組んで歩いているところを見たら、きっと私、笑っていられない。


「だ、だからこそバレンタインに告白するんだから」


 ポチの耳を持ちながら、ぎゅっと握りこぶしを作り、宣言した。

 去年までの私とは違う、今までは適当にスーパーで購入したチョコレートだったけど、今年は何とかきちんとしたチョコレートを作るんだから!

 

「……けど、手作りチョコレートってどうやって作ればいいんだろ?」


 今まで、ほとんど料理も何もやってこなかった私にとって、手作りチョコレートというのをどうやって作ればいいのかわからない。


「と、とりあえずチョコの作り方書いてある、本屋さんに行かないとね」


 素人が変にオリジナリティーを出そうとすると、失敗することは身を持ってようく知ってる。こんな時期だ。本屋さんにきっとチョコの作り方が乗っているに違いない。

 歩いて10分くらいだし、まだこの時間なら本屋さんやってるよね。そう思い、うんうんとうなずきながら、私は財布を持って出かけた。




「ううっ、寒い……マフラーでもしてきたらよかった」


 やっぱり2月はとても寒い。近場だからと思って、部屋着のまま、手袋もせずに来てしまった。

 明日は全国的に雪になるって天気予報で言ってたし、失敗したなあ……いそごっと。電灯の明かり以外はほとんど見えない中、手をこすらせながら、早足で本屋を目指した。


「ふぅ……やっと着いた」


 自動ドアから本屋に入った瞬間、暖かい空気がふわっと体をつつんだ。ふわぁ……生き返る。

 たいしたことない距離なのに、手の先がかじかんで、上手く動いてくれなくなっていた。耳もじんじんして、とても痛い。

 両手を口に当て、はぁっと息を吐く。何度かそうしているうちに、だんだんと手の先に感覚が戻ってきた。


「さてと、チョコレート作りの本を探さないと」


 チョコレート作りの本はどこだろう? 出来れば、初心者でも作れるような簡単なレシピが載っている本がいいけど……。

 うろうろしていたら、料理本が並んでいるところに、『バレンタイン特集!』と、お菓子作りに関する本がピックアップで並んでいた。

 その中には、『初心者でも簡単! お菓子の本』と言う本や、『おすすめ、簡単チョコレート作り』、『500円で出来る節約バレンタイン!』など、私のような高校生でもとっつきやすそうな本がいくつか並んでいる。

 うぅん……どれがいいかなあ……あんまり簡単すぎると、気持ちが伝わらなさそうだし、でも、難しすぎるの作って食べられないようなもの作ったら、本末転倒だし……ううん。


「おっ、アケミじゃん。珍しいなこんなところで」


 ……へ? こ、こ、こ、この声は?


「た、たたたた、タカシ!? え!? え!? な、何でこんなところに!?」


「や、そこまでびっくりされても困るんだけど……漫画買いに来ただけだし」


 え!? 何でこんなときに限って、た、タカシに会っちゃうの!?

 と言うか私、部屋着のまんま!? な、な、なんでジャージに半纏なんてしょうもない格好のときにタカシに会っちゃうの!?


「それよりアケミは何買いに来てたんだ? 手に持ってるの何?」

 

 え、手、手に持ってるもの? あああ! 私、『実践! バレンタイン! 気になるあの人へ』なんて本持ってる!? どど、ど、どうしよ!? ち、違う違う!


「う、う、うううん!? な、な、な、なんでもないの! これ別に、ちょっと、ひょ、表紙に載ってるチョコケーキがおいしそうだなって思っただけで! けっけっ、決してつくろうなんて思ったわけじゃなくって、ま、ま、ま、ましてや買うつもりなんてこれっぽっちも!」


「はあ、そうなのか。それじゃ何買いにくるつもりだったんだ?」


 え、え、え、ど、どうしよう!? どどどうやってごまかそう!?


「べ、べ、べつにここには立ち読みに来ただけで、特に買うつもりなんて! い、今帰ろうと思ってたの! そ、それじゃまたね!」


 そう言うと私は出口に向かって一目散に逃げていった。


「お、おいアケミ?」


 なにかタカシが声をかけてこようとした気がしたけど、振り向くことなく家に向かって走り続けた。





「……ああ、もお! 私のバカバカ! あれじゃ、私、何がなんだかわかんないじゃない!」


 ベッドの上で犬のぬいぐるみのポチをぶんぶんと振り回し、私はもだえた。

 ……別にどうとでもごまかしようがあったのに。と言うか別にごまかす必要すらなかったのに……2月14日には、告白するんだし。


「結局、目的の本も買えなかったし……はぁ……私ってば何やってるんだろう」


 今から本屋に行こうと思っても、もしもまたタカシと鉢合わせなんてしたら、絶対なんで突然逃げ出したか聞かれるし、そうなったら自分はどうやって行動すればいいのかわからないし……。

 また明日の朝、タカシと鉢合わせしないようこっそり買いに行こう。


「ああうう……タカシ。変な女だと思ってないかなあ」


 ぶんぶんとポチを振り回すのも疲れてきて、ぎゅっと抱きしめてポチと一緒にベッドに倒れこんだ。

 変な女、くらいに思ってくれればいいけど。もしかして、あの変な行動で嫌われてしまっていたらどうしよう。

 大丈夫だよね……。きっと大丈夫だよね……。

 も、もうここまできちゃったら、後先考えず、一生懸命チョコレート作りをして、告白するしかない!


「2月14日、告白がうまくいきますように」


 ぎゅっと手と手を合わせ、普段は正月くらいにしかお願いしない神様に、強く強くお祈りをした。

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